毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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なんか流行らせられる毛玉

あ〜………

 

私は今、野良毛玉を数匹捕獲し家の中を自由に浮遊させて、その中に混じって毛玉の姿で壁に当たるたびに方向を変えてずーっと浮き続けている。

何故こんなことしているのかって?もちろん暇だからさ。

 

改めて私以外の毛玉をこうやって見ているが……まあ、本当に何も考えてなさそうだ。

意思があると言ってもはっきりしたものではないのだろう。

こんなのに私の魂が入るだけで、私みたいな世にも奇妙な生命体が誕生するってんだから意味がわからん。

 

そうそう、私の毛玉の姿は本当にただの毛玉で、多分他人から見たらどれが本当の私かわからないと思う。

こんな変なのになってるんだから見た目の変化とかあってもいいとは思うんだが…ま、なってないものはなってない。

 

そうやって時間を浪費して暇を潰していると、突然家の扉が開けられた。

ノックしろよ、いやそんな文化ないのかもしれんが。

じゃあせめているか外から確認しろよ。いや妖怪にそんな文化ないのかもしれんが。

 

「すまない突然押しかけて。………えーと」

 

藍さんと……橙がやってきた。

藍さんが訪ねてくるのはなくはないしわかるけど、橙が来たのは初めてだな。

 

「………いるんだよな?毛糸」

 

フッ…この私の完全なるカモフラージュを持ってすれば藍さんの目を欺くことができるというわけだ。

だんまりしてて怒られても嫌なので普通の体に戻る、浮いたままだけど。

 

「いますよー」

「………何してるんだ?」

「暇つぶしっす」

「あ、あぁ、そうか」

 

困惑の表情を浮かべる藍さん。お気持ち、わかります。

誰だって家の中に毛玉が数体浮かんでいる状況で、その中に知り合いが混じって浮遊していたら困惑するさ。

 

「突然やってきて、何の用っすか?橙まで連れてわざわざ私の家まで」

「少し話がしたいと思ってな。本当はもっと早くしようと思ったんだが、なんせ忙しくてな、あまり時間が取れなかったんだ」

「お忙しいのは知ってますけど……」

 

私の家の中をキョロキョロしている橙。

いや、家の中というよりは浮かんでる野良毛玉たちを見てるのか。珍しいのかな?

 

「橙は来たいと言ったから連れてきた」

「あ、さいですか」

 

まあ橙も随分成長している。

いや、私は特に何もしてないんだけどね?本当に。知識も何もないからみんなに任せるとか言い出す部活の顧問みたいなことしてるんだけどさ。

藍さんも今までマヨヒガの外には出さないようにしてきたが、最近はある程度力もつけたし、外に出してもいいと考えているようだ。

多分私の家に連れてきたのはその足がけみたいなものだろう。実際ここの周りには変な妖怪とかいないしね。

 

……いや、冬場はレティさんが突然やってきて地獄と化すが。

寒い地獄ってあったよね…なんだっけ、忘れた。

もっとも今は春だからレティさんが来ることはない。

藍さんも結界が張られてから色々と忙しかったのだろう。冬も私をマヨヒガに送り迎えするだけであまり会話もできなかったし、橙から忙しいということも聞いていた。

 

「落ち着いて話するならこんなカオス空間じゃなくて、天気もいいし外で話しましょっか」

「……そうだな」

 

とりあえず何か出せるものあるかな……あ、せんべいしかない。

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ座って」

「あぁ、すまない」

 

とりあえず最近なんか飲むのめんどくさくなってたまにしか飲んでない紅茶でも淹れて出しておく。

……せんべいと紅茶ってどうなんだろう。いけるのかな?

まあ変な味になったら下げよう、紅茶を。

 

「ってあれ、橙は?」

「向こうに妖精たちがいるだろう?」

「あ、ほんとだ、一緒にいる」

「同じくらいの見た目の奴を見つけるとすぐに近寄っていってしまうな」

「まあ子供ですし」

「年齢で言えば君とそう変わらないんだがな?」

「ゔっ……そう言われると……」

「まあ君は会った頃から落ち着いていたし、今もあまり変わらない。最初から精神が成熟していたしな」

「いやいや、私なんて大分子供っぽいよ」

 

大人っぽさで言えば藍さんやアリスさんには遠く及ばない。さとりんと大ちゃんにも及ばない。

まあ確かにチルノとかの普通に子供っぽいのと比べたら、そりゃあ落ち着いてるように見えるだろうけど……

 

「あー、紅茶いけてます?久しぶりなもんで」

「大丈夫、美味しいよ」

「そりゃよかった、ほんとに」

 

お世辞じゃないことを願う。

私も紅茶を飲んでせんべいを口に運ぶ。

相性は………普通!よくわからんけどまあいいや!

