毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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河童と妖精の一撃

「……ん?」

「どうした?」

 

椛達がおそらく敵と戦い始めて轟音が響いてる中、双眼鏡で遠くを覗いていたるりが声を出した。

 

「なんか……厳つい人がこっちに来てません?」

「あ?ちょっと見せて………」

 

るりの言った通り、双眼鏡を覗いてみると大柄の男が真っ直ぐこちらに向かってきている。

 

「多分白狼天狗達が刀を持ってる方のやつと戦ってて、そのまま通しちゃったんだろうな……」

「どどどうするんですか!」

「どうにもこうにも、鴉天狗達がどうにかしてくれるのを祈るしか…」

 

そう言ってるうちに鴉天狗達がその男へと突撃していく。が……

 

「………普通に負けてません?」

「普通に負けてるね………総員撤退の準備だ!急げ!!」

 

何故か片腕がないが、それでも鴉天狗達を容易に倒している。河童なんかが近寄られたらまず終わりだろう、通信機に撤退するように告げて銃を手に取る。

 

「どうするんですか?」

「どうするもなにも、時間稼ぎだよ。このままじゃ確実にここにいる河童全員が死ぬ、誰かがやらなきゃいけないしね」

「そんな…それならあたしも残ります、にとりさん一人置いて逃げられません」

「るり……」

 

椛たちはまだ交戦中だろう、急なことだ、増援も来るには時間がかかるだろうしあまり期待できない。

正直死んでしまう確率も……かなり高い。

 

「駄目って言っても残りますよあたしは」

「ううん、ありがとう」

 

巻き込みたくないという気持ちもあるけれど、正直言って一緒にいてくれた方が心強い。

 

「とりあえず今は鴉天狗達が時間稼ぎしてくれてる、今のうちにできるだけの準備するぞ」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだぁ?もぬけの殻じゃねえか」

「残念ながら、今ここにいるのは私たちだけだよ。………あれ、あの妖精の二人どうした?」

「二人ならどこか安全なところに隠れるように言っておきましたよ」

「そっか。ま、そういうわけで私たち二人が相手だ」

 

周囲を眺めて不満そうな表情を浮かべる男。こうやって肉眼で見てみると右腕は綺麗に切り落とされているし、顔面にはかなりの傷を負っている。

 

「河童二人が相手か……つまんねえな」

「あ、あたしたちを舐めてると痛い目みますよ」

「お前ら、あの白いもじゃもじゃのこと知ってるか?」

(毛糸だ…)

(毛糸さんだ…)

「あの白いもじゃもじゃ、すげえ強かったなぁ……この俺と正面から殴り合って互角だった。そのあとすぐに右腕切られたんだけどよ」

 

………今毛糸と互角だって言った?切られたってことは刀を使ったってことだけど、少なくとも腕力は同等ということになる。

 

「気づいたらいなくなっててよ……多分地底に行ったと思うんだが、一応こっちに捜しに来てみたんだが……どうやらいないみたいだな」

「よかったじゃないか、死なずに済んだんだから」

「そういう問題じゃねえんだよ、この右腕の借りを返さなきゃならねえし、戦いに決着もつけなきゃなんねえ」

 

こいつ……頭がおかしいのか?なんで自分からわざわざ死ぬようなことをしでかそうとしてるんだ。

 

「しっかしそうかいないのか……地底には行くなって言われてるしなぁ」

「言われてる?誰にだ」

「なんか偉そうなやつ」

「うわぁ…頭悪そう……」

「はぁ……しょうがない。お前らさっさと殺して天魔ってやつを殺すとするかな」

 

左腕しかないくせによくもそんな大口を……私たちはともかく天魔まで本当に倒せると思っているのだろうか。

 

「そういうわけだ、さっさと終わらせてもらうぞ」

「そうかい」

 

男が動き出す前に手に持っていたスイッチをオンにして固定砲台達を起動する。

自動で目の前の男をロックオンし、砲弾を撃ち込む。

 

「おぉ!びっくりした!」

「片手で受け止めるなよ……」

「今のうちに……」

 

るりが狙撃銃を構えて男を狙う。

が、弾丸は当たったのにも関わらず全くもって傷が入っていない。

 

「嘘でしょ硬っ!?」

「そんな豆鉄砲効かねえよ、どうせなら自分の拳でやりにこい」

「じゃあこれでもくらっとけ!!」

 

近くに設置していた砲台から砲弾が放たれ、それは着弾と同時にかなり大きな爆発を引き起こした。

これで少しは……

 

「今のはまあ……それなりだったぞ」

「化け物が……」

 

るりが銃をひっきりなしに撃っているが全く持って効いている様子はない、本人は痒いくらいの感覚なのだろうか。

 

