「もうね、呑まなきゃやってらんねえよ!」
「そう……さっきから飲んでるの、水だけどね?」
「酒飲めないもん」
「じゃあせめて何か食べ物を……」
「お腹空いてないもん」
「何しに来たの」
「愚痴りにきた」
「帰ってくれ?」
「ない」
「そっかぁ………」
ミスティアの屋台を見つけたので、とりあえず捕まえて強引に店を開けてもらった。
正直申し訳ないとは思ってる、でも誰かに愚痴りたい気分だった。真夜中にやってもらってるから絶対迷惑。
「こっちだって仲良くはなりたいからさ?根気強く距離詰めようとしてるのにさ?向こうはそれをもう3つくらいの悪口とセットで跳ね除けてくるんだもん、そりゃ心折れるよ、もうやってらんねえよ」
「もう三回目その話……そんなに嫌ならもう会わなきゃいいのに」
「そういうわけにもいかないから困るんだよ……そいつの妹が私に懐いててくれてさ?まあ色々あったんだけど、今は仲良いわけなんだよ、多分」
「多分なんだ」
「でもその姉がさ?私のこと結構嫌っててさあ……嫌ってるって言っていいのかわかんないんだけど、なんかとりあえずつんけんしてくるのよ」
机に突っ伏しながらくぐもった声をミスティアに聞かせ続ける。
正直申し訳ないとは思ってる、許してほしい。
「私が何か言えば向こうはつんけん、私が何も言わなくても向こうはつんけん、いるだけでつんけん、存在が邪魔だと言わんばかりだよもう」
「苦労してるんだね……」
「してるよ苦労!いっぱいしてるよ!行きたくもないのに吸血鬼の一番やばいやつのいるところに行かせられるしさ!そんでなんか変なことに巻き込まれて気づいたら3ヶ月って……バカじゃねーの!?まあそのおかげで色々丸く収まってるからさ?それは別に良いんだけど……苦労した末のあの対応だよ!もっと遠慮しろよ!ずかずか物言いすぎだろ!手が出そうになるわあんなん」
「えーと……なんか食べる?」
「お腹空いてない」
「………」
「………焼き鳥」
「ぶん殴るよ」
「ごめん」
とりあえずおでんの玉子でも頼も………
「……玉子はいいんだ」
「ん?なんか言った?」
「いや、何も」
なんとなく、玉子以外のおでんの具材を頼んでおいた。
しかし本当にどうしたものだろうか……レミリアと仲良くできる未来が見えない。せっかく同じくらいの年代なんだから同年代トークしてみたい……と思ったけどそもそも生きてきた場所が違うわ、
「ミスティアは最近どーなの」
「んー?まあ……ぼちぼち」
「良いなあぼちぼち、私とレミリアの関係はぼちぼちですらないから、むしろ後退してる気すらする」
「わかったってその話は……」
なんかもう色々嫌になってくる……その辺を転げ回りたい気分だ。汚いからやんないけど。
ミスティアはあの戦いの時、どこか安全な場所に逃げていて無事だったらしい。
まあ平和が一番だ、吸血鬼たちの襲来……吸血鬼異変って呼ばれてるんだっけか。
それ以来時々吸血鬼の残党狩りが起きてるくらいで、特に目立った争いもない、平和なもんだ。
「………んあ?」
「どうかした?」
「誰か来る。というか、この感じは……」
文と……柊木さん?
