毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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きっと独りじゃない

 

 

魔法陣の白い光に包まれた後、私がいたのは真っ白な空間だった。

 

そこには私が2人。

 

「で、どっちいく?」

 

真っ白な空間に一つ、ぽつんとあるやたらとぼろぼろでシミのついた扉を指差す。

 

『私が行きたいところだけど……あいにく霊力だと力不足だからなあ』

「ま、そうなるか」

 

もう1人の私は霊力の器で、私は妖力の器だ。

相手はあのフランの心の中だ、妖力の私がいくのが道理ってもんだろう。

多分妖力があれば氷は出せると思うし。

 

『なら、それは置いていきなよ』

「それ?」

『左腕』

「………あぁ」

 

私が納得したように頷くと、もう1人の私は私の左腕を自分の左腕で持つ。そして私の左腕から現れたその黒い何かを自分の方に移動させる。

随分色が薄くなっている。

 

『……どう、動く?』

「……うん、懐かしい感覚だわ」

 

自分の体のように動かせるとは言っても義手は義手、やっぱり生身の体とは違う。

感覚の戻った左腕を動かして感触を確かめる。

 

「それじゃ行ってくるよ」

『うん。私のことだから大丈夫だと思うけど、一応』

「ん?」

『無事に戻ってきてね』

「………もちろん」

 

そうして私はもう1人の自分に背を向けて扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「………成功したの?」

「えぇ、恐らく」

 

私の出した小さな声にパチュリーが反応する。

 

「あの氷に埋まってる本体は?」

「魔法陣の効果で2人を繋いでるからあれ自体は動かないわ。でも分身の方は……見ての通りよ」

 

戦いに戻っていったレミリアという吸血鬼と幽香とルーミアが、それぞれ1人ずつ分身と戦っているのが視界に入る。

ちょうど人数足りているみたいでまあ………

 

「………本当に大丈夫なんでしょうね」

「あの子の中に入って無事に帰って来れたら、ね」

「………はぁ」

 

左腕のない状態で魔法陣の中で倒れ込んでいる毛糸を見つめる。

 

「なんでこう、厄介ごとに巻き込まれるのかしら、あなたは」

「私もそう思う」

「!?」

 

倒れ込んでいるはずの毛糸が突然むくりと起き上がって、私の呟きに答える。

 

「まあ多分私なら大丈夫だと思うよ、アリスさん」

「あなたは………」

「あぁそっか、表に出てくるのはこれが初めてか。と言っても私のことは知ってるでしょ?」

「……もう1人の、毛糸」

 

毛糸の中にいたもう一つの魂……それが今、毛糸が抜けていった代わりに今ここにいるということか。

 

「いや本当、なんでこうも厄介ごとに巻き込まれるのかな私って。いや自分のことなんだけどね?」

「………行ったのはあっちの毛糸なのね」

「うん、まあね」

 

同じ姿で、同じ声で喋っているのに、その言葉からはやはり、私がいつも話している毛糸とは違う何かを感じさせられる。

 

「とりあえずあっち私が帰ってくるまでの間、なんでこんなことになったのかについて話そうか」

「………そうね」

 

どちらにせよ、今の私には帰りを待つことしかできないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開けた先は一つの部屋だった。

人形がたくさん置いてあり、ベッドや机など、そこで生活していたのだと思わせるような部屋が。

 

私の殺風景で真っ白な空間とは違って、随分と凝った空間だ。

 

「……出ていケ」

 

どこかちぐはぐな声が聞こえた。

その声のした方を向くと、静かにこちらを睨みつけているフランがいた。

 

「私が会いにきたのはお前じゃないんだよ」

「出ていケ」

 

こいつはフランじゃなくて狂気の方だ。

敵意と殺意をビンビン放ってる、こんな状況でもなけりゃさっさと尻尾巻いて逃げてるところだ。

 

「フラン出せ、お前には用はない」

「出ていケ!!」

 

