「わぁ…立派なお屋敷ですこと」
「じゃあ私が中に入って話つけてくるから、入り口で待っててくれ」
「あぁ、ありがとうございます、色々と」
いやぁ、何から何まで本当ありがたい……なんでそんなにしてくれるんだろうか。
「なに、ほんの暇つぶしさ」
暇つぶしでした。
まあ暇つぶしでも全然嬉しいんですけども……ん?
誰か私のこと見てる?
妹紅さんは入り口から中に入って行ってしまったし…
「………いるなら出てこい」
なんつって。
「お、気取られちゃったか」
「うわ出たぁ!!」
「驚くのそこ!?出てこいって言ったよね!?」
「いやだって本当にいるとは思ってなかったし……いるならいる、出てくるなら出てくるって言ってから出てこいよ!」
「何言ってんの……?」
「…なんかごめん」
誰もいなかったらいなかったで、いるなら出てこいなんてカッコつけたセリフ誰も聞いてないからいいやと思ってたら…本当に出てきたよ。
しかもなんかちっちゃいうさ耳ついてる奴が……うさ耳!?
「犬耳じゃない……だと……!?」
「だから何言ってんの……?」
「さっきからなんかごめん」
「いや別にいいけどさ……」
なんか会って早々呆れられてるんだけど。
いやまあ私が悪いんだけどさ。
「………」
「………」
わぁ気まずーい。
「…えと、私は白珠毛糸で……」
「あ、私はてゐだよ、よろしく」
「あぁ、うんよろしく。いつからあとをつけてたの?」
「わりとさっきからだよ、妹紅が人連れてくるなんて珍しいからさ」
「知り合い?」
「まあねー」
なんというか……
小柄でうさ耳って言うなんともまあ可愛らしい見た目なんだけども……紫さんとかと同じ胡散臭さというか…掴みどころがないというか。
多分見た目より大分長い間生きてるなこりゃ。
「で、ここには何の用で?」
「あぁ、ちょっと左腕が動かなくなってさあ、診てもらえる人探してたらこんなとこまで」
「ふむふむ、ちょっと見せてもらっていい?」
「おんいいよ」
そういうとてゐは私の左腕を持ち上げたりつねったり動かしたりして、なんかいろいろ調べ始めた。
「ふむふむ……なるほど…」
「何かわかった?」
「いやなんにも?」
「………」
「そんな顔しないでよ、うちのお師匠様ならきっと治してくれるからさ」
「えっ」
「え?」
「別に治してほしくないんだけど」
「えぇ?」
だって治したら義手が……私の義手がぁ……
「帰りたい…」
「ちょっちょっちょっ……あんた随分変人だね?」
「よく言われる」
「それにその頭、まるで毬藻みた——」
「あ?」
「……あ、もしかして毛玉?」
「よくわかったね」
危ない危ない、ぶん殴りそうになったわ。ってか左腕が動いてたらぶん殴ってたかもしれない。
最近まりもって言われてないからなあ、耐性が……
「えっ………」
「なんで引いてんの」
「私の知ってる毛玉と全く違うから…冗談半分で言ったのに…」
「あぁ……うん……そっかぁ………」
もう毛玉って名乗るのやめようかなあ……流石にメンタルにくる。
じゃあ私はなんなんだって話なんだけどね。お前は何者だって言われてももじゃもじゃの変な妖怪です、としか答えられない。
「ってか毛玉ってそんなに強い妖力持ってたっけ…?」
「色々とあったの、色々と」
「一体何が……まあそれだけの力持ってるのにこれだけ気楽に話せてるってことは、まあ危険な人じゃないんだろうけどね」
私の妖力感じ取れるのか、これでも結構抑えて隠してるのに。
逆にこいつの妖力はあんまり感じ取れないんだけど……やっぱこいつ只者じゃねーな。
「でもおかしいなあ……それだけの力持っててそんな頭なら名前くらいは知ってるはずなんだけど……」
「まあ、ここ数百年くらいに生まれて、そこまで目立ったことしてるわけじゃないし。むしろ隠れて平穏に生きてるくらいだからね私は。知らなくても無理ないと思うよ?あとそんな頭は余計だ」
まあ人里じゃ私のことそれなりに知られてるみたいだけども……まあ悪い印象は持たれてないはずだ。私基本人間の味方ですしぃ?
友達がほぼ全て妖怪だからそっち優先することもあるってだけですしぃ?
