毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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活動報告書いてます。
気が向いたら見てあげてください。


何かに巻き込まれそうな毛玉

服がボロボロだぁ。

針も糸もないんだ、縫えるわけがなかろう。

糸はないけど毛はあるよ、縫えないけど。

穴が開いたり、破けたり………大ちゃんやチルノって妙に洋服っぽいの着てるけど、あれってどうやって手に入れてるんだ?

聞いたらこの世に存在した時からあの服なんだってさ、解せぬ。

なぜ、私だけ全裸だったんだ、なぜ私だけツルピカザルだったんだ。

あ、毛玉だからか、そっかぁ。

自己完結した。

 

謎のスタン○使いルーミアに襲われてから三日ぐらい経った。

久々に平和な日常やでぇ。

 

さて、妖力についてだ。

この妖力、私の身の丈に合っていない。

体が傷ついたとき、霊力や妖力を消費して傷を癒すことができる。

これは、再生能力を高めるという意味だ。

私の場合は、体に穴が開いたら霊力が再生能力を高めて傷がだんだんと塞がってくる。

人間の自然治癒と比べたら、まあ結構回復力は高く、ちょっとした傷なら一分くらいで完全に治癒する。

しかしこの前は妖力を使うと大怪我でも構わずすぐに治った。

あのあと触って確かめたりしてみたけど、傷を負う前と何にも変わらなかった。

 

私の考えとしては、幽香さんの妖力は凄すぎて傷を治そうとしたら一瞬で治るってことだ。

だけど、私の体は霊力で構成されていると大ちゃんは言っていた。

気がする。

だったらなぜ、妖力で傷が塞がるんだろうか。

体と合わない力で傷は塞がるのか?

しばらく試していくうちに、答えがわかった。

 

私の妖力は霊力に変換できる、それも無意識に。

そして変換効率がヤバイ。

ちょっとの妖力で私の今持ってる霊力の倍以上増える。

しゅごい、しゅごい幽香さんしゅごい。

幽香さん怖い。

そしてこの変換によって大量に生成された霊力は再生じゃなくて体の再生成に使われている。

つまりもう一度体を作ってるってことだ。

そりゃあ治るの早くなるよね。

私の体は貧弱だから、きっと体を構築してる霊力も少なくて余計早いんだろう。

 

あと、霊力と妖力の量も、以前に比べてそこそこ増えた。

なぜだかわからないけど、増える分には別にいいや。

 

 

しっかし………誰かに見られてる気がしてならないんだよねぇ。

 

辺りを探っても誰かいた形跡とかは全く見つからないのに、誰かに見られているという違和感だけが常にある。

杞憂にしては、頻繁に襲うこの感覚。

やれ闇を操る妖怪や、人の心を読む妖怪や、よくわからないお花化け物がいる世界だ、何があってもおかしくない。

 

見られている感覚のする方向、妖怪の山の方を向く、なんかしてやろうか。

 

親指を伸ばして、首を掻き切る動作をしてやった。

どうせ誰も見てないしへーきへーき。

誰か見てたら?知らんな。

 

とにかく服どうにかしよーっと。

 

 

 

 

 

「………これは……」

 

あの毛玉、どうにかしてるんじゃ?

人の形をした毛玉ってとこには驚かないけど、これだけ離れていても微かに感じることができる妖力とあの再生力。

そして、この眼で見ているのを察知してあの表情………

あの動作は間違いない、これ以上私を見るならお前を殺すという意味だ。

いくら距離が離れているとはいえ、この距離から見られているのを察知したんだ、早くこの場を離れないと。

 

「柊木さん山に戻り………何やってるんですか」

「あ?昼寝」

「働けよ」

「ぐはっ、腹を思いっきり蹴るなよ!お前それでも女か!」

「女に蹴られただけで喚かないでくださいそれでも男ですか」

「いや、蹴りは男女問わず痛いからね!」

「………」

 

昼寝して天を仰いでいた同僚を蹴り飛ばしてやったら文句を垂れてきたので、思いっきり敵意を込めて睨み付ける。

 

「帰ろうか、うん」

「働かないならかえってください、土に」

「死ねと?」

「はい」

「お前最近ひどくない?」

 

最近ずっと寝る暇もなく働いて忙しいくて疲れてるのは分かるけど昼寝は違うでしょう。

職務怠慢するのが悪いんですよ。

 

「で、どうだった、あの毛玉」

「あれ本当に毛玉なんですか、その辺の野良妖怪よりやばいですよ」

「そうか、じゃあとりあえず上に報告な」

「柊木さんやってくださいよ」

「はぁ?人に押し付けるなよ」

「働いてないくせによく言いますねぇ」

「くっ………その目を止めろその目を!その死にかけの子犬を見るような目は止めろ!」

「子犬の糞を見る目ですけど?」

「………お前糞をいちいちそんな睨みつけてんのか」

 

腹が立ったから足を思いっきり踏んでやったら悶絶していた。

こんなくだらない事してる場合じゃないんですよ、早くあれの対策練らないと………

試しにあの毛玉をもう一度見てみるとこけて鼻から血を出していた。

 

