ちなみにアニメ1期の範囲は全四部構成の予定となっております。
64:マリーベル・メル・ブリタニア
『先日エリア11赴任されたマリーベル皇女殿下ですが、コーネリア総督の補佐に任命された事が発表されました。マリーベル皇女殿下は三日前にキュウシュウで起きた……』
テレビの中で笑う成長した異母妹の姿を見て、ルルーシュはなんとも言えない複雑な気持ちで深く息を吐いた。
「まさか、マリーがこのエリアに来るとはな……」
「仲が良かったの?」
ゼロの私室で同じようにニュースを見ていたスザクが首をかしげる。
「悪くはなかった。歳も近かったし、ナナリーともよく遊んでくれていた」
当時を思い出すように、ルルーシュの目がわずかに細まる。
「最後に会ったのは9つの頃だったかな。ユフィとも一緒に庭園で走り回っていたよ」
懐かしさに口元を綻ばせ、しかしすぐにそんな笑みはルルーシュの顔から消え去り、瞳には強い意志の光が宿る。
「だがそれも昔の事だ。敵として立ち塞がるなら容赦はしない」
マリーベルがこのエリアに来た事に対して思うところはあっても、それはもはや過ぎ去った過去が齎すものであり、いまは状況も立場も何もかもが違う。
コーネリアと矛を交え、ユーフェミアを利用したルルーシュにとって、今更敵に血縁者が一人二人増えたところで決意が鈍る事などあり得ない。
「九州の件もあったからな。彼女の経歴を調べてみた」
カタカタとキーボードを叩き、一つのファイルを開く。しかしルルーシュはなぜかそれきり黙り込んでしまった。
いつもならすぐに説明を始めるルルーシュが、画面を見ながら閉口するのを見てスザクが心配そうに眉を下げる。
「何かおかしなところでもあったの?」
「いや……ただ似ていると思っただけだ」
自分でも珍しいと思いながら、ルルーシュは自らの胸に宿った共感を意識して振り払う。
感傷なんてものは、敵に抱くものではない。
「彼女が歩んだ人生は、もしかしたら俺が歩んでいてもおかしくはなかったからな」
「それって、どういう……」
「彼女は幼少期、テロで母と妹を失っている」
「っ!」
出だしから衝撃的な皇女の過去にスザクが息を呑む。
それに構わずルルーシュは、表情を変えずに淡々と彼女の経歴を語った。
「その後、テロの件で皇帝に謁見を申し出て、あろう事か剣を向けたせいで皇位継承権を剥奪。幼馴染の騎士と共に軍学校に入り飛び級で卒業。皇族に復帰し、シュナイゼルの下に身を寄せて何やら動いていたようだが、どういうわけかエリア11に赴任。自分から望んだのかコーネリアから打診があったのかは分からないが、総督補佐に任命される。――――まったく、波乱万丈な人生だな」
自分も人の事は言えないが。心の中でそう付け加えながら、ルルーシュは異母妹と自身を重ね合わせるのを止められなかった。
境遇も、行動も、気質すら、まるで鏡合わせのようにそっくりだ――――いや、彼女の人生の方がどれも自分よりも激しく、凄惨だった。それだけに、その絶望の深さをルルーシュは理解できるような気がした。
彼女は8年前の自分と同じくテロの後で皇帝に直訴し、そして同じように手酷い言葉をぶつけられたのだろう。しかし何も言い返せなかった
8年前のあの日、もし母に加えてナナリーまで失っていたら。もし日本に送られず皇位継承権だけを剥奪されていたなら。
マリーベル・メル・ブリタニアの人生は、ルルーシュのそんな『もし』を体現しているかのようだった。
「話を聞く限り、話せば分かり合えるんじゃないかって思うけど……」
スザクも同じ事を感じたのか、悲しそうに瞳を揺らしながらそんな期待を零す。
ルルーシュは深く息を吐き、軽い口調で肩を竦めた。
「俺も一度話してみたいが、まさか拝謁を申し込むわけにもいかないからな。会話できる機会があるなら、それは戦場だろう」
「っ、でも……」
「それに、彼女は皇女に戻った。答えはもう出ているさ」
何かを言おうとするスザクの言葉を遮って、ルルーシュは視線をテレビの画面に戻す。
そこには見た事もない巨大なナイトメアのコックピットから出て手を振る異母妹の姿があった。
「言うまでもないが、強敵だ」
「うん」
来日してたった数日で、エリア11で知らぬ者がいないほど鮮烈なデビューを飾った強敵の登場にルルーシュとスザクはかつてない嵐を予感した。
時は遡って三日前。
マリーベルがエリア11に降り立って一夜明けた特派の研究所では、ロイドとセシルが新たなデバイサーのデータに目を輝かせていた。
「適合率92%。スザク君とほぼ同等の数値です。凄まじいですね」
「ガウェインの方は95%だよ。この数値なら単独での搭乗も可能かも。これはもしかしたら、スザク君以上の逸材かもねぇ」
