毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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竹林の奥へと進む毛玉

今の私の体がどうなっているのか、なんとか探ろうとしてみた。

 

まずはこれが一番手っ取り早い方法。もう一人の自分に聞いてみる。

返答は………

 

『いや私もわかんない』

 

とのことだった。

曰くもう一人の私も結局私なため、私がわからないことはこいつもわからないらしい。ケッ、使えねえ二重人格だぜ!

 

で、次はアリスさんに聞いてみた。理由としてはまあ……知り合いで一番博識そうだったから。

それで返答は……

 

「呪いは専門外だから……」

 

とのことだった。

まあそうだよね!魔法使いだもんね!呪術師でもなんでもないからね!

ただ魔法を使った義手なら人形と同じ要領だから割と簡単に作れるらしい。検討しておこう。

 

幽香さんのところにいくのはやめておいた。まあ……話が面倒くさくなりそうだし……

多分解決策でないでしょ行っても。全部落ち着いたら改めて報告に行こう、そうしよう。

 

で、藍さん。

残念なことに今はシーズン外なので連絡の手段がない。まだ初秋だから冬まで間があるし、それまでに普通に義手が作れるようになっていることだろう。

 

 

 

 

「てわけでして……なにかいい案ないですかねえ…」

「何気に壮絶なことしてくるな君は……」

 

最後に残ったのは慧音さん。

慧音さんから何も出てこなかったらお手上げである、もう無理ふて寝して山が落ち着くの待つ。

 

「でもそうか左腕を……それはさぞかし不便なことだろう、力になってやりたいのは山々なんだが、なんせそこまでの技術が人里にあるかどうか……」

「だよねぇ……まあ何もなかったらそれはそれでいいんですけどね。できることならって話だし、調べても治るわけじゃないし」

 

でも慧音さんもダメだったか……よしおうち帰ってふて寝するぞ私は!まだ家が元通りになるにはまだまだ時間かかるし……あ、その復旧作業が片腕じゃ時間かかるから義手欲しいんだった。

………よしふて寝だな!

 

「あ、そういえば」

「お?何かあるの?」

「まあ、当てはあるというかなんというか……この後暇か?」

「そりゃ年中暇を持て余してるっすよ私は」

「じゃあ着いてきてくれ」

 

……ん?人里じゃないの?

どんどん人里から離れていくけど……てかこの方向……

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけだ、案内してやってくれないか」

「……まあ、慧音の頼みなら……」

「よろしくお願いします。あー、えーと、うーん……えと……ちょっと待って今思い出すから」

 

誰だっけこの人……名前が出てこない……誰かは出てくるのに名前が…あ。

 

「そうだ妹紅さんだ」

「久しぶりだな、しっかり忘れてたな私のこと」

「いやまあそりゃもう」

 

最後にあったのいつなんだか。

……そういやミスティアと最初にあったのここだったっけ。あいつ今何してんだろ。

 

「んで、なんで迷いの竹林に?てか案内ってどこに」

「永遠亭だ」

「永遠…亭?」

 

なにそれ知らないんですけど……

 

「それじゃああとは頼んだ、私は用事があるから先に帰っておく」

「あちょ、慧音さーん?」

 

説明が……説明が足りないってばよ……

これはあれか?私の理解力の問題なのか?私の頭が悪いからいかんのか?

 

「まあ、道すがら話すよ。はぐれないように気をつけてな」

「あぁはい……えっと、確か妹紅さんって不死身…」

「正しくは蓬莱人、らしい」

「蓬莱人?」

 

というかこの竹林すごいな……視界も悪いし竹が変な生え方してるし、私なら確実に迷うんだけど……そんな竹林を妹紅さんはずんずん進んでいく。

 

「私の生い立ちについては話したことあったか?」

「生い立ち……えっと……」

『あるよー』

「あ、あるある、あるっす」

「そうか」

 

やべー全然覚えてない……

 

『今思い出させるからちょっと待ってて』

 

おまっ……そんな便利なことできたんかお前!私にしては優秀じゃねえかムカつく。

もう一人の私の言った通り、妹紅さんの生い立ちが頭の中に入ってきた。そうだった……この人かなり壮絶な人生送ってたわ。

 

「私もどこまで話したか覚えてないんだけど……輝夜っていう姫様がこの先に住んでるって話はしたっけ」

「うん、したね」

「よく覚えてるな…私のことは忘れてたのに」

「いや、それはちょっと……その……色々あってですね……」

「まあいいさ。多分前は詳しい話はしなかったと思うから、今ここでするぞ。あと、これから会う相手はその存在が知られることを嫌がるから、くれぐれも他言はしないでくれ」

「あぁはい。慧音さんは知ってるんだね」

「……まあな」

 

