「……ほんとに来たなぁ」
「何がです?」
「いやね、前に毛糸に近々争いが起こるかもって言われてさ………言った通りになったなあって」
「毛糸さんが?……そういえばあの人何してるんですかね」
「それがさ…文が急いで見に行ったら家が壊れてて、既にいなかったらしいんだよ」
「………流石に生きてますよね」
「というか、あれを殺すような奴が相手にいたら本格的にまずい」
「ですよねぇ……」
流石に毛糸は死んでないと思うけど……だとして今どこにいるんだろうか。
「もしかしたらここからどこか遠いところに逃げてるのかも…」
「さあ…正直あいつの性格なら首突っ込んできそうだけど」
「別に毛糸さんがわざわざ巻き込まれなきゃいけない理由なんてどこにもないんですけど……」
「まあ今いないやつの話したってしょうがないよなぁ……るりは?怖くないの?」
「この足の震えが見えないんですか?」
おう……めちゃくちゃに震えてるけども。
「そりゃもちろん怖いし嫌だし引きこもってたいですよ。でもいくらそんなことぼやいてたってどうしようもないじゃないですか」
「ちゃんとしてるなぁ」
「自分の居場所は自分で守らなきゃいけないんですよ。やれるだけのことは、やってみせます」
……昔なら部屋の隅でうずくまって震えてただろうに、今やしっかり戦おうとしている。
河童は天狗に比べても非力だから後方支援にはなるけれど、敵と交戦する可能性がないわけじゃない。何があるかわからない。
「でもさ、それこそるりだって、一人でどこか遠くへ行くこともできるんだよ?」
「あー……あたし、人見知りだとか引きこもりとか言ってるけど、結局一人は嫌なんですよ。誰かと繋がってたいんです、にとりさんとか、毛糸さんとか。まあこの二人しかいないんですけどね、だからまあ、今ここで戦おうとしてるにとりさんと一緒にいたいんです」
「そっか……」
るりには私か毛糸しかいないんだもんな……
「にとりさんは?怖くないんですか?」
「そりゃもちろん怖いよ」
怖くないのなんて余程死ぬ自信がない奴くらいだろう、元々私たち河童は臆病なんだ、怖くないわけがない。
「同じだよ、私もここが居場所だから守りたい、それだけ」
「そっか、同じかぁ……えへへ」
「お、何笑ってんの?そんなに余裕そうなら前線で活躍してもらおうかな」
「ちょっと、冗談じゃ済まないからやめてくださいよ、本当に」
「お前の射撃精度には私も一目置いてるんだ、ぜひその腕で敵の眉間を貫いてくれよ」
「物騒なこと言わないでくださいよ……最悪そうしますけど」
しかしまあ……今回の争いは十分に予想できることだった、故に準備もある程度整っている。問題は向こうの勢力がどの程度のものかわからない方だけれど……やってみるしかないだろう。
「どうか死にませんように…….」
「本当にねー」
「ほら柊木さん起きてください、始めますよ」
「あとちょっと寝かせろ……」
「……椛」
「待て椛、その手を離せ起きるから。頼むから一旦落ち着け、落ち着いて俺の耳から手を退けろ、な?」
「開戦前に寝かせろとか呑気なこと言ってるからですよ」
「お前ら鴉に寝る間も惜しんで哨戒する俺たちの気持ちがわかるのか?」
「そこにけろっとしてる白狼天狗がいますけど」
「それはこいつがおかしい」
まあ椛がおかしいのは認めますけど……この状況で寝かせろって言うなんて随分とまあ…呑気なものですね。
「死因が眠気とか絶対に嫌だからな俺は」
「戦場で眠気を感じるなんかことないでしょう、じゃなかったら自分の足の匂いでも嗅いで眠気覚ましでもしてください」
「お前眠くないのかよ椛、あと俺の足は臭くない」
「私は他の同族みたいに貧弱じゃないので」
そりゃああなた基準で考えたら貧弱になるでしょうけども……
「…始めていいですかね?」
「おう、聞きながら寝落ちするから始めてくれ」
「椛、一発殴って」
「ちょ待てがはっ……」
「流石に緊張感なさすぎじゃないですか……?」
…まあ、急に結界張られて数年も経ったら争いが起こるって、今まで平和だった分現実見ないのはわかりますけど。
「はいはいわかったよ……お前らに合わすの大変なんだからな」
「私たちが異常みたいな言い方するのやめてもらえます?」
