今回はコーネリアに対し厳しい話になります。
コーネリアファンの方はお気を付けください。
念のためアンチ・ヘイトのタグをつけるべきか、悩ましいです。
そして武装説明を。
廻転刃刀――外見はナイトメア用ライトセイバー。切れ味抜群。
『全ての準備は整った! 黒の騎士団、総員出撃準備!』
通信機から工作部隊の報告を聞いたルルーシュは号令を掛ける。
スザクが日本解放戦線を説得している間に、ゼロの言葉によって覚悟を決めた団員達は、半ばヤケクソ気味に叫びながら戦意を滾らせる。
『これより我が黒の騎士団は山頂よりブリタニア軍に対し奇襲を敢行する。私の指示に従い、第3ポイントに向け一気に駆けおりろ。尚、本作戦のみ日本解放戦線は我らの指揮下に入る。既に枢木スザクが彼らと共にブリタニア軍に対する陽動を行っている。全ては作戦目標である、ブリタニア第二皇女コーネリアを確保するためだ』
必要な事を簡潔に告げ、ルルーシュは開戦の狼煙を上げた。
『突入ルートは私がいま、この時を持って切り開く!』
その言葉と共に、ルルーシュは持っていた起爆スイッチを押す。
途端、爆音がそこかしこから響き渡った。
日本解放戦線に指示し仕掛けさせた流体サクラダイト、そして山頂に登ってからいままでの時間で工作部隊によって仕掛けさせた数多くの爆弾と掘削機によるものだ。
爆発は全て同時ではなく、時間差で起動している。
そのどれもが、上から下へと川が流れるように連鎖的に爆発した。
当然爆発に巻き込まれ木々や地盤は崩れ、麓を超えてその先の街までも落ちていく。
しかしその規模は決して大きいものではない。
土砂によってブリタニアの部隊を壊滅させられるような、そんな大掛かりな山崩れはこの程度の爆発では起こせない。
多少は巻き込まれてくれるかもしれないが、それでもブリタニア軍の被害は軽微に留まるだろう。
しかし――
『これは――』
『スゲェ、ゼロ……』
団員達の呟きが聞こえてくる。
いくつもの部隊に分かれて成田連山を攻略していたブリタニア軍。
その中の一隊が爆発によって起きた山崩れによって分断され、完全に孤立していた。
「さすがは音に聞こえたコーネリア。理に適った布陣だ。しかし、優れているが故に読みやすい。お前の位置すらもな」
もしこれがクロヴィスだったなら、軍略に疎いからこそどんな陣を敷くか見当がつかず当人の位置を絞るのは困難だっただろう。となれば爆弾を仕掛ける位置を事前に決める事ができないため、この作戦は不可能だった。
歴戦の将であり、戦において最も効率の良い解を叩き出すコーネリアだからこそ、この作戦は成り立ったのだ。
それでもコーネリアの進軍状況から布陣を割り出し位置を絞り込むのはいくらか賭けの要素が含まれていたが、ルルーシュはその賭けに勝利した。
『良し! コーネリア隊は孤立した。全軍、一気に突き進め!』
ゼロの号令と共に黒の騎士団は山を駆けおりる。
元々の戦力差は比較にならない。練度にしても比べるのすら烏滸がましい程だろう。しかしこの状況において、それは参考にはならない。
部隊を孤立させた事によって、時間制限付きではあるが戦力差はわずかに黒の騎士団の方が上回っている。さらにブリタニア軍は想定しなかった山崩れによって動揺しているところに奇襲を掛けられ士気は最悪だろう。その状態で十全に力を振るえる者は、たとえ鍛えられた軍人といえども多くない。そして黒の騎士団の方は、追い詰められた事で逆に士気がこれ以上ない程に上がっている。死に物狂いでブリタニア軍に牙を突きつけてくれるだろう。
「背水の陣と逆落とし。古典的な戦法がこれほど有効だとはな……」
接敵したブリタニア軍を蹴散らす部隊を眺めながら、ニヤリと口角を吊り上げルルーシュは指示を出す。
『無頼改は部隊を率いて予定位置で待機しろ』
『はい!』