「こんばんはミスふぃあさんやっれますか〜?」
「でっろんでろんじゃねえか、どうしたの柊木さんこれ」
「あ?あぁお前か。いや、なんか椛を飲みに誘ったらしいんだが断られて、なんかそれを気にして自棄酒してるみたいでな。見かけて注意したんだが、はしごするって言って聞かねえから付き合ってるとこだ」
「苦労してるんだね……」
「なんなら代わるか?」
「やだ」
「べつにぃ〜?ぜんぜん気にしてませんけどぉ〜?」
「まあまあとりあえず水飲んで……流石にこの状態の人に酒は出せないよ」
「いや全然酔ってませんけど」
「うわ急に元に戻りやがったこいつこっわ」
「妖怪たるもの、酔うも酔わぬもの自由自在でふよ」
「………呂律」
「気のせいです」
そっかぁ気のせいかあ……
いや実際意識ははっきりしてる方みたいだけど……酒臭いんだよな普通に。
「でもどうしたんだよ一体、何かあったの?話なら聞くよ、ミスティアが」
「え?私?」
「聞いてくれます〜?」
「あ、ほんとに私が聞く流れなのこれ」
ミスティアが困惑したような表情を浮かべる。
水の入った器を眺める文、それを挟んで座る私と柊木さん。
「まずですねぇ……私と椛って親友なわけじゃないですかぁ」
「…まあ結構いつも一緒にいるしね」
「かなり長い間一緒にいるみたいだぞ」
「そうなんだ」
「親友のはず……なんですけどね」
なにこれ重い話?もしそうなら私苦手だから帰りたいんだけど。
「なんかここ数ヶ月……数年?数十年?数百年?まあなんかとりあえず扱いが酷いんですよぉ」
「いつもじゃん」
「いつもだな」
「いつもなんだ」
「ほらこんな風に」
だって今のはそう返す流れだったし。
「私と椛って、今よりもっと若い頃からの付き合いなんですよ。親しいというか、気心の知れた仲というか……いつからなんですかね、こんな風な扱いになったのは」
「最初からじゃね?」
「最初からだろ」
「最初からなんだ」
「最初からだった気もしてきました」
流されとるやん、ダメじゃん。
「いやいや、昔はもっと仲良かったと思いますよ?椛、今でこそああですけど昔はもっと可愛げがあったんですよ?」
「ごめんちょっと想像できない」
「もし本当にそうなら昔と今の差凄いな」
「確かに見た目は結構可愛いよね」
「なんか段々腹立ってきたんでやめてください、その順番に感想を述べるの」
私がこの幻想郷に生まれて大体500年……私より年下の知り合いとかほとんどいないんじゃないか?それこそレミリアとか……フランってレミリアの妹なわけでしょ?どのくらい歳の差あるんだろう。
「とにかく!最近付き合い悪いんですよ彼女……」
「そうなの?」
「そんな気はしないが……なんかしたんじゃないか?心当たりとかは?」
「いや特に……強いて言うなら盗撮したことくらいですかね……」
「それやんアホやんお前アホやん」
「いやいやいや、バレてないはずですって、私自信ありますもん」
「じゃあ俺が今度伝えておいてやるよ」
「やめてください翼もがれる気しかしないです。捨てとくので、捨てとくので黙っておいてください」
盗撮する方が悪いんだよなぁ………
「……一応聞いておくけど、私のこと撮ってないよな?」
「取るわけないじゃないですか」
「あぁそう」
めっちゃ真顔で言われた。
「はぁ……呑んでないとやってらんないですよ!」
「さっき聞いたような台詞……八目鰻食べる?」
「食べます」
「そんなに気になるなら直接本人に言えばいいだろ」
「まるで私が構って欲しいみたいじゃないですかそれ」
「事実でしょ」
「事実だな」
「事実だねー」
「お酒ください!」
あーあーやけ酒が加速する。
「……で、私ばっかり話してるんですけど、二人はなんかないんですか」
「私さっき散々ミスティアに愚痴ったからなぁ」
「ここ、愚痴り場じゃないんだけどな〜」
「じゃはい柊木さん、なんか出して」
「お前に付き合わされてる俺が不憫って話するか?」
「別に頼んでませんけど〜?」
「放っておいたらその辺でぶっ倒れるだろお前」
この人もなんやかんやでお人好しだなぁ……昔っから酔い潰れた人の世話してるなこの人。性分なの?
一つため息をついた柊木さんが姿勢を整えて口を開く。
「じゃあ一つ。俺が足臭って呼ばれてる件なんだが」
「あーはいはいそれね」
「もう今更聞くこともないですよ」
「なにそれ私知らない」
そりゃあミスティアは知らんでしょうね。
「お前らは知らねえだろうな、今の俺の状況を」
「大見得を切んじゃん、言ってみろよ」
「まず、後輩には完全に名前が足臭って覚えられてる」
「だろうね」
「知ってます」
「えぇ………」
別にこれ自体に特別驚く要素はないけど……もしかして慣れすぎ?