「はぁ、やっぱり河童ってつまらねえな。そうやって自分の身一つで戦えないほど弱い、これほど戦ってても楽しくない奴も珍しいぞ」

「好きなように言ってろ!」

 

スイッチを押して周囲にある設置型の兵器を全て起動させて敵に向けて放った。

とてつもない轟音と爆煙を上げて視界が遮られる、るりも耳を塞いでうずくまっている。

少しは効いてて欲しいが……

 

「………流石にこの程度じゃまだまだか」

「ほらな、こうやって幾ら弾を撃ってもこの程度でしかない」

「この程度って……普通の妖怪なら爆発四散してますよこれ…」

 

正直言ってかなり絶望的だけれど……だからといって何かができるわけでもない。

 

「弱えなあ…」

「……はぁ、あのなぁ…そりゃあ弱い妖怪から強い妖怪まで幅広く存在してるわ!私たち河童は弱いさ!だからこそ自分たちの得意なことで生き残れるように努力してるんだろうが!それを弱いだのつまらないだの……好き勝手言うな!」

「おうそうか、そいつは悪かった」

 

気づけば男が目と鼻の先にいた。

 

「で、熱弁したがそれがどうしたんだ。そのくだらない努力しても弱いままで、殺されるのか」

「っ!」

 

持っていた銃を目の前で構えて防御するが、いとも簡単に折れて吹っ飛ばされる。

 

「にとりさん!このっ…」

 

るりが衝撃波を放ったが、眉一つ動かさない。

 

「そんな……があっ」

「弱い奴は死んで強い奴が生き残る、昔っから変わらないこの世の摂理だ。弱いならさっさと死んどけ」

 

るりが腹を殴られてうずくまり、そこにまた拳が飛んできてこちらに吹っ飛んでくる。

 

「いっつぅ……」

「るり、大丈夫か!」

「むり….死にます……」

「俺は弱い奴が嫌いだ、生きる価値のない屑ども、さっさと死んでおけばいい。俺は俺より強い奴を打ち負かしたいだけだ」

「強い奴と戦いたいなら勝手にやって勝手に死んでろ!なんで弱い奴まで死ななきゃならないんだ!」

「弱いからに決まってるだろ、弱いが故にすぐに死ぬ。そこにいられるだけで目障りなんだよ。だから殺す」

「めちゃくちゃ言いやがって……」

「そのめちゃくちゃを押し通せるのが強いやつなんだよ」

 

不味いな……あちこちに爆弾やら銃やらは置いてるけれど、それを拾いにいく暇もない。

 

「悔しかったら強くなりゃあいい、死にたくなかったら強くなりゃあいい。そんな単純なこともできない雑魚どもが」

「ごはぁっ…」

 

腹に強烈なのをもらってしまう。

遠くの方まで体が吹っ飛ばされた、意識はあるが吐血するし衝撃で脳味噌は揺れて体が動かない。

 

「にとりさん!このっ……ぎっ…」

 

るりもどんどん攻撃を喰らう。

二人とも武器も何も持っていないし……これは本格的に不味いな………相手は腕一本だって言うのに…

 

 

 

 

 

 

 

るりさんが殴られて殴られ続ける。

にとりさんもまだ動けずにいる。

 

河童の二人がただ殴られて傷ついていくのを、私はチルノちゃんと一緒に見ていることしかできなかった。

 

「大ちゃん、やっぱりあたい…」

「駄目だよチルノちゃん、危険だって!」

「でもっ」

 

飛び出していこうとするチルノちゃんを引き止める。

 

「言われたでしょ、安全なところにいてって」

「だからって見てるだけはおかしいじゃん!二人とも死にかけてるのに!」

「そうだけど…」

 

チルノちゃんの気持ちも十分にわかる、でも私たちではどうしようもない。所詮は妖精で、決して強いわけではないのだから。だから毛糸さんもあの河童の二人も私たちを逃したんだ。

 

「あたいは、ここで二人を見殺しにするのは嫌だよ…」

「チルノちゃん……」

「子分の友達もまとめて守るのが親分でしょ!」

 

……チルノちゃんは優しくて強い。

……私も、同じ気持ちだ。

何もできない自分が悔しい、心配ばかりされて私は結局何もできていない。

 

毛糸さんは弱いのに強い。

心の中ではいくら辛く思っていても、平気な顔で、心の底から大丈夫だと言ってくる。本当は辛いはずなのに、私たちを気遣って…自分を騙して……

あの二人が死んでしまったら、毛糸さんはどうなってしまうのだろうか。

 

「……わかった」

「え、いいの?」

「うん、そこまで言われたらしょうがないよ。二人で一緒に毛糸さんを驚かせてやろう」

「ありがとう大ちゃん!」

 

こういう事を言うのは毛糸さんは嫌うけれど、私たち妖精は死なない、傷ついても休みになるだけだ。だから……あの二人を助けたい。

 

