毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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ちゃんと一回考えてみようと思った毛玉

「……新聞?」

「はい、そうです」

「ふーん……」

 

最近行ってなかったからと、妖怪の山に遊びに行ってみるとちょうど文と出会い、そのまま雑談になった。

どうやら文は新聞を作りたいんだそうな。

というか、情報収集の一環らしい。こそこそ色んなこと嗅ぎ回るのもなんだから、取材という名目で情報を集めるらしい。

 

「新聞かあ……自分の足で取材すんの?」

「そうですね、せっかく幻想郷の中でも上位の飛行速度を持ってるので、色んなところを飛び回って行こうかと」

「そういやお前めっちゃ早かったなあ……」

 

何度か文の本気の飛行を見たことがあるが、そりゃもうべらぼうに早い。私がいくら全力を出しても追いつかないくらい。

 

「しっかし…あの仕事抜け出しまくってた文がこうもやる気出すとは」

「性に合ってるならちゃんとやりますよ」

「捏造とかすんなよ」

「保証しかねます」

「すんなよ……?」

 

新聞かあ……出来上がったなら読ませてもらおうかな。

暇つぶしくらいにはなるだろうし……

 

「………ん?」

「どうかしました?」

「いや、今なんか見られてるような気が……気のせい?」

「あ、それ気のせいじゃないですね、同僚のせいですね」

「同僚?」

「念写できる奴がいるんですよ、姫海棠はたてって言うんですけど、多分そいつですね」

 

念写だと……それってつまり、私のあんな醜態やあんな姿も撮られる……ってこと?

プライベートの侵害だぞ、こら。

 

「ちょっとそいつ締め上げていい?」

「その言葉をそのまま伝えてきますね、多分それで怖がってもう毛糸さんにはやらないと思いますが……」

「ついでに目ん玉ほじくり出すぞこの野郎って言っといて」

「怖いですね……まあ言っときますけど」

 

好き勝手念写するなんてふてぇ野郎だ、私の醜態が晒されようものなら潰す。容赦なく潰す。

 

「毛糸さん、結構そういう、視られてる系に鋭いですよね」

「ん?そう?」

「椛も最初に毛糸さんを見た時に気づかれたって言ってましたよ」

「うっそん……覚えてないわ」

 

……でも、確かに。

なんか何かに見られてるような感覚ってのはよく感じるけど。

そういうのって大体紫さんだと思ってるからなあ……あの人に面と向かってやめてくれとは言えないし、諦めてるところはある。

 

「あ、そうだ。せっかくだし取材させてくれませんか?」

「今から?」

「今から」

「やだ」

「でもどうせ暇を持て余してますよね」

「……はいはいわかったよ」

「ありがとうございます」

 

今更私に聞きたいことなんてあるのか?それなりの付き合いだし、今更取材とか言って聞くようなことないでしょうに。

 

「じゃあ場所を変えて、落ち着いて話をしましょうか」

 

 

 

 

 

 

連れてこられたのは居酒屋だった。

 

「お前昼から酒呑むの?」

「いや、流石に呑みませんよ……とりあえず適当につまみながら話しましょう。最近落ち着いて話することなかったし、聞きたいこと結構あるんですよ」

「あ、そうなの」

 

文と私は机を挟んで向かいの席に座る。

とりあえず文に適当に注文させて、私は出てきたものをもらうとしよう。

思えば人里でもこういう店には入らないなあ……甘味処とか甘味処とか甘味処しかいかないなあ。

饅頭もいいけど団子とかもやっぱりいいよね、うん。

でも私は本当はチョコが好きだよ、いつか食べたいな、チョコ。

 

「それでは早速……最近人里に結構出入りしてますよね」

「そだね、まあ買い物とか、慧音さんと話しつけたりとか、いろいろしに行ってるよ」

「人里で不穏な出来事とかないですか?私も人里入ろうとしたことはあるんですけど、門前払い受けちゃって。信用ないみたいで、仕方なしに忍び込んだりはするんですけど」

「何してんのお前。……まあ特にないと思うよ?強いて言うなら妖怪の山の鴉天狗がコソコソと侵入してるくらい」

「え、そんなことしてる奴いるんですか?同じ鴉天狗として許せませんね!」

「………」

 

腹立つなこいつ。

まあ人間に敵意のない妖怪は結構人里に入ってたりするけども。人里の人間からは少し、妖怪の山への恐れのようなものを感じなくもない。

 

「お金とかはどうしてるんです?」

「河童と人里の仲介役になって楽して儲けてる」

「はっきりといいますね、楽してるって」

「別に、大した金は持ってないよ」

 

