「こうか!それともこうか!ここがええんか!あぁん!?」
「………」
「あぁちょっまっ……あっ、あーあ、落ちちゃった」
「あなた……下手ね」
「………」
指から霊力を出すのをやめてその場に座り込む。
「はいはい、どうせ私なんて腕生やして妖力で相手を殴ることしかできない単細胞ですよ」
「よくわかってるじゃない」
「フォローしろや」
「にしても急にどうしたの?人形の操り方教えて欲しいなんて」
「いや……その……」
私は魔力を持っていない。
だが魔力糸のようなものを霊力や妖力で代用して使うことはできる。たまに使う氷の蛇腹剣はそれを使って作っている。
まあ、殴った方が早いんだけど。
魔力とそれ以外じゃ性質は違えど、人形を操ることはできなくはないとのことだったので、アリスさんに教えを乞いにきた。
その理由としては……
「……さっき魔理沙にバカにされて…悔しくて」
「ぶふっ」
「おい、笑うなよ、おい」
「いや……案外子供っぽいのねあなた」
「私の精神なんて子供以下だろ」
「それもそうね」
「否定しろや」
実際自分でもムキになりすぎだとは思ってるよ?
「で、どんなふうに馬鹿にされたのよ」
「えー?こんなことも出来ないのか?私でもできるのに?くっくっく……魔法の一つでも使えるようになって出直すんだな、まりも」
「あなたそんなのに怒ってんの?」
「おうそうだよ」
正直手が出そうになった。
まあ何でバカにされたかって、魔理沙がやたらと派手に破裂する魔力弾を作って、私がそれを真似しようとしてしょぼいのが出来て、バカにされた。
なんだろう、距離感は近くなったのかもしれないが生意気になった気がする。昔はあんなじゃなかったのに……そんなに昔でもないけど。そんなに付き合い長くないけど。
あ、でもこれ妖怪の尺度だから、人間基準だと………どうなんだ?
「それだけの妖力を持ってるのに人間の子供一人に馬鹿にされてそれを気にしてるなんて……そりゃあまりも妖怪って呼ばれるわよ」
「アリスさんのこと、人形ばっか使って友達もいない可哀想で大したことないやつ、私はすぐに追い越すぜあんな奴。って言ってたけど」
「ちょっとどっちが上なのか理解させる必要があるみたいね」
「まあまあまあ落ち着いて落ち着いて」
まあ、それだけ私たちのことを信頼してくれてると考えることにしよう。
私の姿……というより頭を見てビビってる人とか、まだそれなりにいるからね。種族とか関係なしに接してくれてるってのは嬉しいことではある。
それとして生意気過ぎだとは思うが。
まあそういう性格なんだろうし、成長したら落ち着くだろう。
大きくなってもあんなこと言うようだったら……その時はアリスさんと2人がかりで教育してやろう。
「ふぅ……アリスさんって、どのくらい戦えんの?」
「まあ、少なくともあなたよりは弱いわよ」
「私より強かったらびっくりするわ。…いや、驕ってるわけじゃなくて」
「そうよね、あなた自分の実力より一回りくらい弱く自分のこと評価してるものね」
「みんなが私の実力より一回り強く評価してるだけだよ」
自分のことを雑魚とは思っていないが……紫さん、勇儀さんに萃香さん、そして幽香さん。
あの辺の真の強者を知ってたら、到底自分を強いとは言う気はなくなる。
実際くっそ気持ち悪いりんさんの刀を使ってようやく倒せた奴とかだったり、まんまと相手の策にはまって片腕動かなくなったりしてるし、圧勝とかってなかなかないからなぁ。
「でも私の強さねえ……戦ったことほとんど記憶にないから、わからないわね」
「いざ戦うとなったらどうする?やっぱり人形?」
「そうねぇ……一応人形に武器とか持たせて特攻させたりするつもりではあるけど」
「酷い……」
「突っ込ませて爆発させたりもするけど?」
「惨い……」
自分の人形にさせることなのかそれは……
いやでも実際、アリスさんの人形を扱う技術ならそれでも結構戦えそうだ。本人はあまり使わないけど、一応他の魔法も使うことができるし。
人形は好んで使うってだけだ。
「でも……想像した感じ、結構地味というか、チマチマした感じになりそうだね。もっと高威力というか、破壊力のある奴ないの?」
「ないわね」
「ないのか………巨大な人形とかは?操れるなら結構いい攻撃手段になると思うんだけど」
「巨大な……いいわねそれ、考えておくわ」
デカいとはつまり強いということである。
萃香さんも巨大化して私を押し潰そうとしてきた。私がたまたま物を浮かせられたからよかったものの、他のやつだったらもれなくペシャンコになっていたことだろう。
