総合評価が1万を超えた記念に急遽投稿です。
多くの感想もいただけて本当に嬉しいです。
この記念のタイミングで物語の転機となる今話を投稿できた幸運に感謝を。
「申し訳ございませんが、生徒のプライバシーに関わる情報はたとえ軍の方であれお話しする事はできません」
アッシュフォード学園の理事長、ルーベン・アッシュフォードは今日何度目かも分からない問答の末、最初とまったく変わらない答えを口にした。
それに対しジェレミアは、納得できないとばかりにしつこく食い下がる。
「アッシュフォード卿。お亡くなりになられていたはずのルルーシュ様とナナリー様が、身分を隠しこの学園におられる事は分かっている。同時に、貴公がお二人を人知れず匿われている事情の一部も理解しているつもりだ」
「……」
「しかしそれを承知でどうか、お二人へ取り次ぎ願えないだろうか。我ら純血派は須らく皇族に忠義を誓う存在。ルルーシュ様とナナリー様を害する意思など欠片も持ち合わせてはいない」
普段の尊大な態度からは考えられない誠実な姿勢で皇族に対する忠義を熱く語るジェレミア。
それを斜め後ろで見ながら、ヴィレッタはこっそりと息を吐き出した。
この学園に来る前、移動中の車の中でジェレミアが語ったルルーシュ・ランペルージの正体――それは極東事変で死んだはずの皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下であるという衝撃のものだった。
それを聞いた自分もキューエルも耳を疑い、勘違いではないかと問うた。
しかしマリアンヌ様のご子息の尊顔を間違えるわけがないとジェレミアは断言し、またアッシュフォードが元々ヴィ家の後見をしていた事、そして戦争後すぐにエリア11に来ている事を根拠とされれば、一概に否定する事は難しくなる。
そしてヴィレッタが調べたナナリー・ランペルージの身体的障害が、マリアンヌ后妃の暗殺事件の際にナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女が負った障害と一致しているのが決定打となった。
名前、場所、障害、経歴、ここまでの状況証拠が揃えば単なる偶然で片付けるよりも、アッシュフォードが死んだはずの皇族を誰にも知らせず隠して育てていたと考える方がよほど筋が通る。
そしてこの話を聞いたヴィレッタは、表に出す事はしなかったが内心で歓喜に打ち震えた。
もし本当にルルーシュ・ランペルージがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであったなら、死んでいたはずの皇族を見つけ出し保護したという功績は、テロリストの捕縛などよりもずっと価値のある手柄となるからだ。
当のルルーシュ皇子は既に学園を出て姿を消しているようだが、障害を抱えた妹を連れて隠れる学生など、単独捜査でないのなら見つけるのは容易い。そして純血派の手が介入したとしても、ルルーシュ皇子生存の手掛かりを見つけた功績は自分の手に残る。上官のジェレミアは公明正大な男であるため、部下の功績を横取りするような卑怯な真似など間違ってもしないだろう。
事ここに至っては、いままで血眼で追っていた枢木スザクなど、もはや捨て置いてなんら問題ない小物だった。ルルーシュ皇子さえ見つける事ができれば、ヴィレッタの昇進、ひいては爵位など約束されたようなものだ。
そのためには何があっても、ルルーシュ皇子が暮らしていたこのアッシュフォード学園で手掛かりを見つけなければならないのだが――
「当学園は在籍する生徒の名前を公表しておりません。あなた方がどのような手段でお調べになったかは存じませんが、学園としての回答は変わる事はありません。当学園にそのような名前の生徒は在籍していないのです」
取りつく島もないアッシュフォード当主の返答に、わずかにヴィレッタの眉の形が歪む。
ただの学園の理事なら軍からの要請とあらば一も二もなく情報を公開するのだが、さすがは7年もの間ブリタニア本国を謀り皇族を隠してきただけあって、ルーベン・アッシュフォードは十把一絡げの学園の長や没落貴族とは違うらしい。
穏やかそうな印象とは異なり、令状のないこちらの要請を毅然とした態度で跳ね除けてくる。
「いつまでもそのような戯言が通用すると思っているのか」
押し問答に腹を据えかねたのか、ヴィレッタとはジェレミアを挟んで逆の位置にいたキューエルが、怒りの感情を滲ませながら話に割って入った。
「この学園にヴィ家のお二人が在学していた事はとっくに調べがついているのだ。隠し立てするのは、そちらのためにもならんぞ」
高圧的に、脅迫めいた言葉をぶつけるキューエル。
それにルーベンが答える前に、上官であるジェレミアがキューエルの態度を諫める。
「よさんかキューエル。失礼であろう」
