毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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断れない毛玉

弾け飛んだ片腕を抱えた吸血鬼が森の方へと逃げていく。

 

「とどめは刺さないのか?博麗の巫女さんよ」

 

白髪の炎を使う……妹紅だったか。

彼女がそう疑問を投げかけてくる。

 

「あんなのに一々構ってたら守りが手薄になる。それにあの程度の奴、妖怪同士の小競り合いで死んでるだろう」

「……ま、それもそうか」

 

かなり人里に向かってくる妖怪の数も減った。いやそれ以前に奴らの大半には人里は見えていないのだろうが。

 

「さっきからどこか上の空って感じだが?」

「……まあ、そうかも」

 

適当に弾幕を張っていれば雑魚は勝手に散っていくから、多少はそうなっても仕方がない。

 

「少し、人の心配を」

「そうか。でも集中はしてくれよ」

「わかってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、随分苦しそうじゃない」

「うっさいわ!」

 

いざ紅魔館の中に入ってみるとルーミアと、恐らくレミリアであろう人物が戦っていた。

 

「見てないで手伝えよ!」

「矜持はどこにやったのあなた」

「死ぬよかマシだ!」

 

昔なら死んだ方がマシって言ってたでしょうに。

 

まあ見てるだけもつまらない。

槍を振り回しているレミリアの方へ手を向け、攻撃を始めようとする。

 

「当たっても知らな——」

「幽香さんチェンジ」

「——って、はあ!?」

 

目の前を物凄い勢いで白いもじゃもじゃした何かが通り過ぎていった。

飛んできた方向から、レミリアと同程度かそれ以上の妖力を感じとり、防御の姿勢を取る。

 

「……なるほど」

「アハッ、人がいっぱいいるねっ!」

 

どうやら、余計なのを連れてきたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思いっきり顔面を殴られて、壁を壊して吹っ飛びながら幽香さんを視認できたので、すれ違い様に交代してくれと伝えた。

 

壁に衝突して埋まった体を起こす。

 

「おぉ…あいつ顔ばっか殴りよってからに…」

 

さて……いつのまにかとんでもないことになってやがる。

 

えぇと……多分あのフランドールと同じ様な格好してんのがレミリアでしょ?容姿も似ているし多分姉妹だろう。

で、そのレミリアと戦ってるのがルーミアさん、かなりボロボロだ。

 

「フラン!?」

 

ルーミアさんに加勢しないとまずいかなと思ったけれど、レミリアが攻撃の手を止めた。どうやらフランドールに気づいたらしい。

 

「そこのお姉さん!?妹さんの教育どうなってるんですか!?目玉はくり抜くわ物理的に胃袋を掴みにくるわ、ちゃんと面倒見てなさいよ!」

 

あ、無視された。

そしてルーミアさんと幽香さんが冷めた目で私のことを見てくる。

 

「お前……お前なあ」

「んだよ、ボロボロのくせしてそんな目で見るなよ」

「全身血塗れのお前に言われたくねえわ」

「はい残念もう全部傷治ってます〜」

 

さらに冷ややかな目線を向けられる。

 

「……で、何があった。なんだあいつ」

「地下に迷い込んだらあのイカれ金髪ヴァンパイアとエンカウントして、鬼ごっこという名の闇のゲームが始まったから目玉くり抜かれて内臓ぶちまけられつつ頑張って戦ってたらここに辿り着いてた」

「………地下であの吸血鬼に出会って、血みどろになりながらここまで上がってきたと」

「イエス」

 

ダメだ安心してどっと疲れが……変な言葉でしか喋れなくなってる。

 

「で、そっちは?」

「見ての通りだ。親玉に出くわして虐められてたところだ」

「一緒じゃん」

「一緒にすんな」

 

まあ確かに腹が空っぽのやつと一緒にはされたくないだろうなあ。

とりあえず放置してた右目をもう一回作り直さないと……目潰しされたことは何度もあったけど、丸々持ってかれたのは初めてだわ……本当に初めてかな?

