「………すっごい荒らして去って行きましたねあの人」
「今の爆発で敵半分くらいは吹き飛んだだろ」
ああいう人が敵にいないのは本当に幸運でしたね……最初毛糸さん向こうにいたけれど。
文さんは空から今の爆発で状況がどう変わったか見に行くと言ってまた去っていった。
「それにしても地底、ですか」
「何するつもりなんだろうな、地底なんて鬼とその他もろもろぐらいしかいないだろ」
「その鬼が目的なのかも知れませんよ」
敵を傀儡にしているのは誰か、未だにわからない。その誰かをさっさと仕留めてしまえば敵の勢力も減るだろうに。
「その鬼を自分たちの手駒にするのが目的ってことか」
「まあ向こうが何考えてるのか知らないですけどね。下は私たちには関係ない話なので、毛糸さんが帰ってくるの待ちましょう」
もし本当に鬼を手駒にしようとしてるのなら、自分の術に相応の自信があるのか、鬼を舐めくさっているのかのどちらかだろう。
「で、どうするつもりだ。何か考えはあるのか」
「そうですね……あの爆発で奴が爆散していたらそれはそれでよかったんですけど、どうやら生きているみたいですし」
特に傷一つついていない奴の姿が視える。ついでに顔から血を流して右腕を切り落とされている奴の姿も。………毛糸さんだろうなぁ。
「まあ倒し方は既に考えてあります」
柊木さんに私の考えを伝える。
「……本気か」
「この状況で冗談を言う必要性はどこにあるんですか」
「えらく自信満々だなおい」
「それで、乗ってくれるんですか?」
「……あぁ、わかったよ、やりゃあいいんだろ」
「ありがとうございます」
「ったく……本当めちゃくちゃだよなお前。やるからには絶対に決めろよ、俺の命かかってるからな」
「任せてください、言ったからにはやり遂げますよ」
地底の穴を降りる途中にも妖怪たちがいた。とりあえず全員ぶん殴って壁に叩きつける。めり込む奴もいれば、下に自由落下していく奴もいる。
でも地底を襲いにいくには、いささか戦力不足なのではないだろうか。地底に鬼がいるってのは、まあ噂程度かもしれないが知れ渡っているはずだ。
ぶっちゃけ雑魚妖怪がいくら束になろうと地底を攻め落とせる気はしないんだけれど……それほどまでに鬼ってのは強い。勇儀さんはもちろん他の一般鬼もかなり強い。
まあ一旦様子見に行って、大丈夫そうだったらすぐ上に戻って文達の手伝いしに行こう。
「って思ってたんだけどなぁ」
色々と情報量が多い……
突然右の方から鬼が殴りかかって来たからしっかりと体に妖力を纏わせて防御する。
体に強い衝撃がくるがしっかりと受け切って、腕を掴んで地面に叩きつけてさらに蹴っ飛ばしておく。
「今の様子…私を敵って勘違いしてたわけじゃなさそう」
上でも見た操り人形にされている妖怪達、それらと同じような状態になってるように見えた。要するに鬼達が私のことを容赦なく殴ってくるってことだ。
私、一応鬼に顔は知られてるんだけどな、ちょっとだけ。
「ってなるとさとりんがますます心配になってきた」
早く地霊殿に向かいたい
「のになぁ!!」
前方から鬼が1、2、3、4……8体くらい現れた。
「めんどすぎだろおい…ってあら?」
4人の鬼が4人の鬼と戦っている。ってことはこの状況はあれか……傀儡にされてるのが4人で、マトモなのが4人ってことか。少なくとも正気の鬼はいるみたいでよかった。全員操られてたら頭抱えて地底を爆破して回ってるところだった。
とりあえず操られてる方に狙いを定めて、妖力を腕に込めて四人まとめてぶっ飛ばす。
重い手応えがくると同時に妖力弾を飛ばして爆破しておく。
正直並の妖怪なら肉片になってるけれど、鬼だからこのくらいやっても重体くらいで済んでるだろう。
「あんたは…」
「今の状況を教えてもらっていい?」
「あ、あぁ。突然鬼の半分くらいが急に正気を失って俺たちに襲いかかって来たんだ。他にも地上の妖怪が突然やって来てもうめちゃくちゃだ」
「勇儀さんは?」
「あの人なら、もう少し奥の方で暴れ回ってる」
「わかったありがとう、他の鬼はぶっ飛ばしちゃうけど許してね」
「あぁ構わない、むしろ思いっきり殴って正気に戻してやってくれ」
そう言われたら遠慮なしにブン殴るしかないなぁ。
って正面からいっぱい妖怪きよった。
「多い多いってもお!」
妖力弾を乱発して紛れていた普通の妖怪達を吹き飛ばすが、その後の爆煙の中から鬼が二人殴りかかってくる。
氷の壁を作って防御するが一瞬で粉々にされる、そんなことはわかりきっているので、氷の壁を壊された瞬間に懐に潜り込んで大きめの妖力弾を至近距離でぶっ放した。
鬼二人を少し押し戻して大きな爆発を起こした。……まあ生きてるっしょ!
