結局敵の妖怪たちは散り散りになっていった。
おそらくこのあと人里に向かったり妖怪の山行ったりするんだろうが、大した奴いないしどうにでもなるだろう。
大方私と幽香さんとルーミアさんで爆破したし。
そしてまあ、追撃してもよかったが、私たちの目的は紅魔館ってとこなので放っておいて、薄くなった妖怪たちの壁を堂々と突っ切ってきて今、紅魔館を目の前にしている。
「ここね」
「目に悪い色してんなあ」
「……魔術による防御結界が張られてるみたいね、それもかなりの」
「ここがあの女のハウスね」
各々紅魔館を見て感じたことを呟く。
私だけなんかズレてる気がするが気のせいだろう。
「で、アリスさん防御結界って?」
「この館の塀に沿って、四重に張られた結界……もう少し近くに寄れば色々分かると思うけれど」
「……誰かいるな」
ルーミアさんの呟きを聞いてその視線の先を見ると、門のような場所に仁王立ちしている人影が一つ見えた。
「棒立ちしてるならちょうどいいわ、消し炭にするわよ」
「ちょっちょっちょっと待って幽香さん」
「……何よ」
「紅魔館の奴は殺すなって言われてたでしょ」
「………チッ」
ひえっ……舌打ち怖いっす………
「そういうならあなたがなんとかしなさいよ」
「はい………」
まあ言ったの私だしどうにかしますけど……
ふぅむ……どう接触を図った方がいいだろう。できるだけ穏便に……そんなんでそこを通してくれる気もしないが……
「すぅ………こーんばーんわー!」
「………」
「あれ返事ないな、聞こえてないのかな?すぅぅ……こーんばーんわー!!」
「………」
見える……見えるぞ……中華っぽい服着た赤髪の女の人のものすっごい顰めっ面が……
「……こーんばーん…」
「いや聞こえてますって………」
おっとどうやら引かれていたらしい。
ついでに背後から3人の冷たい目線を感じる。
「あ、聞こえてるならいいんですよ、そこ通してもらっていいすか?」
「……ダメですよ?」
「そこをなんとか」
「ねえふざけてるんですか?」
失敬な。
私はただ平和的な交渉をだな……
「もういいでしょ」
幽香さんが私を押し退けて特大の妖力弾を放った。
「あー……悪い人じゃなさそうだったのに」
「お前は変人すぎるだろ」
「同感ね」
ルーミアさんとアリスさんにそう言われる。否定はしないけど……しないけどさあ。
……ん?
「………へぇ」
「…マジか」
無傷で立ってやがる、あの門番みたいな人。
「紅魔館の門番、紅美鈴、ここは何人たりとも通しません」
そう彼女は言うと構えを取り、こちらの様子を窺い始めた。
「あれ食らって無傷……?うっそぉ…」
「いや、あいつ綺麗に弾を受け流してたぞ、大した技術だ」
「………あなたたちは壁でも破壊していきなさい」
「はい?」
幽香さんが突然意味のわからないことを言い出す。
「久しぶりね……ここまで叩きがいのありそうな蝿を見つけたのは」
……スイッチ入ってるなぁ、これ。
「……そう、わかったわ。それならあの門番は任せたわよ、幽香」
「えぇ、すぐ追いつくわ」
いや四人で畳んだ方が早いと思うんだけど……
どうなら幽香さんは本気であの美鈴とかいうのを片付けるつもりらしい。
今の幽香さんは戦いを楽しむ強者……勇儀さんや萃香さんとかと同じ目をしている。
「行かせると思いますか」
「あなたの相手は私よ」
「……っ」
幽香さんの気迫に、私たちに攻撃しようとした門番の人の動きが止まる。
「さあ、私を楽しませてみなさい」
「うひぃ、本気でやりあってるよあの人……あの美鈴って人も、なんで耐えれてるんだよ」
「受けに徹してるからああなってるんだ、攻めに回った瞬間崩されて戦いが終わるのを理解してんだろ」
武術家って印象を受ける戦い方だ。殴る蹴るしかしたことのない私でも、それが熟練されたものなのだろうと分かる。
普通に並の吸血鬼程度なら簡単に倒せそうなもんだが……
「紅魔館の主……レミリア・スカーレットだっけか。そいつはあれよりも全然強いんでしょ?」
「まあ、そうだろうな」
「ひえぇ……はやく幽香さんあいつ倒してきてくれないかな……」
「……終わったわよ」
アリスさんが短く呟いた。
「調べた感じ、四重の防御結界、それぞれに自己修復機能がついてるわね」
「お前とおんなじだな」
「一緒にすんなし」
「何もしなきゃ、毛糸が本気で殴ってもせいぜい1枚か2枚貫通するのが限界って感じかしらね。それくらい強力なものよ」
それほどのものを作りだす魔法使いが相手にはいるってことか……まあこの館ごと転移してきたんなら、それくらいはやってのけるのか。
