「どうもパルスィさん」
「……あら、誰か来たと思ったらあなただったのね」
思い立ったら即行動だ。
イノシシを連れてとりあえず地底にまで来てみた。
目的はもちろん、こいつの本当の気持ちを知るため。何を考えて何を思っているのか、どうありたいのか……それをさとりんに聞いてみようと言うわけだ。
え?意思疎通はできるんだから普通に話し合えばいいだろって?
はっはっは、そんな度胸があるならとっくの昔にやっているんだよ。
「……なにその猪、食糧?」
「毒ありますよこいつ」
「じゃあ愛玩用?」
「なんか嫌だなその言い方……」
「ふごっ」
別に飼ってるつもりはないんだがなあ………
「そうそう、地上も結構大変だったみたいね」
「あぁ、吸血鬼の話?まあ……それなりには」
私こそ数ヶ月動けないという事態にはなったものの、その他は特に何かあったわけでもない。
まあ今回の一件で一番大変だったのは誰かって話なら、私は迷わず自分を挙げるけれども。
「地底は特に何もなかった?」
「えぇ、まあ仮にその吸血鬼どもがやってきたとしても、こっちには本当の鬼がいるから」
「それもそうか」
そういや吸血鬼って名前に鬼がついてるよなあ……レミリアに豆投げたら効いたりするのかな。
「……とりあえず」
「……はい?」
「動物連れて地底に悠々と来ることができるその能天気さが妬ましいわ」
「あぁはいはいノルマっすね、お疲れ様っすー」
「舐めてる?」
「まあ正直」
「……通るなら早く通りなさいよ」
とりあえずで始められたら妬まれても大して何も思わない。お互いに慣れてしまってる感じあるし。
まだちょっと苦手だけど。
「勇儀さん回避成功」
地底の街の中を通ってきたが、勇儀さんには会わずに済んだ。あの人に鉢合ったら何が起こるかわかんないからな……大体あの人のいる周りって騒がしいから、静かな方を通れば避けることができる。
「大丈夫かイノンリル、怨霊とかついてないか?」
「ぶふぉ」
「そりゃよかった」
地霊殿の前に着くと、間もなく入り口の扉が開いた。
紅魔館も立派な作りだけど、こうしてみると地霊殿も凄いなぁ……地底にあるからこその迫力があると言うか……
何より紅くない、趣味悪くない。
私地霊殿の方が好き。
「お、いらっしゃい。……そっちの毒々しい色の猪は何?」
「……同居人?」
「なんじゃそりゃ」
出迎えにきてくれたのはお燐だった。
「大丈夫?上じゃ結構大変だったって聞いたけど」
「あぁ、まあね。私が数ヶ月意識なかったこと以外は特に」
「………ふざけて言ってるんだよね?」
「そりゃあもう、大ふざけ」
いくら妖怪の寿命が途方もなく長いとはいえ、あれを軽症で片付けることはできない。
内臓なかったし。
「ま、さとり様も地上のこと気にかけてたし、話を聞かせてやってよ」
「そうする」
私もさとりんに話したいことあったし……イノシシのこともだし。
「あー………」
「お邪魔しま……えぇ!?ちょま、さと…さとりさんどうしたんすかその……なんで逆さまになってんの」
「…あぁ、毛糸さんですか、ようこそ」
「そのままの状態で会話しないで」
部屋に入るとさとりんが椅子に足を乗せて頭を床に置いて逆さまになっていた。あなたそんなことする人でしたっけ……?