「てもうまた来たよこいつら……」
鬼が三人……よし。
足場を凍らして、氷の箱を作ってそこに捕まえる。氷には妖力を込めて頑丈にしておく。
「このまま相手し続けててもキリないから突っ切る」
妖力弾を後ろで爆破して氷の箱ごと凍った地面を爆走していく。進むたびに地面を凍らせて止まらないようにする。
鬼がゴンッて音出して轢かれたけどうちの氷は頑丈なので関係ない。そのまま地霊殿のある方向へと突き進んでいく。
ある程度進むと、とんでもない轟音を立てて暴れ回っている人を見つけた。
氷の箱から飛び降りてその人に会いにいく。
「勇儀さんっぐっはぁ!」
「あぁん?……あ、毛糸か!」
近づいた瞬間に殴られた……思いっきり殴られた……
「ちゃんと相手見てよ!咄嗟に防御しなかったら肉片になってるところだわ!」
「いやーすまん、でもよく防いだな、成長してるんじゃないか?」
「そりゃ初めて会った時よりはマシになってるでしょうよ…」
多分体の骨の当たるところにヒビが入ってるから再生しておく。
「こんな時じゃなきゃ少し手合わせしてたところなんだけどな、生憎見ての通り、同族達が正気を失っててな、殴っても殴っても起き上がって来て手が空かないんだよ」
「こんな時じゃなくてもあんたとは絶対に戦いません!」
でもまだ周りには鬼がうようよいる。普通の妖怪は鬼達との戦いに巻き込まれて既にやられてるしすぐにやられる。だけど鬼はやっぱりタフだなぁ…日頃から殴り合ったり勇儀さんにも殴られてるだろうから尚更か。
「お前の言いたいことはわかる、さとりはどうなってるかだろ」
「……まあ」
「悪いんだがわからないとしか言えない、誰も地霊殿に向かってないってのだけらわかるんだけどな」
誰も向かってない?
そりゃあ、鬼で手一杯って考えるなら地霊殿を襲撃するほどの余裕がないってのも考えられるけど……私には余計な邪魔が来ないようにしてるように思える。
「割と最近だったか、私言ったよな」
「え?」
「さとりのこと、よろしく頼むって」
「…あ、あー」
「そういうことだ、頼めるか」
「………もちろん、そのために来たんで」
「…そうか、やっぱりいい奴だな、お前は」
そう言いながら鬼を殴り飛ばす勇儀さん。………凄い音なってるんだけど。
「じゃあ一発ぶちかますからちょっと離れててくれ」
「へ?あ、は——」
私が離れる前に勇儀さんが思いっきり腕を振るった。
ものすごい風が後ろにいた私にまで伝わってきて、吹き飛ばされそうになる。……なんか違和感。
「————」
あれ……何にも聞こえない、なんか勇儀さんが喋ってるけど何にも聞こえない。
………これ鼓膜やったわ!!
