7月中に投稿予定と言いながらすっかり8月ですね。
今回はC.C.に厳しめの回となっておりますのでご注意ください。
「やっぱりC.C.は僕を撃てなかった! C.C.は僕が好きなんだよ! あはははははははははは!」
けじめをつけるためにマオを撃とうとし、逆に肩を撃たれたC.C.は銃を落として膝をつく。
そして求めていた相手を撃ったマオは、手を叩きながら心の底から嬉しそうな笑い声を上げた。
「違う。私はお前を利用しただけだ!」
「何言ってんの? 噓はいけないよ嘘は」
「ぐうっ!」
肩を押さえながら否定の言葉を口にするC.C.だったが、それはマオの心には届かず、さらなる銃弾を四肢に撃ち込まれる。
不老不死とはいえ、痛みを感じる感覚は普通の人間と変わりない。
過去の経験からある程度の耐性はあるが、それでも慣れるようなものではなく、C.C.は痛みを堪え切れずに仰向けに倒れた。
「C.C.僕ね、オーストラリアに家を建てたんだ。白くて綺麗な、とても静かな家」
撃ち込まれた銃弾の痛みにC.C.が呻く様を見ながら、恍惚とした様子でマオは一人喋る。
「だけどオーストラリアに行くには飛行機に乗らなくちゃいけないんだ。でもC.C.を飛行機に持ち込むには、少し大きすぎる」
意味の分からない事を語り、物陰からマオは用意していたチェーンソーを取り出した。
「だからさ、コンパクトにしてあげる。これならあっという間だよ!」
標識をチェーンソーで一刀両断するマオ。
それを立つ力すらなく倒れたまま目にし、C.C.は声を絞り出す。
「罰のつもりか。私への」
契約を果たせない事が分かり、マオを捨てた自分。
その罰かと問えば、マオは振り向きながらいっそ穏やかな表情でそれを否定した。
「違うよ。違う違う違う違う違う、違うんだよ。これは感謝の気持ちだよ」
笑みまで浮かべながらそう語るマオに、C.C.はもう取り返しがつかないほどに彼の心が壊れてしまっているのだと理解する。
いままでも、こうした事は何度もあった。
数多の人間と契約を交わしてきたC.C.は、ギアスを与えた自分に対し恨みを向ける者も、それとは逆に狂ったように依存してくる者も多く見てきた。
そしてその度に、彼らの終わりも目にしてきた。
違うのは心が終わるのか、命が終わるのか、それだけでしかない。
だから今回もいままでと同じ。
自分は契約の代価に心を壊したマオの歪んだ愛情を一身に受ける事になる。
彼の命を奪う事もできなかった自分には、もはやそんな結末しか用意してやる事ができない。
「僕はどんな言葉でも足りないくらいC.C.に感謝してるんだ。こんなうるさいだけの世界で、君だけは僕を愛してくれた。傍にいてくれた。だから僕は――――チッ、いつもいつも良いところで、あいつ……!」
C.C.が覚悟を決めた時、陶酔しながら自らの思いを語っていたマオが唐突に表情を顰め舌打ちする。
あらぬ方向に睨みつけるマオにつられてC.C.もそちらを見るが、そこには誰もいない。
しかし少しすると、足音と共に一人の男が近付いてきた。
「何をしに来たのさルル。僕とC.C.の再会を邪魔してまでさ」
C.C.に持たせた携帯の発信器を頼りにここまで辿り着いたルルーシュは、四肢を撃たれて倒れているC.C.を一瞥すると、しかし彼女には声を掛ける事なく不機嫌を隠そうともしないマオの問いに答えた。
「安心しろ。C.C.を引き留めに来たわけじゃない。それはお前も分かっているだろう?」
己の心を読まれている事を前提にルルーシュは問い返す。
そして実際にその読みは当たっていた。
もしルルーシュがC.C.を連れ戻そうと少しでも考えていたなら、マオはルルーシュがこれほど近付く前に排除に動いていた。
「C.C.には助けられた借りがあるからな。最後にその礼をしに来ただけだ」
本心のままに語り、ルルーシュは真っ直ぐとマオを見た。
