毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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酔っ払いは嫌いだと思う毛玉

「祟らないでください、化けて出てこないでください、お願いします……よし」

 

新しく作り直したりんさんの墓に手を合わせる。

いやもう祟りとか亡霊とか以前にこの刀に宿ってるような気がしないでもないが……

墓石が壊されたことに関して私は全く悪いことはしていないが、りんさんなら私のことぶん殴って文句言ってきそうだ。

 

そういやミスティアから結局お礼にと押し付けられたなんか高そうな酒瓶貰ったが、呑めないんですけどね。

返すわけにもいかないのでりんさんのお墓にお供……え……え?

 

「………あれえ?え、ちょ……あれえ?」

 

あれおっかしいな……酒瓶の中身すっからかんなんですけど……あれ?

よく見たら蓋も開いてるんですけど……

置いたのいつだっけ……?3日前とかそんなもんだっけ?

一回も空けてないし……

 

のののの、呑んだ?まさかりんさんが?

そ、そんなアホな。確かにあの人酒は呑んでたけど、そんな酒瓶一本で化けて出てくるような人じゃ……きっと誰かが呑んだんだろう、そうであってくれ。

 

でも一体誰が……

 

まあ妖精たちが何も考えずに呑んだとかならわからんでもないが……いやでもそんなことある?

チルノもバカとはいえその辺の分別はついてるだろうし……ついてるか?

いやまあ、この墓にいたずらしたらタダじゃおかねえぞって言ってあるからチルノではないだろ……てか大ちゃんあたりが止めてるでしょ。他の妖精たちも同様だ。

 

となると……知り合いじゃない?

そうだそうだ、私の知り合いに誰のかわからないお墓にお供えされてる酒を飲むようなバカはいない。きっとその辺のアホ妖怪だ、そうに違いない。

 

別に呑めない酒瓶一本ごときはどうでもいいが、りんさんのお墓にお供えしてあったのを飲みやがったってのが腹立つ。

 

見つけなければ……犯人を見つけなければ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「てわけで一応聞くけどさ、飲んでないよね?」

「飲みませんよそんな酒、何が入ってるかわかりやしない…」

 

だよな……

まあもし文が飲んでたとしたなら……1日氷漬けで許してやろう。

 

「で、その犯人に心当たりとかある?」

「そうですね……ぶっちゃけ湖の麓にある墓なんて、その辺の妖怪が手を出してもおかしくないですからね」

 

確かにそうだな。

ちゃんと墓地みたいなところにあるならともかく、なんかポツンとある墓石を見て墓と分からずに、そこにあった酒を呑んで立ち去る……ありえなくはない……か?

 

「まああの墓が毛糸さんにとって大事なものというのは、妖怪の山にいる知り合いはみんな知ってるのでそんな愚行おかさないと思いますよ」

「愚行ってなにさ」

「そりゃあ毛糸さんに喧嘩売るような真似したくないですよ」

「頭のイカれた白いもじゃもじゃまりも野郎に喧嘩売るやついないってことか?おん?」

「そこまでは言ってません、まあ間違ってはないと思いますけど。いてっ」

 

チョップしておいた、まあ私も否定はしないが。

 

「でさ、頼みがあるんだけど」

「はいはいなんでしょう?」

「酒だ酒、酒よこせ」

「言い方まずいですよ」

 

私も酒欲しいとか言う日来るとは思ってなかったよ。

 

「なんでもよくはないけど、ちょっと良さそうなお酒ちょうだい。それでりんさんの墓に手を出した愚か者に天誅を下すから」

「あ、やっぱりちょっと怒ってます?」

「いや別に?」

「まあ、そういうことならとっておきの一本…」

「え、いいの?」

「は流石に勿体無いので、その次の次くらいにとっておきのやつ差し上げます」

 

それもはやとっておきと言えるのか?まあ嬉しい限りだけども。

 

「ごめんね、何も返せるものないけど」

「いえいえ、今までも色々助けてもらったし、私と毛糸さんの仲じゃないですか」

 

持つべきものは友達だなあ。

 

「あ、でも無茶はしないでくださいよ。もし相手が危険な相手だった場合は上手いこと戦いにならないようにしてくださいね。次会った時は下半身が動かなくなったとかそんなの嫌ですよ」

「……善処する」

 

とりあえず念の為に酒瓶を三本ほどもらった。

文すっごい悲しそうな顔してた、そんなに酒が好きか。

なんか最後の最後でやっぱりあげませんとか粘られたが強引に奪ってきた。

 

許せ、今度何か代わりになるものあげるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

文から酒瓶を強奪、じゃなくて譲り受けた酒瓶を一本墓にお供えしておいた。

ただの餌である。

というか私からしたらただの毒である。

 

墓にお供えしてある酒をわざわざ飲むなんて、余程酒が好きに違いない。多分。

 

