投稿再開ではなく、あくまで1話だけの投稿になります。
77:戦いの行方に思いを馳せて
「ふぅん。やっぱりこうなったか」
中華連邦の砂漠にポツンと立つ遺跡。
その地下深くで、遠い海を越えて為された小さな反逆宣言を、10代前半の少年が不釣り合いな豪奢な椅子に片膝を立てて眺めていた。
「検体が欲しかったところだし、ちょうどいいかな。こっちに来てくれたバトレーへのプレゼントにもなるしね」
全世界を揺るがす宣戦布告を、新商品の入荷案内程度の気楽さで捉え、V.V.は傍に控える嚮団員に命令する。
「エリア11に潜ませてるプルートーンに連絡して。どさくさに紛れて、身体が丈夫そうな検体を何体か確保しておくようにって」
「かしこまりました。嚮主V.V.」
返事をした男がすぐさま命令を全うするために去っていく。
それに見届ける事なく、V.V.の視線は映像の中にいる仮面の男に移る。
「黒の騎士団が動くなら折角の機会だし、C.C.も連れ戻せないかな」
ふと思いついて顎に手を当てて数秒、V.V.はその口元を邪悪に歪めた。
「プルートーン以外にもこっちから何人か送ってみようか。流れ弾で死んじゃったりしないように、現場慣れしてる子をね」
黒の騎士団とエリア11のブリタニア軍が戦いを始めようとする裏で、暗躍しようとする組織の魔の手が蠢いていた。
「始めおったか、ルルーシュ」
一方、ブリタニア本国。
玉座の間でゼロの宣戦布告を見た皇帝は、愉快気に口の端を吊り上げて笑う。
「さすが、私とあなたの子ね」
そう答えるのは、不敬にも玉座の肘掛けに腰を下ろす騎士服を着た少女。
ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムの身体をギアスで支配したルルーシュの母親、マリアンヌだ。
「でも勝算はあるのかしら? 戦力差は明らかだし、あの子まだC.C.と契約してないみたいよ」
「負けるならそれまでの男だった、というだけの事。勝つのなら我らが迎えに行かずとも、いずれここまで来る事になろう」
「私としては勝ってもらいたいところね。何せ私の子供なんだから」
自分達の国の勝敗に頓着せず、まるでスポーツ観戦でもするかのように無責任で薄情な言葉を交わす二人。
それに眉をしかめる者はこの場にいない。
お互いにしか本音を語らない二人は、狭い世界で好き勝手に話し合う。
「もしルルーシュがここまで辿り着けたら、今度こそ教えてあげましょうよ。私達の計画を」
「それは早計ではないか? あ奴らが納得するかは――」
「大丈夫よ。私達の理想を聞けば、あの子達もきっと分かってくれるわ。だってルルーシュもナナリーも、私に似て賢い子だもの」
玉座から降りて、腰に手を当てて自信たっぷりに断言するマリアンヌ。
そんな彼女に勝てた試しが皇帝にはなかった。
「ああ、楽しみね。早くあの子達とも一つになりたいわ」
未来を夢見てマリアンヌは顔いっぱいに笑みを刻む。
それを愛しい眼差しで見つめ、皇帝も画面の中で仮面を被る息子に告げた。
「来るがいい、ルルーシュ。我が息子よ。全てを得るか全てを失うか、戦いとは元来そういうもの。故にここまで辿り着いたなら、貴様が望む真実を語ってやろう」
子供を愛するとのたまう父親と母親は、生死を掛けた戦いに臨もうとする息子を、笑みを浮かべながら見守っていた。
「黒の騎士団が動いたか」
中華連邦首都、洛陽の朱禁城の一室で明かりもつけずに集まる者達がいた。
「それではこちらも準備に入りますか?」
「ああ。だが動きは悟られないようにしろ。大宦官からの指示でもあるとはいえ、我らが表立って行動に移るのはあくまでも黒の騎士団が勝利した時のみだ」
女性の副官、香凜の問い掛けにリーダーである星刻が頷く。
数か月前より中華連邦には黒の騎士団から内密の接触があった。それは条件付きの密約の申し出であり、内容はもし黒の騎士団がブリタニアから日本を取り戻す事ができたなら、中華連邦にはブリタニアがすぐに再侵略に打って出ないように牽制を掛けてほしいと要請するものだった。その見返りとして、ある程度まとまった量のサクラダイトを交渉カードに提示されており、利益に目がない大宦官はこれに応じた。
その背景には九州戦役によって削れた戦力と権威を立て直さなければならない事情があり、おそらくゼロもそれが分かって交渉を持ち掛けてきたのだろう。
中華連邦からすれば黒の騎士団が勝てば、多少小競り合いを起こすだけでサクラダイトが手に入り、負ければ見捨てればいいだけなので損はない。ブリタニアの損耗具合によっては、そのまま攻め込んで日本を占領する事も大宦官は視野に入れているようだった。
