「最近どうだ?」
「どうだ、ってなんすか」
「いや、何か変わったことはないかと」
「特にないっすなぁ……慧音さんこそどうなの?」
「私も特にない、というか妖怪からしたら日常にあまり変化を感じられないからな」
「すっげえわかる」
長い時を生きてたら、その分些細なことが気にならなくなるというか……どの一日も大差ないんだよね。
「今日は夏祭りで来たのか?」
「まあはい、夜まで待ってる感じで」
「初めてか?」
「まあ記憶にないわけじゃないけど、ここの人里ではそうですね」
夏祭りという事に関しての知識は、一応私の中に残っている。前世ではちゃんと夏祭りには行っていたのだろう、幻想郷でも夜から始まるってのは変わらないらしい。
確か……なんだっけ。祭りが夜に始まる理由をどこかで読んだような気もするけど……なんかもう色々あってよくわからんかったな。
なんか神様うんぬんとかいう話だったような、それ以外にもいろいろあったような気がするが……どれも幻想郷にいたら本当に思えてくる。だって私妖怪だし。
人里もすっかりお祭りムードで、なんか華やかな飾り付けとかもされてる。夜にやるだけあって妖怪もそれなりにいるみたいだ。
「………って、何着てんの慧音さん」
「何って、浴衣だが」
「浴衣………?あ、そっか!!」
そういや祭りって浴衣着ていくもんだったような……てかそもそもこの幻想郷の人里の文明レベルからすると大体みんな浴衣着るんじゃあ……
「そっかあ……浴衣かあ……」
「……貸し出してる店もあると思うが」
「んー………まあいいかなぁ、そういうのは趣味じゃないし」
「そうか」
普段着じゃ浮くかとも思ったがこの頭だ、どうせ浮く。
………私今日文字T着てるんだけど。
真ん中にでっかく「祭」って書いてるんだけど。
………まあいいか。
「慧音さんも夏祭り回るんだね、誰かと一緒に?」
「妹紅とな」
「妹紅さんかぁ」
人里で見かけることはあるが、別に話しかけたりはしていない。
竹林に行けば会えるけど、あそこ永琳さんがいるからなぁ……中まで行ってあそこに辿り着かなきゃ会わないとはいえ、あんまり近寄りたくない。
「そういうそっちこそ誰と回るつもりなんだ?アリス?」
「いや、ちょっと人間と」
「あぁ、魔理沙か」
「……ん?なんで魔理沙のことを?話したことあったっけ……」
「親から聞いたんだよ」
「なるほど」
そりゃあ霧雨さんとも交流あるか、慧音さんなら。
「あの子の相手は大変だろう、気が強いところあるしな」
「子供なんてみんなあんなもんでしょ」
魔理沙は賢い分楽なような気もするし。
「それじゃそろそろ行ってくる」
「あぁ、楽しんでくるといい」
………ま、誘ったのは私だけどさぁ。
楽しみと気苦労、どっちが上回るか……
「おう、待たせたか」
「………誰」
「私だけど」
「なんでお面なんかしてんの巫女さん」
「まあ祭りだし、顔隠すのはちょうどいいだろ」
「それで狐の面?」
「なんでもいいだろ」
まあ顔隠したほうが色々と楽なんでしょうけども。
「で、子供二人は浴衣なんだな……」
「魔理沙は知らんが、霊夢の方が着たい着たいってうるさくてな」
「巫女さんは浴衣じゃないの?」
「性に合わない」
「わかる」
なんかそういう、可愛げのあるものって着る気にならないんだよね……
いやでも巫女さんはいつもあんな巫女服着てるんだから大差ないと思うんだけど?
で、魔理沙は……どうせ霖之助さんだと私は予想するぜ。
「巫女さんはこういうのって来たことあるの?」
「昔、小さい頃に気になって一度だけな」
「へぇ」
「私あっちの方回りたい」
「私はあっちがいいぜ」
「はいはい順番に回ろうな、別に屋台逃げないから」
しかしまあ、前世の記憶にある祭りと比べても遜色ないくらい賑わってる。
「巫女さんが前に来た時もこんな感じだった?祭り」
「いや、私の時より賑やかな気がする」
やっぱりそうなのか。
とりあえず移動しながら適当に周りを見渡す。
………なんか違和感のある店が見えるんだが。
スーパーボールすくいって……そんなものこの幻想郷にあったか?跳ねる方だよね?ポケ○ン捕まえる方じゃないよね?あの青いのじゃないよね?それはそれでおかしいけれども。
あ、あっちはベビーカステラだ…………
「なんか変な店がちらほら……」
「あぁ、外来人がなんかそういうの広めてるらしいぞ」
「外来人?」
外来人ってあれか、幻想郷の結界の綻びをたまたま抜けてきた外の人間か。見たことはあったよ?のたれ死んだり野良妖怪とかに食われたりしてるのを。
外の世界の人間が幻想郷に入ってくることを幻想入りって言うんだっけ?
ということは幻想入りして生きて人里までやってきた人間が、人里で現代の文化を広めていたってわけか……?
