………………んあ?
………多分、起きた。
………起きたん、だけど………
……今の体………毛玉………
え、なにどう言う状況?
えーと、えーと……な、何があったんだっけ?
ダメだ記憶が曖昧な上に頭が痛い。いや、今毛玉なんだけども。
………というか本当になんで毛玉?
………そしてなんで鳥籠の中!?え、本当になんで!?
『私が説明しよう』
お、お前は………誰だ!
『冗談でもそういうこと言うのやめてくれない?自分に忘れられるとか洒落にならないから』
なんかごめんよ。
『………周りの風景よく見て、どこかわかる?』
もう1人の私の言った通りに周囲を見渡す。
鳥籠越しに見えるその景色は見覚えのある家の中……だけど私の家じゃない、アリスさんのだ。
『そう。そして次、どこまで覚えてる?』
どこまで……どこまで……
えーと確か……吸血鬼が侵略してきて……なんか趣味悪そうな紅い館にカチコミに行って……なんかやたらとバイオレンスな吸血鬼にスプラッター映画みたいなことされて……
で、なんやかんやでその吸血鬼……フランの中でなんやかんやあって………
『……まあ、そこまで覚えてるなら上出来かな』
そこまで、って、どういうこと?
『落ち着いて聞いてね』
うん?うん。
『君はずっと昏睡状態だったんだ』
毛玉の姿で?
『毛玉の姿で。それでどのくらい経ったと思う?』
うーむ……長くても2週間くらい?
『3ヶ月』
は?
…………はあ!?
いやいやちょっと待ってちょっと待って今3ヶ月って言った?嘘じゃんありえないって。え、じゃあなに私3ヶ月もの間鳥籠の中でひたすら毛玉の状態で浮いてたってこと?いやどういうことよ!てか昏睡状態になった理由もイマイチわかってないのに3ヶ月っておま……おまそれどういうことやねん!3ヶ月ってどのくらいかわかってんのか!季節変わってるぞおい!すっかり季節も移り変わってるよ!?それを!?私は!?寝て過ごしたと!?もうわけわかんねえよお!!!
『落ち着いて聞いてって言ったのに』
これが落ち着いてられるかぁ!
………まあ落ち着いたけども。
『………じゃ、説明するよ』
そうして、アリスさんの部屋の中を鳥籠の中から見渡しながら、頭の中に響く自分の声を聞いていた。
結局フランはあれで解決したそう。何が最善手かわからないまま好き勝手やってしまったが、まあ解決したならそれでいい。
で、問題はその後のようだ。
『君、魂だけの状態でかなり激しい戦闘したよね?』
ん?んー………多分。
『………フランの中から帰ってきた時、君とんでもなく重症だったんだよ?』
重症?たかが体に穴空いてたくらいで?
『………君さあ、私がいうのもなんだけど本当に感覚狂ってるね』
呆れたような声を出される。
自分の声に呆れられるこの状況………まあそれはおいといて。
『いい?その穴が空いてた体っていうのは君の魂自身なんだよ。この爆速再生で脳死で突っ込める体とはちがって君の魂そのもの。それが穴あきで帰ってきたらどうなる?』
………あー……そういう……
『まあそのくらいのことは私も予想してたからよかったよ。君の魂が回復するまでの間私が代わりに生活しておこうと思ったよ』
お?成り代わりか?やっぱりそういう奴だったんか?
『………』
………あ、続きどうぞ。
『…で。君が帰ってきた時は妖力はスカンピンだった。まあそれはいいよ?でもさ、残ってた体はどんな状態だったか覚えてる?』
………あ。
ないね……内臓いくつかないね……
『そう、そうなんだよ、なかったんだよ。妖力ないと再生もままならないし。でも肝心の妖力も君の魂が復活するまでは回復しないし、でも胃とか腸とかない状態で生活できないじゃん!君が内臓放っておくからさあ!』
うっせえわ!お前だってそれに賛同したやんけ!終わったことごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ!
『あの後幽香さんとアリスさんとルーミアさんに全部説明したの私だよ!?君はずっと寝てたから終わったことなんて言えるんだよ!あの3人に詰められて質問攻めにされる気持ちわかる!?』
わかるけど!わかるけどしょうがないじゃん!フランの中にいた時はそうするしかなかったんだしさあ!
『第一君は後先考えなさすぎだよ!』
うるせえテメェも私だろうが!!
