唐突に思いついたので閑話を挟みます。
ピクチャードラマのギャグ回をイメージにしてるので、ブレーキ壊れ気味です。
「いらっしゃい。あれ? C.C.だけ?」
ある日の昼下がり。
今日も今日とてせっせとブリタニアの破壊に向けて邁進するため隠れ家でルルーシュを待っていたスザクだったが、チャイムが鳴って扉を開けるとそこにいたのはC.C.だった。ルルーシュと共にC.C.が一緒に来るのはいつもの事なのでそれだけなら何も不自然な事はないが、隣には本来いるべきはずの友達の姿がなかった。
「あいつなら買っておくものがあるとかで寄り道してくるそうだ。そんなものに付き合う義理は私にはないからな。そろそろ出発前に頼んだピザがお前の家に届く頃なのもあって先に来たんだよ」
付き合う義理がないのならここに来ずにルルーシュの部屋で待っていればいいのでは? というか、仮にも指名手配犯の隠れ家にピザのデリバリーなんて頼まないでほしい。
そんな気持ちが思わず苦笑いに出てしまったが、C.C.がスザクの感情を斟酌してくれるわけもなかった。
「というわけで上がらせてもらうぞ。お前はピザに合う飲み物でも準備しろ」
まるでスザクを執事とでも勘違いしているかのように、我が物顔で命令して中に入っていくC.C.。
どこか釈然としない気持ちを抱えつつスザクが言われた通りに飲み物を準備していると、その間にデリバリーが届いたのか、C.C.はソファに寝そべりながら嬉しそうにピザ箱を開けていた。
「C.C.とルルーシュって良く一緒に暮らせてるよね。正直全然想像できないよ」
飲み物をテーブルに置いて、ふと思った事をスザクは口にする。
何かと神経質で几帳面なルルーシュと、ずぼらで大雑把なC.C.の相性はスザクが思う限り最悪だ。
これがお互いが好き合っているというなら多少の欠点には目を瞑る事もできるだろう。しかし二人は明らかにそんな関係ではなく、口を開けば喧嘩にも近い言い合いばかりしている。それはそれで仲がいいのかもしれないが、性格上言いたい事を我慢する事がない二人は同じ屋根の下で暮らすには絶対に向かないだろうと断言できる。
スザクの疑問にC.C.はピザを頬張りながら機嫌よく答えた。
「あいつは口うるさいが中々便利だぞ。私が脱いだ服もいつの間にか畳まれてるし、ピザの箱も私が食べ終わるとすぐに消える」
「……訂正するよ。簡単に想像できた」
さながら母親のように甲斐甲斐しくC.C.の世話を焼きながら諦めたように文句を言うルルーシュの姿がありありと思い浮かび、スザクは親友に同情せざるを得なかった。ナナリーの世話をするルルーシュを見てもそんな気持ちにならないのに、相手が違うだけでこうも抱く感情が違うのはなぜなのか。
「C.C.って家事はできないの?」
思わずスザクは訊ねたが、それに対するC.C.の答えは人を食ったものだった。
「知らないのか? やればできる子なんだぞ。私は」
「つまり、やる気がないんだね」
「違うな。やる必要がないだけだ」
「はぁ……」
どうやらどうあっても家事をするつもりはないらしい。
そうであれば、できるできないはもはや関係がないだろう。
スザクのため息にわずかに眉を寄せ、C.C.は飲み物を置いて今度は逆に訊ねる。
「人の事をとやかく言っているが、お前はどうなんだ? 家事くらいしてるのか?」
「それはまぁ、人並みにはね。ルルーシュ程じゃないけど」
「ほぅ、意外だな。てっきり家事などまるでできない体力バカかと思っていたが」
「それ、ルルーシュが教えたの? やめてね。体力以外に取り柄がないみたいな言い方」
聞き慣れてしまったあだ名とも言えない悪口に肩を落とすスザク。
しかしそんな事で手心を加えるような優しさを持ち合わせていないC.C.は、ニヤニヤしながら追撃を仕掛ける。