いいぞ、もっとやれ。
「幻想入りしたやつは外の世界に帰すのが基本なんだが、ここが気に入って帰らないって奴もいるんだよなぁ」
「ねえねえ、転生して幻想郷に入ってきたとかそういうのはないの?」
「さあ?聞いたことはないな…それがどうした?」
「いや、別に」
どっかに転生仲間いないかなぁと思ったけど、まあ記憶持ってる時点で相当レアケースだろうし、それが過去に転生してるってのも加味すると、そりゃあもうとてもとても珍しいだろう。
「お、あそこりんご飴ある!行こうぜ!」
「あ、ちょっと魔理沙待ちなさい!」
魔理沙がりんご飴を見つけてはしゃいでいる。
「りんご飴ねぇ……あれ、見た目は凄い美味しそうだけど実際はそうでもないんだよね。確かにりんごまるまる飴に包まれてて、その上にあの真っ赤な色。気になるのはわかるけど、いざ食べてみるとちょっとがっかり……」
「………どんな経験をしたのか知らないが、あんまり子供の夢を壊すもんじゃないぞ」
「わかってるよ」
それに食べたら案外美味しいかもしれない。私は食べないけど。
「大体、こういうのは祭りの雰囲気と一緒に楽しむもんだと思うが」
「分かってるって」
りんご飴を買ってきた霊夢と魔理沙の表情を見る限り、二人とも割と楽しそうに食べている。
どうやら私は純粋な心を忘れてしまっていたらしい………
「いやでも屋台って普通に買うより高いよね」
「お前もう黙ってろ」
「いでっ」
おい、ちょっと霊力込めただろ。結構痛かったぞ、おい。
「……ってか巫女さん、お金あんの?」
「まあ多少はな、霊夢に全部持たせてるけど。私なんも持ってない」
「えぇ………あっこれもしかして巫女さんの分私が払う感じ?」
「うん」
うん、じゃねーんだわ。仮面ごとその厚い面の皮ぶっ叩いてやろうか。
「おい毛糸!あっち!あっちいこうぜ!」
「いやあっちよ!」
二人とも楽しそうですなぁ……順番に回るから大人しくしておいてくれ、多分回りきれないけども。
「………ん!?」
「なんだ、どうした」
「……いや、ちょっと知り合いが……」
あれは……ミスティカ……ミスティラ……ミスティナ……えーと。
ミスティア……ミスティアだ!ミスティアじゃねーか!八目鰻じゃねーか!あいつこんなところに……
人里まできて八目鰻を布教しているとは……
まあ、今日は別に話しかけなくても良いか、邪魔になるだろうし。
とにかく、二人の行きたいところに行こうかな。
「………」
「………」
「す、すげぇ……」
「黙々と取ってるわねあの二人……」
現在、私と巫女さんは金魚すくいに興じている。
いや、正確にいえば四人全員でやっていたのだが、霊夢と魔理沙が早々にすくい網を破ったので、二人は後ろでじーっとみている。
「あっ」
「フッ……」
「おい、なんだそのフッ……は」
「勝ち誇ってるだけだけど?」
「うわ腹立つ、仮面で表情見えねえけどぜってぇ腹立つ顔してるよこいつ」
17匹……私こんなに金魚すくい得意だったのか。いやまあ本当にやばい人は数十匹とかいってると思うけど……
「あっ」
「へっ、私と大差ねえじゃん」
「二十五匹だが?」
「負けたわ……」
破れるまでの時間で考えてたわ……てか私と大してやってた時間変わらなかったくせに……この人私よりかなりハイペースですくってたのか。博麗の巫女すげー。
「ってか、私たちが楽しんでもしょうがないんだよ」
「負け惜しみか?」
「は?」
いかんいかん、思わずプッツンしてしまうところだったこのやろう。
網とすくった金魚を店の人に返しておく。
「結構回ったねぇ」
「そうだなぁ」
「まあ二人はまだ元気ありそうだけど」
「そうだなぁ………」
子供は元気が有り余ってて羨ましいよ全く。
「で、次はどこに……」
「あそこ」
「ん?」
霊夢が指差した方向は……なんだあれ。
「アクセサリーとかかぁ……?霊夢そういうの興味あんだね」
「ちょっとね」
あれか、いつも博麗神社に篭ってるから、その分こういうのに興味がでてきたのだろうか。
魔理沙にも見習って欲しいものだ、うん。いやまあ魔理沙って結構いいとこの生まれだし、そう言うのは結構見てきたのかもしれないが。
というか、屋台じゃないね、何度か見かけたことある店だわ。
興味なさそうにしてる魔理沙を引っ張って、四人で店の中へ入っていく。
「お、いらっしゃい」
中は至って普通のおっちゃんである。
おっちゃん……知り合いが人外の女ばかりだから、普通のおっちゃんってだけで少し安心感すら出てくる。
「四人ですかい?」
「まあそっすね」
霊夢には色々商品を見させておいて、とりあえずこの人と会話でもしておこう。
巫女さんと魔理沙は心底興味なさそうにしてるけどねっ!あんまりそういうの態度に出さないほうがいいと思うけどなっ!