『………』
………
やめよう、自分に文句言ってもしょうがないわ。
………で、そこから3ヶ月間どうしてたの?
『なにぶん内臓がないからね、普段は毛玉状態でって感じだよ。話が必要な時だけ普通の体に戻るけど、体力がどんどん削られていくし私自身普通に辛かったからね。毛玉の状態で君が回復するのをずっと待ってた』
………で、なんで鳥籠?
『アリスさんがずっと毛玉の状態でいられるのが不安だからってさ』
だからって鳥籠の中入れる?
『私も君の回復を早めるためにできるだけ何もしないようにしてたから、別に鳥籠の中にいてもいなくても何もしてなかっただろうしね』
そっか……迷惑かけたね。
『ほんとだよ』
………で、ここからどうやって出んの。
『鳥籠を浮かすと網の部分だけ浮くようになってるから、それで出られるよ』
そんな鳥籠すら自力では出られないであろう毛玉って……
毛玉の貧弱さを感じながらも、言われた通りに鳥籠の網の部分だけを浮かせて鳥籠の外に出た。
うーむ……3ヶ月経ったという実感が全くない。
「よいしょ」
とりあえず体を出してみる。
……あ、左腕ないなこれ。
でも体に異常は……
「うっ」
体に激しい痛みととんでもない気持ち悪さが走ったので毛玉に戻る。
そっか内臓ないんだもんな……とりあえず次体を出したら直ぐに再生を……
『今の妖力の量確認してみなよ』
今の量?
えーとどれどれ……
…………
ぜんっぜんないやんけ!すっからかんやないかい!
『今の量じゃ再生もままならないね。しかも腕とか足ならともなく結構複雑な内臓だから時間もかかるし、急速再生しようと思えばそれなりの妖力も必要になる。つまり……』
つまり……?
『しばらくそのまま』
ちくしょうめ!
すごく久しぶりだなあこの感覚。
文字通り手も足も出ず、出来ることはちょっと動いたり物を浮かせたりする程度。
基本ずっと人の形で生きてきたせいか、これはこれで新鮮ではある。
何せ私、毛玉の状態なんて攻撃の回避くらいにしか使ってこなかったからなあ……だって不便なんだもの。
そう考えたらこの世界に来て数日で体を手に入れられたのはすごく運が良かったのかもしれない。
というか運いいな、絶対いい。
たまたま魂が二つあって、最初のチルノの霊力はまだしも2番目が幽香さんの妖力だよ、大当たりだよ、ガチャでいうならSSR引いてるよ。
………もしもの話。
会ったのが幽香さんじゃなくて紫さんだったら、私もあんなふうに空間の裂け目を作り出したりできたのだろうか。
「………ん?」
私じゃない誰かの声がする、そもそも私今毛玉だから声出せないけれど。
まあこの家にいるのなんてアリスさんくらいだが。
「おっ……アリスー!毛糸が出てきてるぜー!」
魔理沙じゃねえか。
いや確かにいてもおかしくはないけど……なんでいるの?
「しっかしこれが本当に毛糸なのかー?おい、なんとか言ってみろよ、おい、おいおいおいおい」
やめろつつくなしばくぞ。
でもそうか、この姿魔理沙に見せたことなかったんだっけ。というかあんまり人に見せてないなそういや。
まあ見せたところでなんだって話だし。
「ようやく目覚めたみたいね……3ヶ月よ3ヶ月」
「そうだよ、霊夢が心配してたぜ?」
「あなたも心配してここに見に来てるんでしょうに」
心配……そうか、心配かぁ………
やべえ、なんか文にキレられる未来が見える。というか、3ヶ月も音信不通なら大概の知り合いにキレられそうなんだけど。どうしようみんなの呆れ顔が目に浮かぶ。冷ややかな視線を向けれる未来が視える。
「その様子だとまだ話せないみたいね……魔理沙もういいでしょ、帰ってなさい」
「えー……」
「私はこの阿呆と話があるの」
「わかったよ、じゃあな阿呆」
キレそう。
阿呆言うな阿呆って………まあ実際アホなんでしょうけども。
阿呆と連呼しながら魔理沙は家を出て行った。あいつ今度しばく。
「………さて、どこまで覚えてるのかしら。それとももう1人の自分に大方のことは聞いた?」
「聞いた」
一瞬だけ元の体に戻って言葉を発する。側から見たらわけのわからない光景だろうが仕方ない。
「そう。……まあ、私から言うことは特にないわ」
なん………だと…………
お咎め……なし!?