「でもそれなら殴り続ければ……」
「受けた衝撃をそのまま跳ね返す術式も組み込まれてるわ」
「わぉ………」
「相手を吹っ飛ばしてる間に修復は完了するでしょうね」
わーお……
一応魔法もアリスさんのところでほんのちょっとの端っこの先っちょの方だけ齧っているからわかるが、とんでもなく複雑なことをしていらっしゃる……桁違いって言葉が似合うだろうな、これ作った人。
「で、どうするんだ?突破できないなら幽香のところ戻るか?」
「まあ確かにあの門だけは結界が薄いみたいだし、あそこからならいけるでしょうけど……幽香の邪魔になるし」
幽香さんの機嫌を損ねると何するかわからんしなぁ……
「じゃ、結局どうするのさ」
「私がこの結界の効力を抑えるわ」
五体の人形を操り、塀に向かって五角形の形を作るように配置するアリスさん。
「結局は魔力の結界よ、わたしが魔力の流れを遮断してこの結界の強度を下げる。だからあなたたちは……」
「ルーミアさん、行ける?」
「あぁ」
「え?いやちょっと」
ルーミアさんとタイミングの合わせ方を打ち合わせする。
「じゃあ行くよ」
「おう」
私は右、ルーミアさんは左の拳に妖力を込める。
「レーミリーアちゃーん!!」
同時に拳を突き出して、結界へとぶつける。
「「あーそーぼー!!!」」
一瞬で4枚の結界と塀に人が通れるくらいの穴が空いた。
「紅魔館、侵入完了」
「めちゃくちゃにやりすぎよ……」
「派手にぶちかますのはやっぱり気分がいいな」
3人で不法侵入という名の結界の正面突破をしてやったぜ。
「おら開けゴマァ!」
「なにナチュラルに壁蹴って破ってるのよ」
「だってわざわざ入口から入る必要ないじゃーん」
「同感だな」
「なんで私ここにいるんだろ……」
「………お連れさん、めちゃくちゃやってくれますね。門番無視して横から突破してくるとは……」
「そう?幻想郷じゃあれが常識よ」
「それはそれは……とんだ魔境に来てしまったみたいですね」
「ここが紅魔館か〜テンション上がんね〜」
冷静になってみて、ここに吸血鬼の親玉いるんだからテンションの上がりようがない。
「で、どこにいると思う?そのレミリア・スカーレットっての」
「………さあ?」
まあルーミアさんに聞いてもしょうがないか。
アリスさんは……何か考え事をしてらっしゃる?
「……これこの館自体に魔法がかかってるわね」
「と言いますと?」
「見た目より広くて中も迷路みたいになってるってこと」
「………この館丸ごと爆破しない?」
「さっきあなたが壁を蹴り破ったから、警戒されて頑丈になってるわよ」
対策早すぎかよすげーなおい。
「それならあたしは適当にふらついてくる」
「はぇ?ちょ、ルーミアさん?」
「じゃあなー」
いやじゃあなー、じゃなくって……
「……まあ、結界も、この館の中の魔法も全部一人の術者が制御してると考えていいわ。その魔法使いを探して叩くのが確実でしょうね」
「場所は?」
「………適当にふらつく?」
「んー……よしルーミアさんと逆方向に行こうぜー!」
「……そうね」
さっきから自分のテンションがおかしいのは自覚してるが……まあ、攻め込むことってなかなか無かったもんで……
「………待って」
「はい?」
突然アリスさんに呼び止められる。
「……でかい魔力の塊を感知したわ」
「へぇ!じゃあそっちの方に向かえばいいのね?」
「そうね。……それにしても、静かだと思わない?」
「ん?外で幽香さんがドンパチやってる音がここまで届いてるけど、静か?」
「そういうことじゃなくて」
何が違うっていうんだ。
「こうして私たちは敵の本拠地にまで攻め込んできたわけでしょ?分かる?本拠地よ?どうしてあれだけ派手に侵入したのに、敵の気配がしないのかしら」
「……確かに。外にあれだけの吸血鬼とその眷属が出て行ったんだから、この中に残って防衛とかしてもおかしくないはずだよね」
だけどまだ会ったのは門番の美鈴って人だけ……流石に手薄すぎやしないだろうか。本拠地だよね?本拠地であってるよねここ。
「この場所自体ダミーってことは……」
「ダミーにあれだけの結界とこの館の中の空間を弄る魔法をかけてるなら、それはもう私たちの手には負えないわよ」
「ひえっ……」
……まあ、とりあえずはアリスさんを頼りに進んでいくしかないだろう。
「あたりを感知しながら進むから足は遅くなるけど、確実に辿り着けるはず………」
「うん。……ん?どうかした?」
「………誘われてる?」
「……?」
誘われてる?何に?