「マオ。少しだけC.C.と話す時間をくれないか? 5分だけでいい」
「なんで僕が君に時間をあげなくちゃいけないのさ。折角のC.C.との時間をさ!」
憎々しげにルルーシュを睨みつけるマオ。
元々の悪感情に加え、C.C.との再会を邪魔された事でマオのルルーシュへの心証は最悪に近い。そんなルルーシュの要望をマオが聞く理由はなかった。
しかし断られる事は織り込み済みだったのか、ルルーシュは怯む事なく続ける。
「これから先、お前達には語り合う時間がいくらでもあるはずだ。しかし俺にはこれが最後だ。もし時間を貰えないなら、俺とお前はここで争う事になるだろう。それはお前も本意ではないはずだ」
半ば脅しとも言える説得に、マオは忌々しいとばかりに表情を歪める。
もしルルーシュが暴力に訴えたとしても、それに対する備えくらいマオにもある。
心を読んだマオはルルーシュの武器が懐に隠している拳銃一丁しかない事を見抜いていた。
その程度の武装しかなく、しかも戦闘を得意としないルルーシュをこの場で殺すくらい赤子の手をひねる程度には容易い。
しかし同時に、争いになった場合ボタン一つで黒の騎士団と枢木スザクに連絡がいくようにルルーシュが準備している事も、マオはギアスによって読んでいた。
武装が拳銃だけとはいえ、時間稼ぎ用の道具をいくつも持ってきているルルーシュを殺そうとすれば、おそらく黒の騎士団か枢木、どちらかが駆けつけてくるまで持ちこたえられてしまう可能性は高い。そうなればルルーシュを殺す事はもちろん、C.C.を連れていく事すら難しくなってしまうかもしれなかった。
ルルーシュの事などどうでもいいが、やっと再会できたC.C.とまた引き離されるのだけは耐えがたい。
つまるところマオにとってこの状況は、ルルーシュへの悪感情とC.C.、どちらを優先するかというものだった。
「チッ、分かったよ。5分だけだからね!」
結果、マオは葛藤の末ルルーシュの言い分を飲む。
ルルーシュの言葉に嘘がない事は分かっている。
話さえできれば黒の騎士団も枢木も呼ぶつもりがないというなら、無理に事を荒立てるのはむしろマオにとって不利益にしかならない。
思惑に乗るのは癪だったが、そんなルルーシュの思考を読んだマオは5分の我慢を決める。
そして八つ当たりとばかりにチェーンソーで遊具を破壊するマオを尻目に、ルルーシュはC.C.へと向き直った。
「ルルーシュ……」
「無様だな、C.C.」
お礼をしにきたと言っていたのとは裏腹に、ルルーシュは半身を起こした状態で見上げてくるC.C.に開口一番容赦なく罵倒の言葉を浴びせた。
「これがお前の行動の結果か? だとすれば滑稽だ。願いを叶える事もできず、挙句に力を与えた相手に噛みつかれたというわけだ」
「……」
痛いところを突かれ、撃たれた傷口を押さえたままC.C.は反論できず黙り込んだ。
その様子を一切の同情も見せずルルーシュは冷たく見下ろす。
「お前は俺に甘いと言ったが、俺に言わせればお前の方がよほど甘い」
「なんだと?」
自身が告げた言葉をそのまま返され、C.C.が痛みではなく怒りから表情を歪める。
しかしルルーシュは意に介さず彼女の甘さを指摘した。
「なぜお前はマオと別れる時に始末をつけなかった? 力を奪うなり、命を奪うなり、どうとでもできたはずだ。それともあんな力に振り回されるマオが、まともに生きていけると本気で思っていたのか?」
「っ、それは……」
ルルーシュの問いに明確な答えを返す事ができずC.C.は言い淀む。
11年前に孤児のマオと契約しギアスを渡して以来、C.C.は別れるまでずっとその成長を見守ってきた。
まだ幼いマオが王の力を御する事ができるわけもなく、ギアスはマオの成長を著しく歪めた。年を重ねるほどその歪みは顕著なものとなり、気付いた時には取り返しがつかなくなっていた。
そして幼くしてギアスを暴走させたマオは、力に呑まれ、C.C.に依存し、結果的に村を一つ滅ぼした。
