コードギアス~あの夏の日の絆~   作:真黒 空

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仕事をやめたのでだいぶ執筆速度が上がった気がします。
ただモチベーションで執筆速度が加減しているので、評価や感想をいただけると更新頻度をさらに上げられるかもしれません。もしお手間でなければ、一言でもいいので感想をいただけると嬉しいです。


15:魔女の達眼

 

 翌日、ルルーシュはC.C.を連れて再びスザクの隠れ家に赴いた。

 昨日の後始末や今後の方針、やるべき事も話しておかなければならない事も山ほどあったからだ。

 C.C.を同行させる気はなかったのだが、勝手についてきたのでもう放っておいている。

 

「どうだい? ルルーシュ」

 

 埼玉の戦いで傷付いたランスロットの状態を確認するルルーシュに、不安を滲ませたスザクが訊ねる。

 

「やはり駆動系がやられているだけのようだな。これなら修理はさほど難しくない」

「そっか。良かった……」

 

 愛機の診断にスザクは胸をなでおろす。

 念のため他の部位も故障していないか確かめたルルーシュも同様に安堵の息を吐いた。

 

「結果論だが、こうなるとパージできなかった事が功を奏したな。もし腕を切り離していれば、修復はできなかった」

「それはそれで危なかったから、僕としては複雑だけどね」

 

 動かない腕など邪魔でしかなく、苦戦を強いられたスザクは頬を掻きながら苦笑する。

 

「後で補修パーツを買ってくるか。ついでに塗装用のペンキもな」

「ペンキ?」

「ああ。このままじゃ締まらないからな」

 

 点検を終えたルルーシュがランスロットから降りてくる。

 

「それでスザク、どうだった? 実際ブリタニア軍と戦ってみた感想は?」

 

 問われたスザクは改めてランスロットを見上げる。

 五体満足だが、細かい傷は数えきれず薄汚れた白銀の騎士。

 

「……強かった。もし軍がランスロットの鹵獲じゃなく破壊を目的としてたら、多分左腕が動かなくなった時点でやられてたよ」

 

 直接戦っていたスザクは、相対していた敵の動きが変わった事に当然気付いていた。

 コーネリアの騎士の一隊は片腕が動かない状態で戦えるような生半可な相手ではない。スザクが切り抜けられたのは、軍の判断に助けられたからに他ならない。

 

「ランスロットは世界唯一の第七世代型ナイトメアフレームであり、それを作った特別派遣嚮導技術部はシュナイゼルの組織。帝国宰相に借りを作れるとなれば、多少のリスクを呑んででも機体を確保しようとするのは当然だ。逆の立場なら、俺でもそうする」

 

 軍の対応の裏側にある事情をルルーシュは正確に見抜いていた。

 コーネリアの思考は軍人、皇族として最適化されているだけに読みやすい。

 

「だがコーネリアも甘くはない。もし同じ状況になれば、今度は迷わずランスロットの破壊を優先するだろう。それどころかあの状況を逃げ切った事で、ランスロットが最優先目標におかれていてもおかしくはない」

「つまり僕が出て行けば、いの一番に狙われるって事?」

「お前にしては察しが良いな」

 

 スザクの指摘にルルーシュは口角を吊り上げる。

 だが状況は笑えるようなものではない。自らが軍に完全に目をつけられた事を実感し、スザクは息を呑んだ。しかしそこには緊張はあっても怯えの色はない。

 

「親衛隊とは互角以上に戦えた。同じ条件で戦えるなら、僕は負けないよ」

「それについては俺も同意見だ。思った以上にお前とランスロットの相性はいい。脱出ブロックがない事は念頭に置いておかなければならないが、上手く運用できれば相当な戦力になる」

 

 帝国の先槍とまで呼ばれたギルフォードの隊を相手に一機で互角以上に張り合ったという実績は、ブリタニアとの戦いを見据えるルルーシュにとって幸先のいいものだ。スザクの戦術も自身の戦略もブリタニアに通用する。後は戦力と舞台を整えられれば、十二分に戦えるだろう。

 

