毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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全然休めてない引きこもり河童

「どうも、にとりさん」

「ん、おはようるり」

 

いつものようににとりさんの作業場に移動する。

私は他人と一緒に作業できないから、自分の部屋で作業するか、にとりさんの手伝いをするかの二択になっている。

 

「今なにしてるんですか?」

「毛糸の義手の調整、その後は印刷機の耐久性確認とか……まあ、色々だね」

「義手はともかく、印刷機?」

「鴉天狗が新聞出すから大量に必要なんだとさ」

「へぇ……」

 

話は前々から聞いていたけど、新聞かぁ。

よくわからなかったからにとりさんに聞いたら、あることないことをめちゃくちゃに脚色して一目を引こうとするんだと。

まあその話がどれくらい正しいのかわからないけど、自分のことだけは絶対に取り上げないでほしい。

妖怪の山一の引きこもり河童とか書かれたら溜まったものじゃない………もしそんなことされたら死んじゃうかも……

 

「顔青いよ?大丈夫?」

「…へ?あ、はい、なんでもなくはないです」

「また変な考え事してたな?」

「まあ……はい」

 

自分で勝手に妄想して勝手に苦しんでるのは否定しないけど、そういう性分なのだから今更直せない。

 

「……というか、毛糸さん三本とも預けて行ったんですね」

「また明日取りに来るんだってさ。1日くらいなら片腕なくても平気だって言ってたよ」

「あの毛糸さんが片腕無くすなんて……地底でなにがあったんでしょうね」

「まあ、確かに今まで散々あの再生力を見せつけられてるからね。試してみてないだけでもう治ってるんじゃないかとも思うけど」

 

あの人、腕なんていくらでも生えてくると言わんばかりだったし……実際いくらでも生えてきたけど。

 

「とりあえず手伝ってよ、そっちの義手の調整任せてもいいかな」

「わかりました。………ってこれ調味料いっぱい入ってるやつじゃないですか……」

「宴会芸用の義手だね」

「ありましたねそんなの……ってかあの人宴会でないじゃないですか」

「確かに」

 

宴会芸用義手………親指から順に塩、胡椒、醤油、砂糖、みりんが出てくると言う、作った人の正気を疑う代物。

もはや料理用義手、作ったのにとりさんだし。

 

「………この減り方見る限り、あの人本当に料理する時にこれ使ってますね」

 

手から出てきた調味料を使った料理とか食べたくない……

 

「まあ宴会で使うにしてもいつ醤油とか出すんだよって話だし」

「案の定手首から噴射されるきゅうりの香水とか、その他もろもろとか全く減ってないですし……」

「もうこれ料理用義手に名前変えたらどうです?」

「そういや毛糸、持ってくるときに思いっきり料理用って言ってたなぁ」

「もう料理用ですよそれ、本人が言ったらもうだめですよ」

 

とりあえず、調味料は減った分だけ補充しておく。

流石に普段使いはしないやつだからか、部品の劣化とかは特に見られなかったし、動き方にも問題はなかった。

 

「結構丁寧に使ってるんですね……」

「まあこっちの日常生活用と戦闘用のやつはそれなりに傷がついてたりするけどね」

「あの人のことだから、ぶっ壊して部品とかばらばらにして持って帰ってくるかなと思ってたんですけど」

「ばらばらじゃないけど、動かなくなる寸前までぼろぼろになってたことはあったな」

「あぁ、あの鬼の四天王と戦ったっていう……」

「ほんと、どうかしてるよなぁあいつ」

 

なんというか、哀れというか……本人はそういう強者との出会いを全く望んでいない。

本当にただの偶然でそういう人たちと出会ってしまっているのだ。

やたらと知り合いにとんでもない人が多いことを考えると、そういう運命なんじゃないかとすら思えてくる。

 

「……そういや、戦闘用の義手の改造の注文が来てたな。となると二本だけ先返すことになるか……」

「改造?」

「うん。本人曰く、いつ何があってもいいように備えておく、だって」

 

やっぱりそういう運命なんじゃないかな………

 

「……そういえば、最近毛糸さんとちゃんと話してないなあ」

「ん、そうなの?」

「はい、まあ大体あたしが引きこもってる間ににとりさんと話して帰っていっちゃうから……」

「様子見に行ってくるって言って、るりに会いに行ったりしてると思うんだけど」

「様子見るって………扉を蹴破って元気かおらぁ!って叫んで押しかけてくることを様子を見るって言うなら、そうなんでしょうけど……」

 

