「ん?」
「え?」
「………」
「………」
「あ、あー!えーと確か……ミスティック・ロイヤル!」
「ミスティア・ローレライ!えーとあなたは……白珠…毬藻?」
「晩飯にしてやろうか鳥野郎、白珠毛糸だ。次間違えたら手羽先にしてやるからな」
「ひぃっ……」
久しぶりにミシカル……ミスティアと会った。
「よし、連れてきたぜ」
「ひ、ひいいいいいぃぃ!あ、あたたしななにかしししましたかかさかかか!?」
「落ち着け、ほらこの人だよ、えーと……ミッチェル」
「違うわよ!」
「あ、あーと、ミスティアさん……でしたよね」
「そう!ありがとうちゃんと覚えててくれて!」
「は、はあ…」
妖怪の山からるりの首根っこ掴んで飛んで帰ってきた。大丈夫、にとりんに許可は取ったから。
で、ミスティア最近見かけなかったから、今まで何してたのか聞いた。
そしたら世の中の妖怪は気性荒いし人間と妖怪は当然仲悪いしで、夢であった八目鰻の屋台することなんか到底できなかったため、今まで平穏に暮らしてきたとかそんなんらしい。
ただ、幻想郷に一つのお触れが出されたため、先を見据えて活動を再開することにしたらしい。
そのお触れとは………
………詳しい内容忘れちった。
無闇に人間襲わないでねとかそんなニュアンスだったような気がする。多分紫さんが出してる、まあ私にはあまり関係ない内容だけど。
だって私人間大好きだもの。
「それで何から始めようかと考えてた時にまり——」
「あ゛?」
「け、毛糸に出会ったのよ」
「毛糸さん睨みつけるのやめてあげてください、怖がってます」
「あ゛?」
「ぴいぃ!?なんであたしまで!?」
「なんとなく」
説明しよう。
私の眼光はそこまで鋭くないがドスを効かせてちょっと妖力を垂れ流しながら声を出すと結構怖がってくれるのである。
やりすぎると嫌われちゃうから気をつけようね。
「それにしても久しぶりですねミスティアさん、無事で何よりです」
「そっちこそ、元気そうでよかった」
「元気……あぁ、ははっ、そうですね……今はこうして元気でいられますけどね……あの時は本当に死ぬかと……」
「え、ええと……何があったの?」
「聞かないでやってくれ……全身の骨が折れただけだから……」
「なんて?全身?」
「忘れもしない……あの右腕がぐしゃっと潰れる感覚……いてっ」
病みかけてるるりの頭を一発叩いて正気に戻す。
「あ、そうだミスティアさん。以前作った仮屋台はどうしたんですか?」
「壊された」
「へ?」
「なんか強めの野良妖怪に、壊された」
「あ、はい…そうですか……お気の毒に…」
なんかミスティアも病みかけてるような……
「えーと、じゃあまた新しく作り直しますね。なんならちゃんとした、実用を見据えた奴作っちゃいましょうか」
「本当!?ありがとう!でもいいの?忙しかったりしない?」
「あ、あたし今仕事してないから大丈夫です」
「え?あ、そう…」
そういやこいつしばらく仕事しなくていいってにとりんに言われてたな……まああの戦いでは頑張ったらしいし、怪我も凄かったしそのくらいは当然なのかね。
「で、急に連れてこられて、工具とかはこの家の洞穴に置いてあるとしても資材がないんですよね……」
「……オイ、何チラチラこっち見てんの」
「いえ、別に」
「……わかったよ、取ってくるよはいはい」
「おぉ、出来てる」
「まだ形だけですけどね。ミスティアさんの要望聞きつつ色々変えていく予定です」
「よく働くなあお前」
「なんかよく勘違いされますけど、別に働きたくないわけじゃなくて他人がたくさんいる環境にいるのが嫌なんですよあたしは」
集団生活できないやつや‥‥社会に出たら苦労するやつや……いやもう社会に出てるし苦労してるだろうけど。
「にしてもここはのどかでいいですね……妖怪の山とは大違いですよ。あそこ部屋の中にいても外の作業音響いてきますからね」
「それは河童だけじゃねえかな……」
「あ、そういえば毛糸さん今義手してるんです?」
「ん?うん。服で隠してるけどね」
流石に腕が一本金属の塊ってのは目立つから、長袖の服で隠してる。あと左手に手袋つけて。
いくら見た目ちょっと誤魔化してるとはいえ違和感はある。
どうせ冬は着込んでるからいいけど夏はなあ……夏は暑いしなあ…
というか冬も金属だから冷えて凍傷とかになったら嫌だな。その辺にとりんとまた話し合おう。
「にとりさんも接続部の小型化と違和感のない人工皮膚の開発進めてるみたいだから、もう少し待ってくださいね」
「別に急いでないからいいよ」
ひとまず日常使いする奴は違和感ないようにしておきたい。まああまりにもごついと服の上からわかっちゃいそうだし。
今使ってるやつも遠目じゃわからなそうではあるんだけど……
戦闘用は見た目諦めるけどね、実用性重視。
「いやしっかしすごいね河童は。前々からこいつらやべえなとは思ってたけどここまでとは」
「平和だと発展遅いんですけどね……平和が一番なんですけど」
正直そのうちガンダムとか作りそうだから今くらいでいいよ……うん……
「あ、一つ相談なんですけど」
「ん?」
「屋台に機銃って搭載した方がいいですかね?」
「いやお前何言ってんの?」
「え?いやだから、屋台に機銃を…」
「え?」
「え?」
「え?」
屋台に?機銃?