「何を甘い事を言っているのだジェレミア。この男はよりにもよって貴き皇室の方を本国から隠匿し、さらには死を偽った疑いがあるのだぞ! それがどれだけ重たい罪か、分からない貴様ではあるまい」
諫言するジェレミアにも噛みつき、キューエルは憤りを露わにする。
出世のために純血派に身を置いているヴィレッタと違い、キューエルは根っからの皇族主義の軍人だ。
そのため皇族の死を偽造し、あまつさえ存在を隠匿していたアッシュフォードが許せないのだろう。
「キューエル卿」
感情を剝き出しにするキューエルの名前を、低く、厳かな声でジェレミアは呼ぶ。
それは思わず姿勢を正してしまうような威圧感のある声だった。
「今回我々は罪人の捕縛に来たわけでも、容疑者の尋問に来たわけでもない。ルルーシュ様とナナリー様のご生存を確かめに来たのだ。そしてもしお二人が存命であったなら、アッシュフォード卿はルルーシュ様とナナリー様がお亡くなりになられていると信じられてきた7年間、ずっと貴きブリタニアの血統を守り続けて来られたのだ。無礼を働く事は許さん」
「っ、だが……!」
言い返そうとするキューエルの反論を、ジェレミアは一睨みで黙らせる。
そこには純血派を率いるジェレミアと、あくまでもナンバー2であるキューエルの立場の違いが明確に表れていた。
現状アッシュフォードがどのような理由で皇族を匿っていたのかは分からない。そのためジェレミアとキューエルのどちらが正しいかなど現時点で決められるわけもなく、明確な判断基準がない以上、キューエルは上官であるジェレミアの言に従うしかない。
ヴィレッタ個人の意見としては、どちらかといえばジェレミアよりもキューエルの考えに賛成だった。それは考え方の正否の問題ではなく、単純な実利の問題である。このままジェレミアの方針通りに穏当に頼み込んでいても、アッシュフォードが情報を開示してくるとは思えない。それはルルーシュ皇子の捜索がより困難になる事を意味しており、手柄が欲しいヴィレッタがたとえ少しくらい強引な方法であっても事態を打開したいと考えるのは自然な思考だった。
(……ん? あれは――)
雲行きの怪しさにヴィレッタが内心嘆息して視線を窓の外に移すと、そこには見覚えのある女子生徒の姿があった。
(確か……ルルーシュ皇子の顔写真を持っていた学生――フェネットと言ったか)
印象的なオレンジ色の髪をした女子生徒は、どうやらどこかへ出掛けるつもりなのか学園の門の方へと向かっている。
(正体を隠していたルルーシュ皇子が学友に何かを話していたとは思えないが、ここで無為な説得に時間を使うよりは有意義な情報を引き出せるかもしれないな)
そう考えたヴィレッタはソファに座るジェレミアの耳に顔を近付けると、後ろから声を掛ける。
「ジェレミア卿。至急調べたい事ができましたので、席を外させていただいてもよろしいでしょうか?」
「なに? それはいまこの場よりも優先すべき事なのか?」
言外に皇族の捜索よりも重要な事などあるわけがないと、圧を掛けてくるジェレミア。
しかしこの場はジェレミアとキューエルさえいれば自分は必要なく、ヴィレッタがやろうとしている事も皇族の捜索の一環である。優先順位としてはさして変わりがない。
「この場の重要性は理解しております。ですがどうか、ご許可をいただきたく」
食い下がるヴィレッタにジェレミアは考え込むように目を細める。
元々この件はヴィレッタが調べていた一件であり、ヴィ家の二人の生存を知ってすぐに学園に来たため、ジェレミアも報告書には全て目を通せているわけではない。そのため自分が気付いていない何かをヴィレッタは見つけたのかもしれないと、ジェレミアは離席を願う部下の意図をそう読んだ。
「よかろう――アッシュフォード卿、申し訳ないが部下のヴィレッタは軍務があるため、しばし席を外させてもらってもいいだろうか?」
ジェレミアがヴィレッタの頼みを承諾し申し出ると、ルーベンは人好きのする笑みでおおらかに頷いた。
「もちろんでございます。出口まで案内をさせましょう――ミレイ」
「はい。お爺様」
名前を呼ばれて返事をしたのは、ジェレミア達が応接室に入ってから一言も発せずルーベンの後ろに控えていた金髪の女学生だった。
最初に紹介があったがアッシュフォードの孫娘であり学園の現生徒会長らしい。
「どうぞ、こちらです」
「感謝する」
わざわざ案内をつける意図は、こちらが余計な事をしないようにするための監視のためだろう。
こちらの目的を考えれば当然の措置であり、ヴィレッタにしても許可もなく学園の中を調べようとしていたわけでもないので、大人しくミレイと呼ばれた学生についていく。
廊下を歩いている際に窓から見えたオレンジ色の髪をした少女は、やはり学園から出てどこかへ向かおうとしているようだった。このまま真っ直ぐ出口に向かえば、すぐに追いつく事は可能だろう。
