「よいしょっと……ここは変わんないなあ」
また地底までやってきた。
もうね、縦穴をどれくらい自由落下すればわかるようになったよね。
まあそれで調子乗って一回足の骨粉々になったことあるけど。
いつもは暇潰しに遊びにくるだけだが今回は違う。
伊吹萃香、彼女と出会ったことを勇儀さんに話に行くのだ。
というのは建前で本当は暇潰しに遊びに来ただけでーす。ただの構ってちゃんでーすいぇーい。
「さてと、あの人は今日はどこで酒飲んでるのか……あ」
「…随分と嫌そうな顔するわね」
「い、いやそういうわけじゃ」
「気軽にここと地上を行き来できるくらい自由なようで妬ましいわ」
「あ、はい。そっすね」
「適当に流すんじゃないわよ」
パルスィさんが橋にいた。
いる時といない時があるんだけど、今回はいるパターンを引いてしまったようだ。苦手というわけではないんだけど……定期的に妬ましい構文を使ってくるからやっぱり苦手かもしれない。
「あ、そうだ。勇儀さんどこいるか知ってます?」
「勇儀なら……ほら」
パルスィさんが指を指した方で轟音が轟く。
「多分あっちよ」
「あ……はい……」
また暴れてんのかあの人……鬼って怖いわぁ……
酒飲んでる勇儀さんに話しかけたら挨拶がわりのパンチもらった。
まあ全然威力控えめだったから体が吹っ飛ぶだけですんだけど。事前に妖力を体に循環させておいてよかった。
「で、珍しいなお前からくるなんて。何の用だ?喧嘩か?」
「喧嘩じゃないっす。てか勇儀さんと喧嘩したら身がもたないっす」
「私に用あるやつなんて大体喧嘩しにきたやつだぞ」
みんな血の気多すぎでは?大体あんたの喧嘩は喧嘩って書いて災害って読むんだよ。クレーターできるんだよクレーターが。
「えっとですね。萃香さんに会いました」
「萃香?本当か?角二本あったか?」
「はい」
「瓢箪持ってたか?」
「はい」
「急にいなくなったりでかくなったりしたか?」
「はい」
「そうかそうか!あいつちゃんと元気にやってるみたいだな」
他人の墓の酒勝手に飲むくらい元気だよあの人は。
「で、戦ったんだろ?勝ったのか?」
「いやいやそんなわけ……勝負にもならないっすよ」
「本当かあ?お前のことだ、どうせ途中で降参とか言って無理矢理終わらせたんだろ?」
あれおかしいなバレてるぞ?
いや戦いを続けてたとしても私負けてたと思いますし……あの人絶対本気出してなかったし……
「でもそうか……まさか本当に出会っちまうとはな。お前運いいな」
「そ、そっすかね……」
「案外他の四天王のことも話したら出会うかもな。じゃ、三人目なんだが……あれ?どこいった?」
逃げた。
これあれだ、勇儀さんから話聞くのがフラグになってるパターンだ。
だったら聞かずに逃げるに限る。私は全力で逃げるぞJOJ○。
「フッ…死ぬかと思ったぜ」
途中勇儀さんが「よし鬼ごっこだな!」とか言ってめっちゃ追いかけてきた時は流石に漏らすかと思った。
めっちゃ怖かった、地面を揺らしながらものすごいスピードで迫ってくるんだもの。
それに釣られて他の鬼たちも私のこと追いかけてくるんだもの。
人生で一番の速度出したかもしれない、やってみれば案外振り切れるもんだ。
とりあえず地霊殿の中に入らせてもらってさとりんの部屋を目指す。まずは挨拶せねば……えーとどこをどう行くんだっけか。
「あ、どうも」
「あ、どうも」
探そうとしたらいたわ、偶然出くわしたわ、すっごい自然に挨拶を交わしたわ。
特に驚いた様子もなく私に声をかけたさとりん。そのままさとりんの部屋まで連れて行ってもらう。
「また暇つぶしですか、こんなとこ来ても特に何もないのに」
「そんなことないよ、色々あるじゃん、温泉とか」
「他には?」
「……お、温泉」
「他には?」
「………酒と闘争」
「あなたが地底をどう思っているかはよーくわかりました」
「待って違うじゃん」
「何がどう違うんですか」
「えーと…その……はい、ごめんなさい」
というか、心読めるくせにそういうの言うのずるいと思います。
「別にたまに会いにきたっていいじゃないの、友達の顔は定期的に見たくなるもんだよ」
「代わり映えのしない顔ですけどね」
「まあそうなんだけどさ」
にしても本当に見た目変わらんよなあ……成長するわけでもないし。