それを間近で見て、ギアスを制御できないマオにもはや契約を果たせないと悟ったC.C.は、彼の前から姿を消した。
命まで奪う必要はないと思った。
依存する自分さえいなくなれば、マオはまだまともに生活できるかもしれない。縋る相手がいるから、マオは余計に他者を拒絶し、世界を拒絶し、結果ギアスの効かない自分に執着してしまう。
だから一縷の希望を願ってC.C.はマオを遠ざけた。
そのはずだった。
「C.C.、お前は言っていたな。本当に失いたくないものは遠ざけておくものだと。だがそれは相手の事を考えていない一方的な独りよがりだ。たとえ大切に思って遠ざけたのだとしても、相手が納得していないのなら、それはただ放り出しただけに過ぎない」
しかしルルーシュはそんなC.C.の欺瞞を許さない。
C.C.が見て見ぬふりをした現実を暴き出し、それを無理やり直視させる。
「お前はただ自分で始末をつける事が怖かっただけだ。生きていける可能性を信じたといえば聞こえはいいが、そんなものは拾ってきた野良猫を世話がしきれず再び捨てるのと何も変わらない」
「っ……!」
自身の行いを無責任な子供と同じだと謗られ、C.C.の顔が朱に染まる。
銃で撃たれた傷の事も忘れ、沸き立つ感情を抑えきれずC.C.は身体を震わせながら鋭くルルーシュを睨みつける。
「お前が……それを言うのか。未だにナナリーを遠ざける事も、説得する事もできていない、お前が――!」
「ああ、自分の事を棚上げにしてあえて言おう。お前は間違っている。そして俺はもう、覚悟を決めた」
その視線を真っ向から見返し、怯む事なくルルーシュは告げる。
己の覚悟を。彼女が批難した弱さと向き合う意志を。
「一方的な願いを押しつけるのはやめだ。俺はブリタニアの全てを、俺の思いの全てを、今度こそナナリーに話す」
その宣言にC.C.が息を呑む。
それはどれだけルルーシュが追い詰められようが、決して侵そうとはしなかった聖域のはずだったから。
しかし本当はルルーシュも、C.C.に言われずとも分かっていた。
自分がどうして、ナナリーに全てを話す事ができなかったのか。
ゼロである事を打ち明け、なのにそこに至るまでの経緯や思いを語らず、ブリタニアの非道についても説明する事をしなかった。
ナナリーが自ら知りたいと願い出ても、まだ話すべき時ではないと後回しにし続けた。
それはなぜか。
口ではなんと言おうと、俺自身の覚悟ができていなかったからだ。
ナナリーにゼロとしての自分を理解してほしいと思いながら、同時に血が流れるような非情な行いを心優しい彼女に肯定してほしくなかったから。
誰よりも俺が、ナナリーだけには綺麗なままでいてほしかった。血に塗れた手段を認めてほしくなかった。
だから肝心な部分を話さず、限界まで自分がゼロである事も打ち明ける事はしなかった。ゼロという存在を、肯定も否定もしてほしくはなかったがために。
そんな矛盾の挙句、自分がゼロだと話した後もナナリーと向き合うどころか自分自身と向き合う事からも逃げて、結論を先延ばしにする理由ばかりを探し、C.C.の言う通りナナリーにも自分にも嘘をつき続けた。
それがナナリーのためですらない、自分勝手な願いだと分かっていながら。
――――だが、それももう終わりにしよう。
独りよがりの願望を押しつけた先にある答えの一つが、きっと目の前の光景なのだろうから。
「お前はどうする、C.C.」
己の覚悟を語り、ルルーシュはC.C.にも覚悟を問う。
大切なものと向き合う覚悟を。
「マオにも言った通り、俺はもうお前を引き留めるつもりはない。俺の正体や黒の騎士団の事を話さないと言うなら、どこへなりとも行くがいい」
「っ……」
いっそ薄情に聞こえるその言葉にC.C.は答えに詰まった。
だがそれこそが、ルルーシュがこの場に来た目的なのだと悟る。