私のことだから一回くらいありそう……

 

「義手動く……よし」

 

左腕が使えることを確認して、幽香さんの方を見る。

 

「落ち着きなさいフラン!」

 

幽香さんとレミリアであろう人がフランと戦っている。

なんなんだろう、不仲なのかな?姉妹なんだから仲良くしなさいよ。今この状況で仲良く共闘されても困るけど。

 

「もっと一杯遊ぼうよお姉様!」

 

…………?

 

「ルーミアさん」

「なんだ」

「私今右の目玉再生してる途中なんだけどさ」

「おう」

「なんかあいつが4人くらいに増えてるように見えるんだけど」

「おう」

「これって私の目玉がおかしいのかな」

「お前の頭がおかしいんじゃないか」

「酷くね」

 

……まあ、私の目に見えてる物が現実であると。

 

「何あれ影分身か何か?何あいつ忍者なの?」

「吸血鬼よ」

「いやそれは知って……んん!?」

 

突如私のすぐ近くにアリスさんが拘束しているはずの魔法使いが現れた。

 

「へ!?は!?なんで!?」

「ちょっと借りてくわよ」

「あ!?何!?私を!?ちょま——」

「………消えやがった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なになに急に何!?」

「本当に戻ってきた……」

「あっああアリスさん!?」

 

なんだここ……って、パチュリーと戦った広い図書館か。

てことはなんだ、転移してきたのか?なんで?

 

「その人ね、急に口を開いたと思ったら、すぐ戻るわ。って言ってすぐに拘束を抜けてせっせと転移してあなた連れて戻ってきたのよ」

「……つまり、どういうことだってばよ」

 

いや転移したのはわかるけどなんで?

脳がわけわからん出来事の連続でキャパオーバーしそうになっていると、突如頭にポン、と手を置かれた。

 

「時間ないから思考を繋ぐわ、じっとしてて」

「へ?はい?思考?さっきからもうわけわかんなくて………へあ?」

 

 

 

「ちょっと、どうしたの」

「………ん?あ、あぁー……この人の考えてたこと今の一瞬で全部教えてもらった」

 

アリスさんが困惑した表情を浮かべている。私だってその顔したいもん、でもやってる余裕なさそうなんだもん。

 

「それじゃあまた飛ぶわよ。あなたも一緒に来て術式の組み立てを手伝って」

「もう何が何だか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フラン!聞いて!」

「アッハハァ!」

 

アリスさんとパチュリーと一緒にまたさっきの場所に転移してきた。ぽんぽん転移してすごいなこの人。

 

「分身には本体ほどの力はないとはいえ、ここまで持ってるとは……あなたの連れ、結構すごいのね」

「まあね」

 

結構というか、幽香さんは私より強いしルーミアさんも最盛期なら私より全然強いだろう。

4人に増えたフランを幽香さん、ルーミアさん、レミリアさんの3人で普通に抑え込んでいる。

 

さっき私が戦ってる時に4人に増えられてたらどうなってただろう……内臓引き抜かれるじゃすまなかったかもなあ。

 

「アリスだったかしら、あなたは術式の組み立てを手伝って。あなたならやっていればなんとなく解るはずよ」

「ちょっと、何急に仕切って……」

「アリスさん、頼むよ」

「………全く、後で説明してもらうからね」

 

置いてけぼりにしてしまって申し訳ない

 

「毛糸、あなたはフランの動きをどうにかして止めて。本体だけでいいわ」

「本体だけって、どれよ本体」

「一番妖力の強いやつ」

「………あぁ、あれねはいはい」

 

わからんけど多分あの一番返り血浴びてるやつでしょ。あれ私の血だもん。

 

「動き止める……かぁ」

 

正直あれの動き止めてもすぐに抜け出されるしなぁ……そもそも捕まえるの自体難しいだろう。

 

「何秒止められればいい?」

「30秒あればギリギリ」

「善処する」

 

