コードギアス~あの夏の日の絆~   作:真黒 空

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74:オレンジ

 

 ジェレミア・ゴットバルトの黒の騎士団入団は、事情を知らない団員に大きな衝撃を齎した。

 これまでもディートハルト・リートを始めとして、ブリタニア人が入団する事は珍しいながらもないわけではなかった。しかし元ブリタニア軍人であり差別主義の象徴ともいえる純血派のリーダーだった男を、反ブリタニアを掲げる黒の騎士団の団員が容易く受け入れられるはずもない。これが正規ルートでの入団申請であれば、追い返されるどころかその場でリンチに遭っていてもおかしくはなかっただろう。

 しかしジェレミアの入団は黒の騎士団のトップであるゼロが認めたものであり、その理由についても大々的に周知された。

 ジェレミアはゼロがブリタニアの中に潜ませていたスパイであり、半年前の極秘作戦の際にも重要な役目を果たした。だがそれがコーネリアにバレてしまったため、非道な人体実験の被験者として身体を改造され、先日ようやく逃げ出す事に成功して合流が叶った、という経緯だ。

 ゼロの口から説明された事情は、身体の半分以上が機械化されているジェレミアの姿もあって事実として団員には受け入れられたが、ジェレミアの純血派という経歴はそれだけで忌避感を払拭できるほど日本人にとって軽いものではなかった。

 表面上は団員として認められたジェレミアだが、アジトを歩けば不信と警戒の視線が常に付きまとい、ブリタニアへの恨みが殊更深いものからは敵意を超えて殺意を向けられる事もたびたびある。

 実際問題、団員の中には軍人時代のジェレミアに身内を殺された者がいてもおかしくはない。それを考慮すれば、遺恨を完全に捨て去る事など夢物語だろう。

 だからこそゼロも団員のそうした言動を諫める事はしなかったし、ジェレミアを庇うような真似もしなかった。そしてそれはジェレミアも同じで、身に覚えのない恨み言や敵意を向けられても黙ってそれを受け止めた。

 結果、ジェレミアは黒の騎士団の団員からは腫物扱いとなり、名前を呼ぶ事も嫌がった者からは専用機であるジークフリートの見た目も相まって『オレンジ』という蔑称で呼ばれるようになった。そしてそれはすぐに広まり、いまや団員の殆どがジェレミアの事をオレンジと呼ぶ有様だ。

 

「イレブンと蔑まれた日本人が、お前の事をオレンジと蔑むか。随分と皮肉なものだな」

「私も軍に名誉ブリタニア人が入る事を快くは思っていませんでしたので、彼らの気持ちは理解できます」

 

 嘆息するルルーシュに、ジェレミアは不満を一切感じさせない声で応じた。

 

「むしろ蔑称で済んでいる現状には驚いております。私刑程度はやむを得ないと考えておりましたので」

「喜んでいいのかは分からないが、お前の機械の身体が団員の印象を変えたんだろうな」

 

 いまは殆ど服で隠れているが、それでも隠し切れない顔や首回りの機械部分を見てルルーシュは指を組む。

『傲慢な差別主義者』というジェレミアの評価に、『憐れな人体実験の被害者』という追加要素が加わった。それは前者の印象を上書きするまではいかずとも、大きく見方が変わるきっかけとして充分だろう。しかもそのきっかけがゼロの命令でスパイ行為をしたためなのだ。恨めばいいのか憐れめばいいのか、団員達が感情の持っていき場所を見失うのも頷ける。

 

「ひとまずは中身はどうあれ、団員には受け入れられたのだから良しとしよう。オレンジという蔑称については団員の感情を考えていまは放置するが、いずれはやめさせるから我慢してくれ」

「いえ、ルルーシュ様。私の事はオレンジで構いません」

「なに?」

 

 主からの気遣いを辞退し、蔑称を受け入れる姿勢を見せるジェレミア。

 片眉を上げるルルーシュに、ジェレミアはその理由を語る。

 

「ヴィレッタからの報告によると、私の離反についてはブリタニア内で知られていないとの事。であるならば、このまま秘しておきたいと考えております」

 

 公式にジェレミアは半年前から失踪として処理されている。そしてそれはいまも変わらないという。

 ならば――

 

