コードギアス~あの夏の日の絆~   作:真黒 空

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前回同様武装の説明を。

・ヴァリス――可変弾薬反発衝撃砲。手持ちの大砲のようなイメージ。弾頭の威力を調節可能。
・スラッシュハーケン――殆どのナイトメアに搭載された基本兵装。その名の通り先端にハーケンのついたワイヤーを打ち出す。
・スタントンファー――サザーランドに搭載された打突式の近接武器。トンファーとスタンガンの機能を併せ持つ。



13:奇跡の二人

 

 汗が顎から滴り落ちる。

 心臓は早鐘のように鳴り、気付けば息が上がっていた。

 初めての実戦。長時間のナイトメアの駆動。そして実力者との攻防。

 それらは想像以上にスザクの体力と気力を奪っていた。

 しかしスザクは、そんな自らの状態を正確に把握できてはいなかった。

 先程のルルーシュとの通信にしても、スザクは撤退の時間がそろそろだから通信したと自分では考えていたが、少しでも早くこの状態から抜け出したいという焦りが、無意識のうちに予定の時間よりも早く通信をつなげるという行為につながったのだと自覚していなかった。

 

 迫りくる大型ランスを躱し、続けざまに放たれるアサルトライフルをブレイズルミナスを展開して防ぐ。しかしそれだけでは終わらない。こちらがブレイズルミナスを展開している隙を突いて再び大型ランスが迫る。スザクは回避する事を諦め、右手に持っていたMVSの峰でどうにかランスの側面を押し出し軌道を逸らした。そのままグロースターの影に移動する事で射線を切り、後ろから回し蹴りを放つ。だが相手も歴戦の騎士。ランスを避けられ死角に入り込まれた段階で既に次の行動へ移っていた。ランスロットを目視で確認する事なく前方へと飛ぶ事で大きく距離を取り、結果スザクの蹴りは空を切る。

 戦いが始まってからずっと、あと一歩のところでどちらも破壊には至らない。一進一退の攻防は互いの精神力を大きく削っていた。

 しかし仕留められはしなかったものの、この攻防により距離が開いたのはスザクにとって都合のいいものだった。

 

『なっ……逃げるか、枢木スザク!』

 

 突然転身したランスロットに驚愕の声が追ってくる。

 それに構う事なく、スザクはルルーシュの通信で聞いた追撃部隊の位置と速度を地図で確認して機体を走らせる。

 フルスロットルで進んでいると、すぐにこちらを包囲していた親衛隊のグロースター4機が迎撃のために槍を構えているのが見えた。

 クロヴィス麾下のサザーランドであれば鎧袖一触だったランスロットでも、立ち塞がるのが親衛隊のグロースターではそうもいかない。しかしここで足止めを食えば追ってきたギルフォード達の機体と挟み撃ちにあい、著しく不利に追い込まれる上、追撃部隊を止める事は叶わなくなる。

 

「使うなら、いましかない……!」

 

 ルルーシュがロックを解除してくれた切り札。

 時間稼ぎが目的だったためいままで使用を控えていたそれを、スザクは目の前のグロースターへと解き放つ。

 

「ハーケンブースター……解放!」

 

 ロケットブースターで加速された両手と腰、合わせて4基のスラッシュハーケンが通常とは比較にならない速度で立ち塞がるグロースターを襲う。

 それにわずかでも反応できたのは2機だけだった。

 反応できなかった2機はまともにハーケンを胸に食らい爆散。残り2機も反応できたといえ完全に回避する事はできず、それぞれ右腕と左足を奪われる。

 倒す事が目的ではないスザクは、そのまま穴の開いた包囲を抜ける。残った2機は通すまいと攻撃してきたが、損傷した事で精彩を欠いた動きではランスロットをわずかにも止める事は叶わなかった。

 

「良し。これなら間に合う……!」

 

 追撃部隊とランスロットの間に阻む敵機はもういない。未だギルフォードを含む親衛隊は追ってきているが、撒く事はできずとも追いつく事もできないだろう。

 追撃部隊を倒せば、住民の避難を阻む者はいなくなる。助けられなかった人も多いだろうが、それでも罪のない人がみんな殺されるような、そんな悲劇を防ぐ事ができる。新宿の時のような、凄惨な悲劇を。

 

 埼玉がテロリストの隠れ場所だと断定され、住民諸共壊滅させるという報道が流れた時、スザクは思った。助けたいと。

 当然、スザクにはそんな力はない。死力を尽くして救出に行ってもきっと救えるのはほんの一握りで、それさえ成功するかは分からないようなハイリスクローリターンの分の悪い賭けだろう。そんな博打を、気持ちはどうあれスザクは打つ事などできない。