(せめてルルーシュ皇子が学園を出た理由くらいは知っておいてほしいところだが、どうやって話を聞き出したものか……)
軍人が一学生の情報を知りたがるなど普通ではない。
適当な理由を頭の中で考えながら、ヴィレッタは同時に野心の炎を胸の中で焚きつけた。
そして先を歩くミレイは、終ぞそれに気付く事はなかった。
「アッシュフォード卿、先程私は貴公の事情の一部を理解しているつもりだと言ったが、あれは何もその場限りの出任せではない」
ヴィレッタが去った後も、ジェレミアとルーベンによる問答は続いていた。
「もし仮にルルーシュ様とナナリー様がブリタニアへ戻る事を望まれていないのなら、私はお二人を無理に連れ戻す事も、本国に生存を報告するつもりもない」
「なっ……ジェレミア!? 貴様何を言っている!」
思わぬジェレミアの発言に、皇族を保護するためにこの学園に来たのだと考えていたキューエルが目を剥きながら叫ぶ。
ルーベンもジェレミアの考えは予想外だったのか、ここにきて初めて表情が変化し、わずかに目を見開いて驚いている。
「キューエルよ、我ら純血派はなんのために存在している?」
向けられた質問には答えず、ジェレミアは問う。
キューエルはそれに少しも考え込む事なく即答した。
「当然、貴き皇室のためだ。ブリタニアの血を継ぐ皇族の方に尽くす事こそが、我らの使命!」
誇りを胸に堂々と宣言するキューエル。
ジェレミアも首肯し合意を示す。
「ならば良く考えよ。なぜルルーシュ様とナナリー様は戦争が終わってから7年もの間、ブリタニアに戻る事をせずこの学園で過ごされていた?」
「それは……アッシュフォードがルルーシュ様を囲い込んでいたためだろう」
没落した権威を取り戻すために、アッシュフォードが皇族である二人の意思に反して閉じ込めていたのだと推測を語るキューエル。
しかしジェレミアは首を振ってその意見を否定した。
「違うな。もしお二人の意思を蔑ろにして囲っていたのなら、比較的自由な学生という身分でいられるはずがない。屋敷にでも閉じ込めて、表に出さないように細心の注意を払うはずだ」
ここに来るまでに軽くではあるがヴィレッタの報告書に目を通していたジェレミアは、ルルーシュとナナリーが学生として、少なくとも表面上は普通に過ごしていた事を知っていた。そしてそのような状況であったなら、アッシュフォードの庇護を無視して政庁に駆け込む事は可能だったはずだ。
「おそらくではあるがルルーシュ様とナナリー様がブリタニアに戻られなかったのは、アッシュフォードの意向ではなくお二人のご意思だ。もしかしたら極東事変における死亡の報告ですら、ルルーシュ様のご指示だったのかもしれん」
「バカな! なぜ皇子であらせられるルルーシュ殿下がそのような事をなさるのだ!」
「ルルーシュ様とナナリー様の境遇はここに来る前に話しただろう。人質としてこの地に送り出されたお二人が本国に不信感を持っていたとしても、それは致し方ない事だとは思わんか?」
「それは……」
皇帝陛下のご意思を否定するわけではないが、まだ10にもなっていない子供が人質として敵国に送られ、しかも連れ戻される事もなく宣戦布告をされたのだ。捨てられたと思い込み、帰りたくないと考えても不思議ではない。
「もし生存を隠されたのがルルーシュ様のご意思であるなら、政庁へお連れするのは殿下の意に沿わぬ可能性が高い。それともキューエル、貴公は殿下のご意思を無視してでも本国へ連れ戻すべきだと主張するか?」
「っ、そうは言わん! だが……しかし――!」
反射的にジェレミアの言葉を否定し、しかし納得できないとばかりにキューエルは表情を歪める。
皇室を至上とする純血派の人間にとって、皇族の意思は絶対だ。それでも崇めるべき皇族が死んだとされ、不遇な境遇に身を窶しているという状況は到底容認できるものではない。
「ジェレミア卿。連れ戻す気がないというなら、あなたはどうしてこの学園にいらっしゃったのです?」
黙って純血派の二人の話を聞いていたルーベンが、おもむろに問うてくる。
これまですげない返答を繰り返すだけだったアッシュフォードの態度の変化を怪訝に思いながらも、ジェレミアは迷う事なく答えた。
「無論。ルルーシュ様とナナリー様をお守りするために。いかに亡くなられた事になっているとはいえ、お二人は貴き皇族。いまのエリア11は情勢が不安定な上、ゼロなどというテロリストも台頭してきている。もし彼の男にルルーシュ様とナナリー様の事が知られれば、その貴き身が危険に晒されるのは必定。ならばお傍に侍り護衛する者が必要だ。その役目を是非我ら純血派に任せていただきたいと、私はルルーシュ様とナナリー様にそう願い出るつもりでいる」
この学園に来た目的を胸を張って告げるジェレミア。
その答えに「ふむ」と口持ちに手を当て考え込んだかと思うと、ルーベンは続けて問うた。