「だがまぁ、軍と一戦交える機会は当分先だろうな。しばらくは地道な組織作りだ」

「どれだけ集まるかな? 埼玉の人達」

「さぁな。だがテロリスト共はおそらく俺達につくはずだ。むしろあんな事があってまだ自分達の力量も分からないようなら、そんな奴らは必要ない」

 

 容赦なく言い捨てるルルーシュとは対照的に、スザクはランスロットを見上げながら呑気そうに首を傾げた。

 

「組織作りか……僕にはどうすればいいのか全然見当もつかないけど、ルルーシュには構想ができてるんだよね?」

「当然だ。組織にとって重要なのは2つ。主義主張と実行力だな」

 

 スザクに問われる事は予想済みだったのか、すらすらとルルーシュは説明に入る。

 

「何を目的に、どんな事をする組織なのか。そしてそれを成し得る力があるのか。単純なようだが、人を集めるにはこれらを明確にする必要がある」

「……それって、当たり前の事じゃない?」

「その通りだ。だが意外とこれができていない組織は多い。例えばいま、このエリアのテロリストの殆どは場当たり的なテロ活動を起こしている。彼らが何を目的にそうしているか分かるか?」

「えっと……日本の解放、じゃないの?」

「ならお前は奴らがこのままテロ活動を続けて日本を解放できると思うか? いや、それ以前に日本を解放できると信じていると思うか?」

「それは……」

 

 言葉に詰まるスザクの様子にルルーシュは頷く。

 

「そういう事だ。テロリストの殆どはただ現状に不満があるからと暴れているだけ。自分達の行動が本当に日本を取り返せるとは思っていないし、一部の力のあるテログループも日本を奪還する明確なビジョンを持てているわけではない」

 

 実際に意識調査など行えるわけもないが、エリア11のテロ活動を一通り調べていたルルーシュの分析は正確だった。

 

「これはテログループに関わらずどんな組織でも同じ事だな。理念と行動指針、この2つは必須だ。逆に言えば、それが明確でない組織は簡単に瓦解する」

 

 迷いなく断言するルルーシュに、スザクも納得して大きく頷く。

 政治家の息子だけあって、スザクにもその重要性は理解できた。

 

「それを踏まえた上で俺が掲げた主義主張をお前は憶えているか?」

「昨日言ってた『弱者を守る事』かい?」

「その通りだ。弱者を守り、強者と戦う。分かりやすいだろう? いわゆる正義の味方ってやつだな」

 

 ニヤリと唇を吊り上げてルルーシュは笑う。

 

「いまの日本人の大半の意見は『ブリタニアは嫌いだがテロという手段には賛成できない』というものだ。だから活動目的はテロではなく弱者の救済だと謳い、正義の味方的活動をする。これだけで民衆への印象は格段に変わる」

「うーん、簡単に言うけど、そんなに上手くいくの? 自分から正義の味方なんて言う人は胡散臭いと思われそうだけど?」

「同感だな。だからあくまで自分からは名乗らず正義の味方に見えるように振舞う。これだけで勝手に民衆が正義の味方扱いしてくれるさ」

 

 自信満々に告げるルルーシュに、スザクは本当かなと疑いの目を向けるが、構わず話は進んでいく。

 

「汚職政治家や犯罪組織みたいな法律ではどうにもならない悪党を粛清していく事で、俺達が他のテログループとは違う事を民衆に印象付ける。もちろん活躍が報道される事はないだろうが、情報はいくらでも流せるからな。名声が集まれば人も集まる。そして弱者救済を掲げ、理不尽を振りかざす強者を敵と見据える以上、ブリタニアと敵対するのは自然の成り行きだ」

「要するにブリタニアと戦うための人集めのために、正義の味方になりきるって事?」

「平たく言えばそんなところだ。正義の味方なんてのは分かりやすいプロパガンダに過ぎない。あくまで俺達の目的はブリタニアの破壊だからな」

 

 悪い笑みを浮かべて言い切るルルーシュ。

 その様子を見て思わずスザクは吹き出した。

 

「なんだか、ルルーシュらしいね」

「どういう意味だ?」

「そうやって悪役ぶるのが。だってこの正義の味方って、ナナリーのためでしょ?」

 

