毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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ある日の白狼天狗

「……もう痛まないな」

身体のいたる所にあった裂傷はもう塞がっている。

骨に傷が入っていたりしたらしいが、多分もう大丈夫だろう。

生きてるやつの中では俺は結構重傷だったらしく、しばらくは安静にしていた。

 

だがもう傷は塞がっているし、少し身体を動かしたくなった。

 

気怠い体を無理やり起こして出かける準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、待たせたか?」

「はい、めちゃくちゃ待ちました」

「そんなに待ってねえだろ」

 

椛と待ち合わせしていた場所に到着する。

椛は暇そうに空を見上げて待っていた。

 

「悪いな、付き合ってもらって」

「いえ、そんなことより珍しいですね。柊木さんから誘ってくるなんて」

「まあ、体も鈍ってるし、久々に運動したくなってな」

「いい心構えです」

「お、おう。まあそれに、前みたいなことがまた起こって、あんな風にたまたま生き延びれるかどうかはわからないしな」

「そうですね」

 

あの妖怪たちの山への侵攻以降、幻想郷自体が至って平和な気もする。

まあ妖怪の数自体減ったのもあるだろうし、あの軍勢が全滅したってことが広まってるのかもしれない。

あれはあのもじゃもじゃが大体潰したんだがな。

 

椛と目的の場所に向かって歩き始める。

 

「そっちはどうだ、身体の調子は」

「まあ最初は倦怠感凄かったですけど、あなたよりは回復早かったですよ」

「だろうな。俺なんて数ヶ月包帯に巻かれてたからな」

 

改めて思うが……こいつやべえよな。

あの時の女は身体能力でも妖力でも俺たちを上回ってたのに、こいつは刀に妖力流し込んだだけで刀まで折って完全に相手を下したからな。

 

こいつの場合妖力とか身体能力が凄いんじゃなくて、小手先の技術とかそういうので上をとってくるからな……

 

「…なんですかその目」

「いや……別に」

「……そうですか。そういえばあの時のお礼言ってませんでしたね」

「あの時?」

「私の自分の手で奴を殺したいっていう我儘に付き合ってくれたじゃないですか」

「あ、我儘って自覚あったんだ痛え!蹴るなよまだ調子優れねえんだぞこっちは!……まあ、あの時はどっちにしろ、あいつをなんとかしなきゃいけなかったしな」

「別に毛糸さんに丸投げしたら済む話だったんですよあれ」

「確かにそうだ」

 

あの時のあいつなら嬉々として引き受けそうだな……なんやかんや言って大体頼みは聞いてくれるからなあいつ。

 

「それに、それだけじゃないです。私が奴を殺せたのは、半分行かないくらいはあなたのおかげですし」

「半分行かないくらいなんだな……まあ、なんだ。お前なら割となんとか切り抜けそうだが、見捨てて死なれても困るしな。付き合うだけ付き合ってやるって考えはあったさ」

 

俺にも白狼天狗を馬鹿にされて許せない気持ちってのがあったのかもしれないな、ちょっとだけ。

 

「まあ何にせよ、あなたの傷は私が負っていたかもしれないものです。この前はありがとうごさいました」

「やめろ、お前が素直に礼を言うと気持ち悪い」

「鳩尾に拳をねじ込んで欲しいみたいですね」

「やめろやめろやめろ、吐くぞ」

 

なんかこいつ鳩尾好きだよな……いや、簡単に狙える場所だからとかそんな理由なんだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

修練場ではなく、山の少し開けた場所まで移動して、お互いに竹刀を持って打ち合いを始めた。

いや、俺が一方的に竹刀を叩き付けられてるだけなんだが。

 

「はぁ、はぁ、無理……もう無理……」

「まあ、久しぶりにしては動けてる方じゃないですかね」

「そうか……ふぅ……」

 

いかん、身体のあちこち痛くなってきた…

なんで竹刀で体を動かすだけって言ってるのにこいつは全力で俺のこと叩き潰そうとしてくるんだ…いや、分かりきっていたことではあるが。

 

「休憩、とりあえず休憩」

「本当に体力落ちてるんですね……まあ仕方ないか」

 

自分でも体がうまく動かないのを実感する。まあまだ傷も完全に治ったわけじゃないし、無理しない程度にまた感覚を取り戻していこう。

そのために取れる一番有効な手段がこいつに一方的にやられることなのは正直嫌になるが。

 