「私が反逆したと公に知られなければ、我が家族と領地が責を取らされる事もないでしょう」

 

 胸に手を当てて、ジェレミアは静かにそう言った。

 ルルーシュに仕えた決断に後悔はない。家族や領地を巻き込んでしまう覚悟もあった。

 しかしそれでも、親しい者に被害を与える事を心苦しく思っていなかったかといえば、そうではない。

 もちろん、シュナイゼルは自分が研究所からいなくなった事を知っているのだから、脱走兵と判断して秘密裏に家族に責任を取らせようとする可能性がないわけではない。それは実験中にジェレミアの下を訪れたコーネリアも同じだろう。

 だが公になっていないのであれば、望みはある。

 その一縷の希望を信じ、ジェレミアは己の名を封印する事に決めた。

 

「分かった。なら正式に『オレンジ』はお前のコードネームとしよう。団員にとっては蔑称でも、俺にとっては信頼厚き忠臣の名だ」

 

 部下の決断を汲み取り、ルルーシュは新たな名前に別の意味を与える。

 その心遣いにジェレミアは心から膝をついた。

 

「イエス・ユアマジェスティ。いまよりこのオレンジの名こそ、我が忠誠の名前です」

 

 ジェレミア・ゴットバルト改め、オレンジは深く頭を下げながら宣言する。

 大袈裟な部下の反応にルルーシュは口元を緩めながら頷き、立ち上がるように促して話を切り替えた。

 

「それで――さっき名前が出たヴィレッタだが、その後も問題なく純血派の軍人として従事しているんだな?」

「はい。私の件で捕らえられるどころか、事情を聞かれる事すらなかったそうです」

 

 その答えにルルーシュは顎に手を当てながら目を細める。

 

「となるとやはり、スパイの指示を出したのはシュナイゼルではなさそうだな」

 

 ヴィレッタの独断か。それとも他の誰かの仕業か。あるいは本当に黒の騎士団に鞍替えするつもりなのか。

 しかしそのどれであれ、やるべき事は変わらない。

 

「では予定通りに?」

「ああ。望み通りに働かせてやるとしよう」

 

 ジェレミアの確認にルルーシュが邪悪な笑みで首を縦に振る。

 先程ジェレミアのコードネームをオレンジにした時とはまるで違う笑顔だったが、忠臣たるジェレミアがそれについて触れる事はなかった。

 今後の事についていくらか話し合い、次の予定が迫っていたジェレミアは、ルルーシュに退室の許可を取って席を立つ。

 

「ジェレミア。その身体がいつ不具合を起こすとも分からないんだ。無理はするなよ」

「勿体なきお言葉。肝に銘じます」

 

 主のありがたい言葉に一礼を返し、執務室を後にする。

 時間を確認しながら早足で向かうと、目的地には既に約束していた人物がジェレミアの愛機となったジークフリートの前に立っていた。

 

「すまない。遅くなった」

 

 近付きながら謝罪の言葉を口にする。

 すると彼女は手に持つキセルをくるりと回転させながら振り向いた。

 

「やっと来たね。こっちはもう準備できてるよ」

「助かる」

 

 ラクシャータがキセルを持ってる方の手を上げると、ジークフリートのチェックを行っていた部下達が降りて来る。それを確認もせず、彼女は検査器具が置いてあるテーブルを顎でしゃくった。

 

「機体に乗る前にコンディションチェックをしておきな。今日のテストはちょ~ときつくなるからね」

「望むところだ」

 

 脅かすような言葉に力強く頷き、ジェレミアは服を脱いで検査の準備をしていく。

 手の届かない部分に関してはラクシャータが手伝って検査器具を取りつけた。

 

「一応確認しておくけど、今日も身体に異常はなかったかい?」

「ああ。自分でも戸惑うほど快調だ。機械部分の重みに慣れてきたせいか、昔よりも身体の動きが良くなったようにも感じる」

「それは単純に出力が上がってるせいだろうね。非人道的な改造ではあるけど、間違いなく身体のスペックは上がってるよ」

 

 黒の騎士団に来てからというもの、ジェレミアは毎日ラクシャータに身体を診てもらっている。人体実験によって身体にどんな異常をきたしているか分からなかったためだが、いまのところは健康にも肉体にも大きな悪影響はなかった。