「では他にどんな取り柄があるんだ?」
「そう言われると……パッとは出て来ないけど。少なくとも君より家事はできるよ」
「聞いてなかったのか? 私はやればできる子なんだよ」
「はいはい。そうだったね」
話す事に疲れを感じ始めたスザクは反論を諦めて適当に流す。
しかしそれがいけなかった。
スザクの返事が気に食わなかったのか不機嫌そうに目を細めると、唐突にC.C.は立ち上がった。
「その言い方、信じてないな? いいだろう。お前に格の違いというものを教えてやる」
「は? ……えっ、何? どういう事?」
いきなりの展開について行けないスザクの質問を無視して、C.C.は好き勝手に続ける。
「家事ができると嘯いたんだ。食材くらいはあるだろうな? なければいますぐ買ってこい。いや、ルルーシュに買ってこさせろ」
理不尽な命令を下し、ピザの最後の一切れを齧ってC.C.は不敵な笑みを浮かべて言った。
「家事と言えば料理だろう?」
「いきなり買い物リストが送られてきたと思ったら、なんだこれは?」
程なくしてスザクの隠れ家にやってきたルルーシュは目の前の光景を見て盛大にため息をついた。
それに反応したのは、この世で最も彼女には縁がないと思われる衣類であるエプロンを身に着けたC.C.だった。
「光栄に思え、ルルーシュ。私の手料理を食べられる機会など今後二度とないかもしれんぞ」
「答えになっていない。会話をしろ」
「なんだかごめん、ルルーシュ。いつの間にかこんな事になっちゃってて……」
「気にするなスザク。どうせあの女が人の話も聞かず勝手に話を進めたんだろうしな」
慣れていると言わんばかりのルルーシュの態度に、スザクは意図せず憐みの視線を向けてしまう。
スザクがC.C.と二人きりになったのは今日が初めてだったが、ルルーシュは同じ家に住んでいる都合上、いつも二人きりでいるはずだ。もしスザクがそんな毎日を過ごせと言われれば、おそらく一週間もしないうちに体重が5キロは減るだろう。
「ルールは簡単だ。私とスザクがこれから料理を作る。品数は何皿分でもいいが、量の目安は一食分。それを審査員であるルルーシュが食べ勝敗を決める。簡単だろう?」
「食べられるものが出てくるんだろうな?」
「それはお前の幼馴染に聞くんだな」
不遜にそう言い放つC.C.。
その態度に不安が薄まる事などなかったが、スザクの料理に不安があるのも確かだったのでルルーシュはスザクへと視線を向ける。
すると親友は笑みを浮かべながら頷いた。
「とりあえずそこまで程度の低い心配はしなくて大丈夫だよ。簡単なものくらいしか作れないけど、それなりに慣れてはいるから」
ひとまずどちらも料理ができないという最悪の事態を迎える心配がなくなり、ルルーシュは少しばかり胸をなでおろす。
「お前が料理をできるとは意外だな」
「枢木家を出てからは、小腹が空いた時なんかに作ってたからね。あんまり美味しくはないかもしれないけど」
「食べられるものであるなら充分だ。となると、懸念はやはりあの魔女だけか……」
「どうなんだろうね。正直料理ができるイメージが全くないけど……」
普段ピザばかりデリバリーで頼んでいるC.C.がまともに料理を作れるイメージがまるで湧かず、不安げな表情を浮かべるルルーシュとスザク。
そんな二人の懸念を余所にルルーシュが買ってきた食材を確かめ満足そうにC.C.は笑う。
「料理などいつぶりだったかな……良し。始めるとするか。まずは――」
「待てC.C.。料理対決といってもキッチンは一つしかない。なら、最初に料理をするのはスザクからだ」
「尤も話だが、なぜそいつからなんだ? 順番は私からでもいいだろう」
すっかりやる気満々となっていたC.C.はルルーシュの言葉に眉を顰める。
