弟「さぁお前の罪を数えろ…」
~紅魔館~
リンドウ「…なぁリーダー、お前が俺を助けようとするあまり無茶なことして、皆を心配させた罰としてこうなるってのはまだわかる」
レイジ「…」
リンドウ「でもさ、なんで俺まで一緒に罰受けなきゃならないんだ…?」
咲夜「私語なんてしてないで早く着替えなさい」
リンドウ「へいへい…」
更衣室にて、なんで自分まで…と愚痴を漏らしながら執事服に着替えるリンドウにドアの外から咲夜が注意する。どうしてこうなっているのかは、今から少し遡る―――
~4、5時間くらい前~
リンドウ「へぇ~ここがお嬢ちゃんたちが住む屋敷なのか。…中の方も真っ赤で目が痛いな」
レミリア「だからお嬢ちゃんというのはやめなさい。…レイジ、それとリンドウといったかしら」
リンドウ「ああ」
レミリア「来なさい(グイッ)」
リンドウ「ぉおっ!?」
フラン「…どうしたんだろ?」
サヤカ「さぁ…」
リンドウの救出に成功したレイジは後を追ってきた仲間と共に紅魔館に戻っていた。だがこの時のレミリアの機嫌はあまりよいものではなく、紅魔館に着いた直後、真っ先に彼は手を引かれとある部屋に連れて行かれた。なぜかリンドウも一緒に。
連れて行かれた場所は、以前レイジがレミリア、フランと本気の弾幕ごっこをしたあの部屋。奥に見える階段と、その頂上にある椅子が威厳を醸し出している。2人を部屋に連れた後、レミリアはその椅子に座り、2人を見下ろす。
リンドウ「いってて…意外と力強いんだな、お嬢ちゃんは」
レミリア「…」
リンドウ「それにしても俺達をここに連れてきて、何かあるのか?」
レミリア「…どうやら自分の立場を理解していないようね」
リンドウ「…?」
いきなりここに連れられて、自分の立場が、と言われても理解するのは難しい。これは相当空気を読むのが上手い者でなければ察することは出来ないのではないだろうか。
レミリア「私、これでも怒ってるんだけど」
レイジ「…?」
レミリア「ハァ…、まず1番の原因はレイジよ。1人で行くなら行くで、なんで私たちに言おうとしなかったの?」
レイジ「…」
レミリア「巻き込みたくなかった、なんて言わないでよね。幻想郷にアラガミがはびこるようになった時から、私達は巻き込まれているんだから」
リンドウ「ん、この世界にもアラガミがいるのか?」
レミリア「そうよ。あなた達がここに来る前は退屈なほど平和だったのにね」
リンドウ「ちょっと待て、それじゃまるで俺達のせいみたいじゃ…」
レミリア「口答えをするな、人間風情が」
この時、一瞬でレミリアから尋常じゃない威圧感が発せられた。口調も変わり、声も2人に圧し掛かるようなものとなっていく。
レミリア「一度思い知らせるべきだったかもしれないな。ここがどういう場所であるかを」
リンドウ「…!?」
レミリア「リンドウ、私やフランが何者であるかは道中で言ったわよね。ここは私達吸血鬼が住まう場所、即ち悪魔の居城…。そんなところにたった数匹の人間が迷い込んだら、普通はどうなると思う?」
レイジ「…」
ピリピリと伝わってくる、レミリアの威圧感。リンドウは何も言えなくなってしまっている。
レミリア「…想像には難くないはず、殺されるのがオチだ。……こんな風にッ!」
一瞬でレミリアがレイジに急接近し、彼の首を掴み、もう一方の手で爪を眼前に突きつける。しかし彼は表情1つ変えなかった。
レミリア「レイジ、お前が今までこの館で生きてこられたのは偶然さ。もしフランがあそこで躊躇わずに能力を使っていたら、もし私がお前と全力で「遊ぶ」ではなく「戦って」いたら…お前などとうの昔に肉片になっている」
レイジ「…」
レミリア「…気に入らないな、その顔。まるでこの程度の脅しじゃ怖くも何ともないと言いたそうな表情…」
