「流石にもう終わってるよなぁ……」
まだ戦闘が続いていたら手助けしなきゃと早く地上に登ってきたんだけど……随分と静かだ、地形がめちゃくちゃになってるけど。
時間感覚狂ってたけど、どうやらまだ真昼のようだ、眩しい。
結局地底にいたあいつが首謀者ってことでよかったらしい。あ、私はあいつを見逃したけどブチギレた勇儀さんたちによって無事に地獄へと送られたのだそう。当然の報いだね!
熟睡したからか体が軽い、左腕は動かない。関節もうまく動かなかったりするけどまあ、体を浮かせたらなんの問題もない…わけじゃないけど、なんとかなるので気にしないでおく。
この左腕も、今まで致命傷を全部無理矢理治してきたツケが回ってきたって思ったらむしろ安く済んだ方だろう。
しっかし呪いかぁ……呪いって言うんなら解呪すらばいいんじゃねって思ったけど、さとりんにそういうものではないと言われた。じゃあどういうものなんだろうね。
しかしまあ……服を燃やされたこととかあったけど、あそこまで真っ赤に染まったのは初めてかもしれない。
さとりんによって燃やされて、なんか適当な服着せられた。まあ別に服に拘らないから全然いいんだけど。
「……まだなんか臭いな…」
血の匂いと焼け焦げたような匂いが混ざり合ってなんかこう、めっちゃ臭い。とりあえず臭いとだけ言っておく。
「地底のみんな無事だったけどこっちはどうかな……」
そういえばあの時お燐は何してたのかと思ってたんだけど、どうやら普通に攻撃食らって気絶してたらしい。ついでに結界が張られて手出しができなかったと……まああいつ妙に強かったからしょうがないね。
にしてもみんなどこにいるんだろこれ……
「…あっちか?」
騒がしく音のする方へ私は飛んで行った。
「ぶふっ……」
「何笑ってんだ、おい」
「いやあまりにも無様すぎて…んぶふっ…」
「おーい!誰でもいいからこいつのこと思いっきり殴ってくれ!」
なんか顔も知らない天狗に話しかけられ、なんか名前覚えられてて、怪我人の集まってるここに案内された。そしたらるりと柊木さんがいて、るりはなんか寝てたけど柊木さんが包帯ぐるぐるのミイラ状態だったもんで……思わず吹き出してしまった。
「何があったんだよ……ふっ」
「笑ってんじゃねえよ、かなり命の危機だったんだぞ」
「はいはい、何があったんですかー?」
「椛に肉盾にされた」
「ぶふぅっ」
「唾飛ばすな汚え」
「ごめっ…くっ…あーそうなんだ、お気の毒に……くくっ…」
「腹立つ、殴りてえ」
そんな惨めな格好でそんなこと言われましてもねえ。まあ笑ってやるのはこのくらいにしとこう。
「ふぅ……まあ、元気そうでよかったよ。私が下に行ってる間に何かあったらどうしようかと」
「そっちこそ元気そうだな、無事そうで何よりだこの野郎」
「まあ……うん…無事っちゃ無事かな」
「…?そうか」
まあ無事じゃないと言えば無事じゃないんだけどね……
「てかなんでそんなナリになってんの」
「体の至る所が裂けてる、なんなら骨まで達してるとこもあるぞ」
「わお生々しい……よく生きてたね」
「全くだ」
まあ五体満足みたいだし、傷が塞がったら元通りに過ごせると思う。仮にも妖怪だし。
「……で、るりは?何か聞いてる?」
「あぁ、全身の骨を折ってるらしい」
「えっ……それこそよく生きてたな……」
「目を覚ますこともあるが、またすぐ寝てしまってる。まあそれだけ重症ってことなんだろう。あ、あと右腕の形がとんでもないことになってるって言ってたな」
「はぁ、右腕……」
一体何したらそんなことになるんだよ……
「思ってたより二人とも重症だね」
「お前はいいよなぁ、腕取れてもすぐ治ってるんだからよ」
「…そうだね」
………あ。
今は左腕が動かないことバレてないけど……いや別に隠す必要もないんだけどさ?これ文にバレた場合めちゃくちゃ怒られる気が……いや全員に怒られる気がする。やべえ帰りたい、めっちゃ帰りたい。