妖怪ってどう年を取るんだろうか。しわくちゃになってる人は何人か見たことあるけど……さとりんがしわくちゃ……
「変な想像するのやめてください」
「まあ死ぬまで見た目変わらないってこともありそうだ」
この辺も人間とは違うところだ。
私だって前世人間なんだけども……感覚とか考えとかが随分変わってしまっている。
そりゃあまあ前世の何倍毛玉として過ごしてるかわかんないけどさ。
「手足取れてもまたすぐ生えるしいいや、なんて感覚妖怪は持ち合わせていませんよ」
「腕の一本くらい安いもんでしょ」
「あなたの価値観本当に狂ってますね」
流石に自覚はしてますけれども。
実際腕動かなくなってもこうやって義手を使ってるわけだし。
「まだ腕は治らないんですね」
「ん?あぁ、生やしてないからわからんけど多分」
いつ治るかもわからないし、義手が気に入ってるので治ったとしても暫くこのままかもしれない。
「あ、どう見て見て、わからないっしょこの義手」
「……まあ、よほどじっくりと見なければ自然ですね」
「さらになんと、小指から、醤油が、出る」
「要りますかそれ」
「要らないね」
ちなみに薬指には爪楊枝が入ってる。
………あれば便利かもしれない。
「まあ相変わらず気楽なようでよかったです」
「まあね。こいしは?変わりない?」
「えぇ、特に何事もなく、いつも通りです」
あんなことがあったんだ、もとより目を閉じていたこいしにさらに悪いことが起きていたら……なんて思っていたけど、それならよかった。
「あ、これ饅頭どうぞ」
「あ、いいんですか?ありがとうございます」
例の饅頭屋に寄って見たら、私の頭見るなり驚いた顔して店の人が飛んできた。
なんでも髪の毛が白いもじゃもじゃとした人が来たらもてなせと、創設した頃から言われているらしい。
うん、まあ………要するにタダでもらってきた。
なんかやたらと押し付けられたんだよね、うん。ありがたいけどね。うん。お金持ってなかったけどね。うん。
うん………
「働いて返せばいいじゃないですか」
「それはそうなんだけどさ……私何すればいいのよ、仕事」
「………」
「………」
「………氷売るとか」
「うん………」
まあ、暫く考えてみよう。
流石にタダで饅頭もらい続けるのは居心地悪い。
第一おばちゃんのことは覚えているが、おばちゃんを助けたことは覚えていないのだ、そんな私を優遇することない。
「真面目ですね」
「普通に人里で過ごしたいだけだよ」
「人里で過ごすという発想が妖怪のそれではないんですけど」
そりゃそうだろうけども。
人間と仲良くしたいなんて思ってる妖怪ほんのわずかだろう。
「前世の記憶、それも未来から転生してきたのなんてあなたくらいですよ」
「そういやそうでした」
つまり私は異常!ヨシ!
「はぁ……一つ相談してもいい?」
「なんですか」
「昔私の友達が死んでめっちゃ落ち込んでた時あったじゃん」
「ありましたね」
「その時の友達と一緒に戦った相手がね」
「はい」
「蘇ってきそうなんだよ」
「そうなんですか」
「どうすればいいと思う?」
「知りません」
「そっかぁ」
まあそら知らんわな、関係ないし。
「あなたがどうとも思っていないんなら、普通に接せばいいだけの話ですよ」
「そりゃそうか」
まあ、なるようになるか。
さとりんと他愛のない話を続けていると、突然扉がドンと開かれた。
「た、助けてください……」
こいしに尻尾を掴まれ苦しそうにしているお燐だった。
「え?何どういう状況?」
「またなの……こいし、やりすぎよ」
「はーい。あ、しろまりさんだ!」
「あぁうんはいはいしろまりさんですよ」
こいしよ……お前が残した傷跡は深いぞ……お前のせいで時々チルノたちからしろまりって呼ばれるんだからな……
「毛糸ぉ!じゃなかったしろまりぃ!」
「言い直すな」
「なんでみんなあたいの尻尾掴もうとするんだ!?」
「いや知らんがな、詰め寄ってくんな」
お燐が涙目で私の方に近寄ってくる。
「で、何してたんこいし」
「えっとねー、お燐って尻尾掴んだ時の反応すごく面白いから!」
「面白いって…こっちめちゃくちゃびっくりするんですよ!」
「それが面白いってことなのよ」
みんな掴もうとしてくるってことは、さとりんもやるのかそれ。
