毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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同じくらいだった毛玉

 

「そっちも色々大変だったんだな」

「まあね」

 

巫女さんと居間で久しぶりに顔を合わせる。

 

「私が寝たきりってのは聞いてたんでしょ?誰から?」

「紫」

「あぁ〜………そういやあの人お礼の一つも言いにこないんだけど。私結構頑張ったのに何も言いにこないんだけど。頼んできたのあっちのくせに」

「どうもありがとう〜」

「へぁ!?」

な、なんか背後から突然声が………でも誰もいない。

紫さんか…….?

 

「あの胡散臭いの権化、いつどこで聞いてるかわからないから気をつけろよ」

「お、おっす………霊夢はどう?」

「あぁ、一応勉強になるかと思って戦いには連れて行ったんだ。ある程度の自衛ならできるし、見るだけなら問題ないかってな。だけど……」

「だけど……?」

「少々、刺激が強かったみたいでな」

「あー……」

 

まあこのくらいの子供に目の前で残虐シーンを見せたら、そりゃあショッキングだろう。

 

「博麗の巫女になるんだから、慣れててもらわなきゃ困るんだがな」

「何度か実践に連れて行って慣れさせる?」

「もしくはお前が代わりに私にめちゃくちゃにされるかだ」

「それでも別にいいよ?」

「……冗談のつもりだったんだが?」

 

腕取れるなんて日常茶飯事ですし、そっちの方が安全だろう。

 

「……まあ、ぼちぼちやっていくさ。吸血鬼の残党もまだ残ってるって噂だし、そいつらを退治でもするかな」

「じゃあ私もそれ手伝うよ。……今はまだ妖力ないからまた今度だけどね」

「そうか、悪いな」

「じゃ、そろそろ帰るよ」

「霊夢にも顔見せてやれよ」

「へーい」

 

懐から木彫りの花のアクセサリーを取り出す。

正直、あの戦いでこれが残ってたの本当に奇跡だと思う、壊れててもおかしくなかった。

思い出の品だし、危険がありそうな時は家に置いておこう。

 

っと、今は霊夢だな。

 

 

 

 

神社の裏側に回ると、霊夢が静かに空を見上げていた。

 

「ん、どうかした?」

「特に何も」

「そっか。前の時は大丈夫だった?」

「私は別に。というか大丈夫じゃなかったのはそっちでしょう?」

「まあそうだけど」

 

うーむ……私って、大丈夫だったかと質問できる立場にないのかもしれない。むしろ質問される側なんだろうな。

 

霊夢の様子を改めて伺う。

平静を装っているが、何か悩みがあるように見える。………見えなくもない。

正直全然わからんけど、空を見上げていたところを見ると何かしらあってもおかしくないんじゃないか?

 

「何か悩みとかあったら聞くよ?」

「………」

 

下を向いてしまった。

あれか?そんなに仲良くないとかそういうあれなのか?お姉さん傷ついちゃうよ?

お姉さんって呼ばれるような見た目してないけど。

 

「……ずっと昔からああなの?」

「へ?」

「ずっと昔から、あんな風に腕が吹っ飛んだり、内臓が飛び散ったらするものなの?戦いって」

 

あっちゃー……スプラッター映像引きずってるなこりゃ。まあそりゃそうか、私だって自分の内臓見ていい気はしなかったもん。

 

「まあ、そんなもんかな。中には跡形もなく消されたり地面のシミになったりしたことも………」

「………」

「おっとごめん」

 

思いっきりいやな顔をされた。

 

「……私は嫌だ、そういうの」

「だろうねぇ」

「あの人も昔っからあんな戦いに身を置いていて……そんなこと続けていたらいつか……」

 

巫女さんのことを心配しているようだ。

その気持ちは痛いほどわかる。いや、私はもう既に失ってしまってるか。

 

りんさんもずっとあんな戦いに身を置いていて、どんどん体を傷つけて行って……最期にはもうボロボロだった。

 

「変えたい」

「ん?」

「幻想郷を変えたい、残酷な世界じゃなくしたい」

「………」

 

新しい、というか。

子供らしい、というか。

 

私のように、そういう世界で長い間生きていた奴からは出てこない発想だ。

そもそもの世界の在り方を変えようとするような……そんなことを。

 

「妖怪だってみんながみんな話ができないわけじゃない。毛糸みたいなのもいる。それならもっといいやり方があるはずで……」

 

現状への苦悩。

まだ幼いその悩んでいる顔が、私にはなんだか輝いて見えて。

 

「そっか……変えたいか。それならもっと強くならなきゃな。どんな相手でもいうことを聞かせられるくらいに」

「修行かあ……」

 

憂鬱そうに呟く霊夢。

こいつやればできるくせに中々やる気出さないんだよなあ……

 

「ま、お前がちゃんと成長するまでの間、巫女さんは私が守っておいてやるからさ、安心しなって」

「……本当にぃ?」

「………多分!」

「なによそれ……ふふっ」

 

