毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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幻想郷は毛玉を含めて全てを受け入れる

「………しょぼくないっすか」

「まあ確かに聞いただけじゃあねえ」

 

『空を飛ぶ程度の能力』

確かにそれは私の能力の上位互換……なのだろうか?

 

「それって物浮かせられ……」

「ないわね」

「あっはい」

 

よし勝ってる部分あるな!

……何と張り合ってるんだろうか私は。

 

「てか、結局それの何が凄いんですか?飛ぶのなんてみんなできるじゃないですか」

「そうね……詳しいこと話すと長くて面倒臭いから色々省くと……」

 

色々省くとか言ったくせに結構長ったらしく話された。

まあよく分かんなかったけど……空飛ぶってことは無重力ってことで、それはつまり、いかなる重圧や、この世のありとあらゆるものの影響を受けずに、この世から浮く………とか……

 

はい、よくわかりませんでした。

 

「で、その能力使うとこちらからは何も干渉できない最強の人間が出来上がると……そういう感じですか?」

「そうなるわね」

 

まあ……うん……

自分なりに噛み砕いてみる。

要するにこの世の理から浮くことによって、こちら側からは何も干渉することのできない……つまり当たり判定を無くして、全く攻撃の通らないチート野郎ができるってことだ。

ついでに向こうはこちら側に攻撃できるらしい。ずっる。

 

 

「……てか、なんで私の能力からそんな大層なもんが生まれるんですか。こっちは世界から浮くとかそんなんじゃなくて、本当に宙に浮いてるだけなんですけど」

 

存在は世界から浮いてるだろうが……私は自分の当たり判定無くしたりできないし?てかできるもんならやってるわ。

 

「話すと長いわよ」

「じゃあ結構です」

 

どうせ聞いたってわかんねえし!

 

「………それって私どうなるんですか?」

「どうって?」

「死なない?」

「死なない」

「それならいいや」

 

それをやったからと言って私に何かデメリットがあるわけでもないし。

……いや、自分の敵わない最強の天敵が誕生するのか。

恐ろしや恐ろしや……敵として相対しないことを祈ろう。

 

「巫女さんと霊夢はそれ知ってるんですか?」

「霊夢は話したってわからないでしょうし、どうせ拒否権ないわ」

「あら酷い……巫女さんは?」

「納得はしてるみたいよ」

「さいですか」

 

あの人怖いんだよな……あからさまな敵意は向けられなくなったけど……

というか、りんさんの面影をどうしても感じてしまう。別に見た目似てないのに……生まれ変わりとかそんなんじゃないよね?

 

「結局あの人の名前なんなんですか」

「ないわ」

「え?……あ、そういう……」

「私が博麗の巫女探しをサボってた結果、あなたの友人の人間が生まれたのは話したわよね」

「あ、はい」

 

そういやそんな話してたな……

 

「それ以来ちゃんと真面目にするようにしてきたんだけど、そうなると結局まだ名もない赤子とかを攫ってくるのが一番確実なわけ」

「なるほど……」

 

要するに名付けの前に連れてきたから、あの人には名前がないと。

 

「歴代の博麗の巫女を見れば名前のないのなんて別に珍しくはないんだけれどね。名前ある多くの場合は先代から名前を貰っているわ」

「じゃあ霊夢は……」

「ええ、彼女がつけた名前よ。もっとも彼女は先代とは少ししか会ってないの。ちょっとだけ話して先代が死んで……その入れ替わりで博麗の巫女を継いだから名前はもらってないんだけどね」

 

自分がなかったから、霊夢にはつけたって……そういう話だろうか。

……名前の件といい、私が感じ続けている感覚といい……なおさらりんさんと重ねてしまう。

 

「それにしても親は可哀想じゃないですか?自分達の子供が知らないうちに攫われるって」

「そういうことにはならないわ。……あなたは、嫌いな話かもしれないけれどね」

「……はい?」

 

そういうことにはならないって、どういうことだろうか。

いやだって、生まれた時から忌み嫌われてるとかならわかるが、みんながみんなそういうわけじゃないだろう。

ちゃんと親に愛されていた人もいたはずで、それなのにそういうことにはならないって……

まさか。

 

「消すんですか、存在を」

「えぇ」

 

そうか……

そりゃあそうだよな。

もし妖怪が博麗の巫女の親を人質に取ったりでもしたら厄介だし、その他にも色々な厄介ごとがあるのだろう。

そうなるくらいならば最初から存在を無かったことにしておいた方が……

 