「そう言ってるんだが」
「椛」
「待て待て待て」
……まあ重い雰囲気よりかはこのくらいの方がいいのかもしれない。
「私たち鴉天狗とお二人は別行動ですね、まあ基本的な役割変わりませんけど……私たちが飛んで遊撃、お二人は前線ですね」
「俺たちいつもこんな役割じゃね」
「いつもというか、毎回ですね」
「まあそれぞれの種族の能力を加味したら自然とこうなると思いますよ?戦闘に不向きな種族だって結構いますし、形だけの所属で実質的には不干渉の種族だっていますね……」
「天狗が一番多いもんなこの山……」
「そもそもこの組織自体ほとんど天狗で回ってますからね、河童も結構いますけど」
特に河童とか補助と後衛役が本当に多い、彼らがいたおかげで今までなんとかなってきた節もある。
「まあ基本は後衛を守りつつ前線を維持するという役割になると思います」
「要するに肉壁ですか、ちょうどいいのがここにありますね」
「俺そんなに硬くなれねえからな、すぐに砕けるぞ」
まあ確かに……椛は別格として、柊木さんはほかの天狗たちとそこまで変わらない、単体で戦力として見るのは無理がある。
「それにしても急に来ましたね、もう少し向こうの動向とか早く察知できていたら変わったと思うんですけど」
「椛の言う通りですね……これでも河童とか勝手に兵器生産を再開させていたみたいですし、無防備の状態というわけでもないんですけど」
「うちは大天狗とかあの辺の奴らが後ろで見てるだけだからなあ、前来て戦ってくれたら楽なのに」
まああの辺のは天魔様を守る最後の壁のようなところはある、敵もこちら側の戦力を殲滅するというよりは、首領である天魔様を狙いにくるという可能性もあるだろう。
「とりあえずお二人は一緒に行動してくださいね」
「なんで」
「なんで」
「椛と一番連携取れてるのがあなただからですよ、二人で敵陣に突っ込めって言ってるわけじゃないですけど、互いに協力してくださいね」
「後ろから刺されそうで嫌なんだが」
「なんなら今刺しましょうか」
「ほらほらほら見ろこれ」
「………」
この二人はいつまで経ってもこんな感じだなあ…関係が変わらないというのも良いことではあると思うけれど。
「椛と組んでもらうので必然的に交戦の機会増えると思いますけど拒否権ないですから、命令です」
「横暴だろこれ」
「効率良いように判断してるだけですよ、椛も単独行動しないでくださいね、向こうの詳しい戦力わかりませんし」
「私はこのお荷物の面倒見ながら慎重に立ち回れば良いんですね、了解しました」
「事実だけど腹立つ」
うちの山には、何か大きな力を持った存在がいるわけではない。天魔様とかがいるけれど、前線に出すわけにはいけないし。
そういう点では彼女がいれば……まあ部外者なのだけれど。
「危なくなったらすぐに撤退してくださいね、正直他の天狗たちがどうなろうと知ったこっちゃないので」
「ぶっちゃけますね」
「私の目的は私たち三人全員無事に生き延びることですよ、勝つのは大前提です」
「あいつは今どうしてるんだ?」
柊木さんが私に疑問を投げかけてくる。
「毛糸さんは……正直言うと見つかりませんでした、まあ確かにもともと無関係ですし、本人は戦いが好きなわけでもないですしね」
「そうか……いたら楽なのにな」
「現状この幻想郷において、どこかに頼るという行為はこの妖怪の山の権威を落とすことになりかねない。だから本当はこの山の勢力だけで今回の戦いを制さなければならない。そうでしょう文さん」
「まあはい、そうなんですけど………ぶっちゃけ頼れるなら頼ってさっさと敵を殲滅してもらいたいですね」
とはいえ少し不自然だ、チルノちゃん達も湖にはいなかった、どこか別の場所に避難しているのだろうか。
何より毛糸さんが何も言わずに行方をくらますと言うのが……私の中で結構引っかかっている。家も半壊していたし、何かあったとしか思えないけれど……
「さて、戦いが始まるのは向こうが攻めてきた瞬間からですね。防衛を最重要の目的としつつ、敵の首領らしきものがいたら集団でぶっ叩いてください」
「そんなものいなかったらどうする」
「まあいなかったら全員殲滅ですかねえ、向こうの戦意が削がれるまで」