「いえちょっと……鬼たちの建造物破壊の報告書見ててちょっと頭痛がしたもので」
「頭痛になったらひっくり返るの……?」
「気分です」
「気分ならしょうがない」
「よいしょっと……それで、そちらの猪は……あぁ、なるほど。そういう件で」
姿勢を直して座り直したさとりんが、猪の姿を見てから私を見ていろいろ察する。
「とりあえず私が話したいんだけど……大丈夫?今忙しいなら後でにするけど」
「いえ、せっかくですし仕事から逃げます」
「………」
「私だってそういう時はあるんですよ」
別におかしいって言ってるわけじゃないけど……
「とりあえず座ってください、そちらの猪さんも好きに寛いで」
言われた通りに席に座る。
……床にちょこんと座ってるイノシシ結構かわいいな。
「……あぁそうそう、地上で色々あったのは知ってると思うんだけど」
「吸血鬼の件ですか?山の妖怪達と本拠地に攻め込んだ数人の妖怪達のお陰で、地底には特に被害はなかったと聞いてますけど……あぁあなたが攻め込んだんですね……お気の毒です」
「そうなのよ、そりゃあもう数が多くって多くって……まあ、そんな話は置いといて。とりあえず私の本題」
一息ついて、ちゃんと自分の言葉で伝える。
「そのね……攻め込んだところの吸血鬼の姉妹の妹とね……色々合ったんだけど、妹の方とはまあそれなりの関係を築けてると思うんだけど……姉の方が……姉のほうがなんか……私嫌われてて……どうしたらいいのかなって」
「……あなた、よく変なことに巻き込まれますよね」
「それなー」
まあなんだ、そういう運命なんだろう私は、そういう星の元に生まれたんだろう。
甘んじて受け入れよう……やっぱ無理抗いたい。
「で、どうしたらいいと思う?諸々の事情は話すの面倒くさいから心読んで」
「いいように使いますね……普通なら気味悪がって私のことを避けるものですよ」
「普通じゃないってことよ」
「確かに」
否定してよ、普通ってことにしておいてよ。
さとりんのサードアイが私のことをじっと見てくる。
………
「記憶の中にある一つ目の化け物を連想するのやめてもらえます?」
「ごめんつい」
「……まあ、大体のことはわかりました。妖怪の姉妹ですか……ちょっと親近感湧きますね」
……確かに、どっちも妹がなんらかの事情抱えてるしなぁ。
「で、どうすればいい?どうしたら仲良くなれると思う?」
「私別にお悩み相談受け付けてる訳じゃないんだけど……そうですね……そのレミリアって人の心を読んでみないと正確な答えは出せませんけど……毛糸さんのことを知ってもらえばいいんじゃないですか?」
「私のこと?」
「妹さん……フランドールという人はさまざまな事象を通してあなたという人のことをよく知っている。相手の中にこちらの魂を送り込んで直接叩くなんてめちゃくちゃなことしたものですけど……」
「褒めてる?」
「対してレミリアさんはあなたのことを何も知りません」
無視されたわ。
「彼女からすれば、あなたは本当に他人なんですよ。余所者で、全く接点のなかった人物。それがある日突然、積年の悩みをあなたが解決してしまって、挙句妹が懐いてしまった……まあ、嫉妬です。それによって引き起こされる行動は拒絶、あなたという人物を理解してしまうのが怖いんだと思います」
拒絶かあ……心折れそう。
私何かしたわけでもないのに……
「妹がそれだけ懐くということは、それだけの理由があるということ。あなたという人を知ってしまえば、その理由を理解してしまい、受け入れるしかなくなる……それによって引き起こされるもの……敗北感、劣等感でしょうか」
「つまり…私はあいつに認められないと言うか、認めたくないからあんな態度を取られてるってこと?」
「私の憶測でしかありませんけど……まあ、そうなるのが自然だと思います」
うーむ……辛い。
向こうの気持ちは十分に理解できた。いやまあ推測でしかないんだけど、その上で私は歩み寄りたい。
でも拒絶される。
「…私を知りたくないから拒絶されてるのに、どうやって私のことを知ってもらえと?」
「まあ、根気強く付き合っていくしかないんじゃないですか?その辺は自分でどうにかしてください」
………一度拳を交えた方がいいのだろうか。
「武闘家か何かですかあなたは」
「いっそ肉体言語で行こうかと……」
「多分ただじゃすみませんよ、それしたら」
「そうだよなぁ……」
それに、そういう勝ち負けを決めるものをやっても解決はしない、そんな気がする。
「……ありがとう、とりあえず言われたこと踏まえてこれからも接してみるよ」
「まあ頑張ってください、毛糸さん人はそれなりに良いですからきっと良くなります」
「褒めてる?」
「で、次の話にいきましょうか」
また無視された。
「…次は……まあ……こいつの話なんだけど……」
「猪の妖怪…ですかね。やたらと色味が毒々しいですけど……自我もはっきりしてるみたいだし、それなりの年数を生きてきてそう。この子がどうしたんです?」
「いやぁ……なんというか……何考えてんのかなーって」
「名前はなんて言うんです?」
「決まってない」
「………どのくらい一緒にいるんです?」
「300年から400年くらい……?あんまり覚えてないからあやふやだけど」
「………」
なんだその目、ジト目やめろ。
「なんで名前すらつけてないんですか」
「いっつも変な呼び方してるから」
「変な……あぁ、それは確かに……ものすごい変ですね。なんですか、最初にイノをつけてあとにその場で思いついた適当な言葉をくっつけるって」
「なんか名付けするのは気が進まなくって……」
「それでいて心の中では普通にイノシシと呼んでる……今に始まったことじゃないですけど、これは相当…変ですね」
「……やっぱり?」
「はい」
こちとらこれで数百年過ごしてきてんだよ、もうそういうものって頭には完全に刷り込まれたわ。
「で、当の本人は……あー……こっちもそれで納得してるんだ……なんですかね、飼い主が飼い主ならこの猪も猪って感じですね」
「褒めてる?」
「で、何を聞けばいいんですか」
「えーと……なんで私についてきたのかとか、本当に名前今のままでいいのかとか……今のままでいいのかとか」
「これだけ自我はっきりしてるんだから自分で聞けばいいと思うんですけどねぇ」
「小っ恥ずかしいじゃん」
「普段奇天烈な言動してるくせに、そういうとこありますよね毛糸さん」
「褒めてる?」
「もういいですそれ」
「………」
散々無視された挙句呆れられた。
「じゃあとりあえず聞きますよ」
そう言ってさとりんはサードアイをイノシシの方に向ける。
「なんて言ってる?」
「………これは」
「え、なに?気になる気になる」
「出て行ってください」
………は?