普通の人形たちで小規模で地味な攻撃をしつつ、巨大な人形で一気に大打撃を与える。
まあいいんじゃないだろうか、いざとなったら盾にもなるし。
「…って、こんなこと考えても今の幻想郷じゃ、どこで使い所が出てくるか……」
「んまあそうだけどね。考えるだけ無駄にはならないでしょ」
「それもそうね……あなたは?何か増やさないの?」
「ん?そうだなぁ」
増やすって言っても、現状何か困ってることがあるわけでもないし……
「私結構氷で自由に物作れるしなあ」
剣だったり槍だったり。
形にこだわらなくていい壁とか、広範囲に氷を出して攻撃したり。
幽香さんの妖力と比べられるものではないけど、チルノの霊力の氷もかなり便利なのだ。その点はあのバカに頭が上がらない。
本人は自分の霊力って自覚なさそうだけども。
「私さあ、いざこう、何かカッコいい技とか考えてみようと思ってもついつい実用性ばっかり気にしちゃって……そのせいで思いついたの大体没になっちゃうんだよなあ」
「ある程度はロマンも必要よね」
「そりゃ必要だろうけどさあ……命のやりとりの中でロマンとか気にして死んだら、アホらしいにも程があるでしょ」
「何事も楽しむことが重要よ?あなたのあの剣もなんやかんやで使ってるじゃないの?」
「む………まあ」
氷の蛇腹剣、使ってるっちゃ使ってるけど……いくら考えても殴った方が早いと感じてしまう。
蛇腹剣というが、リーチを誤魔化す初見殺しみたいなもんだし。
爆破した方が早い。
頑張って練習して作った武器だから、愛着があるから使っているというのはある。
武器という時点でそれは長所ではあるのだけど……
「こっちの刀あるしなあ……」
凛……りんさんの刀。
「私もう慣れたけど、冷静に考えて刀持ち歩いてるのって結構物騒よね」
「そうだよなぁ」
昔なら武器を持ち歩く妖怪とか人間とか、いるっちゃいたからよかったけど…昨今では武器持ち歩いてたら危ない人扱いされるのだ。実際妖怪だから危ない人だし。
だから人里に行く時とか、人目につくときは出来るだけ目立たないように持ったりしてる。袋に入れて隠したりとか。
「あ、いっそ二本使えば?」
「……二刀流……か」
あり……なのか?
……二刀流って意味あんの?2本いる?1本でよくない?
いや片方の武器は防御に使ったりすればいいのか……でも片手で武器振っても力入らなくない?三刀流とかもう意味わかんなくない?
私剣術全然知らんからよくわからんのだけども。
「というか、一応あの人の形見なんだよこれ、ぽんぽん使っちゃダメでしょ」
「じゃあ氷の方だけ使っておきなさいよ」
「殴って妖力弾飛ばした方が強い」
「じゃあなんで使ってるのよ」
「ロマン」
「………あなたって面倒くさいわね」
「今更?」
そもそも剣とか物騒だよね、命取っちゃうもんね。
その点拳はいいよね、一発殴ったくらいじゃ相手死なないもん。
いや、妖力込めて全力で叩き込んだら死ぬかもだけど。
やっぱ拳だよね、素手格闘だよね、武器とか使ってられないよね。
私別に体術得意じゃないけど……
「私って妖力と再生力しか持ってないんやなって思う」
「今更?」
「昔っから思ってるよ」
そもそも私がするべきなのは、戦って生き残るための努力ではなく戦わなくて済むようにする努力だと思う。
「まあそのままでも十分戦えてるしいいんじゃない?」
「いつどこで大妖怪と戦闘になるかわからんし」
「そんなものとよく遭遇してるあなたがおかしいのね」
「失礼な、幽香さんとはまだ戦ってないぞ」
「……どっちが勝つのかしら」
「怖い妄想すんな…」
そりゃ幽香さんでしょ……
私があの人に勝てる未来見えないんだけど……文字通り消し炭にされる。てかあの人怖いんだけど。戦闘になる前に全力で命乞いするぞ私は。戦闘になっても全力で逃げるぞ私は。
「あなた殺すだけなら簡単なんだけどね」
「物騒なこと言うな」
「即効性の強い毒で瞬殺よ瞬殺」
「本当にやめろよ、てか人に言うなよ、マジで」
毒は私の1番の弱点と言ってもいい。下剤とか飲んだ暁にはどうなることやら……考えたくもない。
「……毒耐性とか……得られるかな……」
「できるかわからないし、やるとしても地獄を見るわよ」
「攻撃くらわないように努力する方がマシだわ」
まあ妖怪たるもの、一つくらいわかりやすい弱点があるもんだろう。
ほら、吸血鬼は日光とか、河童は皿とか、鬼なら……豆?