「ここはスザクの家だ。お前はまだ調味料や調理器具の位置を把握していないだろう」
「なるほど。スザクが料理するのを見てそれらを憶えろという事か」
「そういう事だ」
納得して素直に引き下がるC.C.に内心ホッと安堵するルルーシュ。
本心ではもし食べられないような料理が出て来た時に、昼食を何も食べられないような事態を防ぐための順番変更だったが、もしわずかでもC.C.に気取られていれば確実に認められなかっただろう。
「じゃあ僕からだね。少し待ってて」
そう言ってスザクがキッチンへと向かい、代わりにC.C.がやってくる。
隣に座ったC.C.と共にルルーシュはスザクの料理する姿を眺める。
「思ったより手馴れているな」
「たまに作っているというのは嘘ではなさそうだな。そうでなければ、こちらも張り合いがない」
「俺にはお前が料理するという事実の方が信用しがたいがな。もし料理ができるというなら、どうしてあんなピザばかりの偏食した食生活になるんだ」
「作れる事と作る事は別物だ。そんな事も知らなかったのか?」
「知りたくもないな。あんなだらしない生活をする女の神経など」
侮蔑たっぷりにそう口にしても、C.C.はまるで堪えないとばかりに笑みを深くして受け流す。
そんなC.C.の性格はこれまでの付き合いでいい加減学んでいるルルーシュは、ため息をついて話題を変えた。
「そもそもどうしてこんな話になった? いくら俺が食生活の事を言っても聞く耳を持たなかったお前が料理だと?」
「なに、売り言葉に買い言葉というやつだ。あいつがふざけた事を抜かしたんで、目にもの見せてやろうと思ってな」
「十中八九お前の拡大解釈――もしくは曲解だろう。仮にスザクが本当に喧嘩を売ったのだとしても、あいつにそんな事を言わせるなどよっぽどの事態だぞ」
「それを言うなら、私が料理をしようなんて言い出すのもよっぽどだ」
「よくもぬけぬけとそんな台詞が出てくるものだな。人のカードで毎日毎日ただ飯を食らっておいて」
「女一人養うくらいの甲斐性も見せられないのか? 器が知れるぞ、ルルーシュ」
「勝手に居座っておいて何様のつもりだお前は」
「知らなかったか? 私はC.C.だ」
そんな不毛なやり取りをしていると、スザクが料理を持ってやってくる。
「お待たせ。できたよ」
作った料理をテーブルに置くスザク。
ご丁寧にC.C.の分もしっかり作っていた。
「炒飯か。男料理の定番だな」
「見た目と香りは悪くない。言っていた通り、食べられないものではなさそうだな」
「さすがにそんな事で嘘はつかないよ」
まともな料理が出てきた事に安心するルルーシュ。
最悪本人に全て食べさせる事も考慮していただけに安堵も大きかった。
「早速実食といくか」
「うん。召し上がれ」
スプーンを手に取り、まずは一口食べてみる。
見た目が普通なだけで味付けが壊滅的な事態も想定していたが、そんな事はなく見た目通りの美味しさだった。
「なるほど。悪くないな。だが味付けが大雑把すぎる。もう少し丁寧に調整したらどうだ?」
「そんな細かい舌なんか持ってないって。言ったでしょ。美味しくないかもしれないって」
「別に美味しくないわけじゃない。もっと美味しくなると言ってるだけだ」
「いいんだよ。別に料理人になりたいわけでもなければ、誰かに振舞う機会なんて滅多にないんだから」
そんな会話を尻目に隣でスザクの炒飯を食べていたC.C.も感想を述べる。
「まぁまぁだな。だがこの程度で私に勝てると思うなよ」
「お前……本当に作るのか?」
「何を今更。スザクの料理を食べるのもいいが、程々にしておけ。私の料理を食べられなくなっては困るからな」
スザクの料理を食べ終わり、席を立つC.C.。
目に見えて表情を曇らせているルルーシュに、スザクは苦笑いしながら声を掛ける。
