「ん、なんだお前」
「いやーおたくらの仲間に入れて欲しいなーって」
めっちゃ訝しげに見てきよる…そりゃそうか、急に仲間にしてくれとか言われたら何か裏があると思って疑うもんな。私だってそうする。
「いいぞ、明日には山に攻め込むみたいだから準備しとけ」
あ、いいんだ……流石に無警戒すぎでは。まあこんな集団に入って妖怪の山に攻めようとしている時点でそのオツムが足りないのはわかりきってるようなもんか。
しっかし……
「色んな種族がいるなあ」
「上の奴が幻想郷からかき集めたらしいからな、人数もかなりのもんだ」
「その上の奴って?」
「さあ、名前も顔も知らない」
ケッ……顔と名前が割れたらそいつだけちゃちゃっと殺しに行こうかと思ったのに。
正直この集団を見つけた瞬間に上から大量の氷でも降らして全滅させてやろうとも考えた。でもまあそこは我慢して、ぽっぽしてた頭を自分で殴って冷やした。
そしてよくよく考えてみると、私の家と墓を壊したのが誰かはわからないんだよ。もちろん連帯責任ってことでこいつら全滅させてもよかったんだけど……できたら向こうの話というか、何を考えてるのか、なんで結界で閉ざされてるのが気に食わないのか。その辺を聞いておきたいと思った。
墓が壊されてる時点でこいつらを潰すことは確定したけど、別にそれは今じゃなくたっていい。後で潰すけど、絶対に潰すけど、ぜってえ許さんけど。
「ねえそこの人」
「あ?」
「ここにいるってことは今の幻想郷に不満あるってことでしょ?具体的にどういう不安があんの?」
「簡単な話だ、外の人間に怯えて勝手に結界を張った情けない賢者どもを倒して俺たちでここを作り変えてやるのさ」
「ふぅーん……」
まあ……確かに結界張った理由とくに言われてないからね!!不親切だね!
そりゃ一般妖怪からしたら理由も特に告げられずに結界張りやがってなんだあいつら、とはなるかも知れない。
そのあと他の奴らにも話を聞いてみた。
まあ紫さんたちが説明してないせいだろうけど、人間に恐れをなしたとか、あのババアどもはすでに老害だとか、気が狂ってるとか、俺たち野良妖怪を舐めてるとか、なんかもうメチャクチャになってた。
うーん、滅ぼそうかな〜。
一応、外の世界で存在が否定され始めたから結界が閉ざされたってことを知ってる奴もいたけど…まだ予兆も何もないのに閉ざすのはおかしいって考えてる奴もいた。予兆、あったんだよね……あんまり力が強くないとわからないのかね。
あとそんな話そもそも嘘だとか………そりゃあこんな奴らは間引きされて当然だなとは思う、バカだね、バカ。
多分この集団を統率してる奴に唆されたとか、脅されたとかいろいろあるんだろうけど、そんなんまでいちいち気にしてたらキリがない。
恨むなら己の愚かな判断を恨んでもらおう。
「しっかし明日か……結局妖怪の山にいくみたいだし、なんか落ち着かないなあ」
…そういやチルノと大ちゃんはどうしてっかな。一応出る前に安全なところに居てくれって感じのことは言ったような気もするけど……言ったよね?
とりあえず無事で居てくれたらそれでいい、チルノもいくらその辺の妖怪より強いとはいえバカだし……大ちゃんがうまく押さえてくれるのを祈ろう。
始まった。
戦いが始まったけど……私は後ろの方から前に突っ込んでいく奴らを見てたけど……
最初に特攻した奴らはマシンガンに撃ち落とされてるし、その後に地面を走っていった奴らは多分地雷かな?そんな感じの爆発に巻き込まれてるし……命って儚いなあ。
でも地雷を抜けてどんどん妖怪たちが天狗たちへの元へと辿り着き始める。
白狼天狗は無理せずに後退して、後ろのスナイパーで確実に数を減らしていく作戦みたいだ。私こういうの詳しくないけど、多分このままでもなんとかなりそうな感じする。
「ただ問題はあの二人だよなあ」
「おいお前何突っ立ってる!戦え!」
「あーはいはい今行きますよー」
周りに比べて一際大きい妖力とその存在感、多分あいつらがここのボス級なんだろう。
………正直、いつぞやのるりを殺そうとしてた奴みたいな強さの奴はいなさそうで安心してる。
ただ天狗からしたらあの二人はキツそうだよなあ……
みんなは無事かなぁ、今何してるだろうか。とりあえず合流したい…
考え事をしながらのろのろと歩いていると、大きな妖力を持つ刀を持ってるほうが前の方に出ていくのが見えた。
急いで追いかけたが気づくいたら周辺の木々が真っ二つになっていた。
「うわぁ……りんさんに比べたら可愛いもんだけど妖怪も真っ二つになってるよあれ………ん!?」
あれ柊木さんと椛じゃね!?