「変な奴………」

 

 

 

 

今は白狼天狗専用の寮の中にいる。

大天狗に報告を終え、一日の業務を終えて自分の部屋へ戻ろうとしたはずなんだが………

 

「こんにちは柊木さん!椛はどこでしょうか!あ、髪切りました!?」

「切ってないですうるさいです黙ってください。なんの用ですか射命丸さん」

 

自分の部屋の扉の前で足止めを喰らった。

目の前で顔を近づけて大声で話す射命丸文。

なんかお偉いさんとこの生まれとか聞いたから、言葉遣いだけは気を付けている。

一応俺たち白狼天狗の下っ端と比べたら位は高いんだが、なぜか気軽に話してくる。

こっちはちょっとでも言葉遣い間違えると減給が待っているからあまり話しかけて欲しくない。

彼女が俺たち下っ端に敬語を使うのは何故か知らない。

 

「いやぁ、湖の近くに変な毛玉が出たって話でしょう?なんでも人の形をしているとか。もうそれ毛玉なのか怪しいと思うんですけどぜひ色々知りたいんですよ。確か今日椛と柊木さんってあの毛玉の見張りの任務でしたよね?ですから色々お聞きしたいなぁ、と」

「はぁ………やっぱりそういう事ですか。椛は任務終えたあと別れたので知りません」

「あやや、それは残念、ではまたきますので」

 

もう来ないでくれ。

というか、男と女の寮は別なはずなんだが?椛探しに来たのになぜ男の寮へ?

鴉天狗特有の速さで飛んでさっていく射命丸。

風で備蓄品が吹っ飛んだ、直せよ。

 

「………行ったぞ」

「すみません匿ってもらって」

「いいから早く帰ってくんない?俺も寝たいの寝させろよ」

 

後ろの扉へ声をかけると、扉の隙間から頭が出てきた。

扉から頭だけ覗かせている椛。

射命丸がやってくると察したのか、なぜか俺の部屋に逃げ込んだ。

 

「早く帰れよ、変な噂立てられたら敵わん」

「私だってこんな臭い部屋入りたくないですよ、顔見知りで一番近かったのがここってだけです」

「え?臭かった?どのへんが?どのへんが臭かった?」

「あの辺です」

「あの辺ってどこ」

「やっぱその辺でした」

「いやどこだよ」

「じゃあ全部」

「じゃあってなんだよ」

 

臭いって傷つくんだけど。

 

「やっぱりここに居ましたか椛」

「「!?」」

 

背後から急に射命丸の声がしてびっくりした。

帰ったんじゃなかったのかよ。

 

「おじゃましまーす」

「あ、ちょ、勝手に入らないでください!」

 

当たり前のように人の部屋に侵入する射命丸、帰れよ頼むから帰れよ。

 

「な、何故ここが」

「ふっふっふ、甘いですよ椛。貴女が隠れそうなとこなんてこの私にはお見通しですよ」

「やめてください気持ち悪い」

「それは酷くないですか?長い付き合いじゃないですか、ちょっと話を聞くくらいいいでしょう?」

「そんなに気になるなら自分で見てくればいいのでは?」

「いやぁそうしようと思ったんですけどね?見に行こうと思ったその日に限って普段の二倍の仕事が上から投げられるんですよ。酷くないですか?」

 

いや、自分の素行のせいだと思う、完全に対策とられてるな。

そうやって勝手に行動して問題起こすからそうなるのでは?

 

「しょうがないですね………喋らないと帰らないですよね?」

「当然でしょう!今この瞬間も仕事抜け出して来てるんですから」

「いや、それはともかく俺の部屋でそのやりとりすんのやめてくれませんか?できれば他の場所で………」

「「断ります」」

「なんでそこだけ息合うんだよ」

 

 

 

 

「なるほど………宵闇の妖怪をも退ける力を持っている毛玉ですか………異常ですね。毛玉自体は少し探せば見つかる程度にはいますけど、そこまでの力を持つというのは聞いたことがないですね」

「しかもあの毛玉、私が見ているのに気づいてこれ以上見るなら殺す、とやってきました」

「おぉ、怖い怖い。では大天狗殿はどういう考えなのですか?」

「放置の方針らしいですよ、上の考えることはよくわかりません。あれは放って置いたら化け物になりますよ」

 

二人ですごい話に熱中していらっしゃる。

確かに、地底に侵入したやつを野放しにしておくというのは悪手にしか思えない。

あれのおかげで生活が苦しくなった。

 

「じゃあ椛、今度空いている日に行きましょうよ」

「行く?………まさかとは思いますけど」

「そうですねその毛玉のところですね」

「駄目ですよ!もしこっそり行くにしてももし上に気付かれたら文さんも私たちもどうなるかわからないんですよ!?」

「私たち?もしかして俺入ってる?嘘だろ?言い直せよほら、早く」

 

無視してきやがる………

確かに俺と椛はあの毛玉の監視任務の時であれば接触することも可能だが、射命丸が行くってことになると発覚すればただじゃ済まないだろう。

まず絶対上から許可下りない。

組織に関しての決め事は大天狗や天魔が決めるのだ、下っ端が勝手にいろいろ行動して言い訳がない。

 