「黒の騎士団は勝つと思われますか?」
「さぁな。だが可能性がないとは思わん」
これまでの黒の騎士団の活動を鑑みて星刻は答える。
コーネリアが治め、マリーベルが猛威を振るうエリア11という土地で、宣戦布告ができるほどに組織を大きくしたゼロの知略と周到さを、星刻は高く評価していた。
「最近大宦官が裏でブリタニアと接触を図っているという情報もある。天子様のためにも、私個人としては黒の騎士団には是非とも勝利を飾ってほしいところだな」
黒の騎士団が負けた場合、日本に攻め込むべきかどうかは大宦官の中でも割れているらしい。その理由までは星刻も分からないが、彼らの悪巧みが中華連邦にとって――ひいては天子にとって良い結果に転がる事はないという予感が星刻にはあった。
「無駄話は終わりだ。行動は迅速に、秘密裏に行え」
「
部屋を出ていく部下に見送り、星刻が画面に映る仮面の男に視線を移す。
この先の未来で生き残るのか果てるのか、もし生き残るなら敵になるのか味方になるのか。
そんな詮のない事を考えながら、自らも行動を開始するため画面を落とした。
「ゼロ。言葉だけの男ではなかったようだな」
とある拠点の一室。
小汚い格好で優雅に紅茶を飲んでいたオルフェウスは、エリア11で為されたゼロの宣戦布告を聞いて、まだ見ぬ仮面の男の評価を口にする。
「まさか本当にブリタニアに宣戦布告するなんて……」
同じ部屋で同じ映像を見ていた少女は、ゼロの大胆不敵な行動にその小さな目を見開いていた。
「複雑か? ライブラ」
「いいえ。ブリタニアがしている事を考えれば、当然の結果ですから」
オルフェウスの問いに固い声で答えるライブラは、言葉に反して表情が強張っていた。
しかしその手を隣にいた日本人の男が握ると、わずかにだが顔の緊張が緩む。
「それよりも、オズはどうするのですか?」
「無論、このチャンスを逃すつもりはない。黒の騎士団の動きがきな臭いと分かった時から、いつでも動けるように準備はしていたからな」
ライブラの問いに紅茶を片付けながらオルフェウスは答える。
数か月前、ピースマークの情報網にエリア11で活動する黒の騎士団の動きが引っ掛かった。それは中華連邦やE.Uなど、主要な国家に黒の騎士団が秘密裏に接触を図っているという情報だった。
エリア11の黒の騎士団といえば、反ブリタニアを掲げる勢力の中でもかなり有名なテロ組織だ。それは組織の規模や戦力ではなく、その生存力と戦果によるものが大きい。
局地戦とはいえブリタニアの魔女と呼ばれるコーネリア軍に土をつけ、いまなお潰される事なく生き残り、宣戦布告できるまで組織を拡大させた。ブリタニアという大国の力を知るものにとっては、これだけで凄まじい成果である。
そんな黒の騎士団が各国に接触を図り、一体何を企んでいるのか。
亡命か、同盟か、いずれにせよピースマークとしても無視するわけにはいかなかったため、オルフェウスを含めた諜報に長けた者が調査をする事となった。その結果、黒の騎士団が近々ブリタニアとの決戦に踏み切ろうとしている事が判明したのである。
「黒の騎士団が勝とうが負けようが、ブリタニアの目はエリア11に集中する。いまなら断念していた作戦も実行可能だ」
紅茶を片付けたオルフェウスが、テーブルに置いてあった手袋を身につけながら瞳を鋭くする。
その眼差しの先には、既に次の戦場が映っているのがライブラにも分かった。
「気をつけてくださいね。オズ」
「安心しろ。俺の牙はそんなにやわじゃない」
それだけ答えて、オルフェウスが部屋を出る。
エリア11以外でも、戦いは始まろうとしていた。
「おいおいおい、ヤバすぎるだろ! あのゼロってやつ!」
「これってホントの映像? 誰かのいたずらじゃないよね?」
「間違いなく本物だよ。テレビは全部のチャンネルが乗っ取られてこの放送一色だし、ご丁寧にネットにも流れてる。お祭り騒ぎどころの話じゃないね」
E.Uのヴァイスボルフ城ブリーフィング室。
そこで作戦会議を行っていたwZERO部隊の面々は、突如飛び込んできた宣戦布告の報に盛り上がっていた。
リョウがテンション高く叫び、アヤノが目を丸くしながら信じられないと狼狽え、ユキヤが手元の端末で確かめた真偽を保証する。
「一度戦争に負けてエリアになった国が、もう一度建国して宣戦布告するなんて、前代未聞よ……」
「ハハッ、いかれてやがる」
アンナが口元を手で押さえながら震えた声を漏らすと、もう笑うしかないとばかりにクラウスが肩を竦めて両手を上げる。
もはや作戦会議など不可能なカオスな状況で、表情を険しくしながら考え込むレイラの下にアキトが静かに近付いた。