「出て行ってください」
「え……いや……へ?」
「出て行ってください」
「私なんかした!?」
「そういうことじゃなくて、本人があなたに聞かれたくないって言ってるので」
「……私なんかした!?」
「ふごっ」
「え?なんもしてない?あぁそう……」
「なんで意思疎通できてるんですか」
これだけ長い間一緒にいれば鳴き声で大体何言ってるかわかるし。
「とりあえず部屋から出てください、何話したかは後で伝えますから」
「えぇー?」
「あ、やっぱり部屋からできるだけ離れてください」
「……別に聞き耳立てないよ?」
「いいから」
どうして……どうしてなんだイノシシよ。
「……本当に結構離れましたねあの人」
そういうところはしっかりしてるのよね……真面目というか、律儀というか。
「さて、もう離れましたよ」
このイノシシの要望は、毛糸さんに見られたくない、ということだったが……見られなくないってことは……
顔を出していた扉を閉めて後ろを振り返る。
「……やはりそうでしたか」
二本の脚で立ち、小さな耳が頭についていて、緑や紫色の目立つ色をした髪を持った人型の妖怪。
「既に身体を持っていたとは……いや、数百年もあんな妖怪と一緒にいれば、そうなるのもなんらおかしいことではない……か」
「………」
「……話すの緊張してるんですか。まあ今まではふごっ、とかぶふぉ、とかでやってきたんでしょうし、急に喋るのも……ってことですかね。私も初対面ですし」
「……言わないでよ」
「言いませんよ、あなたが望まないのなら」
私がそういうと、彼女は元の猪の姿に戻った。
「さて、どう伝えたか……あ、名前は今のままでいいんです?」
「………どうでも」
「なるほど、どちらかと言えばちゃんとしたのつけて欲しいと」
「言ってない」
部屋を出て廊下を歩いて行った突き当たりの辺りで、中では何を話してるのか気になりながらそわそわそわそわしてると、さとりんから声をかけられました。
「終わったので入ってきてください」
「え、なにどうなった?特に何もなかった?」
「なんで怯えてるんですか」
さとりんに手招きされ、部屋の中へと入った。
中にはさっきまでとなんら様子の変わらないイノシシが。
「とりあえず少し話をしまして、伝えることがあります」
「………」
「そんなに身構えないでください。とりあえず……毛糸さんについていったのは、最初はなんか楽しそうだし森から出てみたかったから……だそうです」
そんな軽い理由だったのね……いや、そんな軽い理由で居住圏変えるのもどうかと思うけれど。
「そして名前ですけど……ちゃんとした名前、欲しいっちゃ欲しいみたいです」
「……そうなの?」
「………」
あ、目線逸らした。
「まあ、本人としても今のままの関係がいいみたいですよ、何かと気が楽で」
「そっかぁ……でも名前は欲しいんだ」
「はい」
「名前……名前…………」
…………
「………」
「………」
「………何にも思いつかん」
「まあ……せっかくだしこの機会に一度、真剣に考えてみたらどうです?それまでここにいたらいいじゃないですか、こいしにも会ってないですし」
「そうだなぁ……」
本人が欲しがってるなら、ちゃんとしたのを考えてやるべきだろう。
でもさぁ……でもさぁ!!
「仮になんかその辺のペットみたいな名前つけたとするじゃん、ポチとか。でもそうした場合、身体を手に入れた時に名前がすごい残念なことになるじゃん」
「あー……それは……」
「かといってよ、私みたいな名前をちゃんと考えてつけたとしても、この獣の姿につける名前じゃないでしょ」
「まあ……そうですね」
犬や猫に苗字とかきっちり考えて名付ける人がいるだろうか。いやまあいないことはないと思うけど……少ないと思うし。
「だからどうせ名前付けるんなら、こいつが身体手に入れて喋り始めてからとか思ってたんだけど……でも本人が欲しいって言ってるんだしなぁ………あーもうめんどくせ」
「………何か案とか出しますよ?」
「さとりん名付け結構独特だからいいです」
「あなたに言われたくないですね」