「まあ、腕が良くなるといいね。それじゃ」
そう言うと彼女はてくてくとその辺を歩いていった。
うーむ……見た目の割に発言が子供っぽくないって点では親近感を覚える。いやそんなの妖怪なら珍しないしそれこそさとりんとかめっちゃ大人びてるけども。
「おーい。…ん?あれてゐか?」
「妹紅さん戻るの早かったね、知り合い?」
「まあな、とは言っても仲がいいわけじゃないけど」
気づくと後ろに妹紅さんが立っていた。
もしかしたらてゐは妹紅さんが戻ってくるのを察知して立ち去ったのだろうか。いやたまたまタイミングが良かっただけかもしれないけど。
「それで、どうだった?」
「最初は渋い顔されたけど、お前の体質?を話したら面白そうって引き受けてくれたよ」
「面白そう……?マッドサイエンティストじゃないよね?変なことされないよね?」
「まっど……?いやまともな人だとは思うが…変なこと……」
…なんで言い淀む。
変なことされないって言ってくれよ、言い切ってくれよ。
「頑張れ」
肩に手を置いてそう言われた。
すごく無責任に。
「じゃ、私は外で待ってるから、さっさと行ってこいよ」
「え、いや私場所わかんない……」
「突き当たりを右に曲がったらなんか凄そうな人いるから、それでわかる」
何そのなんか凄そうな人って…適当にも程があるでしょ!?
せめて外見の特徴とか………え?会えばわかる?あーはいもういいです。
言われた通り、突き当たりを右に曲がった。
妹紅さんは会えばわかると言った、なんか凄そうな人がいると言った。
私はまあ、誰とも会っていないがもうどこにいるかわかってしまった。
この廊下を進んで右手にある部屋にいるのだろう。
だってなんかあの部屋だけ漂ってるオーラ違うんだもん。
あそこだけなんか別の世界みたいな気配出てるんだもん。
いや別世界っていうのは言い過ぎか、でもなんかこう、何かいるんだろうなあって感じの気配は出てる。
そーっと歩いていき、その部屋を覗き込む。
「………あ、どうも」
「どうもこんにちは」
めっちゃ目が合ったわ。
椅子に座ってこちらを見つめている銀髪の女性。
ってかなんすかその服、なんで左右で赤と青分かれてるすか。ツートンカラーってやつっすか、そういうファッションなんすか。
「妹紅から話は聞いたわ、白珠毛糸ね?八意永琳よ、よろしく」
「あぁはい、よろしくお願いします」
「……聞いてはいたけど凄い頭ね」
ほっとけこの野郎。あんたも頭で誰かわかったとかそういうこと言うクチなんでしょ、顔見たらわかるんだからね!
「さてと、話は聞いたとはいえ不明点が多いから軽く自己紹介と、何して欲しいのか教えて」
「あ、はい。えぇと、白珠毛糸、毛玉です。特技は手足を瞬く間に生やすことです。今日はなんやかんやで動かなくなった左腕を見てもらいにきました」
「自己再生能力が高いってことね。具体的にはどのくらい?」
「まあ本気出したら1秒以内には腕生えますね」
「へぇ、それはなかなか……」
なんかこう、ぽんぽん話進むね。
永琳さんだったか、確かになんか凄そうな雰囲気はあるんだけど、それは紫さんとか幽香さんとかと似たような感じで、到底数億年生きたとは思えないような感じだ。
人の形してないとか、頭部がめちゃくちゃ肥大化してるとか、そんなこと考えてたけど、別に普通の人って感じだ。いや普通の人ではないんだけれども。
「あ、霊力と妖力持ってます」
「あ、やっぱり?そんな感じしてたのよね。腕がなんで動かなくなったのかはわかる?」
「えーと、呪いにかかって……それを全部左腕に寄せ集めた感じで……自分で動かせる義手を作る予定はあるんですけど、そもそも動かせるのかなって感じで」
「なるほど、ちょっと見せてくれる?」
そう言われ左腕を右手で持ち上げて永琳さんに触ってもらう。
なんかすごい触られてるけど、左腕感覚ないんだよね。
「ふぅん……骨格も筋肉も異常ないわね。至って普通……腕は何回か生やしてみたのよね?」
「はい、まあ全部動かなかったんですけど」
「そう。中がどうなってるか具体的にみてみたいけど、今からだと準備に時間かかるわね…」
「あ、なんなら左腕もぎますよ?」
「え?あ、え?あ、あぁ、そう。………そうね、そうしてもらおうかしら」
永林さんが机の上になにかシートみたいなのを敷くのを待って、左腕をちぎり取る。
その時に左腕の断面を氷で蓋をして血が落ちないようにしておいた。
左肩からちぎったので、ちぎったところから再生してまた新しい手を生やしておく。
これで血は床に落ちたりしない。
「どうぞ」
「…本当に治るの早いわね」
なんか微妙な顔で私の腕を受け取る永琳さん。
わかるよ、突然腕をもいで渡されたら困惑しますよね、私もそう思います。
「少し時間かかるから、なんで霊力と妖力を持っているのか説明してもらえるかしら」
「あ、はい」
ナイフ……メスってやつか?