「もし仮に、本当にこの学園にルルーシュ殿下とナナリー殿下がいらっしゃったとして、あなたのその申し出を受ける事になれば結局は軍にお二人の生存が知られてしまうのでは? あなた方純血派は軍の組織、理由を説明せずに職務を離れる事はできないでしょう。ジェレミア卿のご想像が正しければ、それはお二人のご意思に背く事になると思いますが?」
あくまで二人はここにはいないという前提の下で、その実現性をルーベンは問う。
都合の良い事を言っているがなし崩し的に二人を無理やり連れ戻すつもりなのではないかと、隠された真意を推し量ろうとする老獪さがその質問からは窺えた。
しかしジェレミアはこの場の誰も想像していなかった答えで以てそれに即答した。
「その時は軍を辞めてでもお二人をお守りしよう」
「なっ……本気かジェレミア!?」
驚愕したキューエルが大声でジェレミアの名を呼ぶ。
ルーベンも信じられないものを見るようにその目を丸くした。
そんな二人の視線を受け止めながら、ジェレミアはこれまでと一切変わらない堂々とした態度で己の決意を語る。
「初めからその覚悟で私はこの場にいる。かつて果たせなかった忠義を貫くためなら、私には軍人としての地位も爵位も必要ない。全てを捨て、マリアンヌ様のご子息であるルルーシュ様とナナリー様のために、このジェレミア・ゴットバルトの全てを捧げよう」
一欠けらの私心もなく、これまで築き上げてきたものを忠節のための犠牲にする事を厭わないとジェレミアは宣言する。
そのあまりに毅然とした姿は、嘘や詭弁を語っていたのではあり得ない誇りに満ちていた。
「……なるほど。私はあなたという人物を見誤っていたようです」
ルーベンはそんなジェレミアの忠義を認め、静かに頷いた。
「ジェレミア卿、あなたは私と同じ忠義を抱く同志のようだ。あなたのような方がまだ軍の中におられた事を、とても嬉しく思います」
これまでの態度を改め、尊敬と友好を込めてルーベンは穏やかに微笑む。
ジェレミアもまた、大きく頷き笑みを返した。
「理解してくれたようで何よりだ。ならばどうかお二人にお取り次ぎを……」
「申し訳ございませんが、それは致しかねます」
このまますんなり話が進むかに思えたのも束の間、ジェレミアの要請を食い気味にルーベンは断った。
ジェレミアの顔から笑みが消え、その眉間に皺が寄る。
「どういう事か、アッシュフォード卿」
「先程も述べた通りです。当学園にそのような生徒はもはやおりません。お取り次ぎしようにも、私にはその手段がないのです」
「貴様っ、まだそのような戯言を……!」
「待つのだ、キューエル卿」
ルーベンの回答に噛みつこうとしたキューエルを、片手を上げてジェレミアが制止する。
鋭くした眼差しでルーベンを見つめると、彼もまたジェレミアの視線を真っ向から見返してきた。
「お二人はもうこの学園にはいないと言われたか?」
「ええ、その通りです」
「取り次いでいただく事もできないと?」
「申し訳ございませんが、私にはできかねます」
「――なるほど。理解した」
簡単な問答を終え、それに深く頷いたジェレミアはゆっくりと立ち上がった。
「帰るぞ。キューエル」
「なに? どういう事だジェレミア!」
「話は後だ。この場での用はもう済んだ」
突然手の平を返すようなジェレミアの態度にキューエルは目を剥くが、ジェレミアはそれを相手にしなかった。
「それではアッシュフォード卿、本日はこれにて失礼する」
「はい。では出口までご案内しましょう」
キューエルは納得できないとばかりにジェレミアを睨んでいたが、軍人として上官からの命に逆らう事は出来ない。
大人しくルーベンの案内で学園を出て、軍の宿舎へ向かう車に乗り込むまで待って、ようやくキューエルは胸に抑え込んだ不満を爆発させた。
「なんのつもりだジェレミア! なぜあそこで引き下がった! ともすれば貴き皇室のお方がすぐ近くにおられたかもしれないというのに!」
烈火の如き怒りを露わにしてキューエルが問い詰める。
一歩間違えば胸倉でも掴みかねないほどの勢いだった。
「お二人はあの学園にはいらっしゃらない」
「なに?」
「気付かなかったかキューエル。最初と最後でアッシュフォード卿の物言いが変わっていた事に」
キューエルの怒りにも動じず、ジェレミアは冷静に先程の会談を振り返る。
「私がヴィ家への忠義を語った後、アッシュフォード卿は『そのような生徒はもはやおりません』と、そう言った。つまりそれは、ついこの間まではいたという意味だ」
「!」
ジェレミアがルーベンの微妙に変わった言い回しを指摘する。
そこでようやく捜していた二人につながる重要な証言があった事に気付き、キューエルは目を瞠る。
「報告を聞く限り、ヴィレッタはルルーシュ様とナナリー様が学園から姿を消した理由をアッシュフォード家が匿っているのだと推理していたようだが、おそらくお二人はアッシュフォードには何も打ち明けず身をくらませたのだろう。だからこそアッシュフォード卿も、いまのお二人の所在を知らず取り次ぎもできんのだ」