『コーネリア隊への援軍は限られている。他の部隊にしても、一度麓まで降りなければ手を出す事は不可能だ。戦力合流前に電撃戦にて勝負をつけるぞ!』
『おおっ!』
このまま奇襲を掛ければ、十中八九コーネリアは動く。
そして罠を仕掛けようとした先で待つのはカレンの部隊だ。
親衛隊を足止めできれば、決着はつく。
『報告! 前方より敵影です!』
『先遣隊は既に叩いたはずだが、後ろ備えか。このまま戦闘に入る。コーネリアは目と鼻の先だ。突破するぞ!』
ゼロの号令に気合の入った叫びが答える。
そしてすぐさま接敵し戦いへと移っていった。
日本解放戦線のアジト。
最低限の人数を残して枢木スザクと共にブリタニア軍の足止めに勤しみ、後処理を終え、いままさに指揮官である片瀬も戦場へと赴こうとしていたところで通信が入った。
『少将閣下、遅くなりました』
『藤堂! 戻ったか!』
画面に現れた男の姿に、片瀬は歓喜と共にその名を呼ぶ。
藤堂と呼ばれた男は事態を把握しているようで、無駄話を挟む事なく本題に入った。
『現況はどうなっておられますか?』
『我々はいま、全戦力を投入しブリタニア軍を引き付けている。その間に黒の騎士団がコーネリアに奇襲を掛けているはずだ』
片瀬の言葉に藤堂の眉間に皺が刻まれる。
そこには驚きと不信の色が見て取れる。
『黒の騎士団が? 恐れながら閣下、黒の騎士団と共闘されておられるのですか?』
『いや違う。我ら日本解放戦線は現在、黒の騎士団の指揮下に入っている』
『なんですと!』
予想もしなかった言葉に藤堂が驚愕の声を上げる。
それは同じ車内で話を聞いていた四聖剣の面々も同じだった。
音を拾われないようにしながら、通信の外でひそひそと話し合う。
「まさか黒の騎士団に指揮権を渡すなんて、片瀬少将は何を考えてるんだろうね?」
「奴らは草壁中佐を殺した。そんな奴らの下につくなど……」
あからさまに不満を露わにする朝比奈と千葉の二人。
四聖剣の中でも年若い二人は、黒の騎士団に対し良い感情は抱いていない。そのため不信感のままに片瀬の決断に眉を顰める。
しかしそれを諫めるように残りの四聖剣である卜部と仙波は口を開いた。
「おい、口を慎め。そんな事は少将閣下も承知の上だ。それを呑んででも指揮権を譲るのが最善だと判断されたって事だろうが」
「人の上に立つ人間は、時に自身でも納得できぬ選択を強いられる。我らは軍人としてその決断に従うのみ」
軍隊の経験が長い二人は、片瀬の決断に異を唱えなかった。
もちろん仲間を殺している黒の騎士団の下につく事に、内心思うところはあるだろうがそれを表に出すような事はしない。
絶体絶命な状況下に置かれて、上官が身を切るような苦渋の決断をしただろう事が分かっていたからだ。
『状況は説明した通りだ。ゼロへの通信チャンネルを開くための暗号を送る。指示はそちらに仰いでくれ』
『かしこまりました』
四聖剣が話している間も片瀬から現状を聞いていた藤堂は、指示を受けすぐにゼロへと通信をつないだ。
『ゼロよ、聞こえるか?』
『誰だ。日本解放戦線のメンバーか?』
突然の通信にゼロが問う。
機械を通した声に違和感を憶えながら、藤堂は簡潔に求められているだろう情報を明かす。
『いかにも。私は日本解放戦線の藤堂中佐だ。キョウトより無頼改を受け取り現在包囲を抜けて成田連山へと入った。状況は片瀬少将より聞いている。このまま私の部隊はコーネリアの背後を突くが、問題はないか?』
山崩れを起こしてブリタニア軍の一部隊を孤立させている戦況から推察されるゼロの意図を読み、藤堂は問うた。
通信機越しにゼロの感嘆した声が返る。
『ほう。さすがは噂に名高い奇跡の藤堂。私の考えを読んだか、優秀だな』
上から目線に肯定を含んだ返事をするゼロ。
現状では上官であるゼロの態度に目くじらを立てる事はせず、藤堂は続けて問う。
『コーネリアが離脱した場合の対応は?』