左腕の義手の、一番上の装甲を一つだけ剥がす。

剥き出しになったそこにあるのはなんとも不思議な紋様だった。

 

「毛糸、あなたそれ……」

 

アリスさんが驚いた様に呟く。

 

「30秒止められるかはわからないけれど、とりあえずこれ以上こっちで戦闘はできないからね」

 

左腕に妖力を集中させる。

イメージだ、イメージ。

 

左腕の回路を通して、妖力が増幅されていくのを感じる。

 

左腕を床に突きながら周囲の空間の把握、そして妖力を流して込んでいく。

 

氷で動きを止める。ただ一瞬串刺しにするくらいじゃダメだ、もっと持続的に効果的に。そうじゃないと30秒ももたない。

 

「………凄まじい冷気ね」

 

本体のフランを捕らえるイメージをある程度固め終え、空間に散らばった妖力を認識し、一気に氷へと変換する。

 

「はぁ!?何よこれ!」

 

空間が一瞬にして氷で包まれ、レミリアが驚いた様に声を上げる。

 

本体のフランの足元から氷の棘が伸び、体を串刺しにしてそのまま持ち上げる。3本の棘がその体を貫通すると同時に天井と壁から氷が伸びてきてフランの体を飲み込んでいき、十字架のような形になってその体をガチガチに固めた。

 

「……毛糸、左腕が」

「あぁうんわかってる」

 

アリスさんが心配そうにこちらを見る。

頭をフル回転させながら妖力を一気に霊力、そして氷に変換させてこれだけの規模の拘束をした。

 

妖力増幅回路を内蔵していた左腕の義手は完全に氷に飲み込まれている。

 

「ふぎぎ………っと」

 

義手の付け根の部分を外しながら、ゆっくり体を持ち上げて義手と体を離す。

 

「なるほど、義腕を媒介にして……」

「疲れたまじむり頭痛い」

 

パチュリーが私の腕を興味深そうに見つめているが、こっちはそれどころじゃない。

あたまいたい、バカのくせして頭使いすぎた。

 

「………というか、この術式って」

「私も了承の上でだよ、アリスさん」

 

私のその言葉を聞いて、不服そうな顔をしながらも作業に戻るアリスさん。魔法の方ももうすぐ終わりそうだ。

 

「あんた何してんのよ!」

「うわちょっ、急に胸ぐら掴むな気分悪い……」

 

突如としてもう1人の吸血鬼、レミリアが私につかみかかってきた。いやわかるよ?なんか急に変なやつ来たと思ったら妹氷漬けにされて、さぞ意味わからんことだろう。

 

「パチェ、これはどういうこと。説明しなさい」

「そいつの頭見てみなさい」

「頭って、この白いもじゃもじゃが何か………白いもじゃもじゃ?」

「そう、そういうこと」

「この……白いもじゃもじゃが?」

「時間がないわ、後で説明するからその手を離して」

「チッ………」

 

大変不機嫌そうな舌打ちをされた。

てかあんたさっきから白いもじゃもじゃってうるせえんだよ何回言うんだよ。

 

「いい?私の妹に何か変なことしたら問答無用でズタズタに引き裂いて殺すからね」

 

そうやって、本気の殺意を向けられる。

 

「わかってるよ」

「そろそろやるわ。レミィ離れてて」

「本当に大丈夫なんでしょうね……」

「毛糸……あなた、無茶しないと気が済まないの?」

「そう言うなよアリスさん……すぐ戻ってくるって」

 

なんかもう氷にヒビを入れ始めているフランと私を包むように魔法陣が展開される。

 

「それじゃあ、健闘を祈るわ」

 

パチュリーがそう言った後、魔法陣から光が発せられて、私の視界は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチュリーに思考を繋がれている間、こんな話をしていた。

 

「頼みがあるの」

 

円状のテーブルに向かい合わせに座っているこの空間を認識した瞬間に、相手が口を開いた。

 

何この状況……って言っていい雰囲気じゃなさそうだ。

 

「……聞くだけ聞く」

「その前にまず質問、いいかしら」

「はいなんでしょう」

「あなた、魂二つ持ってるわよね」

 

おっとぉ……?誰かに言った覚えはないんだが?知ってるのアリスさんくらい……あれ、文もなんとなく知ってるんだっけ?