最悪河童の作ってる物凄い爆弾とかで吹き飛ばすことになるんですかね……どの程度物凄いのか知りませんけど。
「…あー、そろそろ私上司のところ行って報告しに行かないと……それじゃあ二人とも、所定の位置についてくださいね。また会いましょう」
「そうですね、また」
「またな」
裏切り者はいない、らしい。そういうことをしそうな輩は上層部が圧をかけたり始末したり、牢に入れたりして徹底的に排除されていたようだ。確かに裏切りなんて起こったら非常に困る。
……毛糸さんは今どこにいるんだろう。
「ここにこれと、向こうにそれと……あ、ここはこれか………準備物多くないですかぁぁ!?」
「ええいごちゃごちゃ言うな!急に始まったんだからしょうがないだろ!できる限りの防衛設備を揃えて敵を迎えなきゃいけないんだから」
「あたし敵と戦う前に重労働でくたばりそうなんですけど」
「その時は興奮状態になって身体能力も上がる薬を入れてやるから気にすんな」
「それ危ないやつですよね!?死にません!?」
「考えうる副作用としては抜け毛、嘔吐、発熱、動悸などがあるね」
「駄目じゃないですか!」
「されたくなかったら口より手を動かせ!いつくるかわからないんだぞ!」
「とは言っても本当にそろそろ体力が……」
「これだから引きこもりは」
「うぅ……」
体力ないのは引きこもってるせいだから何も言い返せない……
「周り見てみなよ、ほとんどの河童が休まずに準備してるんだぞ」
「そうは言いますけど、あれほとんど戦いが始まったら補助役に回りますよね」
「そうだね」
「でもあたしは戦い始まったら狙撃兵になるんですよね」
「そうだね」
「じゃ今体力減らさなくてもいいじゃないですか!後に備えさせてくださいよ!」
「甘えるな!私なんて補助兼後衛だけどこうやってるんだぞ!いつも引きこもってる分しっかり働け!」
何も言い返せない……辛い……そっか、にとりさんも頑張ってるもんなあ。
「この戦い終わったら仕事なしで目一杯引きこもらせてやるから」
「誠心誠意頑張ります!」
「……私が言うのも何だけど、それでいいのか」
そのためにはまず勝って生き残らなきゃ。
椛と一緒に少しずつ山を降りる。敵集団はいる場所は分かっているので、その近くまで前線を上げる。周囲には他の白狼天狗が見える。
「………」
「なんのつもりだ」
「ちょっと試しただけです」
背後にいた椛が突然刀を抜いて攻撃してきた、こっちもすかさず刀を抜いて防御する。
「試す?」
「死なれたら気分悪いので、ちゃんと戦えるか試したんですよ」
「……いろいろ言いたいが、それで?」
「合格ですよ、せいぜい生にしがみついてください」
何だその言い方……
「私と鍛錬を続けててよかったですね、そうじゃなかったら今私に切られて山の中で包帯巻かれてますよ」
「恐ろしいなお前……でもまあ、確かにそうかもな」
正直椛が無理矢理にでも誘ってくれてなかったなら、この戦いを生き延びるのはほぼ不可能だっただろう、まだ始まってもいないが。俺鍛錬とかする気なかったし。
「安心してください、柊木さんは剣の腕も足の臭さも、その辺の天狗より上ですよ。私が保証します」
「あのさあ……」
「背中、預けますよ」
「……ああ、せいぜい役に立つように頑張るさ」
「ねえ大ちゃん」
「何?」
「あたいたちここにいていいのかな」
ここ……といっても妖怪もあまり寄らない、妖精がよく集まっている場所だけど。安全なのはここなんだと思う。
毛糸さんの家が壊された時に、妖精も何人かやられてしまっているみたいで、他の妖精はちょっと少ない。
「ここが安全だから、ここにいればいいと思うけど……」
「そうじゃなくてさ、あたいって最強じゃん」
「あ、うん……うん」
「最強のあたいがこんな逃げるようなことしてていいのかなって」
最強…確かに妖精の中ではめちゃくちゃに強いと思うけど、それはあくまで妖精の中での話だ。
「でもさ、もし私たちに何かあったら悲しむのは毛糸さんだよ」
「あいつは一人でどっか行っちゃったじゃん。それに……」
「……それに?」
何かを思い出すように空を見上げるチルノちゃん。
「あいつのあんな怒った声……初めて聞いたし」
「…うん」