博麗神社に通うのが日課になってしまった………
なんでそうなったのかって?私も分からん。というより私が聞きたい。
なんで妖怪の天敵の博麗の巫女の棲家に足繁く通わなければいけないのだろうか。私別に自殺願望ないのだけれど。
さっき日課って言ったけど実際はそんなに行ってない。せいぜい週に1、2回?
……いや十分多いな。
まあなんで通ってるかっていうと、紫さんに巫女さんと霊夢と親交深めとけとか、そんな感じのこと言われた。
詳しい理由を聞く前にどっか行きやがったけど…まあ私としてもりんさん……じゃなかった巫女さんとも仲良くなりたいし、霊夢のことも気になるし別にいいんだけども。
まあ、そんなこんなで三ヶ月くらい?多分。
「あ、もじゃまり」
「グハアァッ!!」
敷地内に足を踏み入れて2秒で大打撃を食らった。
「こ、これが次代の博麗の巫女……なんて力だ…いってぇ!」
「何やってんだ馬鹿」
「待って、その棒で叩かないで、シャレにならんから、ヤバいから、マジで」
「あ、そう」
あ、そう。じゃなくてね?
そのなに……お祓い棒?痛いのそれ、対妖怪特攻◎くらいあるの。ヤバいの。
軽くポン、と叩かれただけなのにめっちゃ痛い。
激しい痛みは体が勝手にシャットアウトするんだけど、お祓い棒で叩かれるとそれもなんか遅れる気がする。
とにかくめっちゃ痛い、やばい。
そして巫女さんはそれをハリセンのように振り回しまくる、怖い。
「とりあえず霊夢、もじゃまりはやめよう、な?」
「じゃあしろまり」
「みんな考えることは同じか……」
なんでもじゃまりとしろまりの二択なんだよ……普通にクソ毛玉とか毛屑とかって呼べばいいのに。
……普通じゃないね。
あれか、この年頃の娘は私のこともじゃまりって呼ぶのが流行ってるのか。なんで魔理沙と同じ呼び方するんだこいつは。
「今日も性懲りも無く叩かれに来たのか?」
「叩かないでください……饅頭手土産に持ってきたんで……」
「よし許す」
「許されてなかったの……?」
まあ……甘味こそが最強ということだな。
やはり甘味、甘味は全てを解決する。
とりあえず饅頭を手土産にすれば如何なる人とでも仲良くできる。
相手が饅頭嫌いだった場合は知らない。
饅頭は自分のお金で買ってきた。
お金はもちろん河童と人里の仲介役に立つというきったねえやり方で稼いでいる。にとりんと慧音さんに話通してるだけでほぼ働いてない。ニートである。
でもお金稼いでるもん!
「上がりなよ、今から昼ごはん作るとこだし。一緒に食ってけ」
「毒盛らない?」
「盛っても効かないだろ」
「いやべらぼうに効くけど」
「………ほんと?」
「ほんと……アッ………も、盛るなよ?フリじゃねえからな?絶対盛るなよ?マジで死ぬから」
「盛らない盛らない」
顔がニヤついてるんですが!?
「もし盛ったらあれだからな、全身から血を噴き出して毒を抜くからな。内臓引っ張り出すからな」
「………気色悪いな」
実際毒を完全に抜こうと思ったらそのくらいしないと……ねえ?
「てか巫女さん料理できるんだね」
「一応な、お前は?」
「私はまあ、これでも一応数百年は自炊で生きてきたから」
味は保証しない!
私の料理を食べたことのある数少ない友人によれば、めちゃくちゃ美味しいというわけではないが、まあ美味しいくらいとのこと。
まあ、ゲロマズではないことは確かだ、多分、きっと、メイビー。
「お前の料理って中に髪の毛入ってそうだな」
「……一応、気にしてるし…」
「あ……そう……」
自分の作った料理を自分で食べてるときに自分の髪の毛が口の中に入ると……すごく……萎える。
「どうせだし手伝わせてよ」
「妖怪の作った飯を食う博麗の巫女ってどうなんだよ」
「妖怪に料理を振る舞う博麗の巫女ってどうなんだよ」
「それもそうだな、じゃあ食うな」
「酷くね?」
「さて、何から始める?」
「ご飯を炊く、おかず作る、並べる、以上」
「うーん単純明快嫌いじゃない」
ただ私の家って結構ハイテクだからなあ……この神社の台所だと結構辿々しくなってしまうかもしれない。一応昔はこんな感じの台所で料理……
いや違うな、昔は肉焼いてただけだったわ、ただの焼き肉だったわ。
夜は焼肉っしょとか変なテンションで叫んでたなあ…いやあ懐かしい。
「とりあえず火を起こしてくれ」
「ん。……何で?」
「え?火出せるだろ?」
「え?出せないよ?」
「え?」
「え?」
「………使えねえな」
「酷くね?……私変な術とか使わないからね」
「氷は出せるのに」
「氷は別」
あれか、火くらいは出せるようになってたほうがいいのか。
初級妖術くらいは使えた方がいいとかそういう感じなのか?そうなのか?