「……信用できるのか? アッシュフォードが貴様を騙すために適当な事を言った可能性もあるだろう」
「アッシュフォード卿は私の忠義を認めた。同じ方に忠誠を誓う身として、あの言葉に嘘はないと断言できる」
こちらを追い払うためにアッシュフォードが虚言を口にした可能性を疑うキューエルだったが、ジェレミアは真っ向からその疑心を否定した。
あの場でお互いの忠義を確信したジェレミアには、ルーベンがヴィ家の真の忠臣である事に疑いはなかった。
キューエルとしては信用性が低い話であったが、いまのジェレミアとその事に論じても始まらないと別の懸念を口にする。
「仮にアッシュフォードの言葉を信用するとしても、なぜルルーシュ様とナナリー様はアッシュフォードにも秘密で身を隠されたのだ? いままでずっと学園におられたのだろう?」
「それは私にも分からんが、やはり黒の騎士団の台頭が原因ではないかと考えている。アッシュフォードも気をつけてはいただろうが、テロリストが相手では警備が万全とはいかん。身を守るために誰にも知られていない場所へとお隠れになったのだろう」
「なるほど。確かに筋は通るな……」
納得したようにキューエルは頷くが、その表情は優れない。いまの推測が正しければ、二人への手掛かりが完全になくなった事を意味するからだ。唯一隠れ場所を知っていると思われていたアッシュフォードも二人の所在を知らないとなると、捜索は困難を極めるだろう。
キューエルのそんな懸念を読み取り、ジェレミアは先の会談の中で気付いたもう一つの推測を口にする。
「気になるのは、アッシュフォード卿がお二人に取り次いでほしいと願い出た私に対し、自分にはできかねると答えた点だ。穿った見方だが、お二人に取り次げる者が他にいると受け取る事もできる」
「そうか! つまりアッシュフォード以外にも協力者がいるのだな!?」
「あくまでも可能性ではあるがな。もしかしたらアッシュフォード卿の息子夫婦や、学園の生徒にお二人と連絡を取れる者がいるのかもしれん」
確証はないとしながら、ジェレミアは口元に手を当てながらそう語った。
キューエルはその推測に表情を明るくしたが、状況はそこまで良いとは言えない。
もしジェレミアの考えが正しかったとして、アッシュフォードがそれをこちらに告げなかったのは、自分達純血派を完全には信じていないという証明でもあったからだ。
それでも最初の対応を考えれば相当な譲歩ではあるが。
「アッシュフォードにはこれからも秘密裏に連絡を取る事にしよう。ひとまず我らはルルーシュ様の所在を掴むため、ヴィレッタの報告書に目を通し捜索隊の編成を行う。当然、内密にな」
これ以上の推測は無意味だと判断し、これからの方針をジェレミアは告げる。
純血派の中でどれだけ情報を共有するべきかも徹底的に話し合う必要があるだろう。身内だからと無闇に話して、総督の耳にでも入れば目も当てられない。
「ところでキューエル卿、貴公はルルーシュ様とナナリー様のために軍を辞める覚悟を持っているか?」
何気なく、しかし目は怖いほど真剣にジェレミアが問う。
副官の忠義のほどを試すその問いに、キューエルは鋭利に目を細めジェレミアを見返す。
そして次の瞬間、鼻で笑った。
「バカか貴様は。純血派のトップである我々がいきなり退軍すれば何かあると喧伝するようなものだろう。もしルルーシュ様とナナリー様がお前の言うように目立たぬため姿をくらませているなら、そんな事をすれば逆効果にしかならん」
「むっ……」
覚悟を問うたジェレミアに、キューエルは現実性の面からその問い自体の無意味さを指摘する。
おそらくはどうやっても二人の護衛をジェレミアが譲らない以上、キューエルがそんな状況に直面する可能性など極々わずかでしかない。
「それにまだルルーシュ様とナナリー様のご意思も確認してはいないのだ。全てが貴様の妄想である可能性も否定できん。そんな事を考えている暇があるなら、お二人の捜索に全力を注ぐべきであろう」
未だに二人が生存を隠したがっているというのは状況からの推測でしかなく、捕らぬ狸の皮算用をする暇などないと答えるキューエルに、ジェレミアはぐうの音も出ず片手で目を覆った。
「確かに、貴公の言う通りだ。些か気が急いていたようだな」
死んでいたと思っていた二人の生存を知り浮足立っている事を自覚し、ジェレミアは自省と共に深く息を吐き出した。
その様子を横目で見ながら、キューエルは己の上官を諫める。
「しっかりしろよジェレミア。ルルーシュ様とナナリー様を見つけるため、ここからは些細なミスも許されんぞ」
「無論だ。ようやく我らの忠義を果たす時がやって来たのだ。もう二度と、8年前のような悲劇は繰り返させん」