『そちらには既に私の部隊を潜ませている』
『ならば我らは親衛隊を』
『ああ。撃破する必要はない。釘付けにしろ』
互いに作戦に込められた意図を理解した上での会話はスムーズに進み、ものの数分も経たず通信を終える。
「あれがゼロ? 藤堂さん相手に生意気だね」
「しかしこの状況を作り出したという一点を見ても、才覚は確かなようだ」
「俺達にはちとついていけない会話を中佐相手にしてたしな」
「だがやはり信用はできん。あんな顔も見せない怪しい男……」
四聖剣は口々にゼロに対する所感を言い合うが、藤堂はそれに混ざる事なく緩みかけている空気を引き締める。
「無駄話はそれまでだ。いまこの段階においてゼロについて話したところで意味はない。我らは全力を持ってコーネリアの部隊と戦うのみ」
軍人としての責務を果たせという藤堂の言葉に、四聖剣の顔から遊びが消える。
「戦闘準備だ。コーネリアは目前だぞ」
「「「「承知」」」」
日本解放戦線が誇る最高戦力が、孤立したコーネリアへと迫っていた。
一方、山崩れが起きてから錯綜する情報を前に、コーネリアは苛立ちを隠そうともせず通信機に向けて怒鳴り声を上げていた。
『現況はどうなっている!』
『ハッ。黒の騎士団は現在、山頂より総督の部隊へ向けて進軍しています!』
『ランスロットが出て来た時点で奴らもいるとは分かっていたが、このような策を用意していたとは……』
ランスロットが現れたという情報はダールトンから届いていたため、黒の騎士団がこの山まで来ていた事に驚きはない。しかし彼らの本拠地でもないはずの成田連山でこれほど大規模な策を準備しているとは考えてもいなかった。
そして黒の騎士団が逆落としを始めるのと同時に打って出てきた日本解放戦線。その連動した動きを見るに、日本解放戦線と黒の騎士団は手を組んでいると見て間違いない。河口湖で対立していた両者だが、ブリタニア軍と対抗するために手を取り合ったのだろう。そして殲滅作戦が決行される今日この時を狙って、牙を突き立ててきたのだ。
『どこからか情報が漏れていたか……』
山崩れを起こすという大規模な作戦を仕掛けてきた事を見ても、準備して待ち構えていた事は疑いようがないだろう。つまりそれは、軍の作戦がどこからか流出していた事を意味する。
『殿下、後ろへ下がりますか?』
『いや、不用意に背中を向ければ奇襲に対応できん。それならば待ち構えて迎撃した方が危険は少ない』
ブリタニア軍の侵攻が順調に進んでいた事もあり、山頂から逆落としを仕掛けてきた黒の騎士団の部隊はもはやすぐそこまで迫っている。逃走中が一番危険が増す事を考えれば、ここでの後退は愚策だった。
どこまでも周到に用意された策にコーネリアは歯噛みする。
『ならば殿下だけでもお下がりください。殿はこのジェレミア・ゴットバルトが務めさせていただきます』
主従の話に口を挟み、危険な役を買って出るジェレミア。
しかしギルフォードはそれを良しとはしなかった。
『お待ちをジェレミア卿。この状況が黒の騎士団によって作られたものであれば、どこかに伏兵が潜んでいるとも限りません。総督単機での行動は危険です』
『ならばギルフォード卿、貴公が部隊を率いて殿下の護衛を。残るのは私一人で充分です』
『ジェレミア卿、それは……!』
『作戦前にも述べた通りです。私はこの忠義に懸けて、尊き皇室の血を一滴でも零すわけにはいかぬのです』
あまりにも自らの危険に頓着しないジェレミアにギルフォードは異を唱えようとするが、改めて語られた覚悟の前に口ごもる。
ギルフォードにしても、総督のために我が身を顧みないその判断の正しさは理解しており、安易な否定はジェレミアの忠義に泥を塗る行為だと分かっていたからだ。
ジェレミアの判断を支持するべきか反対すべきか、判断するために生まれた沈黙は、コーネリアの口から語られた新情報によって打ち破られた。