それだけ妹紅さんが信用を置いてる相手ってわけか。

わかる……わかるよ……慧音さん凄いいい人だもんね……

 

「もし誰かに話した場合身の安全は保証できない」

「え、なに……え?」

「話続けるぞ」

 

妹紅さんは道なき道をぐんぐん進んでいく。魔法の森もそれなりに迷いやすいんだけど、この竹林は段違いだ。それなのに迷う様子もなく……脳内マッピングでもされてるのかね。

 

「その輝夜が月の追手から逃げるのに協力した一人の従者がいたんだ。これもまあとんでもない奴でな……お前が診てもらう相手はその人だ」

「とんでもないって……まあ今まで散々規格外の人に会ってきたからね、ちょっとやそっとじゃ驚かないよ」

「数億年単位で生きてるらしいぞ」

「ホワッツ!?……え?なんて?」

「数億年単位で、生きてるらしい」

「………」

 

桁が違ええぇ……えっと…いちじゅうひゃくせんまんおく……私の数百年とかもはや無に等しいじゃん……

 

「えっと…それは比喩とかではなく?」

「事実らしい。まあ少なくとも私たちなんかとは比べものにならないほどの年月生きてきてるだろうよ」

 

え、いやだって……え?

数億年ですよ?億ですよ?おっくせんまん!おっくせんまんだよ!?いやこれは違うか……いやいやそうじゃなくて。

確か最古の人類が生まれたのが数百万年前とかでしょ?それをなに?数億?数億ってなに?地球の年齢知ってる?46億年だよ?多分。

今から1億年遡ってみ?白亜紀だからね?それが数億?へ????

 

たかだか百年行かないくらいの寿命の人間だった頃の私ならどう思ってたか知らんが、数百年は生きてきた今ならわかる。てか今じゃなくてもわかる。

数億年って……なんやねん……

 

「おーい、はぐれるぞー」

「え?あ、ごめん」

「大丈夫か?」

「いやまあ……はい……ちょっとスケールというか…規模というか…私の脳みそのキャパをオーバーしかけたくらいで……」

「そんなにか?数億年って。正直私にはよくわからないが」

「そんなにだよ、数億年って。1万年遡るだけでも大したもんなのに…」

 

……でも。

考え方によっては古代人との対面なんだよね。いやだからどうした、古代にも程があるだろ。

まあ……私の中の常識、前世の知識はこの世界じゃ通用しないって考えた方がいいのかな……ここだと輝夜姫が実在する人物になってるし。

なんかもう…桁が多すぎて一周回って落ち着いてきたかな。

 

「んでまあ、私が飲んだ不死の薬を使ったのもそいつなんだとよ」

「そりゃまあ……凄いね。というか蓬莱人?ってのは一体…」

「不死者、まあ極端な話すると身体を肉片の一つも残らず消滅させられてもどこからともなく生き返る、そんな存在だ」

「えぇ……」

 

単に死なないとか再生能力とか高いではなく、どこからともなく生き返る……?あ、またキャパオーバーしそう。

流石の私も多分頭吹き飛んだら余裕で即死だろうし……ただ再生能力が高いだけの私と比べちゃダメなんだろうな。

 

「そういやお前は再生力が凄いんだったか、どの程度だ?」

「どの程度…見たほうが早いかな」

 

左手の親指を右手で掴んで持ち上げる。

 

「まずこの指を掴みます」

「あぁ」

「引きちぎります」

「あぁ」

「生えます」

「なるほど?」

「……まあ、今まで四肢が無くなって丸焦げになったり下半身が無くなったりぐちゃぐちゃの肉塊になったりしたけど、今こうして生きてるんで」

 

妹紅さんたちがどうか知らないけど、私の場合は妖力が尽きた時点で再生できなくなるから、相手からしたら私の頭を吹き飛ばすか妖力切れを待つかみたいになるんだろうなぁ……

 

「結構激しい人生送ってきてるんだな…」

「あ、心臓潰されたことはまだないっす」

「そうなのか、いやーあれは辛いぞ?死ぬまでしっかり苦しみを味わいながら死ぬからな」

「……あるの?心臓潰されたこと」

「あるぞ、数えるほどだけど」

「数えるほどあるんだ……」

 

さすが不死身受けた傷のスケールも違う。

頭吹き飛ばされたこともあるんだろうかこの人は。

 

「頭吹き飛んだ方がまだいいな、即死だから」

「アァハイ……サヨウデ」

 

……え?なにこの……不死身談義みたいなの。

どんな死に方が苦しいくて辛いかとかそんな話してんの?え?マジ怖いんですけど……物騒すぎる。

 