 意表を突かれたのかルルーシュの目が見開かれるのが可笑しく、同時にやはり、らしいと思う。

 

「弱者の味方。いざという時にナナリーを守れるように、そうやって色んな利点とかメリットとか考えて、無理矢理に理由を作ったのが丸分かりだよ? 素直にナナリーを守るための組織で、そのための主義主張だって言えばいいのに」

「っ……」

「クッハハハハ! 一本取られたな。ルルーシュ」

「黙れ魔女」

 

 ソファに寝転んでピザを頬張っていたC.C.がここぞとばかりに笑い出したのを横目で睨みつけるルルーシュ。

 だがそんな事で大人しくなるような女ではなく、C.C.は意地の悪い笑みをスザクの方に向ける。

 

「枢木スザク、お前も面白い男のようだな。こいつとは違った意味で、見所がある」

「なんだか良く分からないけど……ありがとう?」

「こんな女に訳の分からない理由で褒められて礼など言うな、スザク」

「ねぇ、ホントにどうしてルルーシュってC.C.と一緒にいるの? そんなに仲が悪いのに」

「こいつが勝手に上がり込んで座敷童のようにいついているんだと前に説明しただろうが」

「いやまぁ、確かにそれは聞いたんだけど……」

 

 なんとなく納得がいかず、スザクはもう一人の方に標的を変える。

 

「C.C.、ぶっちゃけなんでルルーシュのところにいるの?」

「契約のためだ」

「契約?」

 

 初めて出てきた単語に首をかしげるスザク。

 別に隠すつもりもないC.C.はルルーシュに持ち掛けた契約についてつまびらかに話す。

 複雑な表情でこちらを見ているルルーシュは華麗にスルーして。

 全てを聞き終えたスザクは何やら深刻そうな顔で黙り込んだかと思うと、突拍子もない事を言い出した。

 

「C.C.。その力、僕にもらえないかな」

「スザク!」

「ほぅ……」

 

 突然の要求を聞いたルルーシュがC.C.が答える前に目を剥いて叫ぶ。

 しかし当の二人はそちらに見向きもしない。

 

「欲しいのか? 力が」

「うん。僕にはルルーシュとナナリーを守るための力がいる。それがたとえ、どんな力でも」

「スザク。お前がそんな怪しい力に手を染める必要はない。そんなものがなくても大丈夫なように、俺が策を考える」

「それは分かってる。でもどれだけ準備しても、万が一が起こるかもしれない。そうなった時、僕は後悔したくない」

「しかしだからといって――」

「頼むよ。ルルーシュ」

「スザク……」

 

 理詰めで説得しようとするルルーシュを遮ってスザクは懇願する。その様子にルルーシュも心を動かされたのか安易な反論はできず口を噤む。

 だがそんな二人の言い合いは無駄に終わった。

 

「ダメだな」

 

 空気の読まない魔女があっさりと、ピザを一口齧りながらスザクの要求を拒絶する。

 ルルーシュと向き合っていたスザクは振り返り、一度ゆっくりと深呼吸した後に訊ねた。

 

「……どうしてって聞いてもいい?」

「お前は器ではない」

 

 スザクの問いに対し、簡潔に、だがはっきりとC.C.は告げる。

 

「私が与える力は強大だ。御しきれなければ、自らの力そのものに呑み込まれていく。お前では、扱いきれない」

「……そんな危険なものを、君はルルーシュに渡そうとしていたの?」

 

 スザクの視線が鋭くなりC.C.を射抜くが、それをどこ吹く風と流しながらC.C.は平然と頷く。

 

「ああ。その男には見込みがありそうだからな。だがお前にはない。だからダメだ」

 

 交渉の余地はないとばかりに明確に否を突きつけるC.C.。

 

「私は無駄な事はするつもりはない。諦めるんだな」

 

 それだけ言うとC.C.は再びピザを頬張る。

 これ以上話を続ける意思はない様子に、内心交渉が決裂した事に安堵したルルーシュが口を挟む。

 

「だったら俺と契約する事も諦めろ。時間の無駄だ」

「見解の相違だな」

「チッ、まったくだ」

 