「他の奴は?みんな無事?」
「多分な、少なくとも文と椛は大きな怪我もない筈だ。というか、俺が肉壁になってたおかげだけどな、椛に関しては」
「よっ、男気のあるいい足臭」
「相手殺したの完全に椛だけどな。本当に俺肉壁だったぞ……我ながらなんであんな作戦に応じたんだ俺は……」
なんか今更後悔してらっしゃる……まあ、それができるほど今は落ち着いた状況ってことなんだろう。
「あれ、毛糸さん帰ってたんですか」
「ヴェッ、文…」
「ゔぇっ、ってなんですか」
「会いたくないやつに会ったってこと」
「どう言う意味ですか!?」
「会いたくないやつに会ったってこと」
「………はぁ」
顔見てため息つかれた。
「ちょうどいい文、そいつのことぶん殴ってくれ」
「わかりました」
「いでっ……」
「これでいいですか?」
「違う叩くんじゃない、殴るんだ」
「待ってごめん謝るから待って」
流石にグーで殴られるのは嫌だよ。
「まあ元気そうで何よりですよ。地底では結局何が?」
「えっとぉ…首謀者が鬼とか操ってけしからんことしようとしてたけど……まあそいつももう死んだだろうし、鬼たちも元通りになってるはず……まあ、無事に収束したから大丈夫だよ」
「そうですか……いやぁ、今回はどうにかなりましたけど、こんな戦いは今回限りにして欲しいですね」
「全くだ、二度とこんなことは御免だ」
………あ、忘れてた、
「文、大ちゃんとチルノは?」
「あぁ、先に帰らせておきました。まあ毛糸さんがいつ帰ってくるかわかりませんでしたし。あ、二人とも特に怪我はないみたいなので安心してくださいね」
「そっか…よかったぁ」
正直色々あって気にしてる余裕なかった……湖で私のこと待ってて……あ。
「そうだよないんじゃん!帰ってきたのに家ねーじゃん!直すにしてもあの半壊した家をでしょ?めんど……めっちゃめんど……」
「じゃあいっそこの山に住みますか?歓迎しますよ?」
「十中八九働かされるじゃん、絶対にお断りだね。それなら宿無しの方がいい」
「どんだけ嫌なんですか……まあ、冗談ですけど」
あと目立ちたくない……今回散々暴れまわっておいてなんだけど目立ちたくない……今までも私はそこまで暴れることもなかったから知名度も引くくて変な突っかかりを受けることもなかったけれど……今回色々やっちゃったからなあ……
人里にも伝わってたらどうするか……変な白いもじゃもじゃから変わって白い悪魔とか呼ばれるようになるのかね。……いや変な白いもじゃもじゃも相当なもんだけどさ。
「そうだ毛糸さん、ちょっと外で話しませんか。話したいことが沢山あるんですよ」
「え?あ、あぁうん、わかった」
「……はぁ、で、左腕ですか?」
「なんの話?」
文が急に左腕の話をしてきて愕いたが、つい反射的に誤魔化してしまった。
「気づかないとでも?あなたの動き、さっきから不自然ですし、私に叩かれた時も右腕でしか叩かれたところを押さえていなかった。これだけで理解するには十分ですよ」
「いやー、そのくらい観察して気づくの文くらいだと思うよ?」
「私でなくともにとりさんや椛が見てもすぐにわかるでしょうよ」
なに、私の周りには変態しかおらんのか。柊木さんは気づかなかったけど……なんでちょっと見ただけでわかるねん、たまたま、左腕を動かすのが面倒くさかっただけかもしれないでしょうが。
「みんなにもあとで伝えておきますからね、全く……隠し通せるとでも思ってたんですか」
「言ったら面倒くさいことなりそーだなー、と……また今度伝えようかなと……」
「地底で何があってそうなったのか知りませんけど……まあ大方の予想はつきます。はぁ…」
呆れた表情でため息をつかれる。
私だってさ、頑張ったのにさ?こうやってため息つかれるんだよ?もうちょっと優しくしてくれたってよくない?