「それでちゃんと俺の名前を教えてやったら、大体知らなかったって反応が返ってくる」
「自己主張しないのが悪いんじゃない?」
「万年下っ端ですからね柊木さん」
「いや間違えられて覚えられるだけならいいんだよ」
不満そうにそう漏らす柊木さん。
「この前なんかよ……俺の名前を教えてやったら、え?知ってますよそんなこと。でも足臭の方が面白いじゃないすか。だってよ」
「くくっ……完全に舐められてるやん」
「酒が美味しいですねえ!」
「えぇ………」
いやでも、流石にそれは酷いなあ。
私なら殴りに行ってるよ、まりもって呼ばれたらの話だけど。
「話はまだ続くぞ、これはほんの十年くらい前の話だったんだがな……ある時を境に、届く書類とかの宛先に書かれてる名前が全部足臭になったんだよ。全部山が公式に出してるやつな」
「ぷふっ、組織からも間違えられてるじゃないですか!」
「憐憫」
「それもう名前が足臭に変わってるんじゃあ………」
「そう、流石に俺もこれは駄目だろと思って役場まで行ったんだよ。そしたら……そしたらなぁ……………」
手を顔に当ててやたらと溜める柊木さん。
「………名前が変更された形跡はないって言われたんだ」
「……つまりどういうことだってばよ」
「毛糸さん鈍いですねぇ。つまり届く書類の名前が足臭になってたのは、別に名前が柊木から足臭に変更されたわけじゃないってことで……あれ?そうなると……つまりどういうことです?」
「えーと……ど、どういうこと?」
「はあぁ………」
大きなため息をつく柊木さん。さっきから溜めるの多くない?というか喉乾いてきたな、水飲もう。
「柊木……死んだ扱いになってた」
「ぶふぅ!!」
「うわきったな!」
「くっ……ふふっ……ぶふっ」
「柊木死んで足臭とかいうやつが俺と同じところに住んでた」
「な、なんでそんな面白いこと今まで黙ってたんですか……くくっ」
「笑われるからだよ、今そうやってるみたいにな」
いやでも……ここまでくると何かそういう呪いでもかかってるんじゃないかって思えるな。だって……流石にそれはあり得ないでしょ、普通に考えて。
あとミスティアごめん。
「まあ下っ端天狗は死亡確認とかも割と適当ではありますし、死んだと思ってたら本当は生きてたって話もなくは無いですけれど……特になにもないのに死んだ扱いにされて同じ場所に住んでるってのは……椛もこの場に居れば良かったのに」
「正直本当に死んでやろうかと一瞬思った」
行き着くとこまで行き着いた感じするな……逆にこれより酷いことって起こりうるのだろうか。
「以前同僚数人に本当に足の匂い臭いのか嗅がせろって詰め寄られたんだが、全力で逃げた」
「なんで?臭くないんなら足臭じゃないこと証明できるのに」
「仮に嗅がせたとして、本当に足臭かったらとうとう否定できなくなるだろ。あと野郎に嗅がせる足はない」
「女ならいいんですねぇ〜」
「訂正する、死んでも俺の足の匂いは誰にも嗅がせない」
なにその固い決意……たかが足の匂いでしょ?どれだけ気にしてるんだこの人……まあそれだけのことあればそりゃあ気にするか。
「質問なんだけど」
ミスティアが手を挙げる。
「そもそもなんで足臭って呼ばれるようになったの?」
「………なんでなの?」
「なんででしたっけ」
「………なんでだろうな」
全員知らないし覚えてない、と。
「………いっそ改名する?」
「死んでもやらん」
「あ、じゃあ記憶消せば良いんですよ!」
「勘弁してくれ……」
そういや柊木さん一回記憶なくしてたんだったな……この調子だと記憶無くす前も足臭って呼ばれてるかもしれない。
……もしかして私、前世でもしろまりって呼ばれて……いや、流石にないな。
「それでですねぇ、その時毛糸さんが」
「ちょま、お前それは言うなよ〜」
「えぇ〜いいじゃないれすか〜」
「ダメに決まってんだろ殴るぞ〜?」
「おぉこわいこわい」
「………えーと、いつまで続くの?これ」
「さあ」
「………」
あの後、こいつら二人が楽しそうに会話を始めた。文がどんどん酒を呑んで酔っ払っていく。いやまあ最初から酔ってはいたんだが……
「おい毛糸」
「んだこら足臭」
「お前酔ってないか?」
「酔う〜?ないない、私酒飲んでないし」
「若干顔赤いぞ」
「言われてみれば確かに」
「マジ……?まさか空気中のアルコールで……なんか今なら酒飲める気がしてきた」
あぁ……この流れは……
「文酒!」
「りょーかいです!」
「いくぞコラァ!」
「ちょっと、お酒飲めないんじゃ…」
文に注がれた酒を毛糸が口の中に流し込む。
「………ごぼっ」
泡を吹いて気絶した。
「あはははは!結局だめじゃないで……けへっ」
後を追うように文が机に突っ伏して寝た。
「えぇ………なにこの……えぇ………」
「悪い、迷惑をかけたな。代金はこれで足りるか?」
「え?あ、うん。……どうするのその二人」
「そりゃあ、放っておくわけにもいかないだろ」
こうなった時のために俺がついてきたんだから。
………でもこのもじゃもじゃは面倒臭いな、最後完全に調子に乗った末の自滅だしな、置いて行こうか。
「………はぁ」
まあそういうわけにいかないか。このもじゃもじゃ家まで送ってから山に戻ろう。
そして明日は非番にしてもらおう、絶対無理だけど。