少しだけ笑った霊夢。

……少しは気が楽になっただろうか。

 

「それじゃまた」

 

 

 

霊夢に別れの挨拶をして博麗神社から出る。

 

「おいおい、誰が誰を守るってぇ?」

「ぅ……聞いてたんかい」

「まあな」

 

巫女さんに待ち伏せされていた。

 

「変えたい、ねぇ。そう簡単にできたら苦労はしないんだけどな」

「変わるよ、きっと」

「根拠は?」

「ない」

「あっそ……まあ確かに。変わればいいな」

 

誰も傷つかないなら、それが一番いいに決まっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……ん?」

 

帰ってきたら机の上に手紙が………

ま、また紫さんか?私がちょっと愚痴ったから、変な内容の手紙置いて行ったんじゃあ………

 

恐る恐るその手紙を開く。

 

「……紅魔館?」

 

紫さんじゃないのか。

ふむ………ふむふむ………

 

「………なんで私の家知ってんだろ」

 

まあいいか。

 

……郵便受けとか置いたほうがいい?

ナチュラルに不法侵入されるの嫌なんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぃーす毛玉でーすちーすぅ!!」

 

夜、紅魔館にやってきた。

別に真っ昼間に来てもよかったんだけど、相手は吸血鬼だし夜の方がいいかなあ〜って。

 

「………あーと」

「あ、急に変なこと言い出してすみません。えーと……美鈴さんでしたっけ」

「覚えててくれてたんですね」

 

もちろん覚えてたよ?もう1人の私が………

 

「幽香さんと戦ってたみたいですけど、大丈夫でした?」

「あぁ、あの………大丈夫、ではなかったですね……ははっ」

 

乾いた笑みを浮かべてらっしゃる。

 

「あ、そんなことより先に礼を。この度は妹様を救っていただきありがとうございました」

 

そう言って頭を下げる美鈴さん。

妹様というのはフランのことだろう。

 

「いや、あれはフランが強かったのもあるし、何より皆さんの存在があいつの中でちゃんと大切なものをになっていたからで………」

「例えそうであっても、敵であった妹様を救っていただいたのには変わりありません」

 

これはあれか、素直に感謝の意を受け取ったほうがいいやつが。

 

「………まあ、とりあえず顔を上げてくださいよ」

 

頭を下げられるのはあんまり居心地良くなくて好きじゃない。

 

「私一応レミリア?さん?に呼ばれてきたんだけど」

「存じ上げてます。中への案内はメイド長が行いますので、どうぞ」

「メイドいたんだ……」

「あの戦いの時は避難させていましたので」

 

あぁそりゃそうか。

もしいたらルーミアさんと幽香さんに酷い目に遭わされていたかもしれないからなあ。

え?私?私はもちろんそんな酷いことしないよ、本当さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず紅魔館の中に入ってみた。

そういや私とルーミアさんがぶち抜いた穴はすっかり直っていた。

 

……もしかして私が今日呼ばれた理由って、損害賠償とか請求するためだったり……んなわけないか。

 

「こんばんは」

「!?」

 

な、なんだこいつ突然隣に現れやがったなんだこのガキ!?

反射で殴りそうになったわ。

 

「メイド長の十六夜咲夜でございます」

「あ、あぁメイド長……お前が!?」

「はい」

 

うっそだろ……え、だってこの子霊夢や魔理沙とそう歳変わらない……いや、一つや二つ上かもしれないけど。

でも子供やん、子供がメイド長してんの?

 

うっそぉ………

 

……というか、この子見たことあるな。

フランの中にいた見覚えのない中の1人だ。

 

「ほ、ほえぇ………あ、取り乱してごめん」

「いえ、お気になさらず。白珠毛糸様でいらっしゃいますね、こちらへ」

 

そう言って咲夜がずんずんと館の中を進んでいく。

若いくせになんと礼儀正しい……私より礼儀正しい……どれだけいい教育をしているんだ……

 

「………質問いいかな」

「なんなりと」

「他のメイドは?」

「ちょうどあちらに」

 

そう言って咲夜が指を刺した方向を見ると、確かにメイド姿の妖精がいた。

 

………妖精?

 

「なんで妖精?」

「数が多いから、だそうです」

「あぁそう………」

 

妖精メイドかぁ………ちょっと夢あるけど、妖精でしょ?