急いで前に飛んでいき、その刀を持った奴と入れ替わりで妖力を周辺に撒き散らしながら二人の元に駆けつける。
敵に囲まれそうになっている二人が巻き込まれないように、周りに撒いた妖力を氷にして、周辺にいた妖怪たちをまとめて突き上げた。
氷、二人の目の前まで出ちゃったぜ。
「危ない危ない、巻き込んじゃうところだった。あれ、二人とも血出てるじゃん」
………なんかすごい顔してない?
「と、言うわけでして……決して向こう側についたとかそういうんじゃないんですよ、はい。だから縄を解いてくれませんかねぇ…?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「わあすっごい冷たい視線が全員から向けられるぅぅ、あの、怖いんでその目やめてもらっていいですか」
…………やめてくれない!泣きそう!
ついでに全員にため息つかれた!なんか腹立つ!
「まったく、貴方って人は……」
「あはんっ!頭叩くなよ痛えでしょ!」
「勝手にめちゃくちゃやってこっちを惑わすからですよ」
「なんかさーせん」
いやだって私この山の所属でもなんでもないし、個人だし。そっちに合わせる必要ないじゃん、急だったしさ。
とりあえず文には今の一発の分いつか返す。
「まあそこの白い毬藻のおかげであの状況からなんとか持ち直せたのは確かだ」
「そこのもじゃもじゃの馬鹿が出した氷のおかげで崩壊した前線もなんとか戻せましたしね」
体に包帯を巻いた柊木さんと椛にそう言われると。まりもって言ったな?馬鹿って言ったな?
まあ、どうやら私が馬鹿みたいに氷を出して敵を掻き乱したから前線も持ち直したし、こうやって二人の手当も後ろに下がってできたよってことらしい。
「まあここまで準備をできたのは毛糸が私に事前に伝えてくれてたおかげってのもあるし、私は許すよ」
「あたしはさっさとこの戦いを終わらせてくれたらそれでいいです」
まあ、確かににとりんに先に言っておいたのは役に立ったのかもしれない。ただるり、お前のその気持ちは正しいけど空気読め。
「はぁ……しょうがないですねぇ………とにかく、無事でよかったです。心配したんですよ」
「…ん、ごめん」
みんな優しすぎて涙出そう。
「で、私何したらいい?さっきのあの刀振ってたやつぶち殺せばいい?」
「それには及びません」
椛と柊木さん、その他の白狼天狗たちを斬ったあいつをやればこの山にとっても随分楽になると思ったんだけども。
「なんでだよ、こいつにやらせればいいだろ」
「あなたには矜持というものがないんですか」
「この世に生まれた時からそんなもの持ち合わせてねえよ」
椛と柊木さんが言い争いを始める、まあ私も柊木さんと同じ考えだけれども、私一応部外者だし、本人たちが決めるのが私も一番いいと思うけどさ。
「文さんが言ってたでしょう、この戦いをこの山の戦力だけで終わらせることに意味があると。頼らない方が本当はいいんですよ」
「そんな考えで死んだら間抜けもいいところだぞ」
「まあこれは建前で」
「あぁ?」
「あいつが何言ったか覚えてますか、柊木さん」
………覚えてないって顔してるね!実にわかりやすい!