決意と共に言葉を吐き出し、ジェレミアは強く拳を握り締める。
「待っていてください。ルルーシュ様。ナナリー様。マリアンヌ様に代わり、このジェレミアがお二人を必ずお守り致します」
かつて守れなかった女性の子供、自身が忠義を果たすべきまだ見ぬ兄妹へと思いを馳せ、ジェレミアは忠節を新たにした。
「403号室……ここ、だよね?」
あるホテルの一室の前で、シャーリーは不安そうに呟いた。
覚悟してここまで来たはずなのに、いざとなると決心がつかず部屋のチャイムを押そうとして何度も躊躇い、もう5分は部屋の前でうろうろしていた。
「ルル……」
深呼吸をして部屋の中にいるであろう人の名前を呟き、ようやく意を決してシャーリーは部屋のチャイムを押した。
数秒待った後、開錠の音がしてゆっくりと扉が開く。
そしてそこにいるのは、ここ最近ずっとシャーリーの心を揺れ動かしていた想い人――ルルーシュ・ランペルージだった。
「良く来てくれた。中に入ってくれ」
招かれるままに入室すると、部屋の中には既に話すためのテーブルと椅子が用意されており、テーブルの上には紅茶が置かれていた。
促されるままに座り、それを確認するとルルーシュも対面に座る。
そして、沈黙が降りた。
だがそれは不思議な事に、シャーリーにとって気まずいものではなかった。
こうして向き合っても、前回話した時のような恐怖を感じる事もない。それどころか自分でも驚くくらいに心が静かだった。
怒りはある。悲しみもある。不信感も憎しみだってある。それでも振り回されるような激情にまでには至らない。
ひとまずこの前のような、話し合いというのも烏滸がましい感情任せの糾弾をしてしまう心配はなさそうだった。
「久しぶり……だね」
「そうか? いや、そうだな。およそ一週間ぶりになるか」
紅茶を一口飲んだシャーリーがおもむろに挨拶すると、ルルーシュは一度首をかしげたがすぐに頷く。
口にすれば短い期間かもしれないが、体感した時間はお互いに言葉通りのものではなかった。
「また、休学したって聞いたけど?」
最近ようやく生徒会に顔を出し始めたシャーリーが人伝で聞いた話を確認すると、わずかに眉間に皺を寄せてルルーシュは頷く。
「……ああ。本格的にゼロとして動くためには、いつまでも学生の身分でいるわけにはいかなかったからな」
半ば予想通りの答え。
しかしシャーリーにはその答えが酷く重たく響いた。
「じゃあ、もう戻ってくるつもりは……ないの?」
黒の騎士団の活動のために休学したというなら、ゼロとして学生の身分を捨ててでもブリタニアとの戦いに注力するつもりだろう。とても一時期の休学で済むとは思えない。
その推測を肯定するように、ルルーシュはゆっくりと目で頷く。
「少なくとも、ブリタニアとの戦いが終わるまでは戻れない。何も告げず学園を出た事は、すまないと思っている」
申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にし、しかしルルーシュはすぐに毅然とした表情に戻る。
その視線の強さに、思わずシャーリーは膝の上で拳を握った。
「だが約束は守る。全てが終われば、俺は必ず戻りこの命を君に差し出そう」
改めて己の覚悟を伝えるルルーシュ。
その声は力強く、とても嘘を言っているようには聞こえない。
「……」
しかしそんなルルーシュの宣言を聞いてもシャーリーは何も答えなかった。
肯定も否定もせず、俯いて黙り込み、葛藤するように何度も視線を上げて口を開いては、また顔を伏せ口を閉ざす。
ルルーシュにはテーブルの影になって見えてはいなかったが、膝の上で握り込む手は怯えるように震えていた。
「ルル、聞きたい事があるの」
ようやく声を絞り出す事に成功したシャーリーは、強張った声でそう言った。
「ルルは私達を騙してたって言ったよね。いまも、騙し続けてるって」
それは前回に話した時、ルルーシュが確かに口にした言葉。
名前も経歴も偽り、ゼロである事も隠していたルルーシュにとって、言い訳の余地すらない罪科。
「ああ」
「本当?」
ルルーシュが頷くと、間髪入れずにシャーリーはその真偽を問うた。
そんな言葉、信じていないとでも言わんばかりに。
「ずっと、考えてたんだ。ルルはああ言ったけど、それって本当だったのかなって。私達との時間って、全部嘘だったのかなって」
「……」
悲しそうに、つらそうに自らの思いを語るシャーリーに、ルルーシュは何も答えず黙り込む。
それでもシャーリーは言葉を止めなかった。
「ルルはゼロなんだから、そうなのかもしれないって思ったよ。お父さんだって殺したんだから、私達を騙すのくらい簡単だったのかもしれないって。でもそう思うのに、一緒にいた時の事を思い出したら、全然そんな風に思えなくなっちゃってさ……」
いつも天真爛漫な笑顔を見せる彼女が、まるで笑うのに失敗したかのような悲しそうな笑みを浮かべる。