『待て。参謀府より連絡が入った。後ろ備えが黒の騎士団を足止めしているらしい』
『では……!』
『ああ。ジェレミアよ。ここに残る必要はない。お前も我らと共に一度下がるぞ』
『イエス・ユアハイネス。殿下の御身はこの命に代えましてもお守り致します』
別の部隊が黒の騎士団を釘付けにしているなら背後を警戒する必要はない。
転身し後方へ下がろうとコーネリアが部隊の指揮を執ろうとしたところでさらなる報告が通信機から齎される。
『総督! お気を付けください! 後方より未確認の部隊が接近しております!』
『なに!』
直後、突如としてナイトメアの集団が木々の中から現れ、部隊の後方にいた機体へと斬りかかる。
突然の奇襲に反応できず何機かは落とされ、そのまま戦闘が始まった。
『殿下をお守りしろ!』
ギルフォードの号令の下、ブリタニア軍はすぐさまコーネリアを守るべく迎え撃つ。
その様を観察していたコーネリアは、襲撃してきた機体を確認し何者かを察する。
『日本解放戦線か……』
奇襲を掛け、すぐさま包囲陣を仕掛ける練度の高い動き。とても民兵上がりのテロリストにできる連携ではない。
襲撃を仕掛けてきたナイトメアは5機だが、そのどの機体も自らの親衛隊と同等以上の実力を有しているのが見て取れる。
『くっ、殿下! ここは私達に任せ、一旦お引きください!』
ギルフォードもその実力をすぐに見抜き、主君に向けて後退を願う。
既に黒の騎士団を足止めできていると分かっている。そして日本解放戦線をギルフォードが率いる親衛隊が止めれば、コーネリアだけでも逃げる事は可能だ。
しかしコーネリアは総督でありながら、一人の戦士でもある。その戦士としてのプライドと戦術眼が、一方的にやられているこの状況でただ下がる事を良しとはしなかった。
『良し。ならば逆手に取ってやる。ギルフォード、刃を交えたのちポイント9まで来い』
『ポイント9? なるほど。分かりました』
指定されたポイントが待ち伏せに最適である事を瞬時に察し、ギルフォードは了解の意を示す。
だがそれを聞いていたジェレミアはコーネリアの判断に異を唱えた。
『お待ちを、コーネリア殿下。お一人での行動は危険です』
『私を見縊るなよジェレミア。この程度の危機など、私はいくらでも乗り越えてきた』
『しかし……!』
『くどい! 貴様はここでギルフォードと共に奴らを誘い込め!』
『コーネリア殿下!』
ジェレミアの制止に耳を貸さず、コーネリアは自らが指定したポイントへとナイトメアを走らせた。
日本解放戦線の相手をしていたジェレミアはそれを追いかける事もできずに歯噛みする。
『ご安心をジェレミア卿。姫様が向かった先に敵影はありません。我らもすぐに、こいつらを誘い込み合流致しましょう』
通信機から聞こえてくるギルフォードの落ち着いた声に、ジェレミアも意識を切り替える。
コーネリアが既にこの場からいなくなってしまった以上、できる事は一つしかない。
『それしかなさそうですな。ならば一刻も早く、蹴散らすのみ!』
『ええ! またあなたの横で戦える事、光栄に思います』
『それは私とて同じ事です。ギルフォード卿』
埼玉の時を思い出しながら、二人の騎士はエリア11最大の反ブリタニア勢力と相対した。
自分達をこの場に足止めしようとするブリタニア軍の意図にあえて付き合っていたルルーシュは、その報告に口角を吊り上げた。
『ゼロ。予定通りコーネリアが単機で離脱した』
『よし。良くやった。藤堂』
打合せ通りコーネリアを誘い込んでくれた藤堂の実力に満足する。
山崩れからなるこの作戦の一連の流れを読んだ事といい、奇跡の藤堂の名は伊達ではないらしい。
『親衛隊は日本解放戦線が足止めする。ここで争う意味はもはやない。我々は転進し、カレンの部隊と合流してコーネリアを叩くぞ』