犯人は味を占めてまた戻ってくる可能性、というか戻ってくることを信じて酒を置いておいた。

まあそれを呑んだ奴が同じ奴じゃなかったとしても、墓にお供えしてあるものを勝手に呑んだってことで大義名分、ぶん殴ったって許されるってわけだ。

んー、我ながら完璧な作戦、3分で考えたにしては上出来だなうんうん。

 

というわけで、いつ犯人が現れるか分からないので墓が見える位置で張り込みをすることにした。キャンプだぜきゃっほう。

 

まあ長くても二週間くらいだな、そこまで待って見つからなかったら潔く諦めよう。

もとより酒なんてそんなにお供えしてねえし。

そもそもお供え自体気が向いた時しかしてねえし。

 

まあ、気長に待つとしよう。

 

 

 

 

 

 

張り込みを始めて3日目の昼、そいつは現れた。

 

河童から借りてきた双眼鏡でお墓の周囲を除いていると、突然人のシルエットが見えた。

なんやかんや言ってここは霧の湖、霧のせいで正確に姿を捉えることはできないけどなんか怪しいってことはわかる。

 

そのシルエットはりんさんの墓にどんどん近づいていき、酒瓶を見つけるとすぐに手に取り、迷いなく蓋を開けて飲み始めた。

 

それを見た瞬間私は駆け出し、そいつを静止しに行った。

 

 

「はいちょっとストップー」

「あ?なんだお前」

「なんだお前っていうかこの墓を管理?している者で…もう飲み干しているだと……?」

 

見た目は小さな子供だった。

未成年は酒飲んだらダメでしょとか口から出そうになったがどう考えても妖怪だしそんな法律はここにはなかったぜ。

 

「え?何ここ墓だったのか?そりゃ悪いことしたなあ、あっはっは」

「墓とすら見られてなかったと……なんかショックだな。じゃあもう勝手に呑まないでね、大切な人の墓なんだ」

「そりゃ無理だ」

「なんでぇ」

「そこに酒があるから」

 

あぁうんうん、この感じね。

この酒への変な執着、酒が飲めなかったら人生の9割損してるとか言ってきそうな物言い。

 

「それに死人に口なしだ、私が呑んでやった方が酒も嬉しいに決まってる」

 

そうそう、このなんかもうよくわからん理論。

なんか聞き覚えあるんだよなあ……

 

「それでもやめろってんなら……力で言うこと聞かせてみな」

 

そしてこの血の気の多さ!

そしてその立派な二本角!

 

「鬼かあ……」

「お、知ってるのか!いやあ妖怪の山の連中以外で覚えてる奴がいるとはちょっと嬉しいねえ。じゃ、やろうか」

 

うん、やばいね。

いや、私だって普通の鬼相手にはそこそこやれると自負している。幽香さん印の妖力でゴリ押せるからだ。

しかし目の前の相手に対して、私の体が全力で危険信号を出している。

つまりあれだ、この子供みたいな見た目してる鬼は勇儀さんレベルってことだ。

 

……まずい。

 

「えーと、お酒なら私あと二本だけ持ってるんで、それをあげるんでちょっと戦うのは……」

「えー!?つまらないこと言うなよー。あんた相当やれるだろ?やろうよー私とやろうよー」

 

うーん酒くっせ。明らかに酔ってるよこの人……

 

「いやほんともう勘弁してください、鬼とかほんと無理っす」

「えー?じゃあしょうがないなあ」

 

あ、よかった、許してくれそう。やっぱり話し合いって大事だよね、無駄な血を流さないためには。

 

「戦わざるを得ない状況にしてやるか」

 

うん、知ってた。

口では戦わない戦わないって言っていたが、実際は体に妖力を流して戦闘態勢に入っていた。

だから突然突き出された拳にも反応できたが……

 

どうして鬼というのは一撃一撃がそんなに重いのだろうか。

 

「んぐぅ!」

「お!避けたかよしよし、そう簡単に終わられちゃ困ると思ってたところだ。死ぬなよー?」

 

風圧だけで吹き飛ばされそうになるんですけど。

いやしっかし、やっぱりこれは勇儀さんくらい……

 

「あの、一ついいですか?」

「ん?なに?」

「もしかしてお名前、萃香とかでいらっしゃったり……」

 

私がそう言うと、目の前の鬼は顔を綻ばせた。

 

「よく知ってるな!そう、私こそが鬼の四天王が一人、伊吹萃香だ!そんな私と手合わせできること、光栄に思え!」

 

拝啓

 

おかあさん、おとうさん。

さようなら。

私死にます。

 

いや待て待て。

大丈夫だ落ち着け、いくら相手があの勇儀さんと同じ鬼の四天王とはいえ、たかが鬼の四天王だ。

いや別に勇儀さんを舐めてるわけじゃないが、一応勇儀さんの力はそれなりに知っているつもりだし、攻撃にも反応できた。

 