「あんなに自信満々なんだし、信用してあげてもいいんじゃない?」
「毎日どころか毎食ピザしか食べない偏食女の料理をどうやったら信用できると言うんだ?」
「だけど女の子だし……」
「あれを女だと思ったのはカプセルから出てきた時だけだ」
スザクの言葉をばっさりと切り捨てるルルーシュ。
キッチンではC.C.が普段の様子からは考えられないくらいテキパキと料理の下ごしらえを行っている。
「凄く手際が良いね」
「騙されるなスザク。野菜が切れるからといってそれは料理が上手い事には直結しない。刃物の扱いに心得があれば誰にだってできる」
「……気のせいかもしれないけど、ルルーシュ、君ってばいま作戦中より警戒してない?」
「そうかもしれないな。正直ここまで身の危険を感じるのは新宿以来かもしれない」
「そこまでなの!?」
驚愕するスザク相手に深刻そうに黙り込んで、ルルーシュはもはやキッチンの方を見ないように顔を伏せた。
念のためおかしな調味料を使っていないか確認するよう自分に頼むところまで含めて、スザクはあまりに信用がないその態度に苦笑いを隠せなかった。
そして運命の時がやってくる。
「待たせたな」
自信たっぷりな言葉と共にテーブルに皿を乗せる音がし、ルルーシュは覚悟を決めて顔を上げ、その瞬間固まった。
「なん……だと……」
「わぁ、凄く美味しそうだね」
食卓に広げられた料理にルルーシュはこれでもかというほど目を見開き、隣ではスザクが素直に称賛の声を上げる。
「どうだ? 少しは節穴だった認識を改める気になったか?」
並べられた料理は3品。
野菜にスープにチキン。どれも見た目、香り、共に申し分ない。というより、どこかのレストランに出てくる食事のように彩り豊かでとても食欲をそそられる。
「前菜の紅色サーモンムースリーヌ、スープには大葉薫る和風ポタージュ、そしてメインディッシュのチーズとろ~りローストピザチキンだ。遠慮なく味わえ」
目の前の現実を信じられないとばかりに驚愕を露わにしながら、ルルーシュはゆっくりと箸を伸ばす。
そして口にする前にゴクリと唾を呑み込み、意を決してそれを口の中に放り込んだ。
何度か咀嚼し、ゆっくりと嚥下する。
良く分からない緊張が場を支配する。
ルルーシュはゆっくりと顔を上げC.C.を見た。そしてまた料理に視線を移し、もう一度C.C.を見て、料理を見る。
「美味い……」
なぜか屈辱を受けたかのように身体を震わせながら呟くルルーシュ。
C.C.の唇がニンマリと妖艶に弧を描いた。
「そうだろうそうだろう。素直にそう言えるとは、中々感心じゃないかルルーシュ」
「うるさい。静かに食わせろ」
「C.C.、これって僕も食べて良い?」
ルルーシュの様子と食欲をそそる料理にスザクは興味津々とばかりに訊ねる。
しかしC.C.の返事は素っ気ないものだった。
「これは勝負だぞ。なぜ審査員でもない、ましてや対戦相手のお前に食べさせてやらねばならない?」
「うっ……そうだよね……」
餌を取り上げられた犬のようにシュンとするスザク。
それを見下ろし、C.C.はふむと顎に手を当てる。
「だがまぁ、実際に食べてみなければ格の違いは実感できないだろう。待っていろ。いま出してやる」
「ホント!? ありがとうC.C.!」
尻尾があれば間違いなく振っているだろう笑顔でスザクは感謝を告げる。
それに返事をせず、C.C.はスザクの分の料理を持ってきてテーブルに置いた。
「ほら存分に味わって、自分の料理との差を思い知れ」
「うん、いただきます!」
C.C.の挑発に素直に頷き、スザクは箸を伸ばして食事を始める。
するとさっきよりも笑みを深め、子供のように顔を輝かせた。
「うわ、何これ、凄い美味しいよ!」
「ふっ、当然だ。私が作ったのだからな」
満更でもないように腕を組んで頷くC.C.。
