「掃除の時間だオラァ!」
「うわなんだ急に!?…ってなんだ、もじゃまりか」
「しばくぞガキンチョ」
魔理沙の家の扉を蹴破り…はしなかったが、普通に開けて大声を上げてずかずかと入り込む。
「掃除っていうけど、私の部屋そんなに汚くないと思うんだけどなぁ」
「掃除は建前」
「え?」
「読み終わった本返せ、アリスさんに返すから」
「えぇ〜?」
「えぇ〜?じゃない」
なんか知らんけど苦情が私に来たんだからね、アリスさんから、私に。
私全く関係ないのに……
「ってか、結構棚とかぎっしりだね、何置いてあんのこれ」
「色々ー」
そりゃあまあ、色々なんでしょうけれども。
どうせ私が見て聞いてもわからんもんばっかだし別にいいか。
「私が頼んで作ってもらった家なんだから大事に使えよ」
「毎回言ってくるなぁ」
「大きくなったら家代払ってもらうから」
「え?」
「え?」
「……冗談?」
「冗談」
「なんだよ…」
実はお金はあなたのお父さんから結構もらいました。
てかそろそろ河童からも色んな分の請求来そうで怖い。いくら何回か妖怪の山のいざこざで首突っ込んで暴れたとはいえ……
まあ今回も割と快く引き受けてくれたんだけどさ、にとりんは。
「たまには父親に顔見せてやれよ?」
「嫌だね」
「そう言わずに」
「嫌だ」
「霧雨さん寂しがってるよ?」
「適当なこと言うな」
なぜわかる。いや寂しがってるとは思うよ
しかしまあ、人間なんてそう長生きできるわけじゃないし、家族との時間は大切にして欲しいものだけど……
いいなあ父親、私も欲しいなあパッパ。
「私はお前の父親に頼まれたから面倒見てるわけでね」
「私は頼んでない」
「頼まれてなかったら面倒見ずにその辺に放って野垂れ死させてるところだぞ」
いやもちろんそんなことはしないけども。
まあ問答無用で人里に送り返してた気はする。
「会ったばかりの時のあのおどおどしてたお前が懐かしいわ」
「そりゃあ起きてすぐに知らない奴が話しかけたらびっくりするよ」
「の割には初手まりもって言ってきたよな?」
「あれは……口が勝手に……」
「そんな口縫い合わしたほうがいいんじゃないかな?」
なに、私が知らないだけで毛玉よりメジャーなまりも妖怪とかいんの?納得いかないんだけど本当に。
「はぁ……私のことどう思ってる?」
「なんだよ急に…」
「いやだってさあ……私は妖怪なわけよ。お前は人間。私はお前の父親に頼まれたから面倒見てるだけだし……魔理沙は私のことどう思ってんのかなって」
「どうって……友達?助けてもらった恩とか、家をもらった恩とか色々あるけど、友達って感じだよ」
友達……まあ、そうだろうなぁ。
私からすればこの子供は預かってるだけって感じなんだけど……
魔理沙も最初に会った時より少し成長している。同じくらいの背丈になれば私も友達って思えるかね。
……いや、普通に身長抜かれるか。
「アリスさんは?」
「友達」
「霖之助さんは?」
「友達」
「父親は?」
「くそったれ」
「母親は?」
「嫌いじゃない」
親は大切にするもんだよ……
「どうだった?」
「変わらず元気だったよ、ここでの生活にも慣れたみたいだし。本はちゃんと奪い返してアリスさんちの本棚に直しておいたよ」
「ありがとう」
魔理沙の家を出た後、アリスさんの家に寄ってから霖之助さんの店に来た。
外から見たことあるだけで中にはまだ入ったことなかったけど。
霖之助さんはいつもせっせと魔道具?マジックアイテム?の制作を続けているらしい。
アリスさんは魔法担当かな。
流石に魔法やその知識ではアリスさんに頼る他ないらしい。
「やあ毛糸、来てくれたんだね」
「どうも」
店の奥から霖之助さんが顔を出す。
何度か会話してわかったが、いい人だ。
なんだろう、半妖は人格者になる決まりでもあるのだろうか。
「外の世界のものってどこにあるんですか?」
「あぁすまない、珍しいものは奥にしまってあるんだ。また後で引っ張り出してくるよ」
「うっす」
柔らかい表情の人だ。
なんというか、今まで知り合いの男性がめっちゃ目つき悪い柊木さんくらいしかいなかったから霖之助さんが凄いイケメンに見える。
いや実際顔は整っているわけだが。
「てかなんで私ここに呼ばれたの?」
「実験台よ」
「はあ?」
「言い換えると試し打ちのための的ね」
「はああ??いやまあ、いいけども」
「いいんだ……」
試し打ちというのはあれか、魔理沙に渡す奴か。
「一応これがまだ試作段階なんだけど、ミニ八卦炉だよ」
「ミニ?」
「そう、ミニ」
「よくわからんがわかったぜ」
あれだな?八卦炉ってやつのミニバージョンなんだな?そういうことなんだな?よし簡単だ。
「まだ完成はしていないんだけど、一度途中経過を見てみようということになったんだ」
「で、私が的と」
「いや、それは……えっと……」
わかるよ、霖之助さんは悪くないよ。
悪いのはこの私への扱いが結構ひどいアリスって人だよ。
「外出る?」
「そうね」
「よーしどっからでもこーい」
「じゃあ背中から密着して放つわね」
「やめてけろ、ちゃんと正面から来て」
「じゃあ眼球に押し当てながらやるわね」
「頭吹き飛ぶだろ」
いや何が飛んでくるのかわからんけども。
「てか別に私で試さなくても……」
「実際に威力見てみないとわからないでしょ」
「それは…まあ……」
試運転はアリスさんが行うらしい。そりゃあこの場で魔力持ってるのはアリスさんだけだし当然なのだが。
「それじゃあ行くわよ」
「おっけ、どんとこい」
店の中から霖之助さんがこちらを覗いている。
まあその方が安全……か?