自己紹介もそこそこに、早速シュミレーターを試してもらった結果は御覧の通り。
ここしばらくはデータが取れていなかった事もあり、ロイドもセシルも興奮状態で早口に意見を交わし合う。
「ジヴォン卿もランスロットの適合率は76%です。マリーベル皇女殿下ほどの数値ではありませんが、充分に搭乗可能ですね」
「う~ん、確かに問題はなさそうだけど……この数値なら少しスペックダウンした機体の方がいいかもね。どうせ機体は増やさなきゃいけないんだし、実戦データを取りつつそっちも検討してみようか」
「もし新しく作るならジヴォン卿はマークスマンシップの評価が低めなので、近接戦主体の機体が良いかもしれません。ガウェインとの相性も良いでしょうし」
マリーベルの特別顧問就任に併せてシュナイゼルから増額された予算の使い道を早速決めた二人の顔には、抑えきれない喜悦が滲んでいた。
二人の実力を数値だけで評価するなら、マリーベルはラウンズ級かそれ以上。オルドリンは皇族の親衛隊――インペリアルガード級だ。騎士であるオルドリンは相応の実力といえるが、皇女でありながら帝国最強の騎士と同等以上のナイトメア操縦技術を有するマリーベルの実力は、特派の二人にとって嬉しい誤算といえた。
今後の方向性について本人達を蚊帳の外に議論する技術者を尻目に、マリーベルとオルドリンはシュミレーターを降りて近くの椅子に腰掛ける。するとそれを待っていたかのように、温かい紅茶が二人の目の前に差し出された。
「マリーベル様、お嬢様、お疲れさまでした」
「ありがとう。トト」
トトと呼ばれたメイド服姿の女性にお礼を返したオルドリンは、紅茶を一口飲むとグイッと両手を上げて伸びをする。
「つっかれた~。シュミレーターだけなのにこんなに疲れるなんて思わなかったわ。さすがは第七世代型ナイトメア・フレームね」
「軍学校で使っていたナイトメアとは別物ね。あの性能の機体が1機戦場に出るだけで盤面がひっくり返ってもおかしくない。コーネリアお姉様が苦戦するわけだわ」
同じように紅茶に口をつけ、マリーベルは自らの騎士の意見に同意する。
特派の失態でこれほど凄まじい機体と戦わなければならなくなったのだから、異母姉からすればとんだとばっちりだろう。責任を問いたくなる気持ちも分かる。
「枢木スザク……だっけ? ランスロットを盗んで逃げたイレブンは」
「ええ。彼と盗まれたランスロットを撃破するのが、わたくし達に課せられた使命」
異母兄であるシュナイゼルの要請は、特派の特別顧問兼デバイサーとして奪われたランスロットを奪還、もしくは破壊する事。そして特派を脱走してテロリストとなった枢木スザクを始末する事だ。
そのためにマリーベルは、オルドリンとトトを連れてこのエリア11に降り立った。
「でも当然、それで済ませるつもりはないわ」
瞬間、穏やかだったマリーベルの瞳に苛烈な炎が宿る。
「枢木スザク諸共、黒の騎士団は壊滅させる。イレブンがテロリズムの灯などに二度と魅入られないよう。徹底的に」
感情を抑えた冷徹な声でマリーベルは宣言する。
幼い頃からマリーベルの憎悪を知っていたオルドリンは、その思いに同意するように静かに問うた。
「それが、グリンダ騎士団を設立するための最後の一押しなのね?」
ええ、と先程までの態度が嘘のようにマリーベルは穏やかに頷く。
「皇位継承権が戻ったとはいえ、軍学校を卒業しただけのわたくしではシュナイゼルお兄様の後ろ盾があっても対テロリスト部隊の設立は難しい。それこそ、実際にテロリストを潰した実績でもない限りは」
対テロリスト部隊『グリンダ騎士団』の設立。
それが幼い頃にテロによって家族を失ったマリーベルが目指すものだった。
そのために軍学校を卒業し、シュナイゼルの下に身を寄せ、死んだ家族を顧みない憎き皇帝に頭まで下げた。
全てはこの世のテロリズムを全て根絶するため。それこそがマリーベル・メル・ブリタニアの目的であり誓いだ。
「でも、マリーがナイトメアに乗って戦場に出なくても……」
「わたくしはまだ自分の部隊を持っていないから、成果を得るには自ら動くしかないのよ。それともあなただけで枢木スザクを倒せる?」
「それは……」
マリーベルの意地悪な問いにオルドリンが暗い顔をして項垂れる。
戦闘データを見る限り、枢木スザクの技量はナイトオブラウンズに匹敵する。いくら軍学校を飛び級で卒業したオルドリンといえど、正面から戦って勝つのは難しい。
シュナイゼルが自分を呼んだのも、おそらくはそのためだろう。並の騎士では枢木スザクの相手にもならない。
「心配はいらないわオルドリン。わたくしとあなたが一緒ならどんな敵だって打ち倒せる」
「マリー……」
安心させるためにマリーベルは笑顔で断言するが、オルドリンの顔は晴れなかった。