……橙なら知ってるかなぁ……
巫女さんは慣れた手つきで羽釜に火をかける。
「普通に味噌汁と卵焼きでいいか」
「おっ普通、まあいいんじゃない?」
「また買い出しもいかないといけないんだよなあ……でも金が……」
「……ないんだ、金」
卵を割ってかき混ぜる。
その辺の野鳥の卵とか到底食えたものではないが、一応妖怪の山でも鶏卵って生産されてるからそれもらったりして食べてた。
「まあこんなとこまで参拝客来ないしなあ」
「依頼とかは?」
「最近は依頼も減ってる」
あー……妖怪と人間の関係が良くなる代わりにここに犠牲者が現れてしまった……
「………これ、渡しとく」
「……お前、頭大丈夫か?」
「うっせえわ。……一応食事代ってことにしといて」
「……わかった」
あら素直……妖怪から金を恵んでもらう博麗の巫女ってどうなんだとか言ってきそうなもんだが。
「妖怪から金を恵んでもらう博麗の巫女って……」
「あ、言った」
えらく項垂れているようなので肩をさすっておく。
腹パンされた。
「気安く触んな」
「えぇ………じゃあ金返して」
「これはもう私のもんだ」
「こいつ……」
まあ……お金には困ってないからいいんだけどさ。
色々使い道はあるっちゃあるけど、生活用品とかは元々人里の外で暮らしてきたからほぼ買わなくていいものばかりだ。
つまりちょっと溜め込んでる。そして使い道がない。
「卵焼きでいい?」
「そうだな」
「……味噌ってあんの?」
「……あったっけ」
………
私って恵まれてるんだなぁ……
まあ確かに、わざわざ博麗の巫女に頼らなくても人里の人間だけで解決できるのなら依頼出す必要もないか。
……私が昔やってた人間を助ける行為って、こういうのを生業としてる人の仕事奪ってたのか……?
つまり巫女さんが貧しいのは私のせい……?
「あ、あったわ。ちょっとだけ」
「………」
「やめろやめろ、そんな目で見るな」
人に憐れみの目を向けるのはいつぶりだろうか……基本向けられる側だし、どちらかというと呆れた目を向けられるし。
「……苦労、してんだね」
「だからやめろってその顔」
……手土産の数多くするか……
「いただきます」
3人で声を揃える。
「毛玉って普段何食べてるの?」
「人間と変わらんよ」
「へぇー」
霊夢から純粋な質問をされる。
いうて妖怪なんて大概人間と同じようなもの食べてるよな……きゅうり厨の河童と酒豪しかいない鬼は除いて。
「……普通に美味しい」
「そうか」
味薄いけど。
そう口に出したらお祓い棒で殴られる未来が見えたのでやめておく。
「さっきの饅頭だけど、数日は持つから」
「お饅頭!」
あら大声出してまあ……
なんか霊夢も紅白のよくわからん巫女服着てるが、やっぱり人間の子供は子供だなあ……
魔理沙と同い年くらいか…?なんか魔理沙の方が人慣れしてるような気がするけど。
その辺は育った環境とか色々あるか。
「行儀悪いぞ、座ってちゃんと食え」
「はーい」
「お母さん…」
「私はお前の母親じゃねえ、気色悪いな」
そこまで言う?
うん……基本全部味薄めだけど全部美味しいな。
私が作る料理って、適当に焼いて適当に味付けしてるものばっかりだからなあ……調味料とか持ってきてあげた方がいいかな。
「………あ、醤油いる?」
「持ってるのか?」
「そういや持ってたなーって。卵焼きにかけようか?」
「頼む」
左手の人差し指の先端が開いて、そこから醤油が垂れていく。
「何やってんだお前ぇ!?」
「げぼあぉっ!」
お祓い棒で殴ったな!?思いっきりぶったな!?痛えじゃねえかこの野郎!