「まずはそうね…大きい玉を一つぶつけてみましょうか」
「了解」
身体を妖力で強化して受けの体勢をとる。
アリスさんがミニ八卦炉に魔力を流し込む。まもなくミニ八卦炉の前に魔力弾が生成され始めた。
どんどん大きくなっていく。
どんどん……どんどん……
「ごめんちょっと大きくなあい!?」
「ごめん魔力の量間違えた!」
「へぁ!?」
「このまま行くわよ!」
「待ってまだ心の準備がうおおおおおお!!?」
私の数倍はあるであろう大きさの魔力弾が地面を抉りながらこっちへ迫ってくる。
避けるのは簡単だけど、避けた先でどんな爆発が起こるかわからない。
つまり受け止める以外の選択肢ないってことだ!なんてこったい!
魔力弾と私の間にいくつも氷を直線上に生成し、両腕に妖力をさらに込める。
まあその魔力弾は氷を一瞬でぶっ壊しながら迫ってきたわけだが。
「ふんぬぅ!!」
おっも……
全身に妖力を回して受け止めているはずなのに、どんどん押される。
これは……流すか。
体をずらしながら魔力弾を受け止めている両手を使って、全力で軌道を斜め上の方にずらした。
即座に妖力弾を作ってその魔力弾に向かって飛ばす。
魔力弾と妖力弾がぶつかると激しい爆発が起き、轟音があたりに響いた。
「ひゅー……あほみたいな威力だったんですが!?」
「魔力入れ過ぎたわ、多分これ中の回路焼けてるわね」
「そうか…流せる魔力量の制限機能もつけた方がいいかな」
「まあ、本人の成長の度合いによって制限も弄ればいいからね」
「おーい、謝罪もなしですかー」
「はいはい悪かったわね」
「キレそう」
いやしかしまあ……威力は申し分なかった。
空で相殺してなかったらこの辺り一帯が吹き飛んでたかもしれない。
流石に魔理沙の魔力量であそこまでの威力は出せないと思うけど……それは本人の成長と努力次第なのかな。
「お疲れ様、それじゃあ帰っていいわよ」
「いやいやいやいや、霖之助さんに外の世界のもの見せてもらってないからね?」
「あぁそうだ、今から取ってくるよ」
さて、何が出てくるか……知ってるものだったら、今外の世界がどのくらいの時代なのかわかるかもしれない。
霖之助さんの店の中に入る。
アリスさんは何やら部屋の端っこでミニ八卦炉を弄っている。
「ほら、この箱の中だよ。あまり数はないけどね」
「中見ても?」
「もちろん。と言っても外の世界のものかどうかは僕が知ってるものかどうかだからね」
まあそりゃあ判断なんてつかないだろうが。
散々ここは本当に日本なのか、そもそも私のいた世界なのかどうかが疑問に思ってきた。
今、ようやくそれに確信を持てる。
意を決して、箱を開ける。
「!これは……」
箱を開けてすぐに一つのものが目に入った。
正方形の形にカラフルな見た目。確かにそれは私の記憶の中にあるものだった。
「る、ルービックキューブ……」
「知ってるのかい?」
「そりゃもう。あ、理由は聞かないでね」
いやしかしなんか……なんとも言えない気持ちになる。
そりゃあ望んでた外の世界のものなんだけども。なんというか、微妙というか……だってルービックキューブだし。
「あ、ちゃんと動く」
「え、そうやって使うものだったんだ……」
「はい?」
「あぁいや、僕は物の名前と用途がわかるんだけど、使い方まではわからなくて……」
「でもこれ色揃ってますけど」
「いや、分解して色を合わせる物なのかと」
「あー………」
……そうはならんやろ。
まあ幻想郷の住民からすれば変な道具には違いないだろうし、想像できないのも無理はない……か?