「お前は装甲車でも作る気か?」
「だから、万一危ない妖怪に絡まれそうになっても機銃さえ積んでおけば最低限返り討ちに…」
「いや返り討ちどころか蜂の巣にする気満々やんけ」
「えー……あたし絶対要ると思うんだけどなあ」
「いや要らねえでしょ……お前機銃搭載した屋台で飲み食いしたいって思うわけ?」
「安全が確保されてるってことじゃないですか」
「あぁ、うん………なんというか……ミシシッピも妖怪だしさ?」
「ミスティアです」
「ミスティアも妖怪だしさ?自衛くらいはできるよ」
「あるに越したことないと思うんですけどね……」
そりゃあったほうがいいだろうけどさ……戦車でご飯食べたくねえよ……
「あ、じゃあ自爆装置は……」
「お前もう喋んな、黙って普通の作っとけ」
「あ、はい」
なんだろう……私がおかしいのか?これが河童の普通なのか?
いや私は間違っていない。屋台に自爆装置はどう考えてもおかしい。どうやったらその考えが出てくるのかわからん。
しかも本人が本気で言ってそうなのがまた……いや、もうやめにしよう。
「はぁ……そういやお前、ミスディレクションとは普通に喋れるよな」
「ミスティアです。わざとですよね?まあ……知らない人が怖いってだけで、知り合いなら話せますよ流石に」
「そりゃそうか」
ミスティアも頭がおかしい系の妖怪ではないしな。普段何食って何してるのかは知らんが、友好的な人物ではある。
まあ、友好的じゃないアホでバカな奴らはあの戦いで私が根こそぎ爆破して天狗が始末したんだけどさ。
結局紫さんの考えてた通りになったってわけだ。
いや、藍さんから聞いただけだけど。
「あたしからすれば、毛糸さんは知り合いが多すぎですよ」
「そう?」
「そうですよ。まずそこまで他者と関わろうとしないし、そもそも毛糸さんの妖力を知ってたら近寄ってくる人もいないと思いますよ?」
「それはあれだよ、ほら……私が心優しい毛玉だからだよ」
「………」
「やめろその目」
まあ妖力普段から垂れ流してたら幽香さんみたいに不特定多数の人物から恐れられるんだろうけどさ。というか妖怪としてはそっちの方が正しいのかもしれないけど。
柄じゃないし、そういうの。
他人から恐れられて距離を取られて恨まれて……って、そんなの私の心は耐えられません。もっと仲良くしましょう。
というよりね!私の知り合いがみんな優しいんだよね!私なんか気にかけてくれてさ!泣いちゃうよね!
「どうやったらそんなに知り合い増えるんですか」
「そりゃあお前肉体言語だよ、拳でわかりあうんだよ」
「………」
あれ?実際に拳でわかり合った相手って誰がいるんだ?