 

「こんなバカな真似をされた奴を診るのなんて、私だって初めてだからね。どれだけ入念に調べたって、100%問題ないなんて口が裂けても言えない。できるならナイトメアなんかに乗らず、しばらく安静にしてた方が賢明だよ」

「それはできないと、何度も言ったはずだ」

 

 医者としての忠告を即答で断るジェレミアに、ラクシャータの目がすっと細まる。

 黒の騎士団の連中は純血派だったジェレミアを嫌っているが、人種にも立場にもこだわらないラクシャータにはそういった隔意はない。

 だからこそ、言わずにはいられない。

 

「死ぬかもしれないよ」

「覚悟の上だ」

「生き残っても、なんらかの障害が残る可能性だってある。むしろそうなる確率の方が高いかもしれない」

「構わない。ジークフリートであれば脳と神経が動く限り戦えるはずだ」

 

 自分の事など一切顧みる事のないジェレミア。

 その態度にラクシャータは煙と共に盛大なため息を吐き出した。

 

「そのジークフリートが問題なんだよ」

 

 全高20メートル以上ある機体を見上げ、自身の理念に反しているナイトギガフォートレスにラクシャータは眉をしかめた。

 

「この機体は構造上の問題で脱出ブロックをつけられないし、神経電位システムが人体にどれだけの負担を強いるのかも未知数な部分が大きい。いまのあんたが乗るのには、どうしたっておススメできない機体さ」

 

 視線をジークフリートからジェレミアへと移し、ラクシャータは答えの分かっている問いを投げる。

 

「それでも、別の機体を使うつもりはないんだね?」

「ああ」

 

 迷いのない即答に、呆れたように首を振ってラクシャータは役目を終えた検査器具を取り外していく。

 そしてジークフリートに乗り込もうとするジェレミアの背中に、一言だけ恨み節のような不満をぶつけた。

 

「一つだけ憶えておきな。私がこの子の調整をしたのは、死体を増やすためじゃないからね」

「心にとめておこう……感謝する。ラクシャータ」

 

 振り返らずに答えて、ジェレミアがジークフリートの中に消えていく。

 

「ふん」

 

 忠告のし甲斐がない男に鼻を鳴らし、ラクシャータは苛立たしげにキセルを回す。

 医者としても技術者としても、もうできる事などデータを取る以外にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ルルーシュ…………ルルーシュ…………』

 

 愛する妹が異母弟の名前を呼ぶ声を、複雑な思いでコーネリアは聞く。

 その声がボタンを押す音と共に唐突に途切れた。

 

「これが、ユーフェミア様とミレイ・アッシュフォードの会話の全てです」

 

 ボイスレコーダーの電源を切ったダールトンが、報告をそう締めくくる。

 コーネリアと側近しかいない執務室を重苦しい沈黙が支配した。

 

「まさか、ルルーシュから接触を持ち掛けてくるとはな……」

 

 一分近い沈黙の果てに、ようやくコーネリアが口にしたのは複雑な驚きだった。

 半年前。ダールトンに妹の補佐を命じたコーネリアは、苦渋の選択で副総督の執務室にボイスレコーダーを仕掛ける決断をした。それはミレイ・アッシュフォードにゼロの息が掛かっている事を懸念して、純真なユーフェミアが誑かされないようにするための苦肉の策だったが、これまで一度も活用した事はなかった。

 しかし今日初めて、ミレイ・アッシュフォードがユーフェミアと二人きりになる事を望んだため、ダールトンは主の命令に従って二人の話をボイスレコーダーで後から盗み聞き、その結果をコーネリアに報告した。

 しかしそれがこんな事態を呼び込むとは、指示をした当人であるコーネリアも想像していなかった。

 

「確認するが、ミレイ・アッシュフォードに不審な点はないんだな?」

「はい。アッシュフォード嬢はあくまでもユーフェミア様の補佐に徹しており、黒の騎士団に有利になるような案を政策に取り入れようとした事はございません。またそういった政策にユーフェミア様の思考を誘導しようとする気配もないため、彼女の行動はゼロの差し金ではないと思われます」

 