いやでも……普通気づかない?
意外とうっかりしてるのだろうかこの人……
「他はどうだい?」
「他……うーん……」
見覚えがあるようなないような……あ、これ消しゴムじゃん。
「………ハッ!」
「ん?」
人里に消しゴムってなかったよな……?
じゃあこれ河童に作らせて人里で売れば……いや待てよ。
そもそも鉛筆あったっけ……筆だったような……
「……ハッ!」
「…どうかしたのかい?」
鉛筆も作って売ればええやんけ……
いかん、私天才かもしれん。
つまりこれを上手いことすれば……
河童は人里に繋がりができるし、寺子屋に普及させれば慧音さんにも恩返しができる……
あ、私天才だわ。
「へっへっへ……」
「さっきから様子が変だけど…」
「いつもそんな感じだから気にすることないわよー」
「失礼なこと言うなあアリスさん」
いやしかし…これ仕事にすればいいのでは?
河童との繋がりがある私が、河童の技術の産物をある程度人里に普及させる。その時の利益の一部を貰えば……
「私めっちゃ天才だわ…」
「ほらね?」
「う、うん……」
「霖之助さんこれ貰っていい?」
「え?消しゴムかい?別にいいけど…」
「おっしゃきたこれ」
これを河童のところに持って行けば……オラワクワクが止まんねえぞ!
「こういうのどこから拾ってくるんですか?」
「無縁塚ってとこにたまに外の世界から流れ着いてくるんだ」
「あー、無縁塚、はぁ…」
色んな書物で危ないから近寄るなって書いてたあの無縁塚……そんなとこから拾ってきてるのかこの人は。
「外の世界に詳しいのかい?」
「はい?えぇまあ……それなりに。てか霖之助さんは名前と用途はわかるんですね」
「まあね」
どういう理屈か分からんが、この世界には空間に裂け目みたいなの作ったり千里先が見えたりデカくなったりするからそういうものなのだろう。
私もよくわからんけど物を浮かせられるし、それが能力って呼ばれるんだろうな。
「……その刀は?」
「これ?昔の友達のすぐ首を切ろうとする妖怪狩りのやべー人の刀」
「え?あ、そうなのか」
私間違ったこと言ってないよ、事実だよ。
「僕の目では明らかに妖刀なのだけれど……」
「うん、時々カタカタとひとりでに動き出すし私の体乗っ取ってめちゃくちゃしたりするから間違いなく妖刀だね」
「あ、やっぱり?」
見ただけで恐怖を感じる人もいるし……そりゃもう恐ろしい妖刀なのだろう。
「よくそんなもの持ち歩けるね……何が起こるかわからないのに」
「まあ……形見だし、これに助けてもらってるし」
「へぇ…」
私だって妖刀持ち歩いてる人がいたらなんだこいつって思うもの。
そもそも刀持ち歩いてる時点でアレだけども……
「名前はないのかい?」
「へ?」
「いや、名前」
「名前…?なんの?」
「その刀の」
「………」
考えたこともなかった………りんさんも名前つけてた様子はなかったし、単に黒い刀としか……
「てか名前って普通あるもんなんですか?」
「いや、そういうわけじゃ……ただ名刀とか妖刀とかは名前がついてることが多いし」
「あー…なるほど……」
いやでもなあ……他人の刀だし、私が勝手に名前つけるのも………
ってか今更だよ?いつからこの刀持ってると思ってるんだよ……というか、私の中の呼び方は完全にりんさんの刀で定着してるし……今更つけても色々手遅れな感じが……
いやでも、確かに名前くらいは……
「名前……私名付けってあんまり……」
「別に無理につける必要はないと思うよ」
「いやでも、大切にしてるものほど名前は……」
「あなた、それを言うならイノジェイガンはどうなるのよ」
「いやあいつは……あれが名前みたいなもんだし?」
イノシシは違うじゃん……何が違うかってこう…違うじゃん。
名前かあ………
でもそうだよなあ…別にその名前を使わなくたっていいけど、名前くらいはあったほうがいいんだろうな。
しかしどうするか…小洒落た名前は私の趣味じゃないし……といって厨二心溢れるのも……それはそれで興味あるが、刺されそうだ。
………ひとつ、めっちゃしっくりくるのを思いついた。
てかもうこれ以外ないのではないだろうか。
『凛』
いやまあ、りんさんの刀だから凛って、物凄く安直なんだけど……でもまあ、いいんじゃないだろうか。
まあこれからもりんさんの刀って呼んでるだろうが、たまには凛とも呼んでやるとしよう。