いけるはずだ、相手も多分私を殺す気はないだろう。

そう、要は満足させればいいのだ、精一杯頑張ろう。

 

「いくぞもじゃもじゃあ!」

 

そういや私名乗ってないわ。

勢いよく走り出した萃香の足はフラついていた。

 

「いやあの、千鳥足ですけど」

「気にするな!」

 

フラフラとした足取りから繰り出される攻撃は、それはなんともまあ遅かった。

当たればひとたまりもないだろうが……これなら勇儀さんの方が余程拳が鋭かった。

 

「あの…大丈夫?」

「これはあれだよ、酔ってる方が強くなる戦い方で……」

「酔拳?」

「そうそれ!多分!よく知ってるな〜」

 

酔っ払いのテンションだこれ。

というか本当に酔えば酔うほど強くなるんだったら鬼強すぎでしょ、鬼に金棒だよ。酒だけど。

 

「まあおふざけはここまでにして……本気でやるか」

「やめてください死んでしまいます」

「大丈夫大丈夫!妖怪ちょっとやそっとじゃ死なないって!」

 

あなたたち鬼の攻撃はちょっとやそっとどころじゃないんですよ、自覚してください。

とか気の抜けたこと考えてたら相手の姿が消えていた。

 

「んん後ろお!!」

「あれえ!?」

 

即座に前に飛び込んでその場から離れた。

私のいた場所を砲弾のような拳が通り抜ける。

 

「へー、よくわかったね」

「ま、まあね」

 

そうやってすぐ姿を消すやつは大体後ろに回り込むんだよ、私知ってるもん。

 

「じゃあ正面から行こうか」

 

お願いだからやめてこないで。

全身に妖力を循環させて腕をクロスさせ、防御の姿勢を取る。

爆発に巻き込まれたような衝撃が走り、後ろの方へ吹っ飛ばされた。

 

「っつぅ……」

 

そこまで飛ばされなかったが腕がプルプルとふるえている。

うん、やっぱ鬼だわ。

ちゃんと鬼の四天王だわ。

 

左腕は……よし、動く。

一応戦闘も想定しておいて数日前に戦闘用の頑丈な義手に付け替えておいた。あんな衝撃を受けて不安だが、壊れてはなさそうだ。

 

「耐えるかぁ、いいねいいね、丈夫な奴は私好きだよ」

「そりゃどうも……」

 

骨にヒビ入ってるんですけどね?この程度なら再生で簡単に治るからいいが……

 

「今度はそっちから来な、渾身の一撃を見せてくれよ。いやー、私の知らないやつでこんな面白いやつがいたとは……案外幻想郷も広いねえ」

 

鬼の四天王とかいうヤベー4人のうち2人に絡まれてる私って…幻想郷って狭い?

 

「えーと…殴っていいんですか?」

「そう言ってるだろー?」

「はあ…それなら……」

 

右腕に妖力を込める。あと先考えないバカみたいな量を。

相手は全力をご所望だ。それなら右腕を使い潰すつもりでやらなきゃ失礼ってもんだ、どうせすぐ生やすけど。

 

「いいねいいね!どんどん力が溜まっていくのが見てわかる!」

 

なんで喜んでるんだこの人……マゾなの?今から私の全身全霊の一撃を喰らうってのに…マゾなの?

 

「それじゃあ…行きますよ」

「来い!」

 

妖力によって引き上げられた身体能力。

一歩踏み込み、相手の方へと跳んで詰め寄る。

右腕を引き、防御している相手が目と鼻の先にまで近づいた瞬間に、足を地面につけて氷で覆い固定。

 

拳を前へと突き出した。

 

1秒くらいだろうか、相手と拳がぶつかり拮抗したが、その後すぐに相手の体を押し込んでぶっ飛ばした。

腕は鈍い音を立てて真っ二つに折れている。

足も無理矢理殴った反動を受け止めたせいで変な折れ方をしている。

 

相手もただじゃ済まないはずだが……とりあえず再生しておこう。

 

正直、死んでないかなあとか心配してた。素の身体能力は普通の人間並とはいえ、幽香さんの妖力が困った拳を正面から受け止めたんだ、無事なわけない。

 

まあその人は土煙の中からひょっこり出てきたわけだが。

 

「いやあ効いた効いた、意識失っちゃったよ」

「……3秒くらい?」

「三秒くらい」

 

なんて丈夫なんだ……私なんて左腕以外めちゃくちゃになったのに……

 

「それじゃあお返しだ」

「え?」

 

いやあの、お返しってなんの……?

 

聞く前に遥か上空へと飛んでいってしまった…なんのつもりだ?

 

天高く登って、登って、登って……うん?降りてきた?

降りてきたというよりは、自由落下してる……が……

 

 

微かに感じる違和感、その違和感がなんなのか確かめようとして、回避……というより避難が遅れた。

 

「——へ?」

 

巨大化した萃香が私を押しつぶすまであと………1秒。

 


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