フランが爪を伸ばしてこちらに切り裂きにきた。

右腕から薙ぎ払われるそれを妖力を纏わせた左腕で受け止める。

 

「殺ス!」

「物騒だなぁ……」

 

今の私の体は妖力100%、再生はできないが普段の体よりは比べ物にならないほどの強さだ。

 

「何度も言わせんな、お前に用はない」

 

そのまま腕を掴んで右手でフランを殴りつける。けれども簡単に受け止められ、掴んでた腕も抜けて距離を取られた。

 

「殺してやル、人形みたいにバラバラニ」

 

そう言った瞬間周囲の部屋の様子が変わり、爪痕や焦げたような跡があらわれ、いくつもあった人形は首や手足がもがれて綿が剥き出しの無残な姿になっていた。

 

「やってみろよ」

 

フランが無数の大玉の妖力弾を周囲に出現させ、私に向けて一斉に放ってくる。この部屋をめちゃくちゃに破壊しながら。

私はそれを妖力を纏わせた腕で一つ一つ弾いていく。いつもより素の肉体が強い分、できる無茶も増えている。

 

ただこんな妖力弾をいつまでも撃たれていてはキリがない、足元に妖力を流し、大きな氷の槍をフランに向けて放った。

 

「チィッ」

 

それを避けるために攻撃の手を緩めるフラン、そして生じた弾幕の隙間を毛玉の状態になって掻い潜り、近くへと接近する。

 

「つーかまえたっ」

 

フランの腕を左腕で掴んで氷で固めて、氷の剣を作り出して何度も何度も斬りつける。

 

「ギィッ!」

「んぐっ」

 

その体からは想像もできない怪力で振り回される。壁に当たる前に氷を消して再度距離を取る。

 

「はァ、はァ…」

「すぅ…はぁ」

 

りんさんの刀はない。流石に魂が一緒に持って来れるわけがなかった。だからこの戦いはちゃんと私が戦って、勝たなければならない。

 

「……随分と辛そうだな?」

「黙レ!」

 

私が斬りつけた箇所からは血の代わりに黒いドロドロとした、液体のような何かが垂れ落ちていた。

 

「死ネ!死ネ!死ネ!!」

「そう連呼されてもな」

 

半ばヤケクソのように大玉の妖力弾を放つフラン、同時に私の周りを緑色の弾幕が取り囲み逃げ場をなくそうとするが、大玉のを妖力を纏わせた右腕で受け流し、左腕で周囲を薙ぎ払って弾幕をかき消す。

 

「なんデ……そんなニ……」

 

幽香さんが強いからです。

 

「もういいだろ、早く話をさせろ」

「っ……こっちに来るナァ!!」

 

その怯えたような叫びと共に、その手に巨大な炎剣が現れる。

見た目こそ地下で見たレーヴァテインと同じだが、あれより炎は激しいし込められている妖力も多い。

 

「妖力もそんなに残ってないんだって……」

 

すり減っていく妖力を感じ取りながら私も氷の剣を生み出す。あの炎剣と同じくらい大きく、妖力を流し込んで強靭にしたものを。

 

「……おもっ」

 

あまりの重さに思わず口からそう漏れてしまう。

妖力を霊力に変換して氷の大剣に流し込んで浮かせる。振る時に解除すればいい。

 

「消えロ!!!」

 

破壊されて随分と開放的になったこの部屋を二つの大剣が埋め尽くす。

縦に振り下ろされる炎剣、横に薙ぎ払われる氷剣。

 

「ガアアアア!!」

「んぐっ……」

 

二つの剣は激しい衝撃を放ちながら衝突する。

炎はどんどん激しく燃え上がっていき、氷はだんだん溶かされてゆく。

 

だけれど

 

「私が用があるのはお前じゃないって、言ってんだろ!!」

 

残っている妖力をほぼ氷の大剣と体に流し込んで、炎の大剣を押し込む。

 

「ぐギっ……」

 

