「………あのドンカ○ス先に帰りやがったな………」
「いやぁこんなところに私たちの研究の素晴らしさをわかってくれる人がいるとは、君こそ私達の真の盟友だよ!」
「あーどーしよー、帰り道わかんないしってかもう暗いし………帰れないことないだろうけど、またルーミアみたいな化け物に襲われたら敵わないし………」
「………」
「あーどーしよっかなー」
「寝床くらいは用意できるよ盟友!」
「ありがとにとりん愛してる!!」
「愛し………そ、そんな急に………」
「あ、ごめん口が滑ったわ、今のは気にしないでね」
この毛玉たる私が百合展開に行くわけなかろう、毛玉と河童の百合なんて一体誰に需要があるのだというのだ。
「さぁ行くのだにとりん、我が寝床へ!」
「にとりん………?まぁいっか!さぁ行こうぞ盟友!我らは止まることを知らない!明日へと走り続けるのだ!」
いやぁ、河童の発明とやらを見てたら日が暮れちゃってたねあはは。
でもまぁ、技術面に関してはこの時代にしては高いのは確実だろう。
半分以上がきゅうり関連の機械だったけど………
電気とかは無いのかなぁ?発電機とか作ったらすごい発展しそうだけどな、ここ。
「あ、そうだ。腹減ってない?きゅうりあるけど」
「あ、けっこーです。別に食べなくても平気なんで」
「そっか。いやね?やっぱり河童ときゅうりは切っても切れない関係なわけだから、全力を注いで生産しまくったのはいいんだけど、在庫があまりすぎててさ。まぁおかげできゅうりには困らないからいいんだけどさ」
本当に河童ってきゅうりが好きなんだなぁ。
こんな幼女たちが尻子玉を抜き取るとか、それはそれでホラーである。
「さぁ着いたよ!ここが河童たちの居住区だよ!」
「あら、意外と近い。そしてこの建物の形、もしかしてきゅうりを模してる?」
「よくわかったね!さすがは盟友、その洞察力は素晴らしいよ」
「なんかすごいベタ褒めされてんなぁ」
建物の形を簡単に言い表すと、豆腐の上にきゅうりが乗ってる感じだ。
何これ面白い、すごくユニークだね。
「一番端っこの赤い扉の部屋が空いてるから、そこに泊まるといいよ、私はまだやることがあるからここでお別れだね」
「いろいろとありがとうね。また明日会おう」
「くぅー!もっと盟友と科学について話し合いたい!なのに時間が邪魔をする!時よ止まってくれえ!!」
「あははは………随分元気のいいことで、じゃあねにとり」
「また明日迎えに来るよ!」
爽やかな笑みを浮かべて、工房のあるであろう場所へ飛んでいった。
うん、よくよく考えたらこの世界平然と人が空を飛びすぎだよね、こわ。
鴉天狗が飛ぶのは分かる、翼あるから。
でも白狼天狗はわからない、てかそもそも白狼天狗って何、なんなんすかあれ。
しまいには河童まで飛ぶんでしょ?みんな空を自由に飛びすぎ、タケコ○ターいらずだねぇ。
よく考えたら、まだ毛玉になって多分半年も経ってないのに、私の人生既に濃すぎじゃない?
まぁ色々あったなぁ………もう疲れちったよ。
さぁて、寝ましょうか。
部屋の中はいたって普通、ではない。
布団しかねぇよどうなってんだよ、寝させる気しかねぇなぁおい。
仕方がないなぁ、寝るかこのやろう。
今日は頭使いすぎてもうめっちゃ痛い、ぐっすり寝るとしよう。
スヤァ………
耳の奥にカリカリと、何かを引っ掻く音が響いてくる。
とても耳障りで寝れやしない。
耳の穴に小指を突っ込む。
「………寝れない………」
隣の部屋?確かに壁薄そうだからなぁ、音は漏れやすいだろうけど………どんだけカリカリしてんのよ、うるさいなぁもう。
何かに嫌なことでもあったのかな?確かに私もイラついたら地面とかぶん殴るけど………
もう眠いんだよ、寝さしてくれよ。
今何時だろう、寝る前は微かに聞こえていた何かの作業音も、今ではすっかり聞こえなくなっている。
人ではない、妖怪などの生物の範疇ではない存在は、ある程度なら飲まず食わず、寝ずに活動ができる。
だとしても、私は寝たい、全力で寝たい、寝さしてください。
まぁそのうち収まるだろう、隣の人もこんな布団しかない部屋に入ったからには寝る以外やることがないはずだ、いつまでもカリカリしてることないだろう。
「………」
………カリカリカリカリ
「………」
カリカリカリカリ
「………」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
イラァ………
ドンっという低い音が部屋に響く。
足で壁を蹴ってしまったらしい、無意識って怖いわぁ。
………音収まったなぁ。
びっくりしたかな?まぁこっちも迷惑してたわけだし、やめてくれるならそれで構わない。
音が漏れてることに気づいたかな?