「おまっ、急に手から醤油っ、おまっ」
「人の好意を無下にするんか己はぁ!」
「指から醤油出すからだろぉ!?」
「え?あ……うん、なんかごめん」
そうだった……指から醤油出るのって頭のイカれてるやつの発想だった……私がどうかしていた……でも痛いんですけど。
「でもお祓い棒で叩くことないじゃん!」
「びっくりしたんだからしょうがないだろ!」
「死ぬぞ!?」
「死んどけ!」
「二人とも行儀わるい…」
「………」
「………」
霊夢に呆れたように言われた。
その後醤油の方はお味はどうだったか聞くと、普通に美味しかったそうな。
「ったく……あんなに驚いたのはいつぶりか」
「私もあんなに思いっきり叩かれたのはいつぶりか」
「そら叩くだろ」
「せやな」
私だって急に相手が指から醤油出したらびっくりして叩くかもしれない。
「この後は?いつもの修行?」
「そうだな。……いつも思うが、見たって面白くないだろ」
「まあ、暇だし」
「お前いっつもそれ言ってるな」
口癖だからね。
暇を持て余しているのが妖怪って奴なのかもしれない。
まもなく霊夢と巫女さんの修行が始まった。
修行はまあ……霊力操作だったり、針の投げる練習だったり、お札投げたり………結構ガチなのね。
驚くべきは霊夢の才能だろうか。
普通に霊力量が子供にしてはありえんほど多い。もうびっくりするほど多い、めっちゃ多い。
これが博麗の巫女って奴なのか……これに攻撃を全部無効化するとかいうバカ能力つけるんだから、もう敵う奴いないんじゃないかな。
今のうちに友好アピールしておいて将来見逃してもらおう、そうしよう。
「親子っぽいし、師弟関係っぽい……」
霊夢は巫女さんを親のように思っているだろうし、師匠のようにも感じているだろう。
他人、知り合い、友達しかいない私にとっては羨ましい関係性だ。私も師匠とか欲しい。師匠にめっちゃカッコいい技とか教えてもらいたい、師匠にピンチを救ってもらいたい。
藍さんみたいな主従関係もあるのか。さとりんとお燐のあれは……まあ………ペットと飼い主だし……
イノシシは一応ペットなのに、ペットって気があんまりしないんだよなあ……考えてることわかるし、割と反抗してくるからか。
「そうじゃなくてこうだ」
「そうとかこうとかわかんない」
「こう、肘を曲げてな」
「さっきから曲げてる」
「そうじゃないんだよ」
「わかんない」
穏やかな光景だけど、これ妖怪を倒すための技術を磨いてるんだよね……私本当になんでここにいるんだ。
……私に友達しかいないのは私がそれ以上近づくのを止めているからか。
紫さんは、幻想郷は全てを受け入れるって言ってたけど、受け入れてくれるからって私が好き勝手していいわけじゃないんだろう。
異物には間違いないのだから。
……これ、私がいなかった場合霊夢の能力ってどうなってたんだろう。
生まれつき持ってるとか、そもそも持ってないとか……紫さんが他の方法で似たような能力を与えてるかもしれないし。
「どうせ私なんていてもいなくても変わらんか」
どうせ私が今までしてきたことだって、そもそも必要なかったり、他の誰かが補填してたりするんだ。
まあこの世界に居るからには、自分のできることはするつもりだけど。ら
「あ」
「あ」
「ん?」
二人が何やら間抜けな声を出したのでそっちに目を向けると、額に何か鋭いものが刺さった。
「ピュアアァアッアアッア!!?」
「すまん、手が滑った」
妖怪退治に使う針が私のおでこにぶっ刺さったらしい。体の中の妖力がぐわんぐわんと乱れるのを感じる。なんかもう気持ち悪すぎてその場をゴロゴロと転がりまくる。
「おあっあっあぁあっああおおあっ」
目が回ってきたので急いで針を額から引き抜く。
「なっ、何すんだコルァ!?」
「謝ったろ」
「謝って済む問題じゃないからね!?死にかねないからね!?」
ダメだこの場所危険すぎる…逃げなきゃ……
はうあっ!
霊夢から冷めた視線を感じる……!何やってんだこいつって思ってんのがビンビン伝わってくる…!
……成長したら結構キツイ性格になりそう。
りんさんしかり、巫女さんしかり、霊夢しかり。
博麗の巫女はそういう性格になる呪いでもかかってんのか?いや、私からすれば博麗の巫女っていう存在自体呪いのように思えるんだけど。
「酷い目にあった……疲れたし帰る」
「ご愁傷様」
「誰のせいだと思ってんの」
「私」
「おう素直じゃねえか」
離れたところから霊夢と巫女さんの修行を眺めて、それがひと段落ついたっぽいので帰ることにした。もうやだ針怖い。
「霊夢は?」
「中でだらだらしてる」
「まああんまり修行好きじゃなさそうだしね」
「私も嫌いだ」
「でしょうね」
りんさんってそういうのしてたっけ……いや、あの人毎日実践してたからそんなんしてる暇なかったのか、こわ。
「今更なんだけど、妖怪に対する嫌悪感とかないの?」
「……昔はあったな」
「あったんだ……」
「でもまあ、そんなもの持ってても生きづらいだけだしな。お前は?人間と接するのに抵抗ないのか?」
「私は………人間好きだから」
「変な奴だな」
「よく言われる」
次くる時は塩と胡椒と醤油と……味噌も、持ってくるか……