 信頼する部下からの答えにコーネリアは頬杖をついて眉間に皺を寄せる。

 もしボイスレコーダーが録音していたのが、ミレイ・アッシュフォードがユーフェミアに黒の騎士団びいきの思想や政策案を吹き込むところであれば問題はなかった。ただアッシュフォードを捕らえてユーフェミアから引き離せばそれで解決する。

 しかしボイスレコーダーが録音していたのは、ミレイがゼロのスパイという証拠ではなく、ミレイとルルーシュ個人のつながりであり、そしてゼロではなくルルーシュとしての妹への伝言だけだった。

 

「罠……だと思うか?」

 

 悩んだ末に、コーネリアはギルフォードとダールトンに問う。

 

「……その可能性は、低いかと思われます」

 

 答えたのはギルフォードだった。

 

「ゲットーの再建を主導している事で、ユーフェミア様はイレブンから大きな支持を得ています。そのユーフェミア様を害する事は、ユーフェミア様を支持するイレブンの信頼を失う事と同じ。副総督であるユーフェミア様の身柄を押さえられたとしても、代償に正義の味方という大義名分と民衆の支持を失うのは黒の騎士団にとって致命的です。そのような愚策をゼロが打ってくるとは思えません」

 

 これが黒の騎士団以外のテロリストなら、短絡的に皇族の身柄を目的としている事も考えられるが、ゼロは常に大局を見ている。

 ゲットー再建で知名度が上がってるとはいえ、ユーフェミアの身柄を押さえても、ブリタニアと黒の騎士団の戦いにおける影響は殆どない。精々がコーネリアの動揺を誘えるという程度で、むしろ怒り狂ったコーネリアがなりふり構わない手段を取るかもしれないという意味では、メリットよりデメリットの方が大きい可能性すらある。

 

「……もしかすると、ユーフェミア様の身を案じての事かもしれません」

 

 ギルフォードとは別の角度で、ダールトンが眉間に皺を寄せながら己の見解を口にした。

 

「どういう事だ?」

「ルルーシュ様が黒の騎士団に戻ってからの半年間、多少の小競り合いはあったものの、ゼロは戦力を集める事に注力しているようでした。その目的がこのエリアの奪還にある事は確実です。もし準備が整ったのなら、決戦を挑んでくる可能性は高いかと」

 

 不穏な総力戦の未来を示唆するダールトン。

 その意図をコーネリアは先程までの会話とすぐに結びつける。

 

「つまりユフィが戦いに巻き込まれないように、先に保護しようという事か?」

「決戦となれば、黒の騎士団はこの政庁を落とすべく全戦力を投入するでしょう。いかにゼロがルルーシュ様とはいえ、ユーフェミア様を気に掛ける余裕はないと思われます」

「……なるほど。可能性としてはあり得るな」

 

 敵の中に傷付けたくない相手がいる、などという不確定要素は、戦況を左右するほどのイレギュラーである事は疑いようがない。実際コーネリアも黒の騎士団の中にルルーシュがいるからこそ、その不確定要素を飲み込んでも圧倒できるほどの戦力を欲し、プライドを曲げてシュナイゼルに戦力を融通してもらったのだ。

 ルルーシュがユーフェミアをまだ妹だと思ってくれているのなら、戦いが始まる前に危険から遠ざけようとしても不思議ではない。

 

「ユフィを確保した上で決戦を挑めば、こちらの攻めの手が鈍くなるのも期待できるか」

 

 戦場でのナイトメア同士の争いならともかく、基地や旗艦に対してはユーフェミアが中にいる可能性を踏まえれば、迂闊に爆撃や砲撃を加えるわけにはいかなくなる。

 決戦を前提とするのなら、ユーフェミアの確保も有効な一手と言えるだろう。

 

「しかしこれはチャンスでもあるかと」

 

 筋の通った推測にコーネリアが押し黙っていると、ギルフォードは力強く言い放った。

 

「ユーフェミア様の身柄を押さえるためとはいえ、ルルーシュ様とナナリー様が来られるなら、逆にお二人を保護できるかもしれません」

 

 待ち合わせの罠を逆手に取る事を提案するギルフォード。

 だがその案にダールトンは難色を示した。

 