 

「それにしても珍しいっすね、藍さんが私と話がしたいなんて」

「まあ、な」

 

……なんで俯いてんだろ。

何か負い目を感じることでもあるのだろうか、珍しい。

 

「左腕の話は橙から聞いた」

 

そういや橙には会った時に義手の話してたな。めっちゃ興味深そうに義手をいじくり回してた。

ボタンを誤って押して手のひらドリルになって、めちゃくちゃ驚いて尻尾とかが立ってたのは今でも忘れない。…可愛かった。

 

「まあその…なんといえばいいか」

「……別に藍さんが気にすることじゃないんだけど」

「それは、そうなんだが」

「……?」

 

何を言いたいんだろうか。

私藍さんに何かしたっけ……いや、特に変わったことはしてないはず。

うーん……

 

「紫様なんだ、奴らにここを通らせたのは」

「……へえ?詳しく」

「……紫様はこれからの幻想郷にとって害となる勢力をあらかじめ纏めて潰す気でいた。あの方が何もしなくてもきっと君は奴らと戦っただろう。でも命までは取らなかった」

 

大体話は察した。

確かに私は文たちのために奴らと戦うには戦っただろう。ただ、あの時の私は見境なく奴らを爆破していた。跡形もなくだ。

長年生きてきて考え方が変わったのもあるだろうが、墓を壊されてプッツンしていたのも事実だ。

 

「だからわざと君に激昂させるようなことを奴らにさせて、殲滅させようとしたんだ。……すまない」

「いやそんな、別に藍さんが謝ることじゃ…」

「いや、私は止めようと思えば止められたんだ。だが何も言い出せなかった。橙のことで恩があるのに……あの墓のことは私も知っていた。許してくれ」

「ちょっちょっちょ、頭下げないで、上げてください藍さん、本当に……」

 

頭を下げる藍さんに慌てて声をかける。

正直今の話を聞いても私は特に何も感じないんだけど……

 

「多分紫さんは墓のこと考えてなかったと思う。あの墓自体はこの家から少し離れてるし、あいつらの変な進路にたまたまあっただけだと思うから」

「だが……」

「確かに紫さんがしたことはちょっとムカつくけど……でもそれだけだよ。もう気にしてないし、私は藍さんとの関係が変わってほしくない」

 

それに藍さんは私が墓のことでプッツンして左腕がこうなったんだと考えているんだろうがそれは違う。

私はさとりん達のことに対してブチギレて、相手の罠にまんまとかかってしまっただけだ。それについては関係ないだろう。

 

「……君は優しいな、本当に」

「…そんなことないよ」

 

物は考えようだ。

私が怒るようなことをあいつらにさせてれたおかけで、幻想郷にとって邪魔となる奴らをまとめて潰すことができた。

そう、なんやかんやで私の得にもなる。

 

あのことに関しても最終的には私自身のことを知ることができたんだ。左腕も義手で代用できてるし、私はそこまで損していない。

 

「紫様は……また君で何かをしようとしている」

「また……」

「最初に君を見つけた時から何かを考えていたらしいんだ、多分それがもうすぐ実行に移される。あの人が何をする気なのか私はわからない、だが君には無事でいてほしい」

 

心配してくれてるのか……自分の主人の考えだろうに。

 

「大丈夫、紫さんはそんなに酷い人じゃない。それは藍さんが一番よくわかってるんじゃないの?」

「……そうだな」

 

紫さんとあまり話したことない私がいうのもなんだけどさ、藍さんと橙のこと見てたら悪い人とは思わない。

藍さんも紫さん大好きだろうに、私のためにそんなことをねえ……

 

「紫さんも私をそんなに悪いようにはしないでしょ。……しないよね?」

「あぁ、大丈夫だ、多分」

 

多分て……

もしかしたら私と藍さんのこの会話も聞かれてるかも知らないけど…まあ、ニヤニヤしながら聞いてるかもしれない。

 

「ま、その時はちゃんと紫さんに説明してもらうよ」

 

一体何されるんだかね……流石に命奪ってきたりとかはないよね?ないだろう、藍さんも多分をつけて言ってくれたから大丈夫だ。うん。

 

 

 

遠くからチルノたちの様子を伺う。藍さんはせんべいをぽりぽり齧ってらっしゃる。

 