……まあ心配かけたからこんな顔されてるわけで。
「その左腕、どうするつもりですか」
「どうするつもりって……どうしようかなぁ」
あの後一度腕を自分でもう一本生やしてみたけど、動かないままだった。神経が変なことなってるのか、腕の再生の仕方がおかしいのか……なんにせよ動かないことには違いない、ら
「まあこれは油断してた私の自業自得みたいなところあるし、しばらく様子を見てみるよ。これから良くなるのか酷くなるのかわからないしね」
「そうですか。………まああなた自身もう理解してるでしょうからあまり口うるさく言いませんけどね」
まあ言いたいことはすごいわかる、わかるけどもね。下でさとりんに散々言われたし……自分勝手なことして申し訳ないとは思っている。
めちゃくちゃ心配かけたことも、今回は本当に申し訳なかったと。
「毛糸さん……この際言いますけど、いい加減に、もっと私たちを頼ったらどうですか」
「頼る…って言われましても…」
「あなたが私たちとの間に引いてる境界線はなんなんですか、なんでこっちにもっと踏み込んでこないんですか」
「それは……その……」
「どうせあれなんでしょう、自分にそんな資格ないとか思ってるんでしょう」
おっと…バレてる。
…あんまりこの世界の人に迷惑とかかけたくない、私は異物だから。
とか言ってたら心配かけてるんだもんなぁ……辛い世の中だ。
「今更何言ったって改めないでしょうけどね!」
「まあそう怒るなって……今回でそういうこと十分理解したから、次からは頼るようにするよ。…多分」
「……私たちって対等な関係ですよね?」
「え?あぁうん、そだね」
「じゃあなんで毛糸さんがこの山のいざこざに首を突っ込んできたりするばっかりで、私たちはあなたに何かをすることができないでいるんですか。これって対等って言えますか?」
「さ、さぁ………」
正直頼る機会がないとも言える……まあ機会あっても頼ってるかどうかは別の話なわけで。
「……私はさ、なんていうかこう…怖いんだよ、誰かを失うのが。私のせいで友達が、いなくなったらって考えるとさ…だから友達のことは助けるし、私のことにはあんまり関わってきてほしくない」
「…それは昔に人間の友人を失ったからですか」
「そうかもね」
何よりも大切なんだよ、私の周りにいて声をかけてくれる人たちが。
「まあ気持ちは十分理解できますけど…それって自分勝手じゃないですか」
「まあ、うん…」
「私だってあなたを失うことが怖い、だからもっと頼って欲しい。別にそれは特別な感情でもなんでもなくて、相手を大切に思ってるからこそ、当然の気持ちなんですよ」
……当たり前、かぁ。
「だから、あなたが自分を犠牲にする必要はないんです」
私の動かない左腕を手に取って語りかけてくる文。
「そんな一方通行じゃ、友達って言えませんよ」
「………そうだね、文の言う通りだ」
「わかってくれたならいいんですよ」
本当に…心配ばっかりかけて、友達失格だな。
「それで?これからどうするんですか?まずはみんなに顔を見せてきてほうがいいと思いますけど」
「ごめんそれまた今度で。文がみんなに言っておいて、私いかなきゃいけないところあるからさ」
「……?一体どこに」
「アリスさんとこ。わかったからさ、自分のこと」
この世界にやってきてから数百年、ようやく答え合わせの時間が訪れようとしている。
みんなには悪いけど、これは私が今一番優先したいことだから。
「………危ないことじゃないですよね」
「もう全然、なんの危険もない」
「ならいいですけど……どちらにせよその体なんですから、あんまり危ないことしないでくださいよ」
「わかってるって」
今すぐにても向かいたいところを我慢してこの山にやってきたんだ、さっさと行って終わらしてしまいたい。
あー、でもそうか……二人には会っておいた方がいいか……
「じゃあもう行くよ」
「そうですか……今日の話、忘れないでくださいよ」
「へいへい」
「っと………そうか、墓も直しとかないとなぁ……ここのこと考えたらなんか腹立ってくるな。なんで壊す必要あったんだよここ……」
りんさんの墓はずっと掃除したり花を添えたりしてきたのに……多分これを壊したやつはめっちゃ性格悪いと思う。
もしかしたら地底にいたあのクソ野郎だったかも……まあそれならもう死んだだろうから別にいいけど。
「えーっと、大ちゃんとチルノ………あ、いた」
周囲を見回して、二人のいる方へと近寄る。
「おーい、二人ともー」
「あ、毛糸さん…大丈夫でしたか?」
「正直に言うと死にかけたけど死んでないからかすり傷」
「えぇ……」
「遅いぞ子分!心配させやがって!」
ふぅ……二人の顔みるとなんか落ち着くなぁ。
「私もうすぐにまた出かけるけど、とりあえず無事ってことだけ伝えにきた」
「そうですか……本当に大丈夫ですか?」
「…?うん、大丈夫」
「ならいいんですけど…」
「子分はさっさと親分のとこに戻ってくるんだぞ!」
「はいはい、わかってますよ。それじゃあね」
………なんか大ちゃんには色々とバレそうだな……
まあいいや、今はさっさとアリスさんとこに急ごう。