本来引き留めるつもりもマオとやり合うつもりもないのなら、ルルーシュがわざわざ自身を恨むマオの前に姿を現す理由などない。むしろ身の安全を考えれば、それは最も避けるべき行為だろう。
しかしルルーシュは危険を冒してまでこの場へやって来た。
おそらくそれは、C.C.の答えを確かめるため。
自分の甘さを糾弾し、決断を促した相手がその行動の果てに何を選ぶのか、それを見届けに来たのだ。
「時間をくれ。ちゃんと話し合えばマオも――」
「分かってくれると? 自分の姿をよく見ろ、C.C.。そんなチャンスはとうの昔になくなっている。お前が一方的にマオのもとを去った、その時に」
情を捨てきれず話し合いでの解決を望むC.C.だったが、ルルーシュはそんな甘えを許さなかった。
話し合うというなら、それは彼女がマオを捨てる前にするべき事だった。自分の身勝手な都合で捨てておいて、都合が悪くなれば言葉で解決しようなどという我儘は、事ここに至ってはもう通用しない。
それが彼女の行動の結果なのだ。
「王の力は人を孤独にする。契約を持ち掛けるに際し、お前が俺に言った言葉だ。まさかこの結果を予想していなかったとは言わせない」
C.C.がかつて口にした言葉を以て、ルルーシュは逃げ道を塞ぐ。
いっそ冷酷なまでに彼女を追い詰め、決断を迫る。
「お前は責任を取るべきだ、C.C.。共にいるのか、訣別するのか、中途半端に放り出す事を守るなんて言葉で誤魔化すな。そんな自己満足の言い訳が通用するなら、こんな事態にはなっていない」
「――っ!」
かつての己の選択を全否定され、しかしそれに反論する言葉を持たず、C.C.は唇を噛む。
C.C.がマオに撃たれた事で一度は諦め、これが罰なのだと受け入れた結末を、ルルーシュは再度選ばせようとする。
状況に流された結果ではなく、あくまでも自分の意思で選ぶ事を、C.C.に強要する。
「5分だ! もう話は終わりだよ!」
C.C.が何も答えられないままでいると、苛立ち混じりにマオが時間切れを知らせる。
それに食い下がる事なく、ルルーシュは彼女の金色の瞳を見つめ告げる。
「C.C.、ここで見届けさせてもらうぞ。お前の為す――――決断を」
宣言した通り引き留める事などせず、ルルーシュは言うべき事は言ったとばかりに沈黙する。
自身の秘密が漏れるリスクすら容認し、C.C.の選択を尊重する意思を示す。
その分かりづらい信頼の裏返しに――おそらく本人は助けられた借りを返す程度にしか考えていないのだろうが――C.C.は震える手で落ちていた銃を拾い立ち上がった。
「マオ……」
「うん。C.C.。やっと僕と一緒に来てくれる決意が固まったんだね」
名前を呼ばれた事を都合良く解釈し、マオは微笑む。
その姿を映すC.C.の瞳には、一言では表しきれない感情の渦が溢れていた。
だがギアスに心を狂わされたマオは、彼女のそんな悲痛な思いには気付かない。
「大丈夫だよ、心配しないで。C.C.の事なら僕はなんだって分かるんだ。だから全部、僕に任せてくれればいいんだよ」
「マオ……!」
唇を噛んだC.C.の口から、血が流れる。
そして手に持っていた拳銃をマオへと向けた。
「どうしたのさ、また銃なんて持って。C.C.は僕を撃てないんだよ! C.C.は僕の事が大好きなんだから!」
銃口を向けられなお、マオは態度を変えず両手を広げながら笑顔で叫ぶ。
自分への愛が絶対不変のものだと信じて疑わない。
子供の頃から変わる事のないその様にC.C.は表情を歪め、ルルーシュですら初めて見る――泣きそうな顔で告げた。
「マオ…………好きだったよ」
「っ!」
銃声が響き渡った。
わずかばかりの静寂。
直後、絶叫が響き渡る。
「あああああああぁぁぁぁあああああぁぁぁああ! 痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」
肩を銃弾で撃ち抜かれたマオが、尻もちをついて泣き叫ぶ。