「はぁ……そういやお前、なんで俺なんかとつるんでるんだ」

「なんですか急に。腐れ縁とかじゃないですか?」

「まあそうかもしれんが、なんで俺みたいな普通のやつの相手してんだ」

「なんでって…私も別に偉い立場にいるわけじゃないですよ?一応柊木さんの上司ですけど」

 

そうだった俺こいつの部下だった……普段全く意識しないけどそういえばそうだった……

 

「まあ、何人もいる白狼天狗の中でたまたま柊木さんに出会った、それだけじゃないですかね。あと私とまともに付き合える奴がほとんどいないので」

「だろうな、俺と文とあのもじゃもじゃくらいだろ」

「まあそうですが」

 

俺と交友関係大して変わらねえじゃねえか。

いやでもこいつ確か河童の方にも知り合いいたんだっけか、まあ大差ないが。

 

「何故か皆、私のこと見ると避けたり怯えたりするんですよね……何故なんでしょう」

「おま…本気で言ってんのか?」

「…?そうですけど」

「馬鹿か?おぶぅっ」

 

竹刀で顔を横からぶっ叩かれた。

 

「いってえな……そうやってすぐ手を出すところが避けられてる理由なんじゃねえのか」

「勘違いしないでくださいよ、日頃からこんなことするのは柊木さんだけです」

「ふざけんな」

 

まあこいつのしでかしたことが尾鰭ついて広まってるとかそんなんだとは思うが……まあ割と事実だったりするしなこいつ。

本人もそれに否定しないからそうなるんだよ……確かに俺以外のこいつの被害者ってあまり聞かないが。

 

「俺たちってそもそもなんで知り合ったんだっけか」

「哨戒する場所が被ったとかそんなのだと思いますよ」

「あー、そんな感じだった気がするな」

 

で、何回か一緒になるうちに知り合いになって……成り行きってやつかね。

 

「……お前会った頃から暴力的だったよなあ」

「はあ?昔はともかく今も暴力的だって言ってるんですか?」

「おうそうだよ俺は間違ってねえ」

「まあそうですけど」

「自覚あるんかい」

 

まあ刃物突きつけられてた昔に比べたら今なんて一発叩かれるだけで済んでること思えば……いや、どっちもどっちだな。

 

「昔は私も荒れてましたからね」

「おっそうだな」

「柊木さんって昔友人いましたよね、仲良かった人」

「そういやいたな、もう顔も覚えてねえが」

「仲良かったんですよね……?」

「馬鹿なこと考えて処刑されるような奴は覚える必要ないだろ」

「……結構冷たいんですね」

「あと身の回りの奴が印象強すぎる」

 

仕事抜け出すが割と偉い地位にいる文。

やばい椛。

やばいもじゃもじゃ。

このなあ……こいつらのせいで他のやつあんまし印象に残らねえんだよな……なんなら俺もやばい奴とつるんでるやばい奴って思われてることもあるし。

 

「まあ、そういうわけだ。どいつもこいつも足臭って言ってくるのは未だに理解できんがな」

「それはそうと足臭さん」

「思い出したように使うな」

「毛糸さんの話聞きました?」

「もじゃもじゃの?……あー、なんか義手つけてるんだっけか。文から聞いた」

「あれなんか呪いかなんかでああなったみたいですよ。左腕だけ動かなくなる呪いってなんなんでしょうね」

「さあな。まああのもじゃもじゃなら何してもおかしくないだろ」

 

知り合いの中じゃあいつが一番やばいんだがな……あれだけ力持ってるくせに色んなところに知り合いいるらしい。

まあ一般の認識の大妖怪とかとは遠く離れた性格してるが、その辺が親しみやすい感じでもするのかね。

 

「ねえ柊木さん」

「あ?」

「なんでさっきから毛糸さんのこともじゃもじゃって呼んでるんですか」

「俺だけ足臭とか散々言われてるのなんか腹立つから」

「あ、しょうもない理由ですねわかりました」

 

俺の足は臭くねえ。

数百年間足の手入れは欠かしてねえんだ、それで臭いって言われたらもうどうしたらいいのかわかんねえよ。足が臭くなる呪いにでもかかってるとかそんなんだろもう。

 

なんで足臭って言い始めたか聞いても、みんな口を揃えたように俺の足が臭いからって……嗅がせたことねえだろうに。

 

「そういやさ、何でお前昔っから鍛錬欠かさないんだ?」

「死にたくないからですね」

「いやお前のやってることむしろ死にに行ってるようなもんだぞ?この前だって一人であいつ殺しに行こうとしてたし」

「そうですね………」

 