「私がチルノちゃんをあいつの所まで連れて行くから、一番強い攻撃の準備しててね」

「任せて!」

 

ごめんなさい毛糸さん。

ちょっと危ないことしちゃうかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあっ……」

 

……多分これで六本目、流石に骨折れすぎ……

 

「ほらほらどうした、お得意の兵器でなんとかしてみろよ」

「っ……」

 

七本目……身体中のあちこちが痛すぎてもう声すら出てこなくなってきた。

敵の腕力はものすごい……片腕しか使っていないのにあたしの体は既に壊れかけだ。

……まあ、そのおかげでもう既に衝撃は十分溜まっている。やっぱり反動とかよりも直接殴られた方が溜まるのが早い。

だけどこれを普通にぶつけても多分相手が吹き飛ぶだけで致命打には到底ならないだろう。

 

傷をつけられなくたっていい、動きを止められたら、意識さえ刈り取れたら……でも、既に体のあちこちが痛んでまともに動けない。

 

「そこのお前も、まだ生きてるのならこいつを助けてみろよ」

「くそったれ……」

 

にとりさんも体が動かないみたいだ。そりゃそうだ、私よりももっと大きな一撃をさっき入れられている。

動けたとて、また殴られて倒れるのが目に見えているし。

 

「はぁ……お前らじゃあのもじゃもじゃの穴埋めにならねえよ」

「もじゃもじゃもじゃもじゃって……毛糸さんのこと大好きですか」

「好きとかそういうのじゃなくて、殺したいだけだ」

「ぎっ……けほっ…」

 

地面に転がりながら喋っていたら蹴り飛ばされた。……二本追加で折れたっぽい……体が動かない。

それにしても、殺したいだけって…

 

だから他人ってのは嫌いなんだ。何考えてるかわからない、価値観や考え方、何から何まで自分とは違う奴だっている。

その違いも理解せずに、ただ自分勝手に生きて他人に迷惑をかけて……迷惑をかけてるのはあたしも同じだけど。

 

「そろそろ殺すが、何か言い残すことはあるか」

 

虫の息で地面を転がってるあたしにそう問いかける男。

 

「…くたばれくそ野郎」

「そうか」

 

男が左腕を振り上げた。

 

「るりっ!」

 

にとりさんの声が聞こえる。

それと……冷気も。

 

「……あ?」

 

とてつもなく大きな氷が男目掛けて飛んできた。だけどそれはいとも簡単に粉々に砕かれてしまう。

 

「この氷…いや違うな。さっきから隠れて見てた妖精どもか」

 

視線が逸れた。

今しかない。

 

その隙に体を起こして腕を伸ばす。痛みで叫び出してしまいそうだけれど、そんなことをしたらあの二人の作ってくれた隙が無駄になる。

 

「…邪魔しやがって、てめえらも殺してやるから大人しく待っ——」

 

遠くの方に顔を向けていた男の顎を下から右腕で掴んだ。

 

「てめっ……なっ!?」

 

男が左腕であたしを掴もうとしたが、その腕が凍らされて地面とくっついた。

 

「ふき飛べ」

 

右腕に今まで溜まりに溜まっていた衝撃を一気に解放した。私の既に折れている骨にさらにとんでもない反動がやってくる。出した私の体が地面へと沈む。

敵も所詮、体の作りはあたしたちと変わらない、なら、やるべきは脳。

 

顎から衝撃が伝わり、男の脳を激しく揺らした。

 

「がっ………」

「つぅ…………」

 

右腕が強すぎる衝撃を放った反動で変な方向に曲がってしまった。もう体のあちこちが痛くて何もできない……でも、男の意識は刈り取った。

上を向いて失神している。

にとりさんがゆっくりと近づいてきた。

 

「……大した奴だよお前は」

「…えへへ、流石に死ぬかと思いましたよ……」

「二人に感謝だな」

「……そうですね」

 

にとりさんがこっちに近づいてきて、爆弾を男の口の中に押し込んだ。

一つ、また一つと。

 

「ほら、しっかり掴まって。そこにいたら爆発に巻き込まれて死ぬぞ」

「ちょっと動けないんで……肩貸してください」

「しょうがないな…私だって体のあちこちが痛くてしょうがないんだぞ」

「いや絶対あたしの方が痛いです」

「まあそれは……そうかも」

 

にとりさんに肩を貸してもらって、ゆっくりと歩く。

背後から大きな爆発音が聞こえ、爆煙が周囲に広がる。

 

「にとりさん……これ何日引きこもっていいくらいの働きでした?」

「好きなだけ引きこもらせてやるよ、だからゆっくり休め」

「ありがとうございま……」

 

あぁ、駄目だ、気絶する。

……まあ、もう流石に……いい、かな……

 

「お疲れ様、るり」


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