痛みにのたうち回り、混乱した瞳でC.C.を睨みつけるように見上げる。
「なんで! なんでC.C.! どうして僕を撃てるのさ! 好きだって、僕の事を好きだって言ってくれたのに!」
痛みと驚愕で錯乱するマオ。
彼の姿を見下ろすC.C.は、憐れむように少しだけ悲しそうな顔をしていた。
「すまないマオ。先に行って待っていろ。Cの世界で」
再び銃口をマオへと向けるC.C.。
先程の射撃は肩の傷が影響して狙いが逸れてしまったが、今度は外すつもりはない。
確実に息の根を止めるため、C.C.は両手で銃を構えマオの左胸に狙いを定める。
「う、うわあああぁぁぁぁぁぁあああぁ!」
C.C.の態度にようやく彼女が本気だという事を悟ったのか、マオは悲鳴を上げて右手を懐に突っ込んだ。
その瞬間、クロヴィスランドのあちこちから一斉に煙が噴き出す。
「なっ、煙幕……!」
「あああぁぁあああぁぁああああぁぁあぁぁああああああ!」
突然の事態に動揺した事で、煙に包まれたマオをC.C.は見失う。
煙の中から聞こえる叫び声だけでは照準をつける事はできず、声が次第に遠ざかっていくのに気付いたC.C.は無駄だと分かっていながら叫んだ。
「待て! マオ」
当然そんな制止にマオは従わない。
C.C.は遠ざかる足音と叫び声を頼りに自身の怪我にも構わず後を追おうとするが、その前に後ろから肩を掴まれた。
「やめておけ。この煙の中で追うのは危険過ぎる」
「ルルーシュ……」
いつの間にか近付いてきていたルルーシュの言葉に、C.C.は迷うように煙の向こうへと視線を投げる。
煙幕という逃走手段を用意していた以上、追った先にもトラップがないとは言い切れない。大して装備も準備していない現状、ルルーシュの言う通り追跡はリスクが大き過ぎた。
「あの様ではもうまともに潜伏する事もできまい。黒の騎士団に行方を追わせれば、簡単に捕まえられるはずだ」
追うよりも後から捜す方がリスクが少ないと、あくまで冷静にルルーシュはC.C.に自重を促す。
それでもまだ迷う様子を見せるC.C.だったが、しばらく煙の向こうを見つめた後、深いため息をついて頷いた。
「……分かった。後の事はお前に任せよう」
C.C.が納得した様子を見せると、ルルーシュは少し離れ早速どこかに電話を掛け始める。
おそらくは話していた通り黒の騎士団にマオの行方を捜させるのだろう。
電話はすぐに終わり、戻ってくるルルーシュにC.C.は眉を下げて――彼女にしては珍しく殊勝な態度で口を開いた。
「……すまないルルーシュ、最後まで私は――」
「C.C.、お前の決断は俺が見届けた」
けじめをつける事もできず、ルルーシュにとっての脅威も見逃す結果となってしまったC.C.が謝罪の言葉を口にしようとするが、それを遮ってルルーシュは彼女の行いを肯定する。
見上げてくるC.C.の視線を真っ直ぐ見返しながら、ルルーシュは言葉少なに告げる。
「だから今度は、お前が見届けてくれ。俺の為すべき――――決断を」
紫紺の瞳が金色の眼を射抜く。
わずかばかりの静寂が二人の間を流れる。
マオの叫びも煙幕も立ち消えたクロヴィスランドで二人は見つめ合い、やがてゆっくりとC.C.は頷いた。
「ああ、分かった。ならばしかと見届けさせてもらおう。たとえその先に、どんな結末が待っていようと、な」
薄く笑い、C.C.はルルーシュと約束を交わす。
契約ではない、単なる口約束をするのなど何年振りかと、そんな事を考えながら。
クロヴィスランドからほど近い、いまは廃棄された倉庫。
薄闇に支配されるそこで、マオは四肢を地面につき打ちひしがれていた。
「うそ…………嘘だ……! C.C.が僕の事を撃つわけが、捨てるわけが……!」
銃弾を受けた肩を押さえ、痛みに耐えながら迷子の子供のように震えるマオ。
しかし突如として顔を上げると、その顔を怒りに歪ませた。