妖精って大概見た目相応の行動するからなぁ………いやでも、このメイド長みたいに凄い礼儀正しい妖精なのかもしれない。

それはそれで結構気になる。

 

「じゃあもう一つ質問。君人間だよね?なんでこんな人外の館でメイドなんか………」

「色々ありましたもので」

 

流された………まああまり詮索するものでもないのかもしれない。

というかこの子供も人なのか怪しいところ……霊力持ってるし人間だとは思うんだけどなあ。

てかもう夜だよ、良い子は寝ようよ。

こんな遅い時間まで児童労働させるとか紅魔館ブラックかよ、紅って名前についてるくせに。

 

「到着しました。中でお嬢様がお待ちです、それでは私はこれで」

「あ、うんありが……消えた!?」

 

やっぱあいつ普通じゃねえ!瞬間移動か?瞬間移動でも使えるのか?カッケェな私にも教えろよ。

 

まあそれは置いておいて。

この扉の先にレミリアかぁ………何言われるんだろう。

正直恨み買っててもおかしくない……勝手に妹を弄られたようなもんなんだから。

 

まあ扉の前で悩んでいても仕方ないか、ここまで来て何を今更って話だし。

 

「あ、どうも〜……」

「ごきげんよう、随分長い間寝ていたみたいね」

「そりゃもうぐっすりと」

 

扉を開けると、一つのテーブルと二つの椅子が置いてあり、そこにレミリアが座っていた。

 

「本日はお招きいただきどうもありがとうございます、レミリアさん」

「無理して言ってるの丸わかりよ、普段通りみたいで構わないわ。あとさんは余計ね」

「あっはい」

 

よかったそんなに怒ってなさそう……

あの時は大して見れなかったけど、レミリアも子供みたいな見た目をしている。フランとは違ってちゃんとした翼を持っているけれど。

 

「それに、礼を言うのはこちらの方よ。フランの件、感謝しているわ」

「いやいや……」

 

あれ自体は本当にレミリアたちのおかげでもある。

フランを想っているその心が、ちゃんと本人に届いていたおかげだ。

 

「まあ、とりあえず座りなさいな」

「うっす」

 

うむ………見た目の年齢は私とそう変わらないのに、威厳を感じさせる振る舞いだ。やはり紅魔館の主だということなのだろう。

 

「紅茶はお好き?」

「嗜む程度には」

「ならよかったわ、咲夜」

「かしこまりました」

「!?」

 

ど、どこから現れやがったこいつ!?

 

「どうぞ」

 

しかも一瞬で紅茶淹れたぞどうなってんだこいつマジで!?

そんでもってまたすぐ消えたし………

 

「ふふっ、驚いたかしら」

「そりゃあもう………なんなのあれ、時間でも止めてんのかってくらい色々早いんだけど」

「……鋭いのね」

 

…………

マジで時間止めてたの!?あんな子供が!?

 

「本当に人間…?」

「人間よ、私お気に入りのね」

 

そして紅茶が美味しい………

いや、アリスさんの方が美味しいし?アリスさんの方が紅茶淹れるの上手だし?

 

…………何張り合ってんだろ私。

 

「とりあえず事の発端から説明しましょうか」

「事?」

「まず最初に言っておくと、私は運命を操ることができるの」

 

…………

運命を?操る?何言ってんだこいつ。

なんなんこの館……時間止めたり運命操ったり………マジでなんなんこの館怖い……帰りたい……

 

「操る、と言ってもそこまで自由にできるわけではないけどね。まあとりあえずそこは説明省くわ」

「………で、それが?」

「幻想郷に来る前に、私はフランや私たちの運命を視たの」

 

運命運命と言われてもあんまりイメージつきにくいんだが……

 

「当時は鮮明には見えなかったけれど、とりあえず悪いことにはならないって言うことはわかっていたの」

「………で、それが?」

「あとついでに白いもじゃもじゃみたいなのも」

「私じゃあぁん………」

「あなたね」

 

なに、私ってそんな運命みたいなのでも白いもじゃもじゃなの?どこに行っても白いもじゃもじゃなの?

 

「まあ、その事を聞いたパチェがいくつかの作戦を立てていて、実際にあなたがここにやってきた時にそれを実行に移したらしいわ」

「……じゃあなんで最初、私とフランが戦うことになったんで?」

「さあ?本人に聞いてみたら?」

 

あっ知らないんですね……

まあ後で会いに行こうと思ってたし、別にいいや。

 

「それにしても………はぁ」

「……なんでぃ、人の顔見てため息ついて」

「いや……こんなふざけた頭のやつが、私の妹を……私が数百年かけてもなかなか助けられなかったって言うのに、それをこんなぽっと出のやつが……はぁ」

「………」

 

いや、否定はしないが………

 

「本人の目の前で言うんじゃねえよ」

「なんで私がそんな気遣いしなきゃいけないのかしら?」

「傲慢……」

「当然ね、なんてったってこの私は、この紅魔館の主である吸血鬼のレミリア・スカーレットよ」

 

腹立つな。

こういう相手とはあんまりちゃんと話したことがなかったけれど、こうやってみると本当に腹立つ。

 

「ケッ、んなガキみてえな様相で主って言われても、なんの威厳も感じないわ」

「はぁ?あんたも同じような見た目でしょうが」

「私大体500歳くらいでーす」

「私もそのくらいなんだけど」

「………」

「………」

 

まさかの………タメ。


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