「それに悪い事ばかりじゃないわよ。わたくしとオルドリンがデバイサーになる事で、特別顧問を降りた後も機体を融通してもらえるんだから」
気分を変えるために、マリーベルは今回の件で協力する見返りとして兄から約束された報酬を持ち出す。
「コーネリアお姉様に貸しを作って、シュナイゼルお兄様への借りも返せる。その上グリンダ騎士団の設立と団員の
得られるメリットを列挙すれば、それはマリーベルにとって渡りに船とも言える好条件であり、断る選択肢はなかった。
しかもその目的がテロリストの始末なのだから、テロを憎むマリーベルにとってこれほど良い話はない。
しかし、オルドリンには分かっていた。
仕方ないと取り繕ってはいても、内心ではマリーベルが戦場に出るのを厭うどころか、むしろ喜んでいる事に。
テロリストに母親と妹を殺されたあの日から、マリーベルの心の奥底には黒く濁った憎悪が燻っている。
テロリズムを根絶するためなら躊躇いなく血を流し、血を浴びる事を厭わないほどに。それは大きく、深い。
だからこそマリーベルは、自らの手でテロリストを駆逐できる機会を得られた事に歓喜している。
物心ついた時からいつもマリーベルの隣にいたオルドリンには、それが痛いほど分かってしまった。
「っ……」
だが、オルドリン・ジヴォンはマリーベル・メル・ブリタニアの騎士であり、剣だ。
だからこそマリーベルが持つべき剣は、ナイトメアではなくオルドリン・ジヴォンであるべきで、彼女の敵は自分が全て斬らなければならない。
相手が自分より格上のテロリストであっても、それは変わらない。
「マリー。やっぱり私がランスロットを……」
自らの使命と友人を思う気持ちからオルドリンが説得を試みようとしたのと同時に、特派に通信が入る。
セシルがそれを受けるのを横目に、出鼻をくじかれる形となったオルドリンは話を続ける事ができなかった。
なんとなく気まずい空気が流れたため、それを払拭しようとマリーベルがトトに甘いものでも頼もうとしたところで、通信を終えたセシルが近付いてくる。
「マリーベル皇女殿下。少しよろしいでしょうか?」
「何かありましたか?」
セシルの顔が強張っているのを見て取り、マリーベルは異変を察する。
その推測通りセシルが口にした報告は、このエリアにとって――いや、場合によってはブリタニアという国にとっても一大事だった。
「中華連邦の支援を受けたイレブンのテロリストが攻め入ってきました」
トトが息を呑み、オルドリンが目を見開く。
そんな中、マリーベルは動揺した気配などまるで見せず静かに立ち上がった。
「お兄様がお呼びなのね?」
「はい。すぐに執務室にお越しになるようにと」
頷き、マリーベルは部屋を出る。
自らの初陣の気配を肌に感じながら。
マリーベル説明回。
ついでに九州戦役の勃発です。
相貌のオズを読んでない方でも分かるようにと書いたのですがどうだったでしょうか?
要点としては、
・幼い頃にテロで家族を失っている
・そのせいでテロを憎んでいる
・ルルーシュと似た境遇で同じように皇帝を憎んでいる
この3点と経歴をざっくりまとめたつもりです。
その他、人間性や能力などは今後さらに描写していくつもりです。
彼女の騎士であるオルドリンも後々もっと深く書いていきたいと考えています。
二人――というかオルドリンについてきたメイドのトトに関しては、直近ではあまり触れる予定はありませんが、後々掘り下げていくかもしれません。
マリーベルとオルドリンは今後も物語に深く関わってくる予定なので「読んでもキャラがよく分からない」という意見が多ければキャラクター紹介ページを作ってwikiのように説明する事も考えます。とはいっても、それならwikiを読んだ方が早いので、あまり意味はないかもしれませんが。
一応YouTubeでもマリーベルとオルドリンの解説動画があるので、そのURLを載せておきます。
双貌のオズのネタバレが大丈夫という方は、そちらの動画を見ていただければ二人のキャラクターが掴めるかもしれません。
URL
マリーベル解説:https://youtu.be/LlE7QGNCTfY
オルドリン解説:https://youtu.be/hvqjdugwN6Y
外伝キャラを登場させるのは初なので、彼女達を登場させた事に関して好意的でも否定的でも感想をいただけると今後どう描写していくか方向性が定まるので嬉しいです。ただどんな意見をいただいても、登場をなかった事にしたり、すぐに退場させたりする事はありませんので、その点はご了承ください。
次回:首輪の外れた駄犬
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