本当にただ間に立ってるだけだし、小遣い程度の金しか入ってこない。

まあ使い道が食べ物くらいしかないから溜まっていくんだけども。

魔理沙のお父さん…霧雨さんからもらったお金には手をつけてない。あれも結構な額だったが、まあ使う気にはなれない。

将来、魔理沙がお金に困るようなことがあれば魔理沙に渡そう。多分その方がいい。

 

「人里とは良好な関係を築けてる感じなんですね」

「子供たちに、まりもさんだ〜、遊んで〜、って言われるくらいにはいい関係だよ」

「……あ、はい」

 

その度に毛玉だと訂正する私。

直さない子供

諦める私。

だいたいいつもこれである。

 

「なあ、文よ。私はそんなにまりもかな」

「これってはい、って言ったら殴られる系の質問ですか」

「うん」

「はい。いてっ」

 

デコピンをしておいた。

この世界の住人のまりもの認知度はどうなっているんだ、なんでその辺に浮いてる毛玉より探しても見つからないまりもの方が有名なんだよふざけんな。

 

「人里も特に変化はないし、聞いても面白いことないよ?」

「それもそうですね。じゃあ次の質問です」

「……お、おう」

 

少し、文の眼差しが鋭くなった気がした。

 

「博麗神社で何をしてるんですか」

「………見られてた?」

「そりゃあもう、あれだけ足を運んでいれば嫌でも目に入りますよ」

「そんなに?」

 

まあ確かに、最近は人里と魔法の森と博麗神社に通うことが多いけど……あ、他の天狗の目に入ったりするのか。

能力とかで見られてるのはなんとなくわかるけど、普通に見られてるのは気づかないとはこれいかに。

 

「博麗神社には博麗の巫女がいるはずですが、そこで一体何を?」

「何をって、別に私は………」

 

あれ。

 

「…どうかしましたか」

 

これ私……あかんやつでは?

私がやってることは、妖怪にとって天敵となる博麗の巫女、それが強くなるのに手を貸してるようなもので……それってつまり、妖怪たちからしたら私の行動は………

 

……さっき文の目が変わったのはそういうことか。

 

「どう言ったもんかなあ………」

 

博麗の巫女と一緒になってその後継の面倒を見るとか、そんなの普通の妖怪からすれば敵対行為にも等しいじゃないか。

さてどうする……

 

文の感じから察するに、私が何をしているのかはもうバレてる感じがするな……となると嘘はつけない。というかつきたくない。

今までずっと仲良く付き合ってきたんだ、今ここで嘘をついて仲違いなんてのはごめんだ。

 

「……私は…」

「まあ、おおよそ見当はつきますけどね」

 

やっぱりバレてるようで。

 

「毛糸さん、いくらあなたと言っても、この妖怪の山と敵対し、害をなすものと判断されたなら———」

 

身を乗り出してこちらに顔を近づける文。

 

 

 

「———その首、掻き切りますよ」

 

 

 

自分と合ったその目から視線を外せない。

文の瞳に映る自分の顔が目に入る。

 

「ご注文の枝豆でーす」

「あ、どうもー」

 

何事もなかったかのように席に戻って枝豆を食べ始める文。

途端に自分の鼓動が早まっていたのを感じる。

短く息を吸って、吐いた。

 

「………」

「……やだなあ、冗談ですよ、冗談」

「今のを冗談で通すには無理があるぞ……」

 

明らかにマジトーンだったんですが……

 

「そんなことしないことくらい、わかってますよ。毛糸さんのことはよく知ってるつもりです。ちょっと吹っかけてみただけですって」

「………私は…なんていうか……」

 

言葉が詰まる。

というか頭の中変なことしか思いつかない。

さっき枝豆頼んでたんだとか、普通に怖かったとか。

 

「…とにかく、私は文たちとは敵対しない。それだけは約束する」

「……そうですか」

 

私の行動、少し考えなしだったかな。

紫さんに頼まれたから、特に何も考えずに了解して……

 

「………」

「………」

「気まずい感じになっちゃいましたね」

「本当だよ」

 

いや私が悪いんだけどもね…?

