毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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多分真面目にやってない毛玉

「………どこだここ」

 

いや本当にどこなんだここ。

一度来た道に戻ろうとしたら、また別の道になってやがる……歩いても歩いても端に行きつかない。

 

「………迷ったな」

 

こんなことなら毛糸たちと一緒に行動すればよかったな……いやしかし、明らかに見た目より広いだろこの屋敷。

空間でもねじ曲がってるのか?

 

「………座して待つ」

 

どうせどう歩いたって延々とよくわからない場所を廻らされるんだ、何か変わるまで待とう。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃

 

紅魔館地下

 

「………みんな楽しそうだなあ」

 

一人の吸血鬼が

 

「……私も混ぜて欲しいなァ」

 

扉を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先手必勝。

 

氷の槍を生み出してパチュリーの方へと撃ち込む。

勢いよく飛んだはいいが、パチュリーの生み出した炎によって纏めて溶かされてしまった。

 

それはそうと……

 

「おぉ………炎だ………」

「何感心してるのよ!」

 

だってアリスさん炎とか、属性系のすごい魔法見せてれたことなかったし。ちょっとくらい感心するのは許して欲しい。

 

反撃でこちらに打ち込まれる弾幕と、土の塊を避けたり、氷の壁を作ったりして防ぐ。

 

「土だ……土出してる……」

「あなたやる気あるの!?」

 

失敬な。

これは相手の手札を確認してるんだよ。

 

「攻撃の分析なら私がやってるんだから、あなたは攻撃するなり防御するならしてて!」

「はいはいわかったよ!」

 

アリスさんは周囲に人形を浮遊させ、自動で自分に向かってくる攻撃を弾幕で撃ち落としているようだ。

 

周囲は開けた場所だ、上方から弾幕を撃ってくる相手に対して使えるろくな遮蔽物はない。

 

「ないなら作るまで、か」

 

妖力を循環させつつ地面に触れ、そこに一気に妖力を霊力に変換し、氷を生みだしつつそれを天井まで伸ばす。

 

「なかなかの規模の氷ね」

「そりゃどうも」

 

それと同じことを何度も繰り返し、天井まで届く氷の柱をいくつも周囲に創り出した。

妖力を込めたそれなりに頑丈なものだ、ちょっとやそっとでは溶けないし壊れない。

 

まあちょうどいい遮蔽物を作れたんじゃないか。

 

「アリスさん分析は?」

「まだやってる途中!」

「早めにね!」

 

アリスさんの周囲を氷で塞いで遮蔽物から身を乗り出し、依然として弾を打ってくるパチュリーに向かって妖力弾を放つ。

 

「爆」

 

ある程度のところまで飛んだのを確認して、周囲の魔力弾と土弾を全部ひっくるめて爆破する。

 

かなりの規模の爆発だったが、相手は……

 

「あ、やべ煙で見えねえわこれ」

「なにか撃ってくるわよ!」

 

アリスさんにそう言われて氷の柱に身を隠す。

感知は得意じゃないが、魔力が練り上げられていくのは私にも感じることができる。

 

「けほっ……」

 

ん?今誰か咳した?

 

「食らいなさい」

 

その声と同時に、煙の中から特大の火炎弾が姿を現した。

3つ。

 

「わお」

 

視認してすぐに妖力弾を両手に生み出して、二つの火球に向けて投げつけて相殺する。

 

残った一つは氷の柱を貫通してこちらへ向かってくる。

時間的に妖力弾作って相殺しても爆発の余波をモロに喰らってしまう。

 

どうしたもんかと考えていいると前方にアリスさんの人形たちが現れ、円の形を取って結界のようなものを張った。

 

火球とそれが正面からぶつかったが、激しい音を放って火球は爆ぜ、人形たちは焼け焦げて地上へと落ちていった。

 

「アリスさんナイス」

 

どこからともなく人形を取り出して魔力の糸をくっつけているアリスさんに近寄る。

 

「結構強固な防御結界だったのに人形ごと焼き尽くされたわ。そう何度も撃ってこないだろうけれど、相当な威力よ」

「というか、あれだけの爆発起きても微動だにしないここの本棚と本凄いな……」

「関係ないところ見ない。……でもまあ、確かにそうね」

 

じっとしているとまた何かを撃ち込まれそうなので、適当に妖力弾をばら撒いておく。

 

「で、どう攻略する?あれ見にくいけど周りに防御魔法張ってるでしょ?結構硬いの」

「そうね……近寄ろうにもあの魔法の威力……そう簡単にはいかないでしょうね」

 

そういやさっき咳してたのは相手か……炎から出る煙でも吸ったのかな?