「群れる臆病な雑魚天狗、そう言ってました」
「……それがどうした」
「頭にきちゃいましてね……あいつの絶望と恐怖に塗りつぶされた顔が見たくなったんですよ」
この場にいる椛以外の全員の口から「うわぁ………」と漏れる。
「………あぁ、うん、そういうことらしいから、お前は他のことしててくれ」
「あ、やるんだ柊木さんも……」
……ぶっちゃけ心配だけど、本人たちがそういうならやらせるべきなんだろうな。
「じゃ私は結局何すりゃいいの。帰るって選択肢ないからね、私だって一応向こうに恨みあるし」
「じゃあ雑魚の数を減らしてもらっていいですか?」
「よしわかった殲滅だな、地形ごと消しとばしてやる」
「いや地形破壊はやめてくださいよ?山の形変わるとか嫌ですからね」
文が慌てて私にそう言ってくる。
流石に冗談である、地形ごと吹き飛ばした方が早いのは間違い無いんだけどね。
「じゃあ適当にうろついて適当に吹き飛ばしとくよ、それでいい?」
「えぇまあ……味方吹き飛ばさないでくださいよ」
「しないしない」
私が敵味方の区別できなかった奴は吹き飛ばすかも知れないけど。
「それじゃあそろそろ私たちは持ち場に戻りましょうか」
「そうですね、行きますよ柊木さん」
「短い人生だったなあ」
なんかあの足臭諦めムードなんだけど……強く…生きて。
そうこうしてるうちに天狗三人がどっか行ってしまった。
「うむ……にとりんとるりは?特に何もない?」
「私たちは特に怪我とかないよ、近寄られる前に撃ってるからね」
「あたしはなんかもう疲れました」
「るりはまあそうだろうけど」
今は敵に近寄られてないだろうから無事だろうけど、もし銃弾が効かない相手とかきたらヤバいと思うんだけどな。案外どうにかしそうだけど。
「……なあ毛糸、なんでここに来たのさ」
「ん?そりゃあ家ぶっ壊されたから」
「壊されてなかったら来てなかったの?」
「いや来てたけど」
「なんで」
「なんでって」
…急にそんなこと聞いてどうするつもりなんだろ。
「最初は文たちが頼んだ、るりが死にそうになってた時は偶然居合わせた。でも今回は違う、自分から来るつもりだったんだろ」
「いや、まあそうだけど」
「関係ないじゃないか、毛糸は。お前が戦いを好まないのは私だって十分知ってる、なのになんで」
心配したくれてるのか…?これは。
「……そりゃあー…まあ…友達が危険な目にあってるなら助けてやりたいし……言わせんな恥ずかしい」
「だからって毛糸にはそうしなきゃいけない理由なんて…」
「あのねえにとりん、友達助けるのに理由なんかいる?」
所詮、どんな生き物も自己満足で動いてる。
生きるのだって自己満足、他人を助けるのだって自己満足。自ら死を選ぶのももちろん自己満足。
そう、結局は自分のためなんだ、その自己満足によって他人が助けられたとしても、それは結局自己満足になる。
だから私はここに来た。
「文も椛も柊木さんもにとりんもるりも、大切な友達だからさ。もし手助けしなかった結果死んだら一生後悔する。私は後悔したくないんだよ、だから来た」
「……そっか」
「あと家と墓ぶっ壊した奴絶対許さん殺す」
「………そっかぁ」
私って奴は一度ショッキングな出来事があったらいつまでもズルズル引きずる奴なんだ。とりあえずあいつらは捻り潰す。
「……でも、自分勝手だよ毛糸は」
「そうだけど」
「いや、そうだけどじゃなくてさ……何かあったら心配するのは私たちも同じなんだよ。文も心配してたし、多分、他のみんなも。もちろん私もね」
「ん…」
「毛糸は私たちが無事だったら自分はどうでもいいみたいに考えてるかもしれないけどさ、私たちにとっては毛糸も無事じゃないと駄目なんだよ」
すっごい穏やかな顔でそう言われる。
「……そっか」
「だから無茶しないようにね」
「ん、お互いにな」
「………あ、終わりました?」
「よく寝れるよなお前は」
「目を瞑ってただけだし、別に良いじゃないですか、疲れてるんですよ。にとりさんは疲れてないんですか?」
「この状況で寝るほど肝は座ってないよ」
…まあ、るりにはちゃんと息抜きをしてもらわないと。
「それじゃ、私たちもいくかい?」
「そうですね、早く交代しないと」
私は……どこいこうか。
「…ねえ椛、本当にやるつもりなんですか?」
「当然でしょう、こけにされたままじゃ私の気が済みません」
「食らってわかっただろ、あれは俺たちなんかより強い。無謀だよ」
「そうですよ、私の目的は三人とも無事でいることって言いましたよね?」
「じゃあ文さんは私たちが死なないように援護してくださいね、遊撃役って言うのならそのくらいやってください」
あぁ……駄目だこれ。
完全に椛がやる気になってしまっている。
長年一緒にいるけれど、なかなかこうはならない。ついでにこうなって止められたこともない。
「さて、私たちはそろそろ位置につきます、文さんも戻ったらどうですか?」
「む…はあ、柊木さん椛のこと頼みましたよ、期待してませんけど」
「あ、おい」
飛び立った時にこちらに近づいてくる毛糸さんが見えた。
……まあ、こっちも期待しない方がいいかなあ。