あの人とは住んでる世界が違うような気がする。あまりにも私たちに理解できない謎の言動が多すぎて………最近は控えめになってきた方だけど、昔は本当に酷かった。

まあそういう変なところも含めて、親しみやすいってことなのかなぁ。

 

「明日、毛糸のところ行ってきなよ」

「……へ?」

「話してないんでしょ、最近」

「でも仕事が……」

「いいよ別に。というか、また溜め込みすぎたって言われて毛糸のところに行かれても困るし……休んできな」

「あ…そ、その節はごめんなさい…」

 

何も言わずに出ていってしまったことには心の底から申し訳なく思っている。

あまり外には出さないけれど、限界に近づいてくると判断力とかが鈍くなったり、めちゃくちゃなことしたりしてしまう。

最近はにとりさんのおかげで随分ましになってきたけれど、昔なんてもっともっと酷かった。

 

今は別に辛くも何ともないけれど、せっかく言ってくれたんだし、お言葉に甘えよう。

……まあ、毛糸さんのところ、行ったら行ったで疲れそうなんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普通に扉を開けようとしたが、毛糸さんに散々扉を叩いてから入れと言われてるので、扉を2回指で叩く。

 

「失礼します」

「ん?るり?なんで?」

「義手、届けに来ました」

 

扉を開けると、猪に乗っかって脱力している毛糸さんがいた。

 

「えぇ、なんで?別に取りに行くのに」

「にとりさんにたまには会ってこいって言われて」

「あー、言われてみれば確かに最近まともに顔合わせてなかったかも」

 

鞄から布に包んだ義手を取り出して机の上に置いておく。

 

「ここ、置きましたよ。戦闘用だけはまだ改造に時間がかかるみたいです」

「ありがと。………私の家って特に何もないよ?」

「知ってます」

「じゃあ何すんのよ」

「引きこもります」

「それじゃあ来た意味ねえでしょ」

 

やっぱりそうだよなぁ……

引きこもるだけなら自室でいいし、引きこもったら毛糸さんともあんまり顔合わせないし………

 

「つっても何にもないしなぁ……イノンガン、チルノたち呼んできてくんない?」

「ふごぉ……」

「めっちゃ面倒臭そうに返事するなお前。あ、行くんだね?優しい」

 

この二人は何なのだろう……魔法の森にいた頃からの付き合いとは聞いているけれど、それだと軽く三、四百年は一緒ってことになる?

それだけ生きていてずっと猪の姿のままってのも珍しい話なんじゃないだろうか。

そもそも呼び方がおかしいし。

 

「って、なんでチルノちゃんたち?」

「どうせならわいわいがやがやしようかと。……そんな嫌そうな顔するなよ、二人じゃ暇でしょ。私も今日は特にすること決めてないしさ、どうせなら知り合いの方がいいでしょ」

「まあ、そういうことなら……」

「それまで適当に話でもしてようよ」

「まず立ち上がってもらっていいですか?」

「お前もこっちで寝そべってみろ、ゴミみたいな気分になれるぞ」

 

どんな気分なんですかそれは……まあいいか。

 

「あ、来るんだ、寝そべるんだ」

「何気に絨毯敷いてるんですね」

「まあこうやって寝そべる用に」

「そういや毛糸さんかなり自堕落でしたね」

「いいの別に、動くときはすごい動くから。死にたくないの一心で動きまくるから」

「死にかけるようなこと頻繁に遭遇しすぎですよね?」

「運が悪いんでしょ」

「諦めてます?」

「八割くらい」

「ほとんどじゃないですか…」

 

毛糸さんはなんか別格だけど、私は運が良い方だと思う。

今まで数度、死んでも全然おかしくない状況に巻き込まれてるけど、今こうやってごみのように横たわれている。

………巻き込まれてる時点でおかしい?

 

「あー、なんかいいですねこれ。ごみみたいな気分」

「お、気づくの早いな」

「なんというかこう、自分なんてどうでもいいちっぽけな存在で、生きてようが死んでようがこの世界には大して影響のない、なんてことのないその辺に落ちてる動物の死骸になったような感覚です」

「それもうゴミというか動物の死骸みたいな気分なんじゃないかな」

 

まあ死にたくはないけれど……

 

「るりっていいよなぁ」

「……なんですか、藪から棒に」

「能力」

「能力……?」

 

急に何の話をし始めたんだろうこの人は。

能力……色々ため込む程度の能力?