「嫌な気分になったかしら?」

「いえ……それがこの幻想郷にとって必要なことってのは理解してますし、私みたいな部外者には口を出す権利もないですしね」

「部外者ねぇ………あなた、幻想郷での自分の地位って考えたことある?」

「地位?」

「あなたはどこにでもいる毛玉がちょっと変異した、ちっぽけな存在としか思っていないのかもしれないけどね」

 

いや実際そうですし………ちょっとどころの変異ではないような気がするが。

 

「あなたがこの幻想郷に与える影響はかなりのものよ」

「えー……そんなにですか?」

「そんなに、よ。考えても見なさい。幽香と同じ妖力を持つものが好き勝手暴れればどうなるかしら」

「天災級の被害」

「そう。それに加えて手足をもいでも一瞬で再生するし、氷まで操る。厄介なことこの上ないわよ」

 

でも毛玉ですし……どれだけ持ってる力が強かろうが、手足の生える速度が速かろうが、所詮は毛玉だ。

 

「藍さんにも勝てないくらいですよ?」

「あの時は確かにそうだったわね、でも今はどうかしら。あれは数百年前、あなたはまだまだ力の使い方がなっていなかった。でも今藍と戦ってみればどうなるか、わからないわよ」

「どちらにせよ紫さんには敵いませんし」

「厄介なこと、この上ないわ」

 

手足生えるだけでそんなに厄介になります?巫女さんがやってたみたいに一撃で消滅させるなりなんなりさせればいいじゃないっすか。

 

「これがありとあらゆる人間、妖怪に恐れられているのならまあわかるわよ。でも実際のところそいつは基本友好的で、妖怪の山や地底の人物とも親しく、人里にいることもある、と」

「………つまり?」

「あなたがこの幻想郷で何か大きなことを起こそうとすれば、それを手伝おうとする者も現れるでしょうね」

 

そんな奴いるかな……いないと思うけどなあ……

 

「力を持てばそれ相応の権力もついてくる。あなたはそれに気づいていない」

「権力持ってたってしょうがないでしょうに」

「………」

 

やめて、呆れた目で見ないで。

どうしてみんな私のことそんな目で見るのさ!私結構メンタル弱いんだからね!

………まあ、例えばの話。

私が割と危険な人物だったとしよう。

そんな私が妖怪の山に目をつけて、向こうにとって不都合なことを要求したとしよう。

もちろん向こうは拒否するだろうが、私に妖怪の山一つを消し飛ばす力があった場合、向こうはそれを飲まざるを得ないというわけだ。

力を持てばそれ相応の権力もついてくる、というのはこういうことだろう。

力と権力の関係は、前世の記憶と比べてこの幻想郷では深いものとなっている。強い奴が偉いのだ。

偉い奴は強いとも言う。

 

「とにかく、あなたは幻想郷にとって大きな存在ということ。あなたが思ってる以上にね」

「はあ……」

 

人からもらったものでそんな、大きな存在とか言われても…ねえ?

 

「でも……それはそれです。私は本来ここにはいちゃいけない奴ですから」

「はいはいそれね、言うと思った」

「なんすかその反応」

「別に……ただ、一つだけ言うならば……」

 

紫さんは真っ直ぐとこちらを見つめ、顔を近づける。

 

「幻想郷は全てを受け入れるわ。例えそれが世界から浮いてるような存在でもね」

「全て………頭もじゃもじゃの中途半端に力の強い、前世人間で魂を二つ持ってるこんな私でも?」

「そう言ってるじゃない」

 

それは……

なんて素晴らしいことだろう。

私みたいなのが居たって構わないと言ってくれているのだ。

いや、実際はもっと別の意味なのかもしれないが。

 

いずれにせよ、それは私を幻想郷に受け入れると、紫さんが改めて私に言ってくれたと言うことなのだろう。

これほど嬉しいことはない。

 

「全てを受け入れる、かあ」

「話はこのくらいにしておきましょうか、また分からないことがあったら聞いて頂戴」

「あ、了解っす」

 

なおさらここが、幻想郷が好きになった。

私みたいなのがいたっていいと言ってくれたのだ、できる限り役に立ちたい。

死なない程度に。

ここ重要。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「………」

「……ふぅん…」

「………なんすか」

 

せっかくだしゆっくりしていけと紫さんに言われたので、縁側?かなんかそういうところに座って境内を見つめる。

そして巫女さんも私のことを見つめる。

 

