毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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狂気

「んひぃッ!」

 

初っ端から放たれた馬鹿みたいな威力の妖力弾をその場から跳んで回避する。

 

「お、おっ落ち着こうフランドールちゃん、私たちはまだ会ったばかりだしもっとソフトな感じから始めて……」

「アッハハ!」

「クソっこいつ聞いてねえ!」

 

なんでどいつもこいつも会話ができねえんだ!なんのために言語があるんだよ!話し合うためだろ!?てめえらの母国語は肉体言語なんか!?

 

「んぼっ——」

 

心の中で叫んでると壁に妖力弾が着弾し、その爆発の余波で吹っ飛ばされ、壁を貫通して部屋の中に入った。

 

「少しは話を……」

 

傷ついた部分を再生すると、すでに自分の周りを大量の妖力弾に囲まれていた。

 

「んぶふっ!!」

 

変な声を上げながらその場を飛び上がって天井を拳で破り、そのまま上の階に逃げ込む。

 

「捕まったらどんな死に方がいい?」

 

何故か私より先に上の階に移動していたフランドールが、頭のおかしい質問を投げかけてくる。

 

「捕まったら殺されるんですね?」

「当然でしょ?」

「当然なんだ……」

 

ダメだ、住んでる世界が違う。外の世界はこんなにも荒んだことになっているのか………多分この子が頭おかしいだけ。

 

「そうだなぁ」

 

床に右手をついて妖力を流し込む。

 

「できれば……」

 

部屋一面を氷で覆い、部屋を覆っている氷から棘を生やしてフランドールに向けて伸ばす。それと同時に相手の足元から氷漬けにして動けないように。

 

「苦しまないように一思いに……かなぁ」

 

案外あっさり、フランドールを氷の棘たちが貫いた。

妖怪だし死なんでしょ……死なないよね?まあ重症くらいにはなってて欲しい。

 

「そっかぁ、それじゃあ」

 

あ、ダメだこいつピンピンしてやがる。

 

「内臓引き摺り出して四肢を引きちぎってあげるね?」

「ぅん………」

 

急いでフランドールに向けて妖力弾を放とうとするが、相手は自分に突き刺さっている氷をへし折って私に向けて投げてきた。

 

妖力弾を作ろうとしていた手を引っ込めてそれを回避すると、目の前に相手の拳が迫ってきていて、顔面にめり込む音が頭中に響きながら私の体が天井へ吹っ飛んでいった。

 

『1、2、3………3枚抜きだね』

 

くだらんカウントするんじゃねえアホ。

てか私の顔面大丈夫?何も見えないし聞こえないよ?

 

『頭部が破裂しなくってよかったね』

 

それ私死んでるやん………全身に妖力を循環させておいてよかった。体の強化と再生がスムーズに行える。

そうこうしているうちに目玉が再生した。

 

「ぺっ……」

 

口ん中も酷いことになってるなこれ、歯全部吹っ飛んでるじゃん。もう生えたけど。

 

天井にめり込みながら下を見下ろすと、愉快そうな表情を浮かべているフランドールがこちらを見上げていた。

 

「面白いね!すぐ治っちゃうんだもん!」

「死ぬかと思ったわ……」

 

そして相手も、体にあいていた筈の穴が全部埋まっていた。血すら出てないし……吸血鬼ってのも大概再生能力が高いらしい。

 

「やべっ」

 

その場を飛び退くと、今さっき私がいた場所を特大の妖力弾が通っていった。

 

「部屋ばっかで戦いにくいなここっ……」

「それなら全部吹っ飛ばしてあげるね」

「え?」

 

適当にぼやいたらとんでもない返しがやってきた。

 

その瞬間生存本能という名のもう一人の私が働き、身の回りを氷の壁と妖力の障壁、そして身体に妖力を循環させて再生の準備を始めた。

 

視界が完全に塞がったが、自分を包んでいる氷の球がとんでもない衝撃を受けているのを感じた。

 

吹っ飛んでいく氷の球と一緒に私の体もその中でぶつかりまくって数秒後、衝撃が収まった。

 

再生しながらヒビの入って壊れかけの氷の球から出ると、周囲にあった壁やら天井やらが全部吹き飛んで、大きな広い空間が出来上がっていた。

 

「わ、わあぁ……とんでもねえことしやがる……」

『大体あの部屋二十個分ってところかなあ』

「いらん計算すんなし」

 

というか、地下にそれだけの部屋を内包してるこの館どうなってんだ?これごと幻想郷に転移してきたってこと?パチュリーって人本当にすげえんだな………

 

「どう?これで遊びやすくなった?」

「うん、鬼ごっこという前提を踏まえるなら、逃げ場がなくなったって感じかな」

「そっか!」

「うん!」

 

これは……私がやるよりあっちの方がいいな。

 

というかちゃんとあるよね?吹き飛んでないよね?