 

「なんかあれでしょ?衝撃溜め込んで一気に放てるんでしょ?」

「……まあ、はい。あたし自体貧弱すぎて、衝撃溜め込んでる余裕なんてないんですけど」

「いいなあ、私も欲しいなあ」

「そりゃまたなんでです?」

「だって私がそれあったらさあ、何回大打撃くらっても直ぐに再生するから、実質いくらでも溜め込めるじゃん」

「おっそろしいこと考えますね………」

 

やろうと思えば自分で自分を殴って衝撃を溜めるなんてこともできるし………もし本当に毛糸さんが私の能力持ったらかなり強くなるんじゃないかなぁ。

 

「なんかね?能力の受け渡しみたいなことがあってね?それができるんなら私も、浮くだけじゃない、もっと能力っぽい能力が欲しいなあと思って」

「手足を生やす程度の能力じゃないんですか?」

「しばくよ?」

「なんで」

 

何も間違ったことは言ってないはずなのに、なんで……

 

「大体、いつも溜め込んでるのは衝撃じゃなくて精神的負担だから、こんなの持っても特にいいことないですよ」

「なんかこう、実用的かつかっちょいいのが欲しい」

「再生能力高くって氷を出せて植物もちょっと操れて、物を浮かしたりできるのに、さらに他のものを望むんですか。欲張りですね…」

「別にいくらあっても損しないじゃん、私生きたいもん、死にたくないもん」

「殺しても死なないような存在のくせに………」

「何回も死にかけて生き延びてるからこそそう思うのよ」

 

巻き込まれない努力を諦めているのか、この人は。

あたしみたいに引きこもれば安全……と思ったけれど、そうでもないか…妖怪の山自体が結構厄介ごとに巻き込まれやすいから。

 

「でもまあ、私も結構長生きしたよなぁ……」

「………そうですか?」

「へ?」

「毛糸さんって今何年くらい生きてるんです?」

「え、えーと……大体るりたちと初めて会った頃くらいからだから……」

「となると……大体五百年ですか………まだまだ若輩者ですね」

「うっそん……そりゃあ紫さんとかあの辺と比べちゃったらまだまだガキだろうけどさあ」

「毛糸さん、知り合いに何人自分より年下の妖怪います?」

「………ほぼいないね」

「そういうことですよ」

 

まあ私も毛糸さんと大差ないくらいだしそんなものだけど、長生きというにはまだ早すぎる。

 

 

 

そんなことを考えていると、勢いよく扉が開かれた。

 

「遊びに来てやったぞあたいの子分!」

「おーきたかー……なんかめんどいから帰っていいよ」

「なんだとー!?」

「げぼっ!おまっ…お前急に腹の上に飛び乗ってくるな!」

「ふん!ふん!」

「ごばっ!げばっ!」

「ちょ、チルノちゃんそれ以上はまずいですって」

 

チルノちゃんが毛糸さんの上でぴゃんぴょんと飛び跳ねる。

 

「やめろバカァ!朝ご飯でるだろーが!」

「もうチルノちゃん、乱暴はよくないよ……」

 

大ちゃんも一緒についてきたようだ。

 

「毛糸ー、この猪食っていい?」

「ふ、ふごぉっ!」

「おいよせルーミア、それ置け、食うな」

 

だ、誰あの子………いや、ルーミア……

何度か見たことがあるような……

 

「お久しぶりです、るりさん」

「あ、どうも」

 

随分と賑やかな場になってしまった……さっきまで毛糸さんと二人でごみのように転がっていたとは思えない状況だ。

 

「というか、なんでチルノちゃんはあんなにはしゃいでるんですか」

「まあ、この家にあんまり入れてもらえないからですかね…」

「え?」

「うるさいからって、なかなか入れてもらえないんですよ」

「あぁ………」

 

まあ、今は他人の家だからあんまりだけど、自分の部屋であんなにうるさくされたら私だって敵わない。

 

「ふん!片腕のお前なんて怖くないやい!」

「お?舐めんなよ?こっちだっていつでも左腕生やそうと思えば生やせるんだからな?舐めんなよ?」

「肩の部品また取り付けるの面倒くさいんですから、やめてくださいね」

「チルノちゃんも、そろそろ落ち着いて」

「毛糸ー、ここに入ってる饅頭食べていいかー?」

「ダメ…と言いたいけどいいよ別に。永遠に食べていいもの聞かれそうだし」

 

いや本当に賑やかになったなぁ………

 

「な、なんか疲れそうなのでもう帰りますね……」

「おい、逃すと思うか?お前もこっちで私と一緒に地獄を見るんだよ」

「ぴえっ……」

 

この後散々遊びとかに付き合わされて、最終的に疲労困憊の状態で山に帰った。

休んだ気がしない。

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