 なぜなら、スザクは既にルルーシュと共に歩む事を決めているから。こんな生きるか死ぬかも分からない戦いに身を投じて、ルルーシュを危険に晒すわけにはいかない。たとえ見捨てる事になろうと、埼玉の人達の命よりもルルーシュの命を優先する。それがスザクの決めた生き方だった。

 しかしルルーシュは、埼玉の人達を助ける事はできると言ってくれた。きっとそれは色んなメリットやデメリットを考慮した上での効率的な判断だったのだろうが、スザクは親友が自分の意を汲んでそう言ってくれたのだと直感した。

 ルルーシュには自分の想いを全て話した。罪も覚悟も、全て。きっとルルーシュは、そこから自分の思いを察してくれたのだ。

 だから無理をしてでも、勝算が低くとも、この作戦を決行してくれた。それがスザクには嬉しくてたまらなかった。

 

「あれか!」

 

 西へ向けて走行するサザーランドの一群を見つけ、スザクは一目散に突撃する。

 ランスロットに気付いたサザーランドがアサルトライフルを撃ってくるのをブレイズルミナスを展開しながら防ぎ距離を詰める。

 アサルトライフルが有用な距離ではなくなったところでブレイズルミナスを解き、手刀で一番近いサザーランドの頭を切り飛ばす。これで1機。

 仲間がやられたのを見て取り近くのサザーランドがスラッシュハーケンを放ってくるが、超人的な動体視力とランスロットの機動の合わせ技が至近距離のハーケンを掴むという神業を可能とした。捕らえたハーケンを引っ張ってサザーランドが体勢を崩したところをランドスピナーを使った蹴りで破壊する。残りは4機。

 アサルトライフルやスラッシュハーケンが通用しない事を見て取ったサザーランドはスタントンファーを構え迫ってくる。タイミングを合わせ、連携して襲ってくるサザーランドにスザクは一旦後方へ跳び距離を取った。

 そして今度はこちらからスラッシュハーケンを放ち、脱出ブロックを作動させ無人になっていたナイトメアに突き刺して強引に薙ぎ払う。遠心力が加わった鉄の塊は軌道上のサザーランド2機を巻き込み大破する。あと2機。

 スタントンファーを振りかぶり襲ってくる2機のサザーランド。それを真正面からスザクは迎え撃つ。

 突っ込んでくる勢いと共に放たれる一撃を手刀で腕ごと切断し、顔面に拳を打ち込む。残り1機。

 続けざまに突撃してきたサザーランドのスタントンファーを紙一重で躱し、背中合わせになったところを素早く振り返りスラッシュハーケンを打ち込む。ランスロットほど素早く反応できなかったサザーランドはまともに胸にハーケンを食らい、脱出ブロックを作動させたパイロットが離れていく。

 

「良し、これで――!」

 

 追撃部隊を全滅させた一瞬の隙に、遠方より放たれたアサルトライフルがランスロットの左腕部に命中する。

 

「しまった!」

 

 慌てて飛びずさり右手のブレイズルミナスを展開するが、駆動系がやられたのかもう左腕は反応しない。

 アサルトライフルを撃ってきたのがさっきまで戦っていたサザーランドなのを確認してスザクは戦闘態勢に入るが、その時緊急のアラームがコックピット内に鳴り響く。

 

「エナジーがもう……!」

 

 画面を確認すればランスロットを動かすエナジーが残りわずかである警告が表示されている。

 これではたとえこの場を乗り切っても、逃げ切るエナジーは残らない。

 絶体絶命の危機に、スザクはこの戦いで初めて顔を青ざめさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追撃部隊が撃墜されるのを確認し、コーネリアは口元に手をやり呟いた。

 

「意外だったな。ランスロットが援護に向かうとは」

「これも敵側の参謀の指示でしょうか?」

「だとすれば、枢木スザクとは仲間ではなかったか」

 

 この状況でランスロットに追撃部隊の撃破を命じればどうなるか、あれほど用意周到な策を講じた人間が理解していないはずがない。

 

「テロリスト共は捕らえられそうか?」

「南側からも追撃部隊は出しておりますが、到着は北側より遅れるため追いつけるかは分かりません。ただ北側をランスロットが無理に止めたにも関わらず南側にアクションがない事を考えれば……」

「逃げられる可能性が濃厚か」

「はい」

 

 思わしくない予測に、コーネリアの顔は憮然としたものとなる。

 当初の目的であったテロリストの殲滅は失敗に終わる可能性が高いとなれば、それも当然だろう。

 