「しろまりからも何か言ってやってくれないか」
「………」
「……毛糸?」
「……弱いんだね、尻尾」
「………」
あ、逃げた。
しかし扉の前をこいしに塞がれた。
「終わった……あたいはここで食べられるんだ……」
「そういや猫って食べたことないなあ」
「いや冗談だよね?」
まあ冗談である。
流石の私も猫を食べようとは思わない。
「はぁ……疲れたぁ……」
お燐がその場にへたり込む。
尻尾……尻尾……
白狼天狗の尻尾ってなんなんだろうか、なんのためにあるのだろうか。
戦ってたら邪魔になりそうだけどなあんなの。
「しろまりさんってさ」
「うん」
「髪真っ直ぐに下ろすとどんな感じなの?」
こいしのその言葉にお燐とさとりんの二人がピクッと反応した。
「………確かに気になるわね」
「水持ってきましょうか?」
「おいおいおいおい、何をしようとしてるんだ」
「お燐、水じゃなくてお湯持ってきて」
「了解」
う、嘘だろジョニー…
「ジョニーじゃないです」
「知っとるわい」
いかん、このままだと本当にお湯をぶっかけられかねない。
「私ちょっと用事思い出したから帰る」
「いかせないよしろまりさん」
「ちょ、離せっておい、こいし。お前今何しようとしてるのかわかってるのか」
「好奇心に身を任せてる」
「あぁそうかい元気そうで嬉しいよ私は」
いや別に頭濡らされたら困ることもないが、なんかこう、三人からは危険な香りがする。お燐もうお湯取りに行ったけど。
「大人しくしないと………恥ずかしいこと言いふらしちゃいますよ」
「なっ………なっななにを言っているんださとりん、わ、私にバラされちゃまずい恥ずかしいことなんてあるわけ……」
「………」
「へいちょっとさとりん何か喋ろうか、ね?何その微笑み、やめてよ」
「直近だと……去年の冬、あまりの寒さにあなたは…」
「ねえ待って!?こいしが色んな人に言いふらしかねないからやめて!?てかいつ見たんだよそんな記憶!」
「あなたが今思い浮かべた恥ずかしい出来事を読み取っただけですが」
こ、こいつ……!
「嫌だったら大人しくしてることですね」
い、一体何がそこまで彼女たちを駆り立てていると言うんだ……あ、私の髪か。
くっ、もじゃもじゃが憎い!
「持ってきましたー!」
「早ない!?ちょっと持ってくるの早すぎない!?」
「持ってきながら温めてたから」
そうかこいつ火を使えるんだった……
「なあ、一度思いとどまって見てくれ。今ここでそんなことしたら部屋が濡れるし私の服もずぶ濡れになるだろう。少し冷静になって、とりあえず温泉まで行かないか?」
「お燐やっちゃって」
「了解」
「待って!?人の話聞こぼごぉっ」
思いっきり顔面にお湯をぶっかけられた。
「………あ、鼻に入った、痛い」
「………」
「………」
「………」
おい、なんだその顔は。
人の顔面にお湯をぶっかけておいてなんだそのイマイチな表情は。
「まだ跳ねてるわね、もう一回」
「りょーかい」
「いやりょーかいじゃなくてぼごっ」
2回もお湯をかけたな!親父にもかけられたことないのにぃ!
「もう一回」
「りょーかい」
「いやどんだけ持ってきてんねぼごぉぉっ」
桶を三つ持ってきたのか……流石妖怪持ってくる量が多い。
「てか冷たいんですけど……せめて温めろよ……」
「………」
「………」
「………」
あのさあ……人の顔面に水3回もぶっかけておいてその顔なんなん。キレていい?そろそろ私キレていい?毛玉おこだよ?
「誰」
「誰って……私ですけど」
「まるで別人ね」
「ちょっともじゃもじゃの面影残ってるの面白い」
さとりんとお燐はともかく……こいしがマジトーンで誰って聞いてきたんだけど。なに、私の存在ってそんなに髪の毛の占める割合多いの?いやまあ…知ってたけど。
「普通だ」
「普通ね」
「大分印象変わるもんだね、髪型変えるだけで」
「あのさあお前らさ本当にさあ……ふんっ!」
「あ、戻っちゃった」
「いやどういう理屈よ。なんで力込めただけで髪の毛元に戻るのよ」
もうびしょびしょなんだけど……地霊殿ぶっ壊していいかな。いいよね。
この後温泉に連れて行かれたが、そこでめちゃくちゃガン見された。
正直くっそうざかった。そして恥ずかしかった。