「確かに戦場以外でルルーシュ様とナナリー様を保護できるとすればそこしかない。しかしギルよ、罠であるならお二人が待ち合わせ場所に来られない事も考えられるぞ」

「仰る通りです。なので、ナナリー様が病院に訪れるかを確認するのはどうでしょう? 待ち合わせは診療の後という事ですので、その後のナナリー様の行き先次第で罠かどうかは判断できるはずです」

 

 伝言通りナナリーがルルーシュと合流した後で待ち合わせ場所に行くのなら、そこで身柄を保護すればいい。もしルルーシュと暮らしている隠れ家や黒の騎士団のアジトに一度戻るというなら、潜伏場所を特定できるためそれも良し。どちらにしても二人を保護する絶好の機会といえる。

 

「いずれにせよ、この機会を逃す手はないか」

 

 ギルフォードの提言に、コーネリアも頷き同意を示す。

 

「しかし待ち合わせ場所には黒の騎士団が隠れているはずだ。そこで二人を保護しようとするのは危険過ぎる。そしてナナリーを尾行するにしても、場所がゲットーでは護衛に気付かれる可能性が高いだろう」

 

 ルルーシュが外出するナナリーに護衛をつけないとは考えられない。さらにゲットーは租界と違って、ブリタニア人が少ないため尾行は目立つ。土地勘があちらにある以上、わずかにでも尾行の気配を勘付かれてしまえば二人を保護するのは難しい。

 

「であれば、まずはナナリー様だけでも病院で保護するのはいかがでしょう?」

 

 意外な提案にコーネリアが片眉を上げる。

 

「ナナリーだけを?」

「はい。お二人を一度に保護できるのが最善ではありますが、それにこだわり過ぎるのも良くありません。加えて今後もし黒の騎士団を壊滅させルルーシュ様を保護できたとしても、ナナリー様だけを保護できない可能性もございます」

 

 それは以前からコーネリアも危惧していた事だった。半年前のように首尾よくルルーシュを保護できたとしても、ナナリーは黒の騎士団とは関係ないところで保護している可能性があり得る。というより、ナナリーがブリタニア皇族である事を考慮すれば、ルルーシュが黒の騎士団で妹を保護しているとは思えない。そのため黒の騎士団を壊滅させてもナナリーの居所が分からない、という事態は高確率で発生してしまうのだ。

 その危惧をなくせると考えれば、今回はナナリーだけを保護するという判断も悪くはない。

 

「保護したのちに、ナナリー様に姫様の思いを分かっていただければ、ナナリー様からもルルーシュ様を説得していただけるかもしれません」

 

 それは可能性が低いと分かっていても、コーネリアの心を揺さぶる言葉だった。

 ルルーシュの頑なな態度を思い返せば、説得に耳を貸してくれるとは思えない。

 だが最愛のナナリーからの願いであれば、わずかだとしても望みはあるのではないか。

 そんな期待が心の弱い部分を揺さぶる。

 

「……ナナリーを先に保護すれば、ルルーシュとの合流場所や連絡手段を聞き出せる可能性もあるか」

 

 感情の訴えに、理性が都合の良い理由(言い訳)を見つけて後押しする。

 それだけで容易く心の天秤は傾いた。

 

「では――」

「ああ。ダールトンの案を採用する。病院に来たナナリーを保護し、可能ならばその後にルルーシュを保護するとしよう」

 

 結論を出してからは早かった。

 すぐに具体的な方策を話し合い、人員や配置が決定していく。

 そしてある程度の指針が定まったところで、コーネリアの口からポツリと、罪悪感からの呟きが零れた。

 

「ユフィには……恨まれるかもしれないな」

 

 ルルーシュとナナリーとの再会を待ち望むユーフェミアの思いを、これから自分は踏みにじる事になる。

 それがどれだけ妹を傷付ける事になるか。想像するだけでコーネリアの心は針で刺されたような痛みを訴えた。

 

「お二人とお話しする機会は、これから何度となくございます」

 

 ギルフォードの慰めに頷きを返して、コーネリアは窓の外の空を見上げながら大きく息を吐き出した。

 

「……ルルーシュ。悪く思うなよ」

 

 姉上こそ、なんて異母弟の憎まれ口が聞こえた気がした。

 

 





次回:惨劇の病院
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