「まぁよい。今回は特派のランスロットを回収できるだけで良しとしよう。枢木スザクを捕らえて処刑すれば、軍の面子も保たれる事だしな」

「最後は枢木スザクとランスロットを捨て駒にするとは、敵も思い切った事をしますな」

「これが全て想定通りだとするなら、想像以上に厄介な相手だ。我らの目をランスロットにくぎ付けにし、最後は囮にする。たかがテロリスト相手に、我らはいいように踊らされたのだからな」

「しかし私が軍人だからそう感じるのかもしれませんが、あまり気持ちの良い相手ではなさそうですな」

「テロリストなどそんなものだ。奴らは騎士道精神など欠片も持ち合わせていない野蛮人なのだから」

 

 ランスロットを利用するだけ利用して切り捨てるそのスタンスに、二人は眉をしかめる。

 それは完全な誤解であったが、ブリタニアの考えるテロリスト像とは見事に合致したため、根っからのブリタニア軍人である二人がその推測に疑問を抱く事はなかった。

 

「今日の戦いを見る限り、敵はおそらくクロヴィスを襲った奴と同じ可能性が高いだろう。これほど頭が回る奴が二人もいるとは考えづらい」

「認めるのは業腹ですが、ブリタニアの旗艦への侵入、我らの軍を相手取っての立ち回り、その手腕は脅威ですな」

「ああ。だが今回介入してきた事からも、こいつは必ずまた我らの前に姿を現すだろう。その時こそこの借りを返し、我らに歯向かう愚かさの報いを受けさせてやる」

「その際は必ずや我ら親衛隊が捕らえて見せましょう」

「期待しているぞ。ダールトン」

「イエス・ユアハイネス」

 

 既に作戦は終了したものとして今後について話し合うコーネリアとダールトン。

 しかしまだ決着はついていない。

 いかにランスロットが死に体であろうと、ブリタニア軍から逃げる術が皆無に見えようと、諦めない限り奇跡が起こる可能性は存在する。

 そして二人は知らない。自分達が相対しているのが、奇跡を起こす男と、常識を打ち砕く男だという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スザクは足搔いていた。

 周りを囲まれ、残り少ないエナジーを節約するためMVSなどの武装を使わずに持ち前の戦闘センスとマニューバのみで襲い掛かるランスやスタントンファー、アサルトライフルの銃撃を躱す。躱す。躱す。

 既に左腕は動かず、被弾も多い。そのため損傷箇所は数えきれないが、ギリギリのところで致命打は回避しているので重要部位の損傷は左腕だけに収まっていた。本来なら左腕をパージして身軽にするところなのだが、損傷箇所が悪かったのか、操作を受け付けず切り離す事はできなかった。

 

(いずれにせよこのままじゃ……)

 

 事態は何も改善できないまま、ただ時間とエナジーだけがなくなっていく。

 最悪の想像がスザクの頭をよぎる。

 その瞬間沈黙していた通信機から声が発せられた。

 

『スザク。無事か』

『ルルーシュ!』

 

 その声を聞いて絶望しかけたスザクの心に活力が戻る。

 事態は何も改善されていない。それでも一人ではない、友がいるという事実がスザクに失われそうになっていた気力を奮い立たせる。

 

『ごめんルルーシュ。もうエナジーが……』

『分かっている。あとどれだけエナジーは持つ?』

 

 問われて改めて計器を確認する。

 

『多分、10分も持たない。戦闘と通信にエナジーを絞っても、それが限界だと思う』

『分かった。充分だ』

『えっ?』

 

 どう考えても危険な状況に全く動揺せずルルーシュは続けて問う。

 

『その場から移動する事は可能か?』

『難しいけど、無理をすればなんとか……』

『なら無理をしろ。無茶無謀は得意だろう?』

『酷いな。そんな風に思ってたんだ』

 

 ルルーシュのいつものバカにするような言い回しに、こんな状況にも関わらずスザクの顔に笑みが零れた。

 

『いまから送るポイントに敵を誘導しろ。詳細はその状況を脱してからだ』

『分かった。任せて!』

 

 近距離で絶え間ない攻撃を繰り出してくるグロースターとサザーランドの2機。ずっと戦っていた相手だ。

 大型ランスとスタントンファーの連携は最小限でありながらつけ入る機会を見出せない。お互いの攻撃後の隙をカバーする動きは熟練した戦闘技術を感じさせた。

 スタントンファーを先程までより大きな回避動作で躱し距離を開けると、すぐさまグロースターがランスを構え突っ込んでくる。

 ここでスザクは防戦一方だった状態から一転、MVSに手を伸ばす。それは最小限の動きであり、相対しているのがただの兵士であればスザクが何をしようとしているのか分からないほどの動作だっただろう。しかし帝国の先槍とまで言われたギルフォードはランスロットのその動作に気付いた。そして数多の戦場を駆け抜けたジェレミアもまた、その動きに勘づく。