「………」

「いやあの、何?」

「その腕、さっき針を弾いてたけど何なんだ?」

「あ、これ?」

 

どうやら左腕の義手を気にかけていたらしい。

まあ確かに、幻想郷の人間の技術レベルからしたら河童製の義手とか凄い珍しい物なのだろうな。

 

「これは義手で……まあ、金属で出来てるよ」

「義手?それが?見た目普通の腕じゃないか」

「……ほら」

「うおっ」

 

私が義手のほんの小さなボタンを押すと手のひらがグルグルと回り始めた。

それに驚いてビクッとなる巫女さん。

 

「意味わかんない物付けてるんだな……なんで再生力高いのにそんなものを…いや、再生できないから付けてるんだな」

 

察しがいいようで。

まあ呪い云々は人に話したところで治る物でもないので言うつもりもないが。…いや、博麗の巫女ならそういうのどうにかできたりするのか?

……永琳さんが無理なんだったから、やっぱり無理かなあ。

 

「……巫女さんはいいの?」

「何が」

「霊夢のこと」

「あ、それ」

 

…返事が軽いし特に何も思ってなさそう。

 

「正直言えば反対だけど……どうせ私が反対しても紫が勝手にやるだろうしなあ」

「一応私が断ったらできないけど…」

「無理やりやらされるのがオチだな」

「間違いない」

 

霊夢に能力を渡すのはいつなのかとさっき聞いたら、分からないけど近いうちというなんともあやふやな返答が返ってきた。

まあいつだっていいんですけどね、私暇人だし?

 

「紫とはいつから?」

「いつ……まあ数百年は前かなあ。そんなに喋ったことないけど……」

 

思えば私がいっつも話してる相手は藍さんか橙だったし。

紫さんはなんか色々とゆるい人ではあるけど、それでも妖怪の賢者と呼ばれてるのは事実だし、私の本能がこの人はやばいってビンビン感じていたので、今までも結構避けてきた。

 

まあたまに橙と一緒の時とかに文字通り顔だけ出してきたりしてたから、全く会わなかったというわけではないが。

 

「えっと……私のことどう思う?」

「は?」

「………私って一応妖怪なわけだし、あなたは博麗の巫女でしょ?こう、憎しみとか……ないの?」

「いや、特に」

「そっかぁ」

 

特にないのに初対面で私あんなに襲われたのか……

 

「さっきの初めて会った時のことは謝る、急に悪かった。こっちは大妖怪並みの妖力を持ってる奴と急に出くわして驚いてたんだ」

 

驚いたら相手を殺しにかかるんですかあなたは。……まあ、博麗の巫女としてはそれが正しいのかもしれないけど

 

「まあこうやって話してみたら全然大妖怪らしくないんだけどな」

「そりゃあ大妖怪なんて大そうなもんじゃないし……」

 

簡単にプッツンして相手の策にはまって呪いをかけられて片腕を失うようなうっかりさんです。てへっ。

はぁ…………我ながらアホだなぁ。

 

「あれか?その何となく緩い気の抜けた感じは強者の余裕って奴なのか?」

「いや素」

「あっそ」

 

強者の余裕ってのは勇儀さん萃香さん幽香さん永琳さん紫さんが放ってるようなオーラであって、私のそれは単純にそういう性格なだけである。

……今考えると私の知り合いおかしくね……?やばいやつばっかじゃねえか……

 

「今まで博麗の巫女と戦ったことは?」

「………ないね」

 

りんさんは博麗の巫女ではないからね!ただの妖怪狩りだから!ノーカン!

 

「何で急に?」

「いや、私以外の博麗の巫女を知りたくって」

「そっか」

 

そうか、この人は確か先代が死んですぐに博麗の巫女になったから他の巫女を知らないのか……

 

「紫さんは?色々知ってるでしょ」

「あいつは胡散臭くていまいち信用に欠ける」

 

可愛そうな紫さん……でも自分が悪いから仕方がない。

 

「霊夢は私を見て育つんだから、しっかりしないとだよなあ」

「…親代わりってやつ?」

「そうなるのかな」

 

先代を知らないから、後継のためにどうやって振る舞えばいいのか分からないのか……

本人は霊夢のことをかなり大事に思っているらしい。

 

「手伝うよ。私なんかがおこがましいかもしれないけどさ」

「……いや、助かる。ありがとう」

 

素直に感謝を述べる巫女さん。

別に私が手伝う道理なんてない。

 

だけど単純に、りんさんと同じようなものを感じられるこの人と、もっと一緒にいたいと思った。

 


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