えーと…勇儀さん…藍さん…
二人じゃねーか。たった二人じゃねーか。
やっぱ私の身の回りの人が優しいんやなって。
ミスティアの屋台が完成した。
るりがあまりにも貧弱だったので、私も簡単な作業を手伝いながら、なんとなーく仕上げた。
八目鰻以外にも色々出すつもりらしいので、調理スペースとか食材を置いておく大きめの冷蔵庫とか、いろいろ積んだら結構大きくなってしまった。
まあ引っ張るのは妖怪だし、多少重くたってどうにでもなるだろう。
前世で見た屋台もこんな感じだった気がするし……いや、屋台なんて見た記憶ほぼないけど。
で、ミスティアにすごい感謝されると同時に、すごい申し訳ないと謝られた。
こちらとしてはただの暇つぶしでやってたことだし、気にしなくていいと思ったんだけど、本人がどうしても何かさしてくれって言ってきた。
色々考えた結果、パーっと飲みたいであろう奴らを呼ぶことにした、
「いやあ、またまさか会えるとは思ってませんでしたよ、ミスティアさん」
文はミスティアと会ったことあったのか。
なんか文と椛だけ呼んだはずなのににとりんと柊木さんもくっついてきたのは意味わからんが。
まあミスティアも客が多い方が嬉しいだろう、知らんけど。
というかミスティア、どこに保存してたのか酒とかつまみとかどこからともなく出してきて……どこで食材調達してくるのやら。
「で、お前こっちでいいの?」
「いやだって……酔っ払いにはついていけませんし」
「そういやるりが酔ってるとこ見たことな……てか酒呑むの?」
「呑みませんね、てか好きじゃないです」
「わかるわー、まあ私は飲んだ瞬間気を失うんだけども」
「毛糸さんに鬼が飲んでる酒呑ませたら死にそうですね」
「多分死ぬね。鬼がはしゃいでるとこ近づいたら頭痛するもん」
酒臭い匂いでもダメらしい。
別に呑みたいとも思わんけど……
「楽しそうですねあの四人」
「よく見ろ、あの目つき悪い奴すごい嫌そうな顔してるぞ」
「あぁ、足臭って呼ばれてる可哀想な人」
「可哀想……まあうん…可哀想だな」
そういや柊木さんが酔ってるとこ見たことない。
ありえんほど強いらしい。文が柊木さんを少しでも酔わそうとしたことがあるらしいが、気がついたら自分が酔い潰れていたらしい。
あの人に鬼の酒飲ませたらどうなんだろう。流石に酔うかな?
案外ケロッとしてそうな気もするけど。
「お前らなにしてんのー」
「チルノはあっちに近づいたらダメだぞ」
「なんで?」
「酒呑んで人に迷惑かけるダメな奴らばかりいるから」
「おぉ……わかった」
こんな子供に酒を呑んだダメ妖怪達の失態を見せてはいけない。
いや年齢で言えばこいつに負けてるんだけど私。
というか私、歳で勝ってる知り合いいるんか……?
…………橙はいくつなんだっけ。
よし考えるのやめよう、知り合い全員歳上の可能性あるけど考えないようにしよう。
それにしてもなんかチルノ以外にも誰かいるような……
「け、毛糸さん」
「あ?どしたの」
「頭食べられてます」
「ん?」
言われてみれば確かに何かに噛みつかれているような感じがする。
なんか懐かしい感じ……
「……ルーミアか」
「そうなのだー」
「なんで来たお前」
「肉の匂いがしたから」
「今お前向こう行ったらパニックになるから、ここは私の左……右腕で我慢…」
「無理」
「あっはい……」
ルーミアと絡むこともあんまりなくなった。
というかルーミアさんがいなくなってからだな、あまり喋らなくなったの。
私が勝手に距離を置いてるだけかもしれないが………
「毛糸さんなんで平然と右腕差し出そうとしてるんですか」
「え?腕一本なんて安いもんでしょ?」
「あなた左腕使えなくなったから義手つけてるんですよね?」
「それとこれは別」
実際左腕自体はいくらでも生やせるし。動かないだけでね。
「腹減った、なんか食べたい」
「えー……なんでもいい?」
「お前の不味い肉以外なら」
「じゃあはい、氷」
「は?」
「……冗談だって、るり、悪いけどなんか適当にもらってきてくれない?」
「えー……しょうがないですね……」
気怠そうに立ち上がって騒いでる4人の方へ向かっていくるり。
すまんな、私はチルノとルーミアを構ってやらんといかんのだ。
「それはそれとして」
「んあ?」
ルーミアを持ち上げて顔をじっと見る。
「なに」
「んー………」
相変わらずあの頃のルーミアさんとルーミアの中間くらいの顔立ちをしているが……
なんというかこう……今まではっきり見てこなかったから気のせいかもしれないけど……気のせいだと思うけど……
ルーミアさんの気配がするような……
「あむ」
「おい、義手を噛むな。涎をつけるな」
「じゃあ離せ」
「うっす」
気のせいだよな……?
でもあれももう何百年も前か。あの時のルーミアさんなんて言ってたっけな……
『また、生きてたらまた会おう、毛糸』
うわ急に出てくんなよお前びっくりするだろうが。
『なんでさ、忘れてたみたいだから言ってあげただけなのに』
出るなら出るって言ってから出てこい。
いやでもしかし…また会おうか……
出てくる?もしかしてまた出てくるのあの人?いやぁ……なんかそれは……うん……
よし!気のせいということにしておこう!!
ちなみに気づいたらるりがにとりんにヘッドロックされていた。
お疲れ様です。