 これが先程のような撃破を目的とした戦闘であったなら、ギルフォードはそのまま突撃を敢行しただろう。しかしこの戦いはもはや撃破ではなくランスロットを逃さず釘付けにする事が肝要となる、いわば持久戦の様相を呈していた。ブリタニア側から見てもランスロットのエナジーが残り少ない事は明らかであり、左腕が機能していない現状、無理をすればランスロットを破壊する事は可能かもしれないが、それは危険を伴う。加えてランスロットはこの戦闘の後で特派――引いてはその後ろ盾であるシュナイゼルに返す事を考えれば五体満足である事が望ましい。そうなるとエナジー消費の激しいMVSを抜くという、玉砕覚悟のランスロットの特攻に付き合う必要はない。

 ギルフォードは間合いに入る前に飛びずさり距離を取る。同時にサザーランドも大きく退いた。

 だがそれこそスザクの狙ったものだった。グロースターが距離を開けると殆ど同じタイミングでランスロットも地面を蹴る。MVSは抜かない。抜く必要などない。ランスロットはスザクが身体に染みつかせた動きを寸分も違わずそのままなぞる。

 くるくるキック。正式名称を『陽昇流誠壱式旋風脚』。奇跡の藤堂が少年時代のスザクに教えた会心の回転蹴りがグロースターに迫る。飛びのいた直後で回避行動を取れないグロースターは大型ランスを盾にそれを防ぐ。だが7t近くもある鉄の塊が勢いをつけて放った回転蹴りに耐えきる事は出来ず、横倒れに吹っ飛ばされた。

 その隙をついてスザクは全力で逃走を開始する。後ろからアサルトライフルが斉射されるが、その頃にはランスロットはもう射程圏内から逃れている。

 自分達を取り囲んでいたグロースターが立ちはだかるが、先程と違い幸い背後の追撃は遅れるはずだ。時間があるならいかにコーネリアの親衛隊が相手とはいえ、押し通るだけなら難しくはない。

 包囲を強引に突破し、ルルーシュから送られてきたポイントを確認する。

 追われているとはいえ、なんとか逃げ延られる程度には近い。エナジーも持つだろう。

 

『ルルーシュ! 突破した』

『良し。なら追手を指定したポイントに誘い出せ!』

『うん。その後は?』

『タイミングを合わせて、ポイントにフルパワーでヴァリスを放て。カウントは俺がする』

『それだけでいいの?』

『むしろランスロットの残りエナジーではそれくらいしかできないだろう。だが簡単じゃないぞ。タイミングが一瞬でもずれれば意味がない。遅くとも早くとも、わずかな誤差でこの作戦は失敗する。そして失敗すればお前は――』

『大丈夫。心配しないでルルーシュ。だって――』

『俺達が組めばできない事はない。か?』

『うん。僕とルルーシュなら!』

『ああ。その通りだ』

 

 ランスロットを駆り、敵の追撃を躱しながら指定されたポイントへと向かう。

 そしてその時は来た。

 

『ルルーシュ。もうすぐ着くよ』

『こちらでも確認は取れている。いいか。俺のカウントがゼロになると同時に着弾させろ』

『任せて!』

 

 どこかで見ているだろうルルーシュの声がやたらはっきりと聞こえる。

 

『行くぞ。5、4、3――』

 

 スザクはランスロットの右腕からハーケンを地面に打ち出し、機体を上空へと浮かび上がらせた。

 

『2――』

 

 空中で回転しながらヴァリスを抜き、フルパワーモードに移行して指定されたポイントへと照準を合わせる。

 そのポイントには追ってきたグロースターやサザーランドの姿があった。

 

『1――』

『ヴァリス!』

 

 ルルーシュのカウントに被せるような叫びと共にランスロットの持つヴァリスが火を噴く。

 追ってきた部隊はヴァリスの砲撃を間一髪のところで躱すが、その一撃が地面へと激突するのと全く同じタイミングで、ルルーシュは最後のカウント共に手に持っていたスイッチを押した。

 

『0』

 

 

 ヴァリスの砲撃の着弾と共に地面の裏、地下に仕掛けられていた爆弾が爆発する。

 とんでもない爆音が周囲を埋め尽くす中、とあるコックピット内でチェスの駒が盤面に置かれるのと同時に、外とは対照的な小さな呟きがこだました。

 