命の危機など、元の世界で何度も経験してきた。威圧感で動きにくい状態ではあるが、今更この程度では怖くも何ともない。今の気持ちを例えるなら、説教を受けて気分が落ち込むような感じだ。彼にとって、1番の恐怖は肉親や大切な人を失うこと。あの絶望は、何事にも代えることは出来ない。
リンドウ「…おいおいお嬢ちゃん、いくらなんでも冗談きついぜ…今俺達を殺して何になるってんだ?」
レミリア「…軽口が減らない男ね、この私に向かってなお無礼を働くか。それが何を意味するのか…わかっているのだろうな?」
リンドウ「ここでビビったら、俺のキャラが崩れちまうかもしれない…って作者が言ってるんでな」
レミリア「おまえは何を言っているんだ」
なるべく重くプレッシャーをかけているつもりなのだが、2人とも屈しようとする様子が見当たらない。それどころかリンドウはジョークを言って笑みを浮かべてさえいる。ただの人間なら気絶するか、恐怖するか、命乞いを始めるものだ。
リンドウ「なぁ、もう終わりにしないか?雰囲気悪いままはお前も嫌だろ?」
レミリア「…ハァ。やめたやめた。怒りを通り越して呆れちゃったわ」
レイジの首を握る手を放し、溜息をつく。先程の威圧感もすっかりなくなり、うなだれるレミリア。相当呆れ果てたのだろう。
レミリア「まだサヤカの方が普通な方なのかもね…こいつらは揃いも揃って、色々と人間離れしてるわ…」
リンドウ「それは褒め言葉として受け取っておくぞ」
レミリア「好きにしなさい、あぁなんか急に疲れた気がする…もう寝よ」
リンドウ「今何時だ?時計は…お、あった、って午前4時かよ。あんま眠れないじゃないか。お嬢ちゃん、悪いけど寝室借りたいんだが、どこにあるんだ?」
レミリア「…2階」
リンドウ「わかった。じゃ、リーダー行くぞ。おやすみ、お嬢様」
レミリア「…」
レイジとリンドウが一足早く部屋を後にする。残されたレミリアも部屋を出ようと歩き出す。
レミリア「…人間って、よくわからないわ」
そして翌朝、寝室にて―――
「―――なさい」
レイジ「…」
「―――なさ――ば」
レイジ「…?」
レミリア「起きなさい!」
ガバッとレイジが寝ていたベッドの掛布団をひっぺがす。まさか紅魔館の主が直々に起こしに来るとは思ってもおらず驚きで目が覚めるレイジ。レミリアの隣にはうきうきとして落ち着きのないフランの姿もあった。
フラン「罰ゲーム♪罰ゲーム♪」
何か気になる単語が耳に入ってくる。昨晩のことでまだ何かあるのだろうか。
レミリア「レイジ、あなたには罰を受けてもらうことにするわ」
突然すぎて理解出来ないレイジ。叩き起こされた直後の頭は働こうとしない。
レミリア「ほら、早く顔を洗って歯を磨いて、身だしなみを整えてきなさい」
フランに引っ張られ、ベッドから引きずり出される。ワケも分からないまま洗顔、歯磨き、寝癖直しなどの身だしなみの整理をする。なぜかレミリアやフランが同伴して見守っている。いつもと違う様子に彼の頭は混乱しっぱなし。そして…
レミリア「さ、この部屋に入って」
レイジ「…」
フラン「執事♪執事♪」
またも気になる単語が。だが彼の頭は覚醒したてで働いていない。フランどころかレミリアもどこかウズウズしているようにも見える。何か面白いことでもあるのか。
中に入れば更衣室。巨大なクローゼットに服がズラーっと並んでいる。何もここで着替える必要はないはず。レミリアとフランは服を漁っている。着せたいものでもあるのだろうか。
レミリア「男物を探すとなると…大変ねぇ」
フラン「やっぱ咲夜呼んだ方がよかったかなぁ」
レミリア「今あの子は朝食の準備中よ、邪魔するワケにはいかないわ」
フラン「お姉さまが…咲夜に気遣いを…!?」
レミリア「…気まぐれよ」
フラン「うっそだぁ~」
レミリア「…で、見つかったの?」
フラン「ううん、まだー…あ、これとかどう?」
レミリア「え~…これの方がいいんじゃないの?」
フラン「え…そんなのレイジに着せたくないよ…これでしょ絶対」