本来ならなんとしても突破しなければならない戦いだったが、日本解放戦線を取りこめたおかげでこの場を突破する事の戦略的価値はなくなった。
『日本解放戦線が……!』
『スゲェぞ、これなら……』
強敵であるコーネリアの親衛隊を反ブリタニアの最大勢力である日本解放戦線が押さえると知り、団員の士気が一気に上がる。
ゼロの指示通りに作戦が進み、コーネリアを追い詰めているというのも大きいのだろう。
当初ブリタニア軍と戦えるわけがないと怯えていた団員達は、ゼロの指示の下でナイトメアを操作し機敏に転身する。
交戦していたブリタニア軍の部隊は追撃をしてくる事はない。どうやら仲間部隊との合流を優先したようだ。
コーネリアが誘い込まれていると知らなければ当然の選択だろう。
これで完全にコーネリアは孤立する。
親衛隊も藤堂と四聖剣が抑えてくれるだろう。
スザクと日本解放戦線の奮闘もあり他の部隊が援軍に来るまでにはまだ時間が掛かる。
限りなく勝利に近い状況。
コーネリアの捕縛はすぐそこまで迫っていた。
ルルーシュの部隊が目的の地点に到着すると、既に戦闘の最中だった。
コーネリアの機体をカレンの部隊が4対1で取り囲んでいる。どちらとも機体損傷は軽微のようだが、数の差もありどちらが優勢かは火を見るよりも明らかだ。
ルルーシュは挨拶代わりに崖上からアサルトライフルをコーネリアに向けて放つ。
それはギリギリのところで避けられるが、ルルーシュとしてもコーネリアの注意をこちらに向けるためだけに攻撃しただけなので初めから当たるとは思っていない。
『聞こえているか、コーネリアよ。既にチェックメイトだ』
『ゼロか!?』
カレンの部隊を警戒しながらコーネリアの機体がこちらを向く。
『ああ。再会を祝うべきかな? しかしその前に我々に投降していただきたい。あなたには聞きたい事もあるしな』
黒の騎士団のメンバーがいる手前、詳細は語らず投降を促すルルーシュ。
『ちなみに援軍は間に合わない。私の勝ちなんだよ。コーネリア』
ゼロの部隊が合流した事で、数の差は7対1となっている。
いかにコーネリアがパイロットとして優秀でも、既に包囲されているこの現状で突破する事は不可能だろう。
もしそれが可能な者がいるとすれば、漆黒の戦士の機体に騎乗した親友くらいのものだ。
『卑怯な。一人を大人数で取り囲むなど……』
『ほう? では日本解放戦線に対して行ったあなたの作戦はどうだ? 私には正々堂々数を合わせているようには見えなかったが? それに埼玉でもあなたは枢木スザク相手に私と同じような作戦を取っていたと記憶しているが?』
『くっ……』
自分にとって著しく不利な状況を卑怯と罵るコーネリアに対し、まるで堪えないとばかりに嘲笑を返すゼロ。
戦場において卑怯などという言葉など存在しない。それはこの地がまだ日本と呼ばれていた頃、圧倒的制圧力を誇るナイトメアフレームを用いて日本を蹂躙したブリタニアという国が一番理解しているだろう。
『さて、答えを聞こうか。コーネリア』
『よかろう。これが私の答えだ!』
大型ランスを振りかぶり、無頼改へと突進するグロースター。
ゼロとコーネリアの会話中も油断する事なく警戒していたカレンは、その動きに即座に反応した。
廻転刃刀でコーネリアの大型ランスを捌き、そのまま接近戦を演じる。
だが無理に攻めるような事はしない。コーネリアの攻撃を捌く事だけに集中し、グロースターを包囲の中に釘付けにする。
その間に部隊の無頼2機がコーネリアに迫る。後ろからの気配にコーネリアは半身でアサルトライフルを放って牽制するが、その隙にカレンの廻転刃刀が機体を襲う。
並のパイロットであればそれで終わりだっただろうが、さすがは数多の戦場を駆け抜けた歴戦の将。スラッシュハーケンを土壁に打ち込み機体を引っ張り上げる事でそれを回避する。しかし回避した先で背後から放たれたアサルトライフルの斉射を避ける事は叶わなかった。