こいつは、戦いが起こりそうなきな臭い雰囲気の中だろうが、あくびが出るような平和な日々だろうが、変わらずに鍛錬を続けている。

普通の奴ならその辺疎かになって、戦いの前になって焦って急にやり始めるところだ。

 

「やっぱり、力って大事だと思うんですよ」

「ん?」

「自分のしたいこと、したくないこと、押し通したいこと、結局それらって、自分に力がないと選択権がないわけですよ。白狼天狗はそれはまあ普通の妖怪に比べれば強いですが、どこぞのもじゃもじゃとか名のある大妖怪のように自由にできるほどの力があるわけじゃない。ましてや権力があるわけでもない」

「世知辛い世の中だなあ」

「本当ですよ。だからこそ、少しでも自分のやりたいことをできるように、少しでも我を通せるように、力をつけておくんです」

 

自分のしたいこと……

 

「お前のそのしたいことってのは一人で敵に突っ込もうとすることなのか?」

「それは奴が癪に触ることばかり言うからですね、単に腹立っただけです。まあ柊木さんはどうでもいいと思ってそうですが」

「まあそうだな」

 

実際矜持とか誇りとかどうでもいい。そんなの気にして死んでちゃ世話ねえし。

 

「仲間意識とかあんまりないしな、記憶ないせいで」

「そういやそんなこと言ってましたね」

「……いや、あの時確かに俺も、白狼天狗を馬鹿にしたあいつのこと気に食わなかったんだ。ただまあ死にたくなかったのと、お前が俺より遥かに憤慨してるせいで冷静になったというか」

「それは意外ですね。情もないと思ってた柊木さんが」

「それはお前だろ」

「……お互い様ということで」

 

そりゃあまあ昔は同族とかどうでも良かったが……

数百年も過ごしていれば、少しくらい気にするさ。

 

「それも多分お前のおかげなんだろうな」

「私ですか?」

「そりゃお前、お前以外にろくな同族の知り合いいねえし」

「奇遇ですね、私もです」

 

さっきも似たような話したな……

 

「まああれだ、お前が俺に足臭とか言って殴ったり蹴ったりと暴力を振るってきたおかげで、俺にも同族意識ってのが芽生えたんだろうよ」

「なんですか?言いたいことあるなら言っていいんですよ?」

「いや別に」

 

正直顔も覚えてないし名前もあやふやなあいつよりも椛の方がよほど濃い付き合いしてるわ。

 

「というかあなた、事あるごとに自分は普通だとか言いますけど、私と付き合えてる時点であなたも異常ですよ?」

「心外なんだが」

「認めてください、控えめに言っても普通ではないです」

 

記憶なくしてる時点で普通じゃないって言われたらそれまでなんだがな。

 

「お前みたいな化け物と一緒にいる苦労がわかるか?」

「……女性に対して化け物って言うんですかあなたは」

「化け物は化け物だろうが、あと俺の知ってる女はそんなに血気盛んじゃねえ」

「よし休憩終わりです、喋れなくなるまで叩きのめしてあげますので覚悟してください」

「上等だやってやろうじゃねえかこのやろう、耐えるぞ俺は。全力で抵抗するからな」

「勝とうという気はないんですね…」

「そんなんで勝てたら苦労しねえわ」

 

 

 

 

 

 

 

「………おい、血反吐出たんだが、おい」

「知りませんよ、自業自得ですね」

「ちょっとは手加減しろよ」

 

まあ俺は割と丈夫だから血反吐吐くくらいどうってことないが……容赦なく叩きのめしてきやがった。

というか、全く勝てる気がしないな。本調子でも結果は大して変わらんだろう。

 

「まあ、昔に比べたら動きは良くなってます。地道に続けてきた成果出てると思いますよ」

「お前に強制でやらされてたようなもんだけどな。まあそのおかげで今もこうやって生きてるんだ、感謝してるよ」

「私も、数少ない友人に死なれたら嫌ですからね」

「この前はその友人を肉盾にしてたわけだが、そこんとこどうなんだ」

「これからもよろしくお願いします」

「おうこれからも肉盾にする気満々だな、任せろくそったれ」

 

もうあんなことはごめんなんだがな……少しでも気を緩めたら真っ二つになってただろうし。

そもそも椛いなきゃ死んでるだろうし。

 

「持ちつ持たれつですよ、あなたが私を守るなら私もあなたを守りましょう。それができるように力をつけてきたんですから」

「あぁはいはい、頼りにしてるさ。せいぜい足を引っ張らないように努力するよ」

 

………あ、鼻血出てた。

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