私の場合は毒って、そういうことにしておこう、うん。
………やだなあ、毒。
なんとなく人形を操る練習を再開してみる。
「………無理!もうやだ諦める」
「……まあ1日で人形を浮かせられるようになったんだから、早い方なんじゃない?そもそも霊力で糸を作らないとスタートラインにすら立てないわけだし」
「今思ったんだけど」
「うん?」
「普通に私の能力で浮かせば楽だったじゃん」
「………」
「………ね?」
「確かに」
どうやら私たち二人はアホみたいだぜ……
「ところで魔理沙の様子は?どう?」
「あなた煽られたんじゃなかったの」
「いや、それはそうだけど………思い出したら腹立ってきた」
人形ちょっとは動かせるようになって見せに行っても、どうせあいつ鼻で笑うんだろうなあ……
「私よりアリスさんの方がよく会うでしょ?だから」
「まあ元気よ、生意気だけどね」
「魔法の方は?」
「あの子随分と努力家みたいで、子供のくせして結構上達早いのよ」
「まあその辺は私たちと時間の使い方違うんだろうさ」
寿命が違うからね。
多分そのことは本人も理解してて、精一杯努力しなきゃいけないと感じているんじゃないだろうか。
「本は返してくれないけど」
「……まあ、使ってないんでしょ?」
「魔導書って魔法使いにとっては宝物よ?使ってないのは事実だけど」
「使ってないものを置いておくより、使ってくれる人に渡した方がいいでしょ」
まあ借りたものを返さないダメな大人に育つのはいただけないが。
「………魔理沙って同年代の友達いるのかな」
「いないんじゃない?いたとしてもしばらく人里には戻ってないみたいだし、会ってないんじゃないかしら」
「だよなぁ……」
私は本人からしたら友達みたいな感覚らしいが、周囲の人が……いやもう人じゃなくて人外しか身の回りいないって状況はこう……成長によろしくないと思う。
「人間の友達って必要だと思うのよ、同じ歳くらいの」
「そう?別にいらないんじゃない?」
「いるって。人間はそういうもんなの、対等な存在が必要不可欠なの。特に子どもは」
「まあ、魔理沙に友達作ってやりたいってのはわかったわ。でもどうやって?本人は人里に戻る気はまだないみたいだし、人里の外に人間がいるわけでもないでしょう?」
「いる」
「え?」
「それも同い年くらいのが」
「………誰」
アリスさんがすごい訝しげな表情でこちらを見てくる。別に私嘘言ってないし。
「次代の博麗の巫女」
「………」
「………」
「……あぁ、そういうこと」
なんか一人で合点がいったみたいだ。
「最近来る頻度減ったり、何かの帰りに立ち寄ったりしてることが増えたなと思ったらあなた、そんな奴と……」
「丁度同い年くらいだしさ、多分あっちも友達いないし良いと思うんだけど、どう?」
「どう?って、私別にあの子の保護者でもなんでもないわよ?本人が良いなら好きにしたら良いじゃない」
そういやそうだった。私よりアリスさんの方が会ってる回数多いってだけだった。
「全く……地底と地上を行き来したり、妖怪の山と繋がってたり、妖怪の賢者と会ってたり……挙句今度は博麗の巫女?あなたって本当に……」
まあ自分でもそうは思うが。これも暇と言い続けて数百年、いろんなところに足を運んだ結果だと思う。
知り合いは多いに越したことはない。
魔理沙は引っ張ってでも連れていくとするが……霊夢と魔理沙、気が合うかなあ。
というかまず巫女さんに許可取らんといかんのよな……許してくれるだろうか。
博麗の巫女は他の人間と関わっちゃいけないとかそんな変な掟でもなけりゃあ、別にいいと思うんだけど。