じゃあもう寝るとするか。
………カリカリカリカリ
………嘘やん。
まだやるかぁ、いい度胸だなぁおい、人の睡眠と食事だけは邪魔してはいけませんて習わなかったんかこんにゃろう。
今からカチコミに行って………
やめておこう、もしかしたら隣の人の寝相が悪いのかもしれない。
文句を言いに行って起こして変な騒ぎ起こして他の河童たちに潰される………それはマズイ。
多少うるさくても我慢しよう、気にしないようにすれば寝るのに支障はないはずだ。
「うおぉぉぉぉ………」
あーもう朝だよぉ、寝れなかったよぉ、あの音が気になりだすともう寝れなくなったよ。
寝るのってこんなに難しかったっけ、こんな難しかったこと今までしてたんだっけ。
確かに時計の針の動く音が時々気になることはあったけど、ここまで寝れないことはなかったよ。
なんど壁に蹴りを入れそうになったことか。
ほんともう無理、眠い。
本来なら寝なくたって二日くらいなら活動できる、だけど昨日頭を使いすぎたせいで頭が痛い、マシにはなったけどまだ痛い。
「おーい毛糸ー、起きてるかい?」
「んあぁ、起きてる、入ってきていいよ」
「失礼しま………どうしたんだい、そんなこの世の全てに絶望して全てを焼き尽くさんばかりの顔は」
「何その例え、逆にどんな顔してるか気になるわ。寝れなかったんだよ、隣の部屋が夜中までカリカリカリカリうるさくて」
「え?それは………ちょっと待ってて、すぐ戻る」
そう言って部屋を飛び出していったにとり、何しにいったんだろ。
あ、帰ってきた。
「いやぁごめんね、隣の部屋、るりの部屋だったよ」
「るりぃ?隣のカリカリ煩かった奴?」
「あぁ、紫寺間るり、重度の引きこもりなんだ」
しじまぁ?
部屋を出て隣の部屋の扉を見てみると、なるほど、確かにこれは紫寺間って文字が彫ってある。
そして絵筆で書いたような文字で、開けるな、とも書いてある。
「河童って全体的に協調性の無い奴が多いんだけどさ」
「それ、自分で無いって言うの?」
「自覚してない奴が一番迷惑なんだよ、河童は自覚してるだけいいと思うんだけど」
「まぁ確かに」
「で、こいつは河童の中でも屈指の問題児、その証拠にこの建物、夜中に鳴る謎の音がうるさすぎてもはやあいつ以外の奴はもうこの建物に住んで無いよ」
「はぁ、そうだったの。………オラァ!」
「ちょ、何してんの!?」
扉を思いっきり蹴る。
脚力はないので扉は開かないけど、音は十分響く。
「社会人間関係その他もろもろォ!全てを舐め腐ってる引きこもりに現実を教えてやんだよ。オラァひきこもりるりぃ!出て来いやぁ!てめぇのねじ曲がった毛根から全て矯正してやんよォ!」
「ちょ、落ち着いて!あまりやるとあれが——」
「オンドゥル ‼︎ぐふぁ………」
「毛糸おおお!!」
腹にぃ………腹に何かがぁ………
「しっかり!気を確かにするんだ!は、腹に矢が刺さって………」
「ひいいいい!!放っておいてください放っておいてください!あたしは静かにこれからの余生を過ごすんですぅぅぅ!」
「ちょ、るりぃ!おまっこれ、毛糸死んじゃうぞ!」
「え?………は、はははは腹に矢がぁ、もしかしてあたしが侵入者抹殺用に仕込んでおいた弓が………知らない知らない知らないい!あたしは知らない何も見ていない関係ない!」
「侵入者抹殺用ってなんだよ!SEC○Mでもそこまでしないわ!」
「ぎゃあああああ生きてるぅぅぅぅ!?」
「大丈夫!?喋らないほうが………」
「まったく………私じゃなかったら死んでるよまったく」
「ななななななんで生きてるんですか!?まま、まさか不死身!?」
「ん、抜けないなこれ。ちょっとにとりんこれ抜いて」
「い、いいの?逆に血が出るんじゃ………」
「いいからいいから、早く抜いて」
「本当にいいんだね?いくよ?せーのっ」
「——!いっっったあああああああああ!!荒いわぁ!」
「ひいいいいい!成仏!成仏してくださいぃ!」
腹に刺さった矢が乱暴に抜かれる。
言葉で言い表すことのできない痛みの中、妖力を腹の痛みのするところへ押し込み傷を塞ぐ。