うめき声を上げたフランが妖力をさらに込めて押し返そうとするが、それより先に私の氷剣が炎剣を真っ二つに折り、そのままフランの胴体に食い込んだ。

 

「ガ……ァアアアア!!」

 

壁と氷の剣に挟まれ、叫び声を上げながらもこちらに向けて妖力弾を放ってくるフラン。

まともに食らうわけにもいかないので氷の剣から手を離して回避する。

 

「グ……」

 

床に降りて体勢を立て直すフランだが、その体からは黒い液体がとめどなく垂れ落ちている。

 

「そろそろ良いだろ」

「ッ!」

 

私がフランに向けて一歩踏み出すと、フランの周りを黒い液体が囲んで覆いつくし、化け物のような形を取る。

だけど構わず、その黒い液体の中に腕を突っ込む。

 

「グギャアアァア!!」

「うっせえなぁ」

 

およそこの世のものとは思えない叫び声を上げながら、黒い液体を棘のようにして私の体に突き刺してくる。

避けようもなく体を貫通する棘、だけれど構わず、黒い液体の中で掴んだそれを引き抜く。

 

「グァ——」

 

私がそれを引き抜いたと同時に、黒い液体が一気に崩れ落ちた。

それでもまだこちらに伸びてこようとしたので、なけなしの妖力で妖力弾を使って爆破しておく。

 

くっそあいつ……体に穴空いてるじゃねえか、くっそいてぇ……

 

でも今は……

 

「ようやっと会えたな。初めまして、フランドール」

 

黒い液体から引き抜かれ、呆然と立ち尽くしているフランに向き直る。

 

「………なんで」

「ん?」

「なんで……私を……」

「なんで、って……」

「私は自分から部屋に閉じこもってたのに、なんで……なんでこんなことするの!!」

 

大声で捲し立てられる。

 

「出たくなかった!出たら何か大切なものを壊しちゃうから!だから閉じこもってたのに……外に出たくなかったのに……なんで!!」

「アホか!人の目ん玉くり抜いて内臓ぶちまけておいて何が外に出たくねえだ!まず謝罪から入れアホ!」

 

負けじとこちらも大声で叫ぶ。

 

「………私なんかいない方がいいんだ。いてもみんなに迷惑かけるだけ。それならいっそ死んだ方が……」

「………それ、本気か?」

「……え?」

「本気で言ってんのか?」

 

正面からじっとフランの顔を見つめる。

 

「なんで私がここに来たかわかるか?」

「………」

「お前を助けてくれって頼まれたからだよ」

 

下を向いたまま何も言葉を発さなくなったフラン、それでも構わず話を続ける。

 

「お前を救ってほしいって思ってる奴がいるから、私がここに来たんだよ。お前にいて欲しいって奴がいるから、今ここで私がこうしてるんだよ」

 

相変わらず下を向いているフラン。

 

「それでも自分は死んだ方がいいって思うのか?お前は。誰かに必要とされているってのに」

「私は、そんなの………」

「自分はそんなの頼んじゃいないってか?私には聞こえたぞ、お前の助けてって声が」

「………」

「ありとあらゆるものを破壊する能力だっけ?あれが不発だったのも、お前があの黒いドロドロしてる狂気に飲み込まれずに抵抗したから。違うか?」

「………」

 

救われたいと思っているはずだ、フラン自身も。

 

「素直になりなよ」

 

説き伏せるように、そう伝える。

 

「でも……いても迷惑をかけるだけの私が、生きてる意味なんて……」

 

生きてる意味、ねぇ。

 

「……私は、今まで数百年、いろんな人と会って、いろんなことがあって、いろんなことをしてきたけど、生きてる意味なんてのはこれっぽっちも分からなかった。そりゃ、ずっと部屋に閉じこもってるお前が分からないのも無理ないと思うよ」

 

この世界でただ1人浮いてる、私という存在。

 

「なら……」

「でもさ、生きてる意味なんてきっと、本当は必要ない」

「……え?」

 

あっけに取られたような表情のフラン。

 