人のこと言えないかもしれないけれども。
「その頭、妖怪で?」
「また頭で判断される……まあ、そうです」
「四人はどういう関係で?」
「んー………んー?」
どう言えばいいんだろうこれ。
えーとえーと、魔理沙は面倒みてて、巫女さんは友達で、霊夢は……霊夢は?
「いえ、別に言わなくたって構いませんよ。人には言えない事情抱えてる奴は人間にも多いですから」
「いや別に言えないってわけじゃ……」
まあ面倒臭いしいいか。
「あの、ここってどのくらいするんですかね、値段」
「えーと………大体このくらいですかね」
「ぴょえっ………」
た、高すぎて変な声が……さ、さすが、宝石のネックレスとか並んでるだけはあるな……
「一応あっちはお手頃な値段のものが置いてますけどね」
「よかったぁ霊夢あっちの方いってたぁ……」
そこにあるいかにも高そうなのとか、買おうと思ったら私の全財産が余裕で吹っ飛ぶぞ。つか足りねえんじゃねえかな。
アクセサリーってたっけぇ……
こんなの買ったってなんになるんだ……人間ってこえぇ……
「これがいい」
「お、良いのに目をつけたな嬢ちゃん」
その嬢ちゃん、次の博麗の巫女だけどね、おっちゃんよ。
霊夢は何か、4つの切れ込みが入った何かを渡した。見た感じ木でできてるのかな?
「それは?」
「四つに分かれるやつです、友人間でそれぞれ持っていたりするのが普通ですね、また会おうって感じで」
「四つ?多くない?」
「あんまり売れてないですねぇ」
「やっぱ多いんじゃん」
そりゃそうだよな、普通二人とか三人だもんな、四人はちょっと数が多いもんな。
「じゃあそれで」
「はいよ、値段は……」
………ンンッ!?
「………高くない?」
「まあそれなりの大きさですし」
「……売れてないんだからちょっとまけてくれない?」
「まけた上での値段ですよ」
「ほんと?」
「ほんと」
「ぼったくって?」
「ない」
「これ以上安くしてくれ?」
「ない」
巫女さんの方をチラッと見る。
ちょっと出してくれないかな〜……
「無理無理」
「知ってた………じゃあはい、これで」
「まいど!」
予想外の出費だった……いや、めちゃくちゃ高かかった訳でもないし、金に困ってるわけでもないから全然いいんだけども。
「やれやれ……はい霊夢」
「ん」
全員で店を出て、買ったものを霊夢に手渡す。
改めて見ると4つの花びらが分かれるようになった木製のアクセサリーのようだ。一つ一つに紐がついている。
4つ合わせると元の形になるようだ。一応それぞれに溝とかがあって、嵌まるようになっているみたいだ。
「はいこれ」
「へ?あ、そっか」
霊夢が私たち全員に一つずつアクセサリーを手渡す。
「ん?なんだこれ」
「……なるほどな」
魔理沙はよくわかってないようだが、巫女さんは霊夢の考えを理解したようだ。
まあなんにせよ、それなりの値段はしたので大切にしてもらいたい。
「………あ、なんか花火あがるって聞いたけど、みんな行く?」
「まあそれ見て帰るか」
「二人ともそれで良い?」
「おう」
「いいわよ」
公園のような少し開けた場所に行き、そこにあったベンチに座る。
周りに結構人がいるみたいだ。
霊夢と魔理沙何かを話しているみたいだ。
「……紫から話は聞いたか?」
「ん?うん、まあね」
突然巫女さんから話を振られる。
「少なくとも1年以内……だっけ」
「らしいな」
「嫌だねぇ……今こうやって呑気に祭りやってんのに、1年以内には戦いが始まるなんてさ」
「そうだな」
あれだろうか、やっぱ修行とかそんな感じのことしといたほうがいいのだろうか。
いやでもなあ……力の使い方とかは毛玉になってからずーっとコツコツ練習してきたつもりだしなぁ……今更……ねえ?
いや面倒臭いだけなんだけども。
「まあなんだ、頑張れよ」
「巫女さんもね」
まあ、なんか聞いた話だと人里は慧音さんがどうにかこうにかして……まあとにかく人里の人たちは安全だと聞いた、よーわからんけど。
まあ巫女さんも防衛に回るし、慧音さんや、多分妹紅さんも出ると思うからそこまで不安じゃないけど……
そもそもの話、敵の数とかまだ聞いてないんだけどなぁ。
「まあ、お互い無事でまた会えたらいいな」
「いやまだ始まってすらないんですが?」
「一年以内ってだけで、今すぐ仕掛けてこない保証もないだろう」
「今すぐ仕掛けてこられたらこの祭りも阿鼻叫喚だわ」
「違いない」
そうこうしてるうちに、夜の空に明るい光が飛び散った。
前世の記憶にある花火と比べれば見劣りこそすれど、何故か私は、その景色にどんどん引き込まれていった。
霊夢から渡された木製の花びらを見つめる。
「………無事に、ね」
「……そうだな」
最後の一発が夜空に散るまで、ずっと上を見上げていた。