「まあ、再生力と生命力で言えば私よりお前の方があるんだろうな」

「いや妹紅さん死にませんやん」

「不死身って言っても、死んだら生き返るってだけだからな。下半身無くなっても死なずに生えてくるお前には敵わんよ」

 

不死者より死なない私ってなんなんだろうね!いやまあ何度も死にかけてるわけなんだけども。

 

「あ、さっき言った薬作ったやつと輝夜、あいつらも私と同じ蓬莱人だぞ」

「………蓬莱人だから数億年生きられると?」

「いやあいつらもなったの千年前とかそんなもんじゃねえかな」

「じゃあ蓬莱人関係ないですやん、そんなの関係なしに桁がおかしい年数生きてるんですやん」

「その辺疑問なら本人たちに聞いてくれ」

 

なんかもう色々規格外で会うのも恐れ多いんですけど……紫さんは存在知ってんのかな?まあ妹紅さんに喋んなって言われたから誰にも絶対喋らんけども。

そういや紫さんはどのくらい生きてるんだろうか。長生きなのは間違い無いだろうけども……

 

「そういやお前って何年くらい生きてるんだ」

「数えてないね」

「大体でいいからさ」

「え〜……3…400年くらい?」

「若いな」

 

みなさん聞きましたか!?400歳が若いって言われる世界ですよここ!そんな神話の世界じゃ無いんだからさあ……いや、神様いるらしいけども。実在するらしいけどもこの世界。

というかその二人は神様とかじゃないの?そんな長く生きてて…神様がこの世界でどういう存在なのか全く知らないんだけどもね?

 

「じゃあ妹紅さんいくつよ」

「さあな、もうわかんなくなっちまった」

「えー」

 

じゃあ私もわかんないよ……私50年までは数えてたんだけどね……なんかそこからやたらと一年が早く感じて気づいたら数百年。慣れって怖いね。

 

「まあどんな存在にも寿命はあるんだ、いつかくる終わりを後悔しないで迎えられるようにしとけよ」

「あぁ、後悔ならもう山ほどしてるんで大丈夫っすね」

「何が?」

 

終わり……終わりかぁ。

果たしてそれが私がしわくちゃのおばあちゃんになって迎えるものなのか、それとも無惨な姿で血を流しながら迎えるものなのか……

なんかどっちも嫌だな。ってか毛玉に寿命とかあるんか?そう考えたら妖精なんて死なないし……妖精に関しては死ぬって言う概念がないから不死身っていう言葉も合わないのだろうか。

 

「不死身ってなんなんすかね」

「生者でも亡者でもない、この世の理に逆らった結果どこへ行き着くこともできなくなった罪人かな。あの薬を飲む前も飲んだ後も、不老不死になりたいとかそんな話聞いてたが、まあ馬鹿らしいことこの上ない」

「流石、経験者が言うと説得力が違えや」

「ははっ、やめろその言い方。間違ってないけどな」

 

自嘲気味に笑う妹紅さん。

私には推し量れないようなことを感じて来たのだろう、正直私は気まずい。

 

「……あ、その輝夜って人に会うのは大丈夫なの?妹紅さんが」

「ん?まあな。そりゃあ昔は感情をぶつけて何回か殺し合ったさ。まあ向こうからすればただの暇つぶしなんだろうがな。でもまあ、同じ蓬莱人はあいつらだけだし、ずっとそうやって憎み続けるのも馬鹿らしいだろ」

 

ほえぇ……立派な人だなぁ。

 

「あとあの件に関してはうちの父親が悪いし」

「あぁ、そうですか」

「思えば私も、勝手に薬を飲んで勝手に憎んでただけなんだよなぁ。馬鹿なことしたもんだよ」

 

老いて死ぬことがないだけでなく、本当の意味で不死身なこの人。

一体どこへ行きつくのだろうか。

 

「そういや妹紅さんって普段何してんの?」

「基本は竹林の入り口あたりにいるな。時々慧音に会ったり人里に行ったりしてるが……特別なことは何もしてない」

 

すっげえ暇そう。

私もひと段落したらまた暇暇言う日々が来るのかねぇ……まあ暇って言えるうちが平和なんだろうけども。

暇だからと言って争いが起こって欲しいわけではないぞ私は、ちょっと賑やかなこと起こればいいのになって思ってるだけだし。

 

「もうすぐ着くぞ」

「あ、はい」

 

どうやって進んできたのか全くわからんのだけど……というかなんか結界か何かの術を通り抜けたような、そんな感覚すらある。

一体どんな人なんだろうか、その薬を作ったって人は。

 

……怖くなくて優しい人だといいな!


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