「マジすか」
「えぇ。まあ説明不足に最初のうちは少し腹が立ったけど……あなたがやりたいことだったんでしょう?流石に3ヶ月もそのままってのには驚いたけれど」
私が一番驚いたと思う。
気がついたら3ヶ月経ってたんだもん、内臓無くなったまま3ヶ月経ってたんだもん。
「あなたはやりたいことをやって、それを成し遂げた。そしてそれによってあの子……フランドールは救われた、それで十分なんじゃない?」
フランかぁ………今どうしてるんだろうか。
「まあ私はそう割り切ってるけど、他の人は知らないから。あなたがきっちり自分で説明しなさいな」
うげぇ………また縛られてみんなに囲まれて問い詰められるのか……ま、まあとりあえず普通の体で生活できるようになるまではどうしようもないから……うん……
……そういや結局戦いってどうなったんだっけ。
『君がフランの中から帰ってきた後紅魔館側は降伏、残った眷属やら吸血鬼やらも今現在討伐中だよ』
残党狩りかぁ……まあ当然だろうか。
「そういえば私、あなたが目覚めたら連絡寄越すようにって、あの鴉天狗に言われてるんだけど、どうする?」
文じゃん……確定で文じゃん………
「今内臓ないから少し待って」
「そう、わかったわ」
我ながら今内臓ないって意味わかんねえな……いや、心臓とかはあるけれども。
それにしても、これからどうしようか……毛玉の状態で外で歩くの怖いしな……妖力回復するまでこの中でじーっとしてなきゃならないし。
…………結局暇じゃねーか。
紅茶を飲んでいるアリスさんを見つめながら浮遊する。何も考えずに浮遊する。することないから浮遊する。
つまり暇、すごく暇。
………結局何日経てば元に戻れるのこれ。
『意識戻ったとはいえ君の魂がまだ完全に回復したわけじゃないしなあ……あと数日はそのままじゃないかな』
きっつぅ………数日も毛玉のままとか、それこそ本当に幻想郷に転生してきた最初の頃くらいしかないぞ。
あの頃なんか暇と混乱が凄すぎて思考回路がバグってたような……いや、今も大概イカれてるか、うん。
「あ、そうだ忘れてた」
アリスさんが思い出したように突然呟く。
「あれ預かってたんだった」
アリスさんが手先をちょいちょいと動かすと、奥の部屋から人形が何人か飛んできた。
その人形たちがアリスさんの言っている預かっていたものらしい。
「これ、大切なものでしょう?」
アリスさんが私の前に運んできたのは、りんさんの刀とにとりんたちに使ってもらった左腕の義手だ。
間違いなく私にとって大切なもの。
「義手も放っておいたままにするわけにはいかないし、そのまま持って帰ってきたけど……なんなのあの刀、なんで夜中になったら1人でに動き出すのよ」
それは……まあ………しょうがないね。
というか………
「今渡されても困るからまだ持っといて」
「捨てていい?」
「泣く」
流石にその刀紛失するようなことがあったら私何するかわからんぞ……無くしたくないから常に手元に置くようにしてるのに。
それはともかくとして、持ってくれていたのは純粋に感謝だ。
それにしてもあの刀本当によく折れないな……いくら使っても刃こぼれとかもする様子ないし……
手入れ要らずの妖刀とか、随分都合のいいもんだな、おい。
「………まあいいわ、治るまでここにいなさいな」
ありがとうございます……アリスさんには本当にもうお世話になってばっかりで………
今回もパチュリーとの戦いで一緒に居なかったら勝ててたかわからなかったし、勝てたとしても妖力足りてなくてそのあとのフランで今より酷いことになってた可能性が高い。
……私、この人が本気出してるとか見たことないんだけど、実際どのくらい強いんだろうか。
案外この人みたいに、自分強くないですよーアピールしてる奴がめっちゃ強かったりするからなあ……
まあ本当の実力出さずに済むならそれに越したことないんだと思うけど。
………この状態だと喋れないし手足ないし何も口にできないしで、本当にやることない。
寝れはするんだけど………寝る以外のことは逆になにも……せいぜいものを浮かせて遊ぶくらいだ。
よし、寝よう。
やることなくなったら寝るのが一番だようん。