 

「よかったあった………ふぅ」

 

腰に差してある一本の刀に手をかける。

頼るって言い方が合ってるのかわからないけれど、正直あんまり頼りたくなかった。

折れたりしたら嫌だし。

けどまあ………

 

「使わざるを得ない……かな」

 

右手でその刀、『凛』を引き抜き、前に構える。

その瞬間、私の体の主導権が私から刀へと移った。

 

黒い刀身は昔と変わらない、艶々とし黒く輝いているままだ。

 

「頼むよ……死にたくないからねぇ………」

「こんなに長く遊べたのはお姉様以外じゃ初めてだよ!」

 

こんなんと今まで付き合ってきたんかお姉様………レミリアって人の妹か、このイカれ娘。

 

「もうちょっと本気出すね!」

「マジっすか、まだ本気出してなかったんすか」

 

フランドールが特大の妖力弾を大量に放ってきた。

妖力によって最大限に強化された私の体は、握っているその刀に突き動かされてその妖力弾を正面から両断していく。

 

「……まだ来るのね」

 

半分にぱっくりと割れたはずの妖力弾は少しだけ減速した後、また私の方へとものすごい勢いで飛んできた。

私の体はそれをも正面から斬り、手のひらサイズになるまで細かく切り刻んで行った。

 

小さくなったそれらに私の妖力弾を投げ込んで全部まとめて爆破し、その大きな爆発の余波で吹っ飛んでそのままフランドールの方へと突っ込んでいく。

 

「そっちから来てくるんだ!」

 

面白いものを見るような目で、爪を伸ばしながら私の体を切り裂こうとしてくるフランドール。

毛玉の状態になってそれを掻い潜り、フランドールの背後に着地してそのまま刀を横に振った。

 

「おっと……あれ?」

 

バックステップして攻撃を躱したはずのフランが、今自分の体を切り裂かんと胴体にめり込んでいる斬撃を見つめて不思議そうな表情を浮かべる。

 

攻撃する瞬間、振るギリギリで妖力を込めて、そのまま妖力の斬撃を飛ばしたらしい。自分の体だけど私はやっていない。随分な早業だ。

 

「アッハハハ!急に動き変わった!面白いね!」

「そりゃよかった」

 

斬撃を手で掴んでかき消し、傷を再生したフランドール。

アレくらって切り傷くらいしか入っていないその頑丈さ。その切り傷すら簡単に治癒してしまう再生能力。

 

私がいうのもなんだがバケモノだな、本当に。

言動もヤバいし。

 

「でも捕まえらんないのもつまんないなあ……」

 

寒気。

 

もう一人の私及び刀、そして私自身に至るまで、体の全てが危機を感じ取った。

 

「もう終わらせよっかなァ」

 

ゆっくりと、右手を開くフランドール。

すでに体は動いていた。

 

「きゅっとして——」

 

その手が閉じるより早く、刀がその右手を貫いていた。

 

そのまま壁へと突進し、右手を壁に縫い付けると同時に氷の棒をフランドールの四肢に差し込む。

そしてそのまま体を氷漬けにし、身動きを封じた。

 

冷や汗が頬を伝う。

 

「アハッ、凄い顔だったよ?」

「うっせぇわ」

 

あの右手が閉じたらどうなっていたかはわからない。けれどもタダじゃ済まなかっただろう、もしかしたら死んでたかも……

 

でもこれで身動きは封じたし、氷には妖力を流し込んでいる。そう簡単には動かないはずだろう。

 

「でもダメじゃん」

「………は?」

「鬼は私なんだから、捕まえるのは私だよ?」

 

フランドールは……それこそ狂気的と言うのが似合う、悍ましい笑顔をしていた。

 

………確かに。

 

刀を引き抜いて妖力弾を飛ばす。

 

「うおっ」

 

だがその妖力弾もろとも、フランドールから発せられた衝撃波によってかき消された。

 

「氷全部なくなっとるし……」

 

まあ本当にあれで拘束できたとは思ってなかったが……さてまあどうしようか。

 

「きゅっとして——」

 

あ、やべ距離空いてる。

もう間に合わないこれ。

 

さっきより明確な死の感覚がやってくる。

 

スローモーションのようにゆっくりとフランドールの右手が動き……

 

「——ドカーン」

 

その手は閉じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

何も起こらなかったけど。

 

「…………あれ?」

「……ちぇ」

 

不満げな表情を浮かべるフランドール。

 

「じゃあこれはどうかな」

「はい?」

 

何も起こらなかったことに私が困惑していると、彼女はどこからともなく黒い棒?のようなものを取り出し、それに妖力を込め始めた。

 

「よっと」

 

その黒い棒は炎を帯び、その炎が瞬く間に伸びていく。それはまるで、一振りの巨大な炎剣を模るかのように。

 

「これまた大層な……」

「レーヴァテインって言うんだ、凄いでしょ」

「あぁ、うん、そうだね」

 

凄いけどそれ今から私に向かって振ってくるんでしょ?勘弁してくれ。

北欧神話のそれと同じ名を持つそれは、真っ直ぐに私へと振り下ろされた。

 