だがその目は真っ直ぐとルルーシュを見て、一度も逸らす事はなかった。
「ねぇルル、もう一回聞くね。ルルは私達の事、どう思ってるの?」
大きい声ではなかった。力のある声でもなかった。
なのにその問いは、ルルーシュの心を大きく揺さぶった。
「あの時は、答えてくれなかったよね。言い訳はしないって。騙してるのは事実だって言って。でも私は聞きたいよ。言い訳でもなんでも、ルルが私達の事をどう思ってるのか」
泣き笑いのような表情を浮かべながら、シャーリーは訴える。
偽らない己の心のままに、ただ思いを言葉に乗せて。
「お願い、教えてルル。あなたの本当の気持ちを」
その願いを聞き、ルルーシュは静かに息を呑んだ。
前回とは違い、涙を流してるわけでも、感情を露わに叫んでいるわけでもないのに、その切実で真っ直ぐな思いは痛いほどに伝わってきた。
ただ純粋に自分を理解しようとする気持ちが、ルルーシュの心を捉えて逃がさない。
彼女の父親を奪ったのは自分だというのに。彼女にとって自分は、決して許しがたい相手のはずなのに。
「それを聞いて、君はどうする?」
本音を口に出そうとする心を抑えつけ、ルルーシュは質問には答えず逆に問いを投げ掛けた。
それが半ば誤魔化しているだけだと分かっていながら、それでも言わずにはいられなくて。
「例えば俺が君達を大切だと言えば、君はなんの疑いもなくそれを信じるのか? 君のお父さんを殺すつもりはなかった、事故だったと言えば、君は俺を許すのか?」
言いながら、そんなわけがないとルルーシュは心の中で自らの問いに吐き捨てるように答える。
事情があったから、そんなつもりではなかったからと、くだらない言い訳をして済むような問題ではない。
彼女は最も大切な家族を、理不尽に奪われているのだから。
「シャーリー。改めて言っておこう。俺はゼロだ。仮面で正体を隠し、ブリタニアに反旗を翻したテロリストなんだ」
お互いに認識している事実を、ルルーシュはもう一度はっきりと告げる。
「掲げる御旗は正義でも、俺はあらゆる汚い方法を使ってブリタニアと戦っている。人を騙し、脅し、扇動して、暴力で以て世界を壊そうとしている。そんな嘘と血で塗れた男の言葉を、君は信じる事ができるのか?」
露悪的などではない。歴然とした事実としてルルーシュは自らの行いを語る。
ゼロは正義の味方を標榜しているが、その行いは決して正義と讃えられるものではない。
卑劣な手段を使い、数多の血と死体の上に立ち、それを恥じる事なく身勝手な願いのためにさらなる死体を積み上げる。
そんな存在が、清廉潔白で正直な人間であるはずがない。
そんな男の言葉が、信用に値するわけがない。
言葉一つで人を殺し、そして人を死なせる。
そういう道を、ルルーシュは歩んでいるのだから。
「うん。信じられるよ」
なのにシャーリーは、迷う素振りすらなく頷いた。
「なぜ?」
「だってルルは、ナナちゃんのために戦ってるんだよね」
以前話した願いを根拠に自らの言葉を否定するシャーリー。
それに対しルルーシュは、冷酷なテロリストの仮面を被り最悪の可能性を示唆する事で反論した。
「それだって、嘘かもしれないぞ」
こんな事は自分から口にするべきではない。それが分かりながらも、ルルーシュは目の前の少女の人を信じる善性に物申さずにはいられなかった。
「君の糾弾を逃れるための口から出まかせ。戦いが終われば命を差し出すという約束すら嘘で、俺は都合の良い事だけ言って逃げようとしているだけかもしれない」
当然ルルーシュにそんなつもりはなかったが、彼女にはその真偽を推し量る方法はない。
ブリタニア側のゼロのイメージなら、その程度の事は平気でやってのけると思われていても不思議ではないはずだ。
それを本人である自分が示唆するというのは些か滑稽ではあるが、直接言わなければ彼女には理解してもらえないだろう。
だがしかし、そんなルルーシュの偽悪的な振舞いなど全てが無駄だった。
「それでも、信じるよ」
ルルーシュの言葉を全て受け入れ理解した上で、それでもシャーリーは意見を曲げなかった。
穏やかな表情で胸に拳を当てて、だがその瞳には悲しみと怒りを同居させたような複雑な色を浮かべながら、シャーリーは己の気持ちを吐露する。
「お父さんを殺した事、許したりなんてできない。ルルを憎い気持ちだって、消えたりしない。いまだって胸が苦しくて、気がついたら叫び出しちゃいそうなくらいルルの事が憎くて憎くて、たまらないの」
言葉通り暴れる感情を抑えつけているような震えた声で、目の前の相手への恨み言を口にするシャーリー。
それでもその瞳に瞋恚の炎は浮かばず、憎悪に囚われている様子もない。
どこまでも切実に、何かを求めるように、シャーリーはゼロではない――ルルーシュに自らの思いをぶつける。