「………どうやら相手も、私たちと会いたいみたいよ」
「え?」
「多分この扉を開けば……やっぱり」
アリスさんが近くにあった扉を開く。
見た感じ小部屋に繋がっていそうな部屋だったが、いざ中に入ってみると、そこには年季を感じさせる木製の、それでいて重厚さが伝わってくる大扉が待ち受けていた。
「……この先?」
「そのようね」
私でも分かる魔力の大きさだ。
「本当にあっさり……誘ってるってのはそういうことか」
「気をつけた方がいいわよ。わざわざ招き入れるってことは、私たちを完膚なきまでに叩きのめすことができるっていう自信があるか、ほかに狙いがあるか……いずれにせよ、ね」
………でもどうせ女性なんでしょ?
今更いかついおっさんが出てこられても困るけど。
「……私が前に出て肉壁するよ」
「そうね、それがいいわ」
アリスさんを後ろに立たせ、大きな扉の前に立つ。
「………これどうやって開けるの?」
「……タックルでもしたら?」
「おーし私の肩の力見せてやる」
左肩は義手が壊れたら嫌なので右肩に妖力を集中させる。
全身に能力を循環させて……
突撃ィ!
「っあ?」
なんか勝手に開きやがった。
周囲は本棚が数えきれないほど並び、そこら中から魔力を感じることができる。本棚から本にいたるまで、一つ一つに魔法がかかっているようだ。
「ようこそ、大図書館へ」
声のする方に目を向ける。
全体的に紫っぽい女性が宙に浮かんでいた。
ほら見たことか、この世界にいる強そうな人大概女性だから。
「私はパチュリー・ノーレッジ。歓迎するわ、毛玉と魔法使いさん」
「知識……ね」
「友達になろうパチュリーさん」
「丁重にお断りするわ」
「あなたいきなり何言ってるのよ……」
「いやだってまりもって言われなかったから」
まりもって言ってきたらあいさつ抜きに殴りに行くと私は心に決めてるんだ。
「この状況で友達になろうって……見た目通り頭おかしいみたいね」
「あ、見た目で人のこと判断しちゃいけねーんだぞ、この紫もやしが」
「ねえわざと?わざとなの?」
もとより真面目なのは私の性に合ってない。こうやってふざけたこと言ってこそ私だろう。
「………で、何の用?聞くまでもないけど」
「この館にかかってる空間魔法を解いて」
「無理な相談ね」
「そう……それじゃあ」
アリスさんとパチュリーって人が魔力を高め始める。
「え、何もう始めんの?早くない?もうちょっとこう、楽しくお喋りをさあ」
「あなたはもう口開かないで!」
「うっす………」
「気を抜いて戦えるほど甘い相手じゃないのはわかるでしょう」
それはまあ、そうだけど。
「はぁ………」
最初っからうまくいくなんて思っちゃいなかったけど、やっぱりままならないもんだ。
世の中話し合いで解決しないことの方が多いしなぁ……
「彼女はわざわざ私たちを招き入れた。何かあると思った方がいいわ」
「わかってるよ………紫さんがアリスさんを呼んだのって、こういうことなんだろうね」
相手はあの転移魔法に防御結界、そしてこの膨大な魔力を持つ魔法使いだ。幻想郷にいる魔法使いのアリスさんが呼ばれたのは、このパチュリーって人に対抗するためだったのだろう。
「……言っておくけど、戦いはあまりしないし得意でもないから、足引っ張るかもよ」
「大丈夫、むしろ心強い」
「………そう」
私は魔法はそこまで詳しくないが、アリスさんがいるんだ、その点は問題ないだろう。
多分。
「じゃあ、行こうか」
「えぇ」