「それより必要なのは、生きる理由だと思う」

「理由?」

「うん。生きてる意味……存在意義なんて、そんなもの。知ろうとして知れるものでも、探して見つかるものでも無いと思う。いつか自然と、自覚するもんなんだと思うよ」

「………」

「って言ってる私もまだ見つけられてないけどね」

 

生きてる意味、存在意義。

何を成し遂げるためにこの世に生まれてきたのか。

重要な物だとは思うが、必ずしも必要じゃ無い。

 

「でもさ、生きてる意味はわからなくても、生きる理由……生きたいと思える理由は、わかると思うんだよ」

「生きたいと思える理由…」

「なんでもいいんだよ、やりたいことがある、好きな人がいる、大切なものがある………私は、ただ単に生きたい。友達と、みんなと、何気ない日常を送りたい。ただ1人が嫌なだけで………だから誰かと笑っていたい」

 

それが、この世界から浮いている私が、この世界で生きていたいと思える理由。

 

「フランはある?そんな理由」

「私は……私は………」

 

なんとなく、この子は私と同じところがあると思う。

 

自分が誰かに迷惑をかけることが耐えられなくて、存在自体が要らないように思えて。

それでどうしようもないほど、自分が嫌いになる。

 

「それでも……私が生きてるだけで誰かを傷つけてしまうなら……」

「勘違いしてるよ、お前は」

「……勘違い?」

「別に迷惑かけても、傷つけてもいいんだよ。お前が必死なら。お前の周りの人はきっとそれを咎めない」

「………」

 

フランの体が少し、震えている。

 

「私は羨ましいよ、お前が」

「羨ましい?私が?」

 

素っ頓狂な声を上げて、思わず顔をあげるフラン。

 

「だってさ、お前のこと気にかけてくれる人が、ちゃんといるんだよ?お前のことを死ぬほど心配する姉がいるんだよ?」

 

また下を向くフラン。

 

ここに来る前に見た、レミリアの表情。2人がどんな人生を送ってきたのかは知らないけれど、それでもフランのことを想っているっていうのは私にも伝わってきた。

 

「私には親も兄弟もいないからさ……友達ならいるんだけどね。それでも所詮友達は友達だ、家族とは違う」

 

孤独感、疎外感。

 

この世界に生きている限り、それは私に付き纏うのだろう。誰かと一緒にいようと、それが満たされることはない。

 

「でもお前にはいるだろ?お前を想ってくれる人。姉ちゃんに限らずさ」

 

周囲の景色が変わる。

まるでフランの心を投影しているかのように。

 

部屋は明るくなり、周囲にはパチュリーやレミリア、門番や……なんか知らない人も何人かいるけど、とにかく笑顔でフランの周りを囲んでいる。

 

「ちゃんと想われてるよ、お前は」

「………居ても、いいの?」

「それは私が決めることじゃないんだけども……まあ、一つ言うなら」

 

まだ穴の塞がらない体の痛みを堪え、息を整えて、かつて言われたその言葉を思い出す。

 

「幻想郷は全てを受け入れる、らしいよ?」

 

かつて紫さんに言われたその言葉。

私の存在を肯定してくれる言葉を、フランにも投げかける。

 

「私みたいな異物がいても許されるんだ、お前だってきっと……ね」

 

私の言葉を聞いて、ずっと下を向いていたフランが顔をあげる。

 

 

 

「………ありがとう」

「ん、どういたしまして」

 

その顔はぎこちないながらも、心の底から笑っているように見えた。

 

「……それで、どうするあれ」

 

部屋の片隅で小さくなっている狂気の塊を指差す。

 

「ここで私が消しても……」

「ううん、いいよ」

「…そうなの?」

「あれも私だから」

「……そっか」

 

自分の負の部分とちゃんと向き合おうとしてるんだ、立派なもんだ。

 

「……それじゃあ、帰ろうか」

「……うん!」

 

威勢のいいその返事を聞いた私は、フランと一緒に部屋の扉を開けた。

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