「でも、ルルの言葉なら私はどんなものでも信じるよ。だってお父さんを殺した事以上に信じられないの。いままでの全部が嘘だったなんて。みんなで一緒に過ごしたあの時間に――――本当のルルがいなかったなんて」
許せないと、憎くてたまらないと言いながら、それでも美しかった学園での思い出にシャーリーは心を寄せる。
嘘の身分に包まれながらも、何気ない日常にあった想い人の本心を疑わずに手を伸ばす。
「だからルル、お願い。ちゃんと言って。あなたの気持ちを」
願いを込め、シャーリーは自らの父親を殺した相手に涙を流しながら笑い掛けた。
「それを聞かなきゃ、きっと私はいつまで経っても――――泣いてるばっかりだから」
涙が頬を伝って、地面へと落ちていく。
それはとても綺麗で、彼女の心と同じく透き通っていた。
「シャーリー……」
ただ純粋に真意を問うてくる少女の真っ直ぐな思いに、ルルーシュは意識せず彼女の名前を呼ぶ。
こんな展開になる事を、予測していなかったといえば嘘になる。
前回どれだけゼロとしての仮面を被り拒絶したにも関わらず、それでも自分を理解しようともがき続けた彼女であれば、今回も同じように自分の意思を問うてくる事は充分に予想できた。
しかしそれは言うほど簡単なものではない。
愛する父親を殺した相手を信じようともがく事は、きっと彼女にとって身を切るような痛みを齎したはずだ。いっそ考える事など放棄し、感情のままに憎んでしまった方がよほど楽だった事だろう。
それでも彼女はそうしなかった。
父親が殺された事実にも、生徒会で共に過ごした穏やかな日常にも目を背けず、どちらも呑み込んだ上で逃げずに真意を問う事を選んだ。
ならばルルーシュも、この問いから逃げる事は許されない。
たとえどのような傷を自分と彼女、双方に刻む事になろうと、逃げるという選択肢だけは選んではならない。
それが彼女の父親を理不尽に奪った自分が負うべき責任であり。
彼女の友として過ごした、ルルーシュ・ランペルージが向き合うべき誠意なのだろうから。
「俺は――」
ルルーシュが己の本心を語ろうとしたその瞬間、間の抜けたチャイムの音が部屋の中に響き渡った。
絶妙なタイミングでの横槍に、シャーリーは首をかしげる。
「ルームサービスかな?」
不満を滲ませながらシャーリーが疑問符を浮かべるが、対照的にルルーシュは驚愕に目を見開いていた。
シャーリーを呼ぶにあたって、ルルーシュはホテルの人間に部屋に誰も来ないように告げてある。
そしてこのホテルはシャーリーと会うためだけにチェックインしたため、C.C.やスザクがタイミング悪く戻ってきたという事もあり得ない。
都合良く考えるならホテルの伝達ミスによるルームサービスか何かなのだろうが、ルルーシュの勘はそんな希望的観測は認めず全力で警鐘を鳴らしていた。
「……俺が出よう」
「ルル……?」
息を呑み、固い声で告げて席を立つルルーシュの並々ならぬ様子に、シャーリーは目を丸くする。
それに答える余裕もなく、足音を消して扉に近付いたルルーシュは、覗き穴から部屋の外の様子を窺う。
「――!」
そこにいたのは軍服を着た何人もの男女だった。
なぜ軍人が、どうにかして気付かれずに脱出する方法は、瞬間的にルルーシュがそんな思考を巡らせると同時に、部屋の外から声が聞こえてくる。
「申し訳ございません。緊急事態につき、入室させていただきます」
何かしらの答えを返す暇もなく、鍵が外から開錠され、あっさりとルルーシュと軍人を隔てていた扉は開いてしまう。
目の前で呆然と立ち尽くすルルーシュを前に、軍人達は即座に膝を折った。
そして一番前にいた褐色の肌をした女軍人が代表して口を開く。
「突然の拝謁のご無礼をお許しください。私はヴィレッタ・ヌゥ。ブリタニア軍の純血派に属する者です」
不測の事態に完全に思考が停止し、未だなんの反応も返せないルルーシュにヴィレッタと名乗る女は絶望の言葉を告げた。
「貴方をお迎えに上がりました、ルルーシュ様。どうぞ私共と一緒に、ブリタニア政庁までお越しください」
そんな、と後ろでシャーリーが呟く声が、ルルーシュにはどこまでも遠くに聞こえた。
3話から名前だけは出ていたアッシュフォード学園の理事長、ルーベン・アッシュフォード初登場回。
原作でもワンシーンだけで台詞のなかったルーベンさんがようやく重い腰を上げました。
サブタイトルが殆どネタバレになった今話。
新章にもなる原作16話の部分のお話は『囚われのナナリー』ならぬ『囚われのルルーシュ』です。
第二部『暴かれる秘密編』もここからが本番ですね。
読んで分かる通り、ここを境に完全に原作とは掛け離れた話となっていきます。
おそらくこの『囚われのルルーシュ』の話はいままでで一番長い話になるかと思います。というより、なります。少なくとも今年中に終わる事はないでしょう。
来年中に終わるかは――――私の執筆速度次第ですね。頑張ります。
次回:飛び交う急報