レミリア「レイジ、どっちがいい?」
レイジ「…」
フラン「これがいいだって!やっぱレイジはわかってくれた!」
レミリア「がーん」
フラン「さ、早く着て!」
フランが嬉しそうに服を渡す。見たところ礼服か、タキシードか、そういった類の服だ。とりあえず着てみることにする。
フラン「おー…」
レミリア「くっ…くやしいけど、なかなかセンスあるわね、フラン…」
レイジ「…」
サイズも丁度良く、鏡を見ればそれなりに様になっているあたり、フランのセンスは確かなもののようだ。だがこれの後、一体どうするのか。
レミリア「…え?何を言っているの?あなたはこの異変が終わるまで、ここで働いてもらうのよ。それがあなたに課せられた罰」
レイジ「…」
ようやく理解した。だからここまで楽しそうにしていたのだろう。罰ゲームをやる側は確かに楽しいものだ。
レミリア「前々から思っていたのよね、あなたをここの執事にしてみたいって」
フラン「うんうん、そしたら毎日レイジと遊べるしね!…あ、この際リンドウも…」
レミリア「いいわねそれ、男手が増えれば咲夜も大分楽になるでしょ。そうと決まれば…」
ぴゅーっとレイジを置いて部屋を後にする吸血鬼幼女たち。昨日のあの当主らしいプレッシャーは微塵も感じられない。完全に無邪気な子どもだ。
2~3分して、彼女達はやってきた。今度は咲夜も一緒にリンドウを連れている。
リンドウ「一体何なんだ…ん、リーダー?どうしたんだその恰好」
レミリア「見ればわかるでしょ。昨日の件の罰として、私達のしもべになるのよ。あなたも、同じ罰を受けてもらうから」
リンドウ「何だって?俺は何もしてないだろ!」
レミリア「あなたのせいで、レイジが無茶する羽目になった。だからあなたも同罪よ」
リンドウ「おかしいだろ!あれは仕方のないことで…」
咲夜「お嬢様、妹様、これから彼は着替えに入りますので、一度部屋をお出になってくださいませ」
レミリア「わかったわ、仮にも私の部下になるのだから、いい感じのをお願いね」
咲夜「お任せください。…はい、これを着て。私は外で待っているから」
リンドウ「早いな服選び」
咲夜「これくらいは出来ないと、ここでの仕事はやりきれないわよ」
リンドウ「はぁ、嘘だろ…」
吸血鬼姉妹が退室して少しした後に咲夜も退室、リンドウは渋々着替え始める。
リンドウ「…なぁリーダー、お前が俺を助けようとするあまり無茶なことして、皆を心配させた罰としてこうなるってのはまだわかる」
レイジ「…」
リンドウ「でもさ、なんで俺まで一緒に罰受けなきゃならないんだ…?」
咲夜「私語なんてしてないで早く着替えなさい」
リンドウ「へいへい…」
そして現在…
リンドウ「おーい、着替え終わったぞー」
レミリア「出てきて姿を見せなさい」
レイジ、リンドウが更衣室から姿を現す。2人とも執事として様になっている服装だ。
フラン「リンドウもかっこいー☆」
リンドウ「いやぁ、自分でもカッコいいと思っちまったよ」
レミリア「2人とも黙ってればかっこよく見えるのにね…レイジは大人しそうに見えてとんでもないことしでかすし、こいつは相変わらず軽口が絶えないし…」
フラン「これで咲夜も仕事が楽になるね!」
咲夜「ありがとうございます、お嬢様、妹様」
レミリア「…さ、これで晴れてあなた達は私のしもべとなった。これからする仕事は咲夜が教えてくれるから、しっかり働きなさい」
レイジ「…(コク)」
リンドウ「なんでこうなるんだ…」
魔理沙「私の出番、急になくなったな…」
霊夢「…(肩に手を乗せる)」
魔理沙「あぁ…安心しろ、これでお前は1人じゃない…」
霊夢「ううん、違うの…」
魔理沙「…?」
霊夢「次の回であなたは出番あるのよ…」
魔理沙「!」
霊夢「サヤカとの絡みが今は必要不可欠でしょ?あなたは…」
魔理沙「う…」
霊夢「ねぇ…私はどうしたらいいの…?」