紫さんが考えていること、やりたいこと。

大体はわかるけど、全部はわからない。

ちゃんと説明はしておきたいんだけど、そうするとどうしても憶測が多くなってしまって……

 

「いやまあそもそも毛糸さんの首をそう簡単に取れると思ってませんけどね、はっはっは」

「寝首とか掻こうと思えばいつでもできるでしょ……」

「だから冗談だって言ってるじゃないですか」

「冗談じゃなかったよ、マジのトーンだったよ、結構殺意があらわになってたよ、怖かったよ」

 

冗談にせよ、そうじゃないにせよ、心臓に悪いのに変わりはない。

親しい相手から向けられる殺意って格別だなぁ…………

 

「なんか、すみません」

「私が悪いんだしいいよ……しばらく寝れなくなりそうだけど」

「やりすぎでした…?」

「悪いの私だし………」

「いやこれ私やりすぎた感じですよね。いやあの、私も本当は結構抵抗あったんですけど、毛糸さん強いから別にこのくらい強く出ても大丈夫かなーと………いやほんと、すみませんでした」

「特に何も考えずに好き勝手した私が悪いんだしいいよ別に……」

「そ、そうですか……」

 

なんか文との間に距離を感じる……

私別に強くないし……体の傷は治っても心の傷は簡単には治らないだけだし……

私のメンタルが弱いだけだし。

 

「でもほら、ちょっとは耐性つけたほうがいいですって。睨み返す練習くらいはしたほうがいいと思います。じゃないと舐められますよ?」

「舐められるくらいでちょうどいいし………」

「あーと、ほら、さっきのお返しに私のこと存分に睨みつけてください。暴言吐いちゃってもいいんで!」

「えー………」

 

私のこと励まそうとしてくれてるのはわかるけど…そんな気を使わなくてもいいのに。だって私が悪いのはわかるんだけど。

 

まあここは応えるべきかな……えーとなんだ、睨めばいいんだっけ。

精一杯の憎しみとちょっとだけ妖力を漏らして……

 

 

「——殺すぞ」

 

 

うーん……感情を抑えきれなくなった時ほどの迫力は出てないよなぁ。

いやまああの時は完全に殺意と憎悪に染まってたからであって……落ち込んでる今やってもあの時には遠く及ばないか。

 

「……顔は怖かったです」

「髪か、髪が悪いんか」

「髪ですね……髪のせいでどうしても気が緩みます。あと暴言って言って殺すぞは安直ですね」

「ぶっ飛ばすぞ」

「そのくらい軽い感じで言ってる方が似合ってますね!」

「翼もぐぞ」

 

いいし……別に敵を威圧することなんてないし…緩くたって別にいいし。

むしろ緩い方が印象いいし、そっちの方が幸せだし。

 

「調子戻ってきましたか?」

「ちょっとは……」

「ほら食べてください、美味しいもの食べるのが1番元気出るんですから」

「食欲ない……」

「……面倒くさいですね」

「………それを言うな」

 

ここの居酒屋の料理美味しくてその後普通に食べた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………一つ言っておきたいことあるんだけど」

「罵詈雑言なら結構です」

「ちげーよ」

 

ちょっと言いたいけども、悪口言いたいけども。

 

「簡潔に言うと……幻想郷の外からヤベー奴攻め込んでくるから備えておいてね」

「………」

「………」

 

どうやら簡潔に言いすぎたらしい。

まあ前置きとか全部すっ飛ばしたしそりゃあそうか。

 

「………えーと……どこ情報です?」

「紫さん」

「確かな情報筋きましたねこれ……にとりさんが前に言ってたのって、もしやこれなのでは……」

 

結界が張られた後に私がにとりんに戦いが起こるかもしれないって伝えた話か。あの時は藍さんからだったけど。

 

「えーと、まあ、了解しました。毛糸さんはどうするんですか?」

「どうなるんだろうねえ………」

 

多分紫さんにこき使われて、前線で戦わされそう……じゃなきゃ期待してるなんて言われないでしょ。

別にいいんだけどさ、頼まれたなら引き受けるつもりだし。

……こういう考えなしにOKしてるから今回みたいなことになるのかな。

 

「まあどうなるかはまだわからんけど………死なない程度に頑張るつもりではあるよ」

「また無茶するんでしょうねぇ……」

「しないしない」

 

多分。

というか好きで無茶してるんじゃないし、無茶せざるを得ない状況だから仕方なしに無茶してるだけだし。

 

「とりあえず、博麗の件は目を瞑っておきます。毛糸さんを信用しての判断ですので……頼みますよ?本当に」

「だ、だいじょーぶ……多分………」

「多分じゃ困るんですけど……」

「……私は妖怪と人間が仲良くなってほしいと思ってるからさ。私も今やってることがきっとそれに繋がると思ってる」

「……まあ、冷静に考えて妖怪の賢者が絡んでるんだったら、賢者がめちゃくちゃなこと許しませんよね」

「最初から冷静に考えててくれない?」

 

………まあ、これからはどんなことも一度はちゃんと考えて、行動に移そう。

巫女さんとも文たちとも敵対はしたくないからね。

 


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