もろに銃弾を食らったグロースターは持っていたアサルトライフルごと左腕が吹っ飛ぶ。
『っ……! 後ろから撃つとは卑劣な……』
『数で戦うとはこういう事だ。理解したかな? コーネリア』
手は出さずに高みの見物を決め込むゼロが悠然と語り掛ける。
元々ゼロの部隊はこの場に来る予定はなかった。戦力的にカレンの部隊さえいればコーネリアの封殺は可能なのだ。
『片腕を失ったその機体で逆転できると考える程、愚かではあるまい。もう一度言おう。投降しろ。ブリタニア第二皇女、コーネリア・リ・ブリタニアよ』
再度投降を促すゼロ。
暗殺された母の真実を聞き出すためにも、ルルーシュはコーネリアを生きたまま捕らえたかった。
しかしスピーカーから聞こえるコーネリアの声に込められた戦意は衰えない。むしろより激しく滾っていた。
『私はイレブンに下げる頭など持ってはいない。我が弟妹を殺した、貴様らになど……』
その声に怨嗟が混じる。
追い詰められた状況と作戦前に交わした会話が、コーネリアに総督としてではなく姉としての激情を誘発した。
『私は絶対にイレブンを許しはしない! この地で散ったルルーシュとナナリーのためにも、ブリタニア皇女として最期まで戦うのみ!』
そう叫んで無頼改へと再び突撃するコーネリア。
それを冷めた目でルルーシュは見ていた。
(ふん、何を今更)
自分と妹の名前を出したコーネリアに対しルルーシュの心はまるで動かなかった。
むしろ日本人を虐げる言い訳のように使われた事に嫌悪すら湧く。
もし本当に自分達の事を思ってくれていたなら、たった二人で日本に行く事を決して認めはしなかっただろう。少なくとも、旅立つ自分達に言葉を掛けるくらいの事はしてくれたはずだ。
ルルーシュはいまでも鮮明に憶えている。
話し掛けてくれようとしたユフィを姉である彼女が止めた事を。
それを責めるつもりはない。
皇帝の不評を買って旅立つルルーシュとナナリーに言葉を贈るような事をすれば、彼女達にも火の粉が及ぶ可能性がある。それを恐れたのだと理解しているからだ。
もしルルーシュが逆の立場であっても、同じ判断をしたかもしれない。
だがそうして見捨てておきながら、今更になって自分達が殺された事を許さないだの、弟妹のためだの言われても、八つ当たりのための体のいい言い訳にしか聞こえない。自分達を見捨てた責任を日本人に押しつけ、被害者のような顔で自らの行いを正当化する。そんな神輿に担ぎ上げられて嬉しいわけがなかった。
『カレン。殺さず生きたまま捕らえろ。できるな?』
『はい、もちろんです!』
コーネリアと戦闘しながら即答してくるカレン。
彼女にもコーネリアが自分達の名前を出した事は聞かれたはずだ。あとでフォローしておく必要があるだろう。
(面倒事ばかり増やしてくれる)
とっとと捕縛したいが、無理に手を出せば連携を乱してコーネリアに付け入る隙を与えるだけだ。
カレンの部隊が片を付けるのを待つのが最善だと判断し、ルルーシュは戦闘の成り行きを見守る。
この時点でルルーシュは勝利を確信していた。
スザクが日本解放戦線を口説き落とし、勝利は限りなく近付いた。そして背中を押すように藤堂というカードが親衛隊の足止めまでしてくれている。
よほどのイレギュラーでもない限り、この状況をひっくり返す事などできはしない。それこそスザクのような戦略を覆すレベルの人間でもいない限り。
しかしまだ経験に乏しいルルーシュは理解していなかった。
埼玉の時に経験していても、それが今回にも当てはまると分かっていない。
どんな戦場でも、全てが思い通りに行く事などあり得ないのだという事を。
成田戦開始。
次の一話で決着です。
次回:雪のような少女
出典
劇場三部作 興道
『8年前の日本への出立時、ルルーシュに声をかけようとしたユーフェミアとそれを止めたコーネリア』