そしてあっという間に二人はC.C.の料理を食べ終えた。
「さあルルーシュ。どちらが美味かったか、判定を下せ」
「ああ……」
返事をしながらルルーシュは続く言葉を躊躇うように顔を伏せる。
それは勝敗について悩んでいるようにも見えるが、おそらくはただ自分にとって好ましくない判定を下すのを嫌がっているだけだった。
「チッ……勝者はC.C.だ」
「ハッ! 当然の結果だな!」
不本意である事を隠そうともせず舌打ちして結果を告げるルルーシュ。
そしてそれ見た事かと言わんばかりに胸を張るC.C.。
この二人は一体何と戦っているのか。C.C.と対決していたのは自分のはずなのに、まるでルルーシュが敗北したかのような構図にスザクは首をかしげる。しかしこの対決の勝敗については不満はなかった。
「うん。僕も納得。まさかC.C.の料理がこんなに美味しいなんて思いもしなかったよ」
「だから言っただろう。やればできる子なんだよ。私は」
「…………ほぅ。ならばできる奴に施しを与える必要はないな」
低い声で不穏な事を呟いたルルーシュに、C.C.は水を差され眉を顰める。
「なんだとルルーシュ」
「これだけの料理が作れるならわざわざ毎食ピザをデリバリーする必要はないだろう。今日からピザのデリバリーは一日に一枚だけとする」
「なっ……!」
思いもしない不意打ちを受け、C.C.が言葉を失う。
しかしそれも一瞬の事で、すぐさまテーブルに両手を叩きつけ反論した。
「ふざけるなよルルーシュ! これが勝者に対する仕打ちか! 撤回しろ!」
「ふざけてなどいない。そもそも何もせずに部屋でゴロゴロしているだけの癖して一日何枚ピザを頼んでいるんだお前は。いい加減俺も我慢の限界だ」
「お前は私を餓死させるつもりか!」
「ピザしか食べられない病気にでも掛かっているのか? 別に頼むなとは言っていない。一日の枚数を制限するだけだ」
「貴様……そんな非道な真似が許されると思っているのか!」
「当然だ。俺の金だぞ」
普段では考えられない大声を出すC.C.の抗議に淡々と的確な反撃を返すルルーシュ。
あまりの事態にC.C.は全身を恐怖で震わせた。
「そ、そうだ。料理をしろと言っても、私がお前の部屋に住んでる事は秘密のはずだ。そんな私があそこのキッチンを使うのはナナリーやメイドから不審がられるだろう」
「自分からナナリーに接触したのを忘れたのか? ナナリーに会いに来たと言えば、不審がられる心配はない」
「ぐっ……しかしそれでも、さすがに毎日というのは……」
「問題ない。幸いお前が非常に不本意な理由を作ってくれたからな。ナナリーを口実に俺に会いに来ていると思われるだけで、料理も俺を落とすための涙ぐましい努力として認識されるだろう」
「っ……ルルーシュ、貴様……!」
「ふははははははははははは! 因果応報とはこの事だなC.C.。お前のだらしない食生活を正す時がやってきたようだぞ」
さっきとは真逆で打ちひしがれるC.C.とそれを見下ろし高笑いするルルーシュ。
だからこの二人は一体何と戦っているのか。スザクは目の前の喜劇を見て不思議でならなかった。
「試合に勝って勝負に負けた気分はどうだ、C.C.。もしお前が言いつけを破って一枚以上ピザを注文すれば、うちからの注文は全てイタズラだとピザ屋に連絡する」
逃げ道を塞がれ、C.C.は絶望的な表情を浮かべる。
まさか自分から言い出した料理勝負で自らの好物を制限される事態になるとは思ってもみなかっただろう。
スザクとしてもどうしてこんな流れになったのか、目の前で見ていたはずなのに全く分からない。
「枢木スザク、貴様のせいで……!」
「えっ、僕?」
なぜか恨みがましい目でC.C.に睨まれるスザク。