 スザクに諦めるように告げながら、自分はまるで諦める様子のないC.C.に思いきり舌打ちするルルーシュ。

 一方断れたスザクは肩を落とすでもなく曖昧に笑った。

 

「残念だな。僕ってそんなに脆そうに見える?」

「気にするなスザク。毎日ピザばかり食べるぐーたら女の戯言だ」

 

 もはや話す気もないのか自身に向けられた侮辱もスルーしてC.C.はピザを食べる。

 その姿に呆れた顔をして、ルルーシュはスザクを引き連れて出て行った。

 大方今後の話し合いの続きか、さっき言っていた買い物でもしに行くのだろう。

 帰る時にはどうせ声を掛けてくるはずなので、わざわざ追う必要もない。

 注文していた分のピザを食べ終え、追加注文するか頭を悩ませていたC.C.は、突然視線を何もない虚空に向け口を開いた。

 

「力をくれなどと言い出したな。なりふり構わない男だ」

 

 誰もいない格納庫にC.C.の声を聞く者は当然いない。

 だがC.C.はまるで誰かと会話しているかのようにフッと挑発気に笑った。

 

「私は魔女だが、お前みたいに無節操じゃないんだよ」

 

 声を返す者がいない中で、C.C.の表情が曇る。

 その表情はどこか寂し気なものだった。

 

「まさか。そんな感傷、とっくに忘れてしまったさ……」

 

 C.C.しかいない格納庫に、そんな呟きが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、珍しく特派に来客があった。

 元々軍から爪弾きにされていたのに加え、デバイサーであったスザクがランスロットを強奪して脱走してからは、トレーラーごと軍施設から追い出された事で来客が皆無となった特派が人を迎えるのは本当に久しぶりだった。

 しかしその来客は特派のトレーラーに入るなり頭を抱えた。

 

「おいロイド! これは一体どういう事だ!」

 

 怒鳴り声を向けられた男は画面を注視して前かがみになっていた姿勢から、だらしなく背もたれに凭れ掛かって呼ばれた方向に首を向ける。

 

「ん~、誰かと思ったらバトレー将軍じゃないですかぁ。どうしたんですかぁ? こんなところに来て?」

「貴様、シュナイゼル殿下から話は通っているだろう! それよりもなんだこの状況は!」

 

 怒り狂う元クロヴィス麾下の将軍兼参謀であったバトレー・アスプリウス。

 

「なぜ軍の施設ではなく大学に仮住まいなんぞしているんだ! 特別派遣嚮導技術部はシュナイゼル殿下の組織だろう! だというのにこのような体たらく、恥ずかしいとは思わんのか!」

 

 かつて自らが特派にしていた冷遇も忘れてバトレーは地団太を踏む。

 それに答えるロイドは右手で後頭部に掻きながら、いつも通りの常人とは一段階違うテンションで笑った。

 

「いやぁ改めて言われるとお恥ずかしい。でも仕方ないんですよ。元々爪弾きにされていたのにデバイサーがあんな事しちゃいましたからねぇ」

「だからといって――!」

「まぁまぁ。それより何か用があって来たんじゃないんですかぁ?」

「貴様という奴は……」

 

 何を言っても飄々としているロイドに怒鳴っても無駄だと悟ったか、バトレーは片手を顔に当て投げやりにここに来た目的を告げる。

 

「ランスロットとかいう機体の代わりに研究する試作機を持ってきてやったんだ。ありがたく思え」

「あは~。ようやくですか。でもここじゃああの機体は入らないなぁ」

「コーネリア総督にはシュナイゼル殿下経由で元々私が使っていた研究室の使用許可をもらっている。貴様らも今後はそっちへ移動しろ」

「至れり尽くせりですねぇ。ありがと~ございま~す!」

 

 満面の笑みでお礼を告げるロイド。

 それをなんとも言えない表情で見ながら、バトレーは続けて本国からの指示を伝える。

 

「今後あの機体のドルイドシステムを使った調査も考えられているという事だ。できるだけ早急に完成させろ」

「分かってますよぉ。僕も予算は欲しいですからね」

 

 前回の通信でのやり取りを思い出しながらそう告げるロイドに呆れた視線を向けるバトレーだったが、結局何も言わずに背を向けた。

 