「司令、このどさくさに紛れてユーロ・ブリタニアが攻めてくるかもしれません。国境警備に注意喚起しておいた方がいいんじゃないですか?」
「あっ、そうですね。スマイラス将軍に連絡を入れておきましょう」
アキトの言葉で思考の海から浮上したレイラが頷く。
しかしすぐに端末を取り出す事はなく、眉間に皺を寄せたままアキトに向き直った。
「アキト。あなたはどう見ますか? この戦いを」
問われたアキトは、少しだけ思案するように沈黙を挟む。
その間も視線は逸らさず、真っすぐレイラを見ていた。
「戦力ではブリタニアが圧倒的です。順当にいけば黒の騎士団が負けるでしょう」
「確かにどれだけ組織が大きくても、黒の騎士団はテロリスト。戦力だけでなく、練度や物資もブリタニア軍には劣る……」
アキトの意見に同意するように、レイラも言葉を重ねる。
ただそれは誰でもできる予想と戦力分析でしかない。この戦いがそんな単純なものだとは、レイラもアキトも考えてはいなかった。
「ですが、あのゼロが勝算もなしに戦いに踏み切るとは思えません」
その証拠とばかりに、アキトは画面に映る仮面の男に視線を移しながら先程の予想をひっくり返す。
そしてレイラも同意見だと首を縦に振った。
「ええ。おそらく必勝の策を準備しているでしょう。しかしそれでも、勝機はほんのわずかしかないはずです」
いくらゼロの知略が底知れなくとも、大国ブリタニアとの戦力差は覆しがたい。
戦争でいくつもの国をエリアを落としたブリタニアの魔女コーネリアが率い、短期間で多くのテロ組織を壊滅させた冷血の魔法使いマリーベルを擁するエリア11軍を打ち破るのは、いかにゼロが育て上げた黒の騎士団でも困難を極めるだろう。
「どちらが勝つにしても、間違いなく世界が動く。……私達も、その覚悟だけはしておきましょう」
自分を戒めるように、レイラは確信を込めてそう言った。
様々な国の人間、様々な立場の人間が、エリア11――旧日本で打ち上げられた開戦の狼煙に注目し、その勝敗に思いを馳せた。
当然だ。黒の騎士団が起こしたこの戦いの結果次第で、世界の情勢は大きく変化する。故に誰もがその勝敗に無関心でいられない。
しかし肝心の結果について知る者はいない。宣戦布告をしたゼロも、それを迎え撃つコーネリアも、いまだ訪れていない未来の結果は知り得ない。
それを知る者など、存在しない。
――――ただ一人を除いては。
「聖神官シャムナが授かる」
戦士の国、ジルクスタン。
砂漠のど真ん中に首都を構えるその国の神殿で、赤い鳥が一羽、妙齢の女性の瞳から飛び立った。
「やはり、結果は変わらないようね」
先読みのギアスによって未来を知る彼女は、この国の王シャリオの姉であり、国の聖神官、シャムナ。
彼女はこれまで何度もギアスによって未来を予知し、ジルクスタンに富と勝利を齎してきた。
そして今回の戦いが始まる事もギアスによって随分前から知っていた彼女は、その勝敗を予知し、既にジルクスタンに最も利益が出るよう傭兵の派遣準備を済ませていた。
「ルルーシュ、ナナリー、マリーベル……」
故に彼女が今回予知したのは戦いの結果ではない。
戦いが終わった、その後。
「そして、カレン・シュタットフェルト」
戦後の顛末を予知したシャムナはいくつかの名前を舌に乗せる。
まだ会った事もない、見た事もない、けれどギアスの予知によって顔も名前も知っている人物達。
彼らがどうなるかをこの世の誰よりも早く知ったシャムナは、頬杖をつきながら唇で弧を描き、心底愉快そうに笑みをこぼした。
「ふふっ、面白い事になりそうね。ゼロ」
今話から第四部を始める予定でしたが、急遽幕間を入れてしまいました。やっぱりこういう回があった方が盛り上がるかなと思ったので。
亡国のアキトや双貌のオズなど外伝作品のキャラも出ていますが、今後の登場予定についてはまだ未定となっています。
ただ今後登場するとすれば、ジルクスタンの設定は過去作である『ギアス新生』の設定を踏襲していきたいと思っています。といっても、もし登場したとしても遥か先の事でしょうし、公式がこの作品の設定と矛盾する情報を出した場合はそちらを優先すると思うので、無理に読むような必要は一切ありません。正直読んでいても読んでいなくても、今作を読むのに何も問題ない設定だったりします。
次回の投稿がいつになるかはまださっぱり決まっていないのですが、次回こそ第四部が始まりますのでお楽しみに。
一応上記の作品のリンクだけは貼っておきます。
ギアス新生
https://syosetu.org/novel/213992/