すぐに痛みが引いて、血が流れるのが止まった。
「ふぅ………あー死ぬかと思った」
「逆になんで死んでないんですか!妖怪でもそんなすぐに傷治りませんよ!?」
「うっせえだあってろ!元はと言えばお前が悪いんでしょうが!」
目の前で喚き散らしてる、変な帽子をかぶった河童。
こいつが紫寺間るり、紫色の髪をした河童。
なんで紫?おばちゃんかよ。
「とりあえず、ゆっくり落ち着いてお話し、しようか」
「嫌あああああああ!!こ、殺されるぅぅ!助けてにとりさぁん!」
「なんで傷があんな速度で?力の強い妖怪でもあの傷では死なずとも完治するにはそれなりの時間を要するはず、それをなぜ毛玉であるはずの毛糸が妖怪をも超える速度の再生を………」
「人の話聞いてくださいぃ!!」
「まずはテメェだろうがぁ!説教で半殺しにしてやらぁ!」
「ひぃぃぃぃ!!誰か助けてええええええええ!!」
「ぐすん、もう反省してます、許してください」
「自分の口でぐすんって言うなよなんか腹立つ」
にとりは何か作業があるらしく帰った。
よって今はこのるりとかいう引きこもりの部屋で二人っきり。
とりあえず現代でお母さんが引きこもりの子供を説得するときの感じで小一時間説教してやった。
「で、なんで引きこもりなんかしてるのさ」
「そ、それを聞いちゃいます?いきなりそんなところに踏み込んできちゃいます?」
「お前のせいでみんないろいろ迷惑してんの。いいから話しやがれ」
「わ、わかりましたよぅ」
まぁ人のデリケートなとこに踏み込んでるのはわかる、だがそれでも構わず突っ込むのがこの私だぁ!
「あたし、昔っから人見知りだったんです」
渋々、と言った感じで話し始めるるり。
「最初は頑張って私も他のみんなと一緒に頑張ってたんです。でも段々と、みんなの視線が怖くなってきて………」
「視線?」
「はい、なんて言うんですかね、これ。たまに失敗とかしちゃうと、もうこいつは駄目なんじゃないか、もう何もしない方がいいんじゃないか、邪魔だからいなくなれって、そんな目を向けられている気がするんです」
「気がするだけじゃないの」
「あたしだってただの被害妄想ってことは自覚してますよ。でもやっぱり、そう言うこと考え始めるともう何もできなくなって、それでまた失敗して………悪循環って奴ですよ」
まあ周りの視線が気になるってのはわかる。
近くの誰かが笑った時も、自分に何かおかしいところがあるんじゃないか、馬鹿にされているんじゃないか。
自分は全く関係ないってわかってても、どうしてもそう考えてしまう。
「それでまぁ、疲れちゃったんですよね。そういう考えに引っ張られてどんどんどんどん、沼に引き摺り込まれていくような………自分が全部沈んでしまう前に、先に引きこもって他者との関わりを断ち切る。そうやって凌いできたんですよ」
「それでいいの?そのまま引きこもりってたらもっと他の人から白い目で見られるよ」
「あたしも最初はそう思ってたんですけどね、これが案外、引き篭もるのがあたしにぴったりだったんですよ」
「まぁわかる、私家ないけどさ。長いことやってたらさすがに疲れると思うけど、あの外界から遮断された感じはたまらない」
「あ、わかります?いいですよねぇあれ、自分の部屋だけで一日の全てが完結するあのなんとも言えない快感、自分の城を手に入れた感覚ですよ。流石にお腹すくので何か食べにいったりしますけど」
「まぁ部屋に侵入者抹殺用の弓があるのはおかしいと思うけど。それとこれは別、ちゃんと部屋から出て働け」
「嫌です」
「じゃあせめて夜中にカリカリ鳴らすのやめろ。あれのせいで私寝れなかったんだけど」
「それは善処します」
それ絶対やらんやつや。
「いやぁでも、こんなところに引きこもりの同士がいたとは、今日はいい日だなぁ」
「私は別に引きこもってないけど」
「じゃあ家作りますよ!あたし一応河童ですし!」
「え?いいけどソーラー発電と台所と畳の部屋と寝室と浴室つけてよ?」
「それは要求高くないですか?」