「君にとってあの子達はどういう存在なんだ?」

「どう……?友達ですよ?」

「……それしか言わないな」

「む…」

 

いやしかしね藍さん、私の身の回りには友達か知り合いか他人かペットしかいないんですよ。

 

「そりゃあ、あの二人との付き合いが1番長いけど……」

 

文達ともそこまで時間を置かずに知り合ったし、数百年も生きてたらそこまで違いはない。

というか妖怪の山で何度か戦ってるから、文達の方はまた別な感じなんだよね……戦友、ではないけど。

チルノ達は一番身近な友達というか、なんというか……

 

「……まあこれは散々思ってることだけど、血の繋がった奴もいなければ、同族は宙に浮いてるだけで喋ることもない。友達や仲間がいても、家族って呼んでもいいような存在は私にはいない」

 

橙と藍さんの関係なんか家族のそれだ。血は繋がっていないんだろうが、それでも家族と呼ぶに値する信頼がある。

私にはそういうのはいない。

……まあ、自分から距離を取ってるってのもあるが。

 

「友達だけで十分っすよ私には」

「……そうか」

 

友達しかいないからこそ、友達のためだけに私は必死で動く。

だから心配をめっちゃかけるんだろうけどね〜はっはっは。

 

「あ、そうだ、聞いておきたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

「ルーミアのことなんすけど……」

 

 

 

 

 

「は〜ん……そっすか〜…」

「彼女のことは私もよく知らない。紫様に聞けば色々わかるだろうが……」

「いや、いいよ別に」

 

ま、こまめに様子を見ておくかな。現状私ができることなんてそのくらいだし。

 

「毛糸」

「はいはいなんでしょ」

「紫様を許してくれてありがとう、そしてすまない」

「あーだから頭を下げんでくださいって……許すとか許さないとか、そういうことできる相手じゃないし、そもそも気にしてないから……」

「いや、どうせあの方はちゃんと謝らないだろうから、せめて私が…」

「あぁもうお堅いなあ!」

「橙のこともある、その腕を治すように頼み込んでも…」

「お構いなく」

「……え?あ、そうか」

 

しばらくは義手を楽しみたい。

そう、左手が義手になると色々いじれるから楽しいのだ。左腕が紫さんのせいだというのならむしろ感謝しなければいけないのかもしれない。

 

「ま、これからもよろしくお願いします、藍さん」

「……あぁ、よろしく頼む」

 

 

 

 

藍さんとの話がひと段落ついたのでチルノ達の元に来た。

なんともまあ子供達が楽しそーにきゃっきゃしてやがる。まあその子供達は私より遥かに歳取ってるわけだが?

その楽しそうにきゃっきゃも弾幕を飛ばして遊んでるわけだが。

 

橙も同じ背丈の仲間ができて随分と楽しそうだ。

つくづく妖怪って謎な生き物だなぁ……歳とっても子供みたいな見た目してる奴もいるし、子供みたいな見た目してても中身は大人みたいだったりするし。

 

私なんてねえ……こんな見た目でこんな中身だからねえ……

 

頭もじゃもじゃの中身変人よ変人。

こんな奴他にいるか?いやいないね。頭もじゃもじゃがいないな。変人は結構いるけど変な頭のやついないから。

 

見た目と中身、どっち基準でもいいから統一して欲しいもんだぜ。

 

いや、中身子供にされたら困るな……うん、今のままでいいや。

 

「おーいしろまりー、子分なんだからお前もこっちこいよー!」

「うーん?もう一回言ってくれるかなチルノー?」

「え?子分だからこっちこいって」

「ちゃうちゃう、その前」

「しろまり」

「ぅん……橙ー?」

「………ぷっ」

 

おい、何笑ってんだ、おい。

 

「頼むから変な呼び方流行らせないでくれ……」

「いいじゃん、みんな気に入ってるよ?ほらせーの、しーろっまりー」

 

橙に合わせて周囲の妖精達が一斉にしろまりと呼んでくる。そして橙は腹を抱えて笑っている。

 

「全く……これだからガキは……ん?」

 

大ちゃんが私の目の前までやってきて、少しキョロキョロしたあと私の肩にポンと手を置いた。

 

「………しろまりさん」

「ぐはぁっ」

 

普段しっかりしてる大ちゃんからのしろまり呼びは心に来るっ!

 

「え、なにそんなに面白い?」

「私は…結構好きですよ」

「あ、そう………改名しよっかな……」

 

白珠毛糸から白鞠毛糸に変えようか……ぶっちゃけ大して変わらんし…

 

 


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