そんな感じのやつで私の腕を切り裂いていく永琳さん。自分でちぎったとはうえ、自分の腕がなんか解剖されてると……なんか変な気分になるな。
「えっと……まあ簡単に説明すると、もう一人の自分が自分の中にいて、そいつが霊力を持ってて私が妖力を持ってるって感じです」
「……なるほど」
少し簡潔過ぎた?いやでも自分でもよくわからんし……話したら結構長いし……
「まああなたがただの妖怪じゃないってことはわかったわ」
「ただの妖怪がこんな頭してますか?」
「それもそうね」
「……肯定するんかい」
なんか私の左腕を好き勝手してらっしゃる……あ、骨取られた。
「………あなたって、弱い?…わけないわよね」
「え?あ、何を基準にするかにもよりますけど」
「あなたの体、人間のそれと同じなのよ。普通妖怪なら構造が少し違かったり、骨の強度とか筋肉とか……もちろん妖力で強化される前提のものが多いけど、ここまで普通なのは……」
「妖力だけは強いんで、それに物言わせてます」
「……それと、再生能力ね。なるほど、素が弱い分も再生が早いとか、そんな感じかしら」
「はい、そっすね。鍛えようと思った時期もあるんですけど、腕とか取れたら元に戻っちゃうみたいなんですよね。だから、妖力と再生力だけです」
妖力も幽香さんのだから……
腕が何本でも生やせることだけが取り柄です。
あと氷も出せます。これもチルノのだけど。
あと植物もちょっとだけ操れます。これも幽香さんのだけど。
あと物も浮かせられます。これもチルノの霊力がある前提の話だけど。
「見たところ筋肉や骨格にはやっぱり異常はないわね」
「さいですか」
「強いて言うなら腕の中の神経がめちゃくちゃになってたわね」
「あ、そーなんすか」
「多分脊椎とか脳とかには異常はないと思う。似たようなことになったことは?」
「さあ……なったとしても多分治ってるんで……」
「そう」
そう呟くと永琳さんは顎に手を当て、考える仕草を見せた。
「蓬莱人、わかるかしら」
「あぁはい、妹紅さんから聞きました」
「そう。蓬莱人ってね、その魂を元にして再生しているのよ」
「魂?」
永琳さんは淡々と説明を続ける。
「蓬莱人っていうのは、肉体に関しては他の存在とそこまで変わらないわ。ちょっと再生力が高いくらいかしら、それもあなたには劣る程度だけれどね。蓬莱人の本体は魂にあると言ってもいいわ」
「ええと……魂が本体だから、体を消滅させられてもまた生き返ることができるってことですか」
「そうね、それこそ微粒子レベルで分解されても、魂を依代にしてまた身体の構築が始まるわ。蓬莱人とはそう言う存在なの」
……つまりあれか、魂が存在する限り不滅というわけか。
最もその魂も不滅なんだろうけど、別に残機制なわけでもなくてね。
「……それで、なんでその話を?」
「あなたも同じだからよ」
「はぁ」
「もちろん憶測だけれどね」
同じ……同じということは……まあ、同じなんだろう。
そこに不死性はないだろうが。
「あ、鍛えても元に戻っちゃうのは……」
「まあ、それ自体は別におかしな話じゃないわ。普通の妖怪の話でも、長い時間をかけて再生した腕が筋骨隆々だったらおかしいでしょ」
「ハッ……確かに」
「呪い……多分あなたの魂にかかってるんでしょうね、腕じゃなくて。だから魂を元として再生しているあなたの腕は何度生やしても元に戻らない」
そういうカラクリだったのかぁ、なるほどぉ……
すまん、自分でも本当に理解できてるか自信ないぜ。
「もちろん同じと言ってもあなたが不死身なわけではないでしょうね、似ている、と言った方が適切かしら」
「えーと……治りますか?」
「まあ、呪いをかけた術者か道具、それが無くなっているのなら呪いは弱まっていくでしょうね」
「永琳さんには治せ——」
「ない」
「アッハイ」
まあ呪いは専門外っぽいしなあ。
「というか、蓬莱人の話とかしてよかったんですか?私に」
「あなたに話したところで私を殺せるわけでもないしね。あ、どちらにせよここのことは他言無用よ。もし話したら…」
「話したら……?」
「ふふっ」
こっっっわ!!!!
笑顔こっっっっわ!!!!!
「絶対誰にも言いません誓ってもいいです許してつかあさい」
「冗談よ、冗談」
あ、普通の顔だ……いやさっきの冗談の顔じゃないよ!?
「……面白い実験体になりそうだなあ、とは思ってるけど」
なんか小声ですごい怖いことをおっしゃっているのですが。
「………あ、義手って動きますかね、妖力通してこの腕の代わりにする予定なんですけど」
「問題ないと思うわよ、あくまで再生したあなたの腕に異常があるだけだからね。左腕という概念そのものに呪いがかかってたらどうなるかわからないけど」
まあ……義手使えるならそれでいいや!
「それなら良かったです。あんまりお邪魔するのも迷惑になりそうですし、もう帰ります。お世話になりました」
「あら、別にここにいてもいいのよ?実験体として。………冗談よ、そんなに怯えないでちょうだい」
冗談に聞こえねーんだわ!
逃げるように私は部屋を出た。
………あ。
なんで私の体はお酒ダメなのか聞いときゃよかったな。他にも毒とかいろいろ。
まあいいか、怖いし。良い人なんだろうけど、怖いし。