完全な逆恨みだったが、そんな事はいまのC.C.に言っても聞き入れてもらえるわけがない。
「これで膨れ上がっていた食費は抑えられ、ピザ臭い部屋からも解放され、ついでに同居人の偏食もなくなる。良い事尽くめだな」
「おのれ、ルルーシュ……!」
上機嫌に笑うルルーシュと怨嗟の声を吐き出すC.C.に、もはや引き攣った笑みを浮かべるしかないスザク。控えめに言ってもカオスな空間だった。
「良し。食事も終わった事だし、早速今後について話し合うとするか。スザク、部屋を移るぞ」
「それはいいけど…………放っておいていいの?」
「あいつは少し、我が身を振り返って反省すべきだ。己の態度をな」
容赦なくC.C.を切り捨てるルルーシュに、心配そうにC.C.を見ながらもスザクはついていく。
部屋に残されたC.C.は、自らの行いをルルーシュが意図した方向とはまるで逆の方向に後悔していた。
「だから料理など、作るべきじゃなかったんだ……」
結果だけを語るなら、C.C.のピザ制限は二日と持たなかった。
これはC.C.が勝手に注文したわけではなく、ルルーシュの方から許可を与えたのだ。
もちろんそれには理由がある。
普段は自分の気が向いた時にしか話そうとしないC.C.が、ピザを制限された途端に一日中不満を口にするようになったのだ。
ルルーシュに制限撤回の要求するだけにとどまらず、ピザがどれだけ素晴らしい食べ物であるか、そしてそれを制限する事がいかに残虐な行いであるかを、ルルーシュが部屋にいる間中C.C.は滔々と語り続けた。
時には黒の騎士団のデータに目を通している最中に耳元で延々とピザピザと囁き続け、最初の内はうるさいと文句を言っていたルルーシュも、それが意味を成さないと分かると今度は無視という手段に切り替えたが、C.C.のあまりのしつこさに根負け――というか我慢の限界を迎えた。「いい加減にしろ! もう知った事か! 10枚でも20枚でも好きなだけ食って身体を壊せ!」とヤケクソ気味にルルーシュが叫び、その内容に大歓喜したC.C.がルルーシュの言葉通りにいつもの倍以上のピザを注文し、結果としてルルーシュの財布事情は、最初からピザを制限しなかった方が損失が少なかったであろう程の打撃を受けた。
後に事の顛末を聞いたスザクが、意図しなかったとはいえ発端となる会話をしてしまった事をルルーシュに謝罪するという場面も見受けられたが、ルルーシュは悟った顔でお前のせいじゃないとスザクを許した。
そして今日も今日とてC.C.は好物のピザをルルーシュのカードで注文し、それをソファで寝そべりながら満足気に食べている。
魔女の我儘には、ブリタニアを壊そうとする二人もなす術もなく振り回されるしかなかったのだった。
そんなわけで本編となんら関わりがないギャグ回です。
折角スザクを仲間にしたんだから、原作ではシリアスでしか絡みがなかったC.C.との話を書こう。と急に思い立ったのと、軽いノリで書ける機会が今後は殆どなくなってしまう可能性が高かったので急遽ぶっこみました。なのにC.C.とスザクの絡みが前半くらいしかないという事実。ドウシテコウナッタ?
スザクが料理をできるかに関しては原作では触れられてなかったはずなので、実際にはどうかは分かりません。
ちなみにC.C.が作った料理はcookpadとコラボした際に実際に出た料理です。定番通りピザにしようかなとも思ったんですが、二人を見返す事を優先しました。ちなみに私はコラボ料理は食べた事ないです。
次回はちゃんと本編に戻ります。赤毛の女の子の話ですのでお楽しみに。
出典
イラストドラマ
TURN:0.923
『知らないのか? やればできる子なんだぞ。私は』
Sound Episode3
STAGE:11.351「拘束衣の女」
『うちからの注文は全てイタズラだとピザ屋に連絡する』