 

「………そうね、これでいくわ」

「ん?」

「耳を貸して」

「はいはい」

 

言われた通りにアリスさんに耳を近づける。

 

「………マジ?危なくない?」

「まあ危ないでしょうけど……私だって魔法使いよ。自分の身くらい自分で守れるわ」

「それならいいんだけど……本当に私がやるんだね?」

「不意をつくために、ね」

「……わかった、せいぜい失敗しないように頑張るよ」

 

不得意なのはアリスさんも知ってるはずだけどなぁ……

 

「タイミングは言った通りよ」

「おっけ」

 

ひとまずはなんとかして隙を作るところからだ。

 

「作戦会議は終わったかしら」

「んひっ」

 

アリスさんを抱えてその場を飛び退く。

 

「なんで気づかなかったの!?」

「話してたから……」

 

うんそうだね私も気づかなかった!

 

着地して足から妖力を流し込み、再度氷の柱を生成する。さっきほど高くはないが足だから仕方がない。

 

「ってレーザーかいっ!」

 

アリスさんを抱えながら、規則的に回転する4本のレーザーを掻い潜る。

こう考えたらレーザーって防御しにくいし、確かに結構使えるかも……

 

「あの魔法陣よ!」

「あいよ!」

 

アリスさんの指差した方に妖力弾を投げ込み、レーザーを撃ってきていた魔法陣を破壊する。

 

「次は四方から魔力弾の乱射!」

「どうしろと!?」

 

アリスさんが言ったすぐ後に、言った通り四方から魔力弾が大量に乱射されてきた。

 

「気合いで避けて!」

「バカ!バカバーカ!」

 

この量の弾幕避け切れるわけねーでしょ!

 

アリスさんを一瞬離し、妖力をありったけ右腕に込めて弾幕の飛んでくる方向のうちの一つに向かって拳を放った。

 

拳から放たれた衝撃波は魔力弾を弾き飛ばし、魔力弾を放っていた魔法陣を破壊した。

 

「次上!木の葉の魔法弾よ!」

「なにそれ洒落てるぅ!」

 

妖力を手に凝縮させて、大きめの穴から放出されるように放つ。

放射された妖力の塊は、頭上から落ちてくる葉っぱ型の魔法弾を全部打ち消した。

 

「次は!?」

「………これ下よ!」

「なっ……」

 

気づけば足元を木の根っこのようなものに絡め取られていた。

 

「火球が来るわ!」

「うおおおお飛んでけえええ!!」

 

遠くの方へアリスさんを思いっきり投げ飛ばす。

すぐさま背後から莫大な熱を放ちながら大きな火球が飛んできた。

 

毛玉の状態になって木の根っこの拘束を抜け、右腕に妖力を込めて火球を思いっきり殴りつけた。

火球が弾け、かなりの衝撃が私の体を吹っ飛ばした。

 

「……ぁぁぁぁああああっ!」

「っと、大丈夫?」

「な、ナイスキャッチ……』

 

偶然私が投げ飛ばした方向にいたアリスさんにキャッチしてもらえた。

 

「……で、次は?」

「今ので終わりだったみたいよ」

「ふぅ……とんでもねえ奴だ」

 

私とアリスさんが話してる間にあそこまで仕込んでたってことか……

 

「……あなた右腕……」

「え?……あぁ、大丈夫、このくらい平気だよ」

「……そういうことね」

 

どうやらわかってくれたらしい。

私の右腕は肩から先が完全に消失していた。

けれどもとりあえず、まだ再生しないでおく。

別にこれが相手を油断させる材料になり得るとは思っていないが……まあ、生やそうと思えばいつでも生やせるし。

 

「話してる暇はないな。さっさと仕掛けないとまた猛攻を食らう羽目になる」

「そうね、あっちよ」

 

アリスさんが指差した方へ飛んでいき、相手を視認した瞬間に全身に妖力を込める。

 

「あら、右腕なくなってるじゃない」

「お陰様でね!」

 

左手に氷の蛇腹剣を生み出し、相手に向けて乱雑に振り回す。

 

「動き自体は雑だけど、怒りや焦りを感じられない………その右腕、再生しようと思えば再生できるわね」

「なぜバレた」

 

さっさと右腕を再生して妖力弾を飛ばし始める。

左腕で蛇腹剣を振り回しつつ妖力弾を放っているが、どれもいとも簡単に避けられてしまっている。

 

「距離詰めないと話にならないか……」

 

剣を捨てて体を浮かし、背中から妖力を思いっきり放出して急加速、パチュリーとの距離を詰める。

 

「そう簡単に近づけさせないわよ」

 

後少しというところで私と相手の間に突風が発生し、無理やり距離を離された。

手のひらに槍を作り出し、回転させながら思いっきり発射する。

 

「槍、ね」

 

今度は突風に炎が混ざって、氷の槍の勢いを削ぎ落としつつそのまま溶かしてしまった。

 

「厄介な……」

 

向こうは多種多様な属性を扱える上にどれも攻撃が広範囲。

対して私は格闘と妖力弾くらいしか取り柄がなく、氷に関しても溶かされてしまって簡単に対応される。

 

「多少妖力無駄遣いになるけど……」

 