「これで――チェックだ」

 

 内と外、両面から衝撃を受け、地面が罅割れる。

 まずい、と即座に状況を把握したギルフォードが声を上げるより早く、それは起こった。

 罅割れた地面が決壊し、上に乗せているものを巻き込んで崩落する。

 ビルや瓦礫、車にナイトメアまで、全て地中へと引きずり込んでいく。

 当然ランスロットを追っていたナイトメアは1機残らずその崩落に巻き込まれる。

 いかに優秀なパイロットといえど、踏みしめる地面が崩れればなす術もない。ギルフォードもジェレミアも崩落に巻き込まれ、その上には倒れるビルや家屋が降り注ぐ。

 

『不覚! 申し訳ありません――姫様!』

『枢木スザク! イレブン風情があぁぁ!』

 

「ふはははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

 忠義の謝罪も怒りの咆哮も全てを飲み込み、崩落は止まらない。

 あとには不気味なほどの静寂と、建物だったものの残骸ばかりが周囲を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追っ手を撒いた人気のない地下で、二人の男がナイトメアから降り顔を合わせた。

 

「まったく、ひやひやさせてくれるな」

「ごめん。ルルーシュ」

 

 開口一番に皮肉を言われたスザクはすぐに頭を下げた。

 自分の行いがどれだけ目の前の友人に無理をさせたのか分かっていたから。

 

「埼玉の人達が逃げられないって聞いたら助けなきゃって思って……」

「だからといって考えなしに飛び出すな。あんな自ら窮地に突っ込むような真似をして、俺がどれだけ焦ったか……。お前は少し人の話を聞く事を憶えろ」

「うん。反省するよ」

 

 いつもなら少しは言い返してくるスザクが素直に頷くのを意外に思いながら、これだけははっきりと言葉にしておく必要があると判断しルルーシュは続ける。

 

「下手をすれば死んでいたぞ。いや、下手をしなくても死んでいた。いま生きているのはただの幸運だ」

「うん」

「お前の他人を助けたいと思う気持ちは間違っていない。だがそれは自分の命を第一に考える事が前提のものだ。自身の命を蔑ろにして他者を救おうとするのは単なる独りよがりでしかない」

「……うん」

「何より、お前が死んだら誰が俺とナナリーを守ってくれるというんだ」

 

 その言葉にスザクが頭を上げてこちらをまじまじと見る。それを逸らす事なく見返し、ルルーシュは告げる。

 

「スザク。改めて言おう――――生きろ。俺とナナリーのために。そして自分自身のために」

「――うん!」

 

 たったそれだけの言葉にスザクは目の端に涙を浮かべる。

 

「ありがとう。ルルーシュ」

「今日のような事は二度とするなよ」

「分かった。約束する」

「良し」

 

 満足気にルルーシュは頷き、話は終わった。

 そしてニコニコとすっかりといつもの調子を取り戻したスザクが、そういえばと話を振ってくる。

 

「埼玉の人達は助け出せたの?」

「ああ。テロリスト共が見つけ出した住民は全員な」

「じゃあ作戦は成功したんだね」

「内容は酷いものだったがな。一歩間違えれば、全滅していてもおかしくはなかった」

 

 もしコーネリアがランスロットを過剰に意識していなければ、もしコーネリアの軍が全て揃っており練度の低いクロヴィスの駐在軍を使っていなければ、もしテロリスト共の装備に地面を崩落させるだけの爆薬がなければ、負けていたのはこちらの方だっただろう。

 そんな条件下にも関わらずこちらは埼玉の住人を逃がすだけでやっとだったのだ。まともにやり合えば勝ち目がないどころか相手にすらならなかっただろう。

 

「次はもっと、スマートに戦いたいものだ」

「泥臭い方が僕らには合ってると思うけどな」

「お前はそうなんだろうがな。俺は違う」

「でも枢木神社にいた頃だって、君って結構いつも泥だらけだったよね?」

「あれはお前が変なところへ連れて行くから……」

 

 そこからはいつも通りの言い合いだった。

 初めての戦いを終え、生きるか死ぬかの状況から脱し、わずかに垂れていた勝利の糸をもぎ取って、二人は帰ってきた。

 唯一無二の親友と軽口を叩き合える日常に。

 





ルルーシュと言えば足場崩し。
というわけで埼玉戦はこれにて終了です。

実は今回の戦いでスザクが捕まり、それを助けるためにルルーシュがC.C.と契約という展開も考えましたが、今作はギアスなしルートのため断念。

次回:目に見える秘密

・出典
・キセキの誕生日
『くるくるキック、正式名:陽昇流誠壱式旋風脚』

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