「危なっ」

 

横に跳んで避けるが、レーヴァテインが床に当たると同時にこちらに伸びてきた炎が私の足を焼く。

 

「ちょまっ」

 

焼かれ続けているため着地できず、そのままこっちに向かって薙ぎ払われたその炎剣を刀で受け止める。

受け止めたはいいものの、炎は伸びてくるわ衝撃波すごいわ踏ん張れないわで、壁まで思いっきり叩きつけられた。

 

「ごへっ」

 

口から血を吐く。

刀は……折れてないか。体のあちこちが燃えているが、再生速度の方が早い。まあ時間かかるっちゃかかるけど。

 

「つーかまえたっ」

「——え」

 

眼球がフランドールの姿を視認した瞬間、視界の右側が真っ黒になった。

 

凛を握っていた左腕が反応し、側面から銀製の刃が飛び出してフランドールの右腕に食い込み、骨に達した所でなんとかその手を止められた。

 

気づけば右腕はぐっちゃぐちゃに踏み潰されていた。

壁にめり込んでいる私に張り付くようにフランドールが私を押さえつけている。

 

「よし、取れた」

 

ブチッ、という音ともに、右眼のあった場所から眼球が流れるのを感じる。

 

「いやおたくなに目をくり抜いてくれて——」

「えいっ」

 

可愛らしい声と共に、今この瞬間喋っていた私の口の中に何かが放り込まれる。

 

身体が震えるような、寒気。

 

毛が逆立つような、狂気。

 

叫び出したくなるような衝動を抑え、口から少し潰れて中身が漏れ出している私の眼球を吐き出す。

 

吐き気すら催してきた所で、今度は私の腹にフランドールの手が突っ込まれた。

 

「ここかな?」

 

腹の中をまさぐられるような、気持ち悪いの言葉では収まらないほどの嫌悪、拒絶、不快感。

喉から嫌なものが込み上げてくる。

 

「よいしょお!」

 

何かを掴んだフランドールは、勢いよく私の腹から腕を引き抜いた。

 

「取れた取れた」

 

私の体から吐き出す血をその身に浴びながら、満足そうな表情を浮かべるフランドール。

 

「狂ってんな」

 

全身に妖力を循環させて再生と同時に強化を行い、フランドールを両足で蹴飛ばした。

 

「これだけやられて発狂しない貴女も狂ってると思うよ?」

 

違いない。

追撃で大量の氷の槍をフランドールの体に浴びせる。

 

「ゔぉえ……」

 

頭の中に溜まった不快感を吐き出すように、喉まで登ってきていたそれを汚らしく吐く。

大した量が出てこなかったのは、フランドールの手に握られているそれのせいだろう。

 

「胃と小腸と大腸……なんつーもん抜いてやがる…」

 

ぐちゃぐちゃになっている右腕が再生し終わり、ちゃんと動くか確認する。燃えていた箇所も服が焼け落ちただけで既に治っている。

 

「アッハハハ!その苦しそうな顔!流石に内臓引き摺り出されたら相当辛いみたいだね!」

「バカ言え」

 

腹の傷口も塞がった。

 

「私が辛いのは単にとんでもないグロ映像を自分の身をもって見せられたからだ」

 

『内臓は?どうする』

 

消化器官なんてなくてもどうにかなる、ほっとけ。心臓抜かれなくてよかったよ全く。

 

「それより腹立つのはな……」

 

右手に氷の蛇腹剣、左手に凛を構える。

 

「せっかく食べた晩飯を全部パーにされたことだ」

 

蛇腹剣をフランドールの方へ伸ばす。

避けられたがそのまま床へと突き刺さり、蛇腹剣を巻き取るようにしてフランドール近づく。

 

今度はさっき違い、普通のサイズの炎の剣を構えたフランドール。構わずに床に刺さっている蛇腹剣の先端から棘を伸ばし、フランドールの足を縫いつける。

 

銀製で斬ったからか、まだ少し避けている右腕に向けて凛を振るう。

レーヴァテインで受け止められるが、今度はこちらが相手を吹っ飛ばした。

蛇腹剣を折って通常の形に戻し、凛が思うままに体を動かしていく。

 

吹っ飛んでいくフランドールを追って、明らかに体がおかしくなるような動きをしながら2本の武器で畳み掛けていく。

 

骨が軋んでも気にしない、肉が裂けても気にしない。

痛みは感じないしすぐ治る。

 

フランドールも後ろに下がりながらレーヴァテインで攻撃を受け続けるが、常にこちらが押している状況。

 

破壊されて広くなった部屋を抜けて、そのまま階段を上へ上へと上がってゆく。

 

激しい剣戟の中凛に妖力が込められ、フランドールのレーヴァテインを叩き割った。

 

そのまま相手の胸に氷の剣を突き刺そうとした瞬間。

 

 

 

 

 

助け——

 

 

 

 

 

「へ?」

 

声が聞こえた気がした。

 

「あっやべ——」

 

既に拳が顔にめり込んでいた。


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