「あれ? もう帰られるんですか?」

「私もこのエリアでやる事がある。これはシュナイゼル殿下直々のご命令だ」

「お忙しいですね。本国とこっちを行ったり来たり」

「この程度の事はなんでもない。本来なら更迭される私を拾ってくださった恩に報いるためにも、時間を無駄にしている暇などないのだ」

「すっかり忠義者ですねぇ。将軍」

「貴様もあれほどの失態を犯したにも関わらず目を掛けてくださっているシュナイゼル殿下に感謝し、少しでも貢献できるよう粉骨砕身努力するのだな」

「もちろんですよぉ。ガウェインは僕が必ず完成させますから」

 

 微妙に的外れな答えをするロイドに突っ込む事も疲れたのか、そのままバトレーはトレーラーから出て行った。

 予期せぬ来客を見送り、ロイドは笑みを引っ込めると両手を使って眼鏡の位置を直した。

 

「まぁガウェインを完成させても結局デバイサーはいないんですけどね」

 

 バトレーに出すためのお茶を持ってきたセシルが、その呟きを拾って同意を示す。

 

「ある意味ランスロット以上に適性を選ぶ機体ですからね。動かすだけならともかく、使いこなすのは相当な腕を持つパイロットじゃないと難しいですよ」

「しかも火器管制と操縦で二人ね。そんな人材どこにもいないんだけどなぁ。せめてスザク君がいてくれたら……」

「結局、逃げられてしまいましたからね」

 

 埼玉での一件を思い出し、二人は揃って深いため息をついた。

 その直後にロイドは突然顔を上げると頭を掻きむしる。

 

「あー! 折角ランスロットのデータが取れるチャンスだったのに~! 貴重な戦闘サンプルがぁ!」

 

 上司の突然の奇行に慣れているセシルは動揺する事もなく、その叫びに普通に返した。

 

「凄い動きでしたね。なんとか映像データだけは貰えましたけど、まさか初めての実戦であそこまでの操縦ができるなんて」

「左腕が動かなくなってからの立ち回りも良いサンプルになりそうだったよねぇ。データだけでも貰えないかなぁ」

「テロリスト相手に交渉でもするつもりですか? そんな事したら今度こそ首が飛びますよ」

「心配しなくても、交渉したくても伝手がないよ。せめてスザク君が通信機を持っててくれたらなぁ」

「そんなのすぐに逆探知されるに決まってるじゃないですか。持ってたとしてもすぐに捨ててるはずです」

 

 無茶苦茶言う上司に正論を返すと、当人はドカッと椅子に腰を下ろしてだらしなく凭れ掛かる。

 

「あ~あ。結局予備パーツで組み上げた機体もデバイサーがいないし、折角抵抗活動が激しいエリア11に来たのに、これじゃ意味がないよねぇ」

「上手くいかないものですね。スザク君を特派に招いたところまでは順調だったのに」

 

 あの一時期の充実した時間はなんだったのかと、八方ふさがりの現状を嘆く科学者二人。

 クルクルと子供のように椅子を回しながら、ロイドはぞんざいな考えを思いつくままに口に出す。

 

「今回の戦いでギルフォード卿やジェレミア卿って機体を破壊されちゃったんだよね? だったら代わりにうちの機体を――」

「無理ですよ。お二人は重傷でしばらくは前線に出られません。それに予備の機体くらいありますし、何よりコーネリア総督が認められるわけないじゃないですか」

「そうだよねぇ……」

 

 クルクルクルクルと椅子と身体を回すロイドは、失意で身体全部を背凭れに預けただらしない姿勢のまま椅子の上で膝を抱えた。やがて慣性で椅子の回転が止まった頃、目を回しながら焦点の合わない瞳をセシルに向ける。

 

「セシル君。君、デバイサーやらない?」

「寝言は寝て言ってください」

 

 特派の暗雲は晴れる気配を見せない。

 




この話を書くために改めてC.C.がなぜルルーシュやマオにコードを押し付けなかったのかの考察をめちゃめちゃしました。C.C.は本当に奥深いキャラですね。

次回:日常と仮面

今回から出典は使った時だけ記載するようにします。

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