あぁいや、今はそれ関係ないか。

 

「………持ってるね、確かに二つ」

「そう……じゃあ本題よ」

「はい」

「フランを……救ってほしいの」

「……はい?」

 

救う?あのイカれ金髪マッド美少女吸血鬼を?何?死は救済とかそういう話?息の根止めろと?

 

「あの子はあぁなりたくてなったんじゃない。全ては内にある破壊衝動のせいよ」

「よくわかんないからもっとわかりやすく」

「………私が言うのもなんだけど、さっきまで戦ってた相手とよくそんな風に接せられるわね」

「いやぁ………」

 

楽観的といえば楽観的なのだろうが。

わざわざさっきまで戦ってた私に頼みがあるって言いにくるくらいだ、よほどのことなのだろう。

 

「………説明するわね。あの子……フランはありとあらゆるものを破壊する能力を持っている」

「………なんて?」

「ありとあらゆるものを破壊する能力を持っているの」

「oh………」

 

なんつーか……凄いな、うん。

相手の話し方を聞く限り誇張してるわけでもなさそうだ。

 

「あの子が今まで地下にいたのは、その能力によって破壊衝動、言ってしまえば狂気ね。それを抑え込んで私たちに危害を加えないために、自ら地下に籠ったのよ、数百年もの間ね」

「数百年!?……じゃあなんで今さら」

「幻想郷の中に入った影響で弱まっていた力が元に戻って、その反動で狂気が表に出てきたのだと思うわ」

 

それじゃあ、私の目玉をくり抜いて内臓をぶちまけたのは本来のあいつじゃなくて、あいつの狂気………

 

「……つまり、そのフランドール……フランの狂気を私にどうにかしてほしいと」

「そうね、その通りよ」

「つっても、具体的にどうやるのさ」

「今のフランは狂気に飲まれている。あなたにはそれとフランを分離、そして出来ることなら消し去ってもらいたい」

「………だから、どうやって?」

「あなた、魂が二つあるのよね」

「うん」

 

さっき確認したことをわざわざ再確認するパチュリー。

 

「妖怪とは精神の方に比重が偏った存在。それから魂が抜けようものなら、その体はたちまちに死んでしまう」

「………でも私は二つあるから大丈夫、と」

「えぇ。そのうえで、あの子の心の中に入って負けないほどの強さを兼ね備えてることが条件だった」

 

要するにあれだ。

私の魂をフランの中にぶち込んで破壊衝動、狂気をどうにかしろって話しだろう。

 

「あの子とあなたを魔法陣で囲んで、あなたの魂の片方をフランの中へ送る」

 

そんなことしてフランは大丈夫なのかと思ったが、まあ言わないってことは大丈夫なのだろう。

 

わざわざ私に頼んできたのは、魂が二つあるから片方抜けても大丈夫なのと、その上でフランの中に入っても大丈夫だと見込んだから………

 

………片方抜けても大丈夫なの?

 

『多分』

 

多分て……まあ、大丈夫だと仮定して話を進めよう。

 

「本来あの子はそれほど残忍な性格じゃなかったはず。恐らく今もあの狂気の下で……」

 

………それなら、あの時一瞬聞こえた、助け……ってのはやっぱり……

 

「………わかった、やるよ」

「……ありがとう」

 

頼まれたら断れないのが性分だ、それが私にしかできないってなら尚更だろう。

 

「礼は必ずするわ」

「必ずできるって保証はないけどね」

「大丈夫よ、そういう運命らしいから」

「……運命?」

「それじゃあ思考の接続を切るわよ」

「ちょま——」


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