「せめて許可取りましょうよ射命丸さん」

 

と、声をかけたら

 

「そんなの取れるわけないじゃないですかー。大丈夫です!私逃げ足だけは自信あるので」

 

と、無責任な言葉が返ってきた。

 

「俺達は大丈夫じゃないですよね?それ俺たちだけお叱りもらうやつですよね?」

「はぁ、しょうがないですねぇ。じゃあ私の独断行動ってことでいいですよ」

 

おい何がしょうがないだよ、当然だろ。

それに結局それ、俺たちが責任取らないといけなくなるだろ。

 

「報告しなきゃいいんですよ、知られなきゃ違反じゃないんですよ」

「私たちじゃなかったら粛清対象ですよ、その発言。やるのは勝手ですけど、どうせ私たちの任務の時にやるんでしょう?」

「もちろんですとも、その方がいろいろ都合いいですしねぇ」

「はぁ………じゃあいいですよ、付き合ってあげます」

「わーい椛優しいー!」

 

なんやかんやでこの人には甘いんだよなぁ。

椛に近づいていく射命丸。

 

「近づかないでください上に報告しますよ」

 

あ、蹴られた。

さて………近頃この山も不穏な雰囲気だし、厄介なことにならなきゃいいんだがなぁ。

 

 

 

 

「ばー」

「ピュァァァァァァ!?」

 

し、心臓破裂するかと思ったぁ!

真夜中の道で脅かしてくんなよ!寝れなくなるでしょうが!

 

「って、ルーミアか………今日はあれじゃないんだね。よかった………」

「こんな夜中に何してるのー?」

「え、あ、うん。この魚どうしようかなって」

 

例の魚、いっぱい獲れた。

あの湖、この魚しかいないの?こんなんサバイバル無理やて、生きてかれへんて。

 

あのルーミアとの戦いの後も、ちょくちょくルーミアとは顔を合わせたけど、あのやばいほうの彼女とは会っていない。

本人はあの夜のことは覚えていないようで、バカオーラを醸し出している。

 

「いる?」

「いらない、まずいから」

「あ、やっぱり不味かったのね」

 

こう見るとあの夜のルーミアと同じ人とは思えないなぁ。

まず髪の長さ違うでしょ?それに背丈も違うし………目つきも違う、あっちはすごい鋭かった。

 

「なぁルーミア、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「別に構わないぞー」

「どうも。人って美味しいの?」

「変なこと聞くのだー」

 

まぁ、確かに妖怪からしたら変なことだろう。

妖怪に限らず、人を食う者はそれを当然のこととしか考えていない。

美味しいか美味しくないかはともかく、生きるために必要だから食べるということもあるだろう。

そこには人が家畜を育てて加工し、食すのとなんら変わらないものがある。

ただ、本人達はどう思っているのか聞きたい。

どう思って人を食べているのか。

 

「美味しいのと美味しくないやつもいるのだー。見た目がまんまるとしてる方が美味しいのだー」

「ふーん、じゃあなんで人を食べるの?」

「何で?そんなこと考えたことないのだー、普通に生きるためじゃないのかー?」

 

やっぱりなぁ。

突き詰めれば食べるという行為は全て生きるためにたどり着くだろう。

誰だってそうだ、生き物は何かを食べないと死んでしまう。

人と妖怪は違う。

種族が違うのなら、それはもう捕食対象なのだろう、生きるためには仕方のないことだ。

 

「人食べなくても生きられないの?」

「無理なのだー」

「なんで」

「なんでって言われても………そうしなければいけない気がするのだー」

 

人を食べなければ生きられない。

妖怪の中でも人を食べる奴と食べない奴がいるけど、ルーミアは食べる奴。

現代ではゆるキャラ的な感じになってるけど、この時代では妖怪は人からの恐怖の対象。

そこに何か、私如きには理解し得ない何かがあるのは間違いない。

妖怪は人に恐れられるもの。

人を食うという行為も、人に恐れられるための手段なのだろうか。

あぁもう、さとりん辺りに聞いておけばよかったなぁ。

 

まぁ結局何が言いたいのかというと。

 

毛玉の存在意義ってなんだろ

 

考えても考えてもわからん。

妖怪や妖精は、現代でも広く知られているし、昔は実際に信じられていた。

でも毛玉が生命体だなんて初耳だ。

毛玉なんてあれでしょ?猫がオエする奴でしょ?それがなんで生命体になってるんだよ。

しかもこの幻想郷では別に珍しくもないみたいだし………もうこれわかんねえな。

そういや私なんの毛なんだろう。

やっぱり猫?猫なの?

いいやもう、どうせ考えてもわかんないし。

 

「ちょっとルーミア、ベジタリアンになってみない?」

「べじた………なんなのだそれはー」

「肉以外のものしか食べない人」

「そんなことしたら死んじゃうのだー」

 

人は死なないのに。

人が人喰い妖怪に食べられるのは自然の摂理。

それを阻止しようとするのは生態系の破壊に繋がる………のかもしれない。

 

 


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