「ルルーシュ! あいつが余計な事をC.C.に言ったから! ――――でも、でもルルーシュの心はそんな事少しも……じゃあなんで? なんでなのC.C.!」
無理矢理にでも怒りの矛先を見つけようとするマオだったが、ギアスによって心の内を読んでいた事で、ルルーシュには自分を騙す意図もC.C.を引き留める目算もなかった事をマオは知ってしまっていた。
故に全ての責任をルルーシュに押しつける事もできず、マオは自分の信じるC.C.と現実とのギャップに苦しむ。
「違う! C.C.が僕を嫌いになるはずがない! C.C.は僕が大好きなんだ! 僕にはC.C.だけで、C.C.には僕だけなんだ! そうでしょC.C.! そうなんだよね、C.C.!」
C.C.が自分を撃った事実を受け入れられず、マオは天を仰ぎながら縋るように問い掛ける。
そうでなければならない、それしかあり得ないのだと、必死に自分に言い聞かせるようにマオは叫んだ。
だが何を叫ぼうが肩の傷は癒えず、目の前にC.C.が現れてくれる事もない。
その現実がマオの狂った心を壊していく。
C.C.の心を読みたいと、それができないからC.C.を求めたはずのマオは、拒絶された事で初めてそんな真逆の願いを抱いた。
「ふぅん。C.C.の様子を見に来ただけだったんだけど、これは思わぬ拾い物だな」
「だ、誰だ!」
唐突に背中から聞こえた子供の声。
予想もしていなかった闖入者の存在に、マオは誰何しながら振り返る。
その声にはわずかな恐怖が滲んでいた。
ギアスを授かって以来、自分に気付かれず話し掛けてくる人など一人しかいなかったために。
「やぁ、初めましてだね。僕の名前はV.V.。C.C.の知り合いだよ」
そこにいたのは、まだ幼い子供だった。
薄い金髪を地面すれすれまで長く伸ばした、ルルーシュと同じ紫色の瞳を宿した少年。
「C.C.の知り合い……? いや、そんな事よりどうして、なんでお前の声は聞こえないんだよ!」
語られた素性に一瞬だけ気を取られるも、すぐに普段は嫌でも聞こえてくるはずの心の声が何も聞こえない事実にマオは混乱して叫ぶ。
しかしV.V.は肩を竦めてその問いを一蹴した。
「そんな事どうでもいいでしょ。それよりいま大事なのはさ、君がC.C.に捨てられたって事じゃないの?」
どこか面白がるように、V.V.はマオが最も触れられたくない事柄を口にする。
見知らぬ他人から改めて現実を突きつけられ、マオは激高して言い返した。
「ふざけるな! 僕は捨てられてなんかない! C.C.はただ…………そう、ちょっと混乱してただけなんだ! 冷静になれば僕の事を受け入れてくれる! そうだよ。C.C.が僕の事を捨てるわけがないんだ! だって、だってそんなの――」
「分からないよ。だってC.C.の心は君にだって読めないんでしょ」
「――っ!」
現実逃避しようとするマオの願望とも言える心からの叫びを、V.V.はたった一言で否定した。
そしてマオは、それに反論できるだけの言葉を持っていなかった。
ついさっき、マオ自身がそれを求めたばかりなのだから。
動揺し、目に涙すら浮かべるマオに、V.V.は毒を差し込むように甘く囁く。
「でもさ、一緒になっちゃえばそんな事は関係ないと思わない?」
「は、はぁ? なんだよ……一緒になるって、どういう……」
言われた事の意味が分からず混乱するマオ。
V.V.はそんなマオに落ち着く暇を与えず、口元に笑みを浮かべながら語り始める。
「僕はね、思うんだ。この世界はとても醜い。みんながみんな、自分の事しか考えないから争いが生まれて、人を騙して、こんなにも世界は醜悪な姿をしているんだって」
突然関係ない話をし始めたV.V.の言葉を、マオは呆然と聞いていた。聞くしかなかった。