「——い、おーい、聞こえてるかー」
「よかった治った……あ、はい聞こえてる聞こえてる」
「そうか、道は開いたから向かってくれるか?」
そう言った勇儀さんが指さした方向を見ると、あれだけ群がっていた鬼とその他有象無象たちが綺麗さっぱりいなくなっていた。
あと地形がすごい抉れ方してる。
「私はこの馬鹿どもの相手をしなきゃならない、頼んだぞ」
「すぅ……わかった」
地霊殿へと全速力で向かった。
「えー!毛糸さんどっか行っちゃったんですか!」
「みたいだね……」
「困りますよ!もしここまで到達されたら誰があたしたちを守るっていうんですか!死にますよ!あたしすごいあっさり死にますよ!」
「少しは自己防衛する意思を見せろ!」
「守ってくれるなら守ってもらいたいじゃないですか!」
「全く……とにかく、いない奴に頼ろうとしてもしょうがない。それに随分と向こうの勢力を爆破してくれていったみたいだし」
「あ、あれ毛糸さんだったんですか……」
あの爆撃のせいで敵の数も随分減ってしまっている。もうあの人一人でいいんじゃないかな……
事実あの人一人で敵全員壊滅させられただろうし……本人あんまり自覚ないみたいだけれど、毛糸さんは大妖怪と言われてもおかしくないくらいの力は持っている。随分と温厚で親しみやすい大妖怪だけど………
「正直、今の敵の数から考えたらもう負ける要素はないんだけど……文が言ってた二人の強そうな奴ら。それだけが不安要素だね」
「一人は椛さんたちに傷をつけてた刀を持ってる女の妖怪で……あと一人はどんなでしたっけ」
「さあね。もうすでに毛糸にやられてるんじゃない?」
「ありえる……」
だから毛糸さんはやろうと思えばこの山くらい……温厚でよかった!あの人優しくてよかった!本当に!
思えばあの人に結構救われてるんだよなあたし………
「るり、今の気分はどう?」
「最悪ですね、もちろん。なんでです?」
「いや、ほらあのさ、るりはその……なんて言えばいいだろう」
なんだろう…あたしはどうしようも無い引きこもりで人見知りで働こうとも戦おうともしない生きてる価値のない奴って言いたいのかな…
「お前って人一倍こういう争いとか嫌いだろ?他人とも関わりたくないし、色んなこと溜め込んでるし……」
「あぁー……まあ、そうですね」
既になんか打ってる銃の反動が凄いせいでそれなりの衝撃が溜まってるんだけど……これ多分にとりさんがそうなるように改造したと思うんだけど、今は気づいてないふりをしておこう。
「るりが一回、この山を抜け出して毛糸のとこに行ったことあったろ?あれからるりが傷ついてないか結構気にしててさ……」
「あー、なんかここ最近ずっと優しいなって思ったらそういうことだったんだ……」
………本当に、この人に出会ってよかった。
「にとりさんって忙しいですよねぇ」
「え?」
「毛糸さんの心配して、あたしの心配して……なんなら河童全員とか、もっと大きなものまで心配してる。本当に、心配性です」
にとりさんや毛糸さんに出会ってなければ、あたしは例え戦いが起こったとしても部屋に引きこもっていただろう。きっと、死んだとしても誰にも気付かれずに。
「こんなどうしようもない奴をこんなに気にかけてくれるのなんてにとりさんくらいですよ。あたしがここにこうやって立っているのはにとりさんに恩返しがしたいからです」
「お……おう」
「こんなどうしようもない屑野郎でも、誰かの役には立ちたいじゃないですか」
もちろんにとりさんや毛糸さんだけじゃない。あの……鴉天狗の……文って人と、あの怖い目つきの……柊木?って人とあのすっごい怖い椛って人。………記憶は曖昧だけど、役には立ちたい。
「とにかく!あたしが今こうやって生きているのは紛れもなくみんなのおかげなんですよ。だからあたしのことはそんなに気にしないでください。今まで通りであたしは十分幸せです」
「そっか……そっか」
そう話しているとチルノちゃんがこちらにやってきていた。
「あれ、どうしたんだろう」
「毛糸がここに居てくれって」
……あー、なるほど。
毛糸さん、チルノちゃんのこと心配して大ちゃんがいるここに行くように指示したんだ、あの人も結構心配性だなぁ。
「向こうのほうに大ちゃんいるから、一緒にいてあげて」
「わかった」
……少し寂しそうだな、あの子。
「もっと毛糸の役に立ちたかったんだろうな」
「にとりさん…?」
「あいつはどこか……私たちと距離を取ってるからさ」
「そうですか?」
「うん、なんていうか……何か隠してるというか、押さえ込んでるというか……何かを抱えてるくせして、私たちには何も話してくれないから」
それであの子はちゃんと毛糸さんの役に立たなくて……
「!これは……」
「お出ましみたいだね、奴の」
双眼鏡で前線を見てみると、木々が大量に薙ぎ倒されていた。
あの時と同じだ。
「椛たちに期待するしかないなあ」
「ですね……」
あたしたちのいるところになんの被害と及ばないとは限らない、しっかり備えておかないと。
チルノちゃんと大ちゃんに何かあったら毛糸さんに顔向けできないし………