両手を合わせて周囲に妖力を集中させる。

向こうの広範囲魔法に対抗できるものだ、こちらも相当なものを生み出さなければならない。

 

周囲に先の尖った巨大な氷の柱をいくつも生み出す。一つ一つに妖力が込められており、なかなかの強度だ。

 

「なるほどね」

 

対して向こうはさっきの炎と風の合わさったものに加えて土の壁まで作り出した。

ただでさえ溶かされるのに物理的な壁まで……まあ、撃つしかない。

 

「ほっ」

 

氷柱を壁に向けて全力で放つ。

炎と風によって勢いは殺されるが、それでも土の壁とぶつかって突き刺さる。

だが、突き刺さるだけだ、貫いてくれない。

続け様に全部の氷柱を壁に向かって放つが、全部土の壁に突き刺さって終わってしまう。土の壁だけどありゃ相当頑丈だな。

 

「やっぱり信用できるのは腕力か……」

 

氷柱を適当に飛ばしても何も成果は出ない。全力の妖力弾を乱れ撃ちでもすれば壁は消し飛ぶだろうが……妖力もこれ以上使ってられない。

 

私の十数倍はありそうな大きさの氷の大剣を作り出し、頭上で構える。

 

「ふんぬぅ!!」

 

妖力を両手に込め、土壁に向けて思いっきり振り下ろした。

妖力を込められたその大剣は炎と風をお構いなしに突き抜け、土の壁を縦に両断した。

 

空いた隙間に妖力を込めて作った氷槍を放った。

 

隙間の先に見える相手は防御結界を張って、氷の槍を正面から受け止めている。

 

今のうちかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界に触れた瞬間に炸裂した氷の槍を凌いで周囲の感知をすると、今度はあの人形使いが前に出てきていた。

 

「今度はあなたなのね」

「えぇ、準備は終わったから」

 

そういうと彼女は近くにいた一つの人形を手繰り寄せ、魔力を込め始めた。

 

「上がれ、ゴリアテ」

 

人形使いの一言と同時に、図書館の天井まで届きそうなほどの大きな人形が現れた。その手には2本の剣が握られている。

ゴリアテ……巨人兵士、か。

 

「それが切り札ってわけね」

 

だが重くて持ち上げることはできないのだろう、床に足がついたままだ。

 

ひとまずは、こちらを挟むように迫ってくる2本の剣を防御結界で防ぐ。

かなりの衝撃と同時に結界にヒビは入ったが、剣は止まった。

 

その隙に人形の足元に泥を生み出してバランスを崩す。

 

「くっ……」

 

どうにかして姿勢を立て直そうとしている人形使いに向けて魔法弾を放ち、それを避けたところを木の根で、人形を動かさないように手ごと拘束する。

人形を操っていた魔力糸が途切れ、制御を失った人形の手から剣が落ちる。

 

大きければいいという物ではない。

次は……

 

「それで隠れているつもりかしら」

 

姿は隠れていてもその強大な妖力を感知することは容易い。

氷の柱に隠れている毛玉に向けて豪火球を放った。

 

氷の柱を貫通し、その体を丸々炎が覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「毛糸……」

「安心して、死なない程度の威力にしておいたわ。せいぜい気絶しているくらいよ」

「死なない程度…?」

 

こちらの近くへと移動させた人形使いがこちらを訝しげな表情で見つめてくる。

 

「ここに誘い込んだのといい…一体何が目的なの」

「すぐにわかるわよ」

 

そう、ここであまり魔力を使っている余裕はない。

ある程度あの毛玉のことは把握できたし、戦ってる体裁も取れただろう。

 

戦いの影響で紅魔館にかかっていた空間魔法の制御ができなくなり解けてしまった。今の紅魔館は迷路のような構造ではなくなってしまったけれど……まあ、別に構わない。

レミィならそうそう負けることはないだろう。

 

「しかし、幻想郷にあなたみたいな魔法使いがいるとはね」

「幻想郷の外にあなたみたいなとんでもない魔法使いがいるとはね」

「そうね、人形の扱いは確かに一級品だったわ。よければ今度お茶でもどうかしら」

「それは嬉しいお誘いだけれど……」

 

人形使いの表情が変わる。

 

「少々油断しすぎじゃないかしら」

「………まさか」

 

気づいた時には背後から巨大な人形の拳が迫ってきていた。

 

「私だけが人形を扱えると思わないことね」

「潰れろおおぉぉ!!」

 

遠くの方にこの巨大な人形を操ってるであろう毛玉を発見した。

 

「まさかさっきのは……」

「そう、あなたが丸焼きにしたのは私の人形よ」

 

正面に防御結界を展開し、衝撃に備える。

拳と結界が激しくぶつかり合う。

……どうやら対結界用の術式が施されているようだ。だけれどたかが人形の拳、この程度……いや、これも陽動か。

 

「………降参よ」

 

既に私の背後には、氷の剣を持った毛玉が立っていた。

 

 


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