V.V.の心の内を読めないマオには、誰かを相手にする時いつも持っていた優位性から齎される安心感がない。それは普通なら当たり前な事だったが、幼い頃よりずっとギアスの力が当たり前になっていたマオにとって、C.C.という例外を除いて相手が何を考えているのか分からないというのは恐怖以外の何物でもなかった。
「でももし、みんなが一つになったら? 誰もが自分の事を考えるなら、世界のみんなが自分になれば人は争う事もできなくなる。嘘だってつく必要はなくなる。だって争う相手も騙す人も、自分以外にいないんだから」
「な、何言ってるんだよ、お前……!」
好き勝手に訳の分からない事を語るV.V.にマオは怯えながら問う。
それに対するV.V.の答えは、やはりマオには理解できないものだった。
「僕の計画が叶えば、この地球上に人間はたった一人になる。世界中の人が一つになって、そこに垣根はなくなるんだ」
そしてV.V.はマオにとって決して聞き逃せない一言を口にした。
「もちろん、C.C.とも一つになれるよ」
「!」
マオの目の色が劇的に変わったのを見て取り、V.V.は口の両端を吊り上げて怪しく笑む。
畳み掛けるように彼が望んでいるであろう言葉を口にする。
「もし君がC.C.に捨てられたんだとしても、そんな事に意味はなくなるんだ。だって君はC.C.で、C.C.は君になるんだから」
「僕が、C.C.に……」
未だ計画の実態は理解できないながら、その計画が齎す結果を繰り返し、意識せずマオは口元に笑みを浮かべる。
その心が揺れ動く様を間近で見物し、自分の思うように事が運んでいる事実にV.V.もまた、笑みを深める。
甘い糸を垂らされ、自分に都合の良い事実しか見えなくなったマオは気付かない。嘘をつく必要がなくなる世界、他人と一つになる世界、それはマオがギアスを得てからずっと嫌悪し拒絶していた、人の心が聞こえる世界と瓜二つである事に。
「どうだい? もし良かったら、協力してくれないかな? そうすれば大好きなC.C.とも一つになれるよ」
そう言ってV.V.はマオに手を差しのべた。
ギアスでずっと他人の考えを
「これは契約さ。君の願いを叶えるために、僕の願いを叶えるのに力を貸してほしい」
マオは目の前に差し出される小さな手を見た。
C.C.に拒絶されて心が壊れかかっていたマオの目には、それは自らを助け、導いてくれる救済の手のように見えた。
だからマオは迷わなかった。
V.V.の白い手を、かつて行き倒れた自分にC.C.が差しのべてくれた手と重ね合わせ、マオはあの時と同じく――――その手を取った。
というわけで、クロヴィスに続いてマオも生存ルートに入りました。
今回の話で第二部の始まりから続いたマオの話は一旦終わりです。
次話からはまた新しい話が始まります。
区切りが良いので今更ですが少し設定についてお話しさせていただくと、この作品は小説や総集編映画の設定を出したりはしていますが、根本的には1話の『スザクが親衛隊に撃たれなかった』というところからルート分岐しています。なので原作とは違う展開や動きをしているキャラクターは、そうは見えなかったとしてもそこが起点となっています。
ルルーシュやスザクは分かりやすいと思いますが、そのルルーシュとスザクの行動が変化した事で、枝分かれするような形で彼らに関わるキャラクターの行動も変化しているといった形ですね。
今回のV.V.の例を挙げると、スザクが撃たれなかった事でルルーシュはC.C.と契約せず、C.C.の行動が原作よりも不鮮明だったためV.V.が直接様子を見に来た、という具合です。
もちろん最初に話した通り、小説や総集編映画の設定を加えたりもしているので、100%そこからの分岐で行動が変化しているとは言えませんが、大本は間違いなく『スザクが親衛隊に撃たれなかった』から未来が変わり、キャラクターの行動も変化した、という形になっております。
そんなわけでいつも通り予告です。
次回:いなくなった者の行方
お楽しみに。
出典
小説2巻
『子供の頃ギアスで村を滅ぼしたマオ』