毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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引きこもりの災難

 

「え、毛糸さんいないんですか!?」

「はい、数日前から」

「あのいのししも連れてどっかいったぞ」

 

「あやや……困りましたね」

 

毛糸さんを訪ねてきたけれど、まさかの留守…しかも数日前から。

 

「森にいるんですかね……ありがとうございます」

 

チルノちゃんたちに別れを告げて魔法の森を向かおうとする。

 

「ばぁ」

「ふぉっ!?る、ルーミアさん……何か用ですか?」

 

視界に急にルーミアさんが飛び込んできて、私のことを引き留める。

 

「ちょっと話があるのだー」

「話?」

「こっちに来て」

「え?あぁはい」

 

ルーミアさんに連れられて、チルノちゃんたちから離れた場所に移動した。

 

「それで、話ってな……に……へぁ!?」

「よく驚くなお前」

「あっああっあなたは……」

 

以前見た、やばい方のルーミアさん……それが何故……いなくなったって話じゃ。

 

「そこの説明は面倒臭いから、今度毛糸にでも聞いておいてくれ」

「……へ?あ、はい」

「それでだ、毛糸になんの用だ?随分と急いでるみたいだが」

「……何故あなたがそれを聞くんです?」

「そういう駆け引きはいい、早くしろ」

 

……まあ、教えたところで何かあるわけでもないし、伝えても良い、か。

 

「簡潔に言うと、今妖怪の山で妖怪たちが失踪する事件が起きてまして……恐らく相手は吸血鬼、相手の強さにもよりますけど、下手な相手じゃ被害が増えるだけです。だから毛糸さんの力を借りようかと……」

「……吸血鬼か」

「なにか心当たりが?」

「ついこの前、あたしを襲ってきた奴がいた。どこ行ったのかまでは知らなかったが、大方妖怪の山に侵入したってことだろうな」

「なるほど」

 

もちろん違う妖怪という可能性もあるけれど……状況的にその吸血鬼と考えて間違いなさそうだ。

 

「そいつの特徴は?」

「生憎だが、すぐに逃げやがったんで覚えてない」

「そうですか……」

「ただ、随分と慎重な奴みたいだ」

「えぇ」

 

圧倒的な力を有しているのであれば、山であんな、暗躍のようなやり方をしなくたって正面からくるはず。

……まあ、正面か裏からこそこそされるか、どっちがマシかと言われれば、どちらも勘弁願いたいところなのだけれど。

 

「ほんの少しだが、戦った感じじゃそこまで強くなかったぞ」

「あなた基準ですよねそれ」

「……まあ、そうだな」

 

……少し情報を整理した方がいいかしら。

 

「あと、毛糸なんだが、森にもいなかったら多分地底だ」

「地底……ですか」

 

それは……困った。

あそこには入れない……というよりか、入れたとしても入りたくない…

 

「いつ帰ってくるか分からない状況で頼るってわけにもいきませんし……今回ばかりは自力でなんとかするしかないですかね」

「しかし天狗ってのも随分とお優しくなったな、他所の妖怪の力を借りようとするなんて」

「これは私の独断ですよ、上のお偉い方々は何もしないくせに口だけは出してきますからね。そんなに言うならどうぞご自分でやってくださいって話ですよ、全く」

 

毛糸さんが山の傘下に入ってくれたら全部丸く収まる話なんだけれど……まあそんなこと、うちの偉いのも毛糸さんもお断りか。

 

「それで……なぜあなたがこんなことを」

「あ?色々あったんだよ色々、あのもじゃもじゃが帰ってきたらあいつに聞けばいいさ。それじゃあな」

「はい、ご協力感謝します」

「どういたしましてなのだー」

 

……小さいのになってる。

 

「自在ってわけですか……調子狂いますね」

 

 

 

 

 

 

 

「よっと、準備完了です」

 

準備を終えて、外で待たせていたうづきさんに話しかける。

 

「何してたの。……すごい荷物だけど」

「何って、詰め込みですよ詰め込み。緊急連絡用の端末と、護身用の銃、応急処置のための道具とか、熱源感知——」

「あぁもういいよ、わかった」

 

なんでそんな言い方するの。

 

「何が起こるかわからないですし、備えるに越したことないですよ」

「私も一応射撃の訓練は受けたことあるけど、あれは自分達の身の安全が確保されてること前提で………もし戦闘になっても、私たち河童には何もできないよ」

「諦めたらそこで試合終了ですよ」

「……試合?」

「友達に色々吹き込まれたんですよ」

 

そういえば毛糸さんはどうしてるんだろう……毛糸さんが手伝ってくれたら、もし吸血鬼が来ても何も怖くないんだけど……でもあの人異変で随分頑張ったみたいだし、巻き込むのもなあ……

まあ、頼りきりってのもよくないし、とりあえすあたしはあたしで動いてみよう。

 

「ご友人、必ず見つけましょうね」

「う、うん……ありがとう」

 

何故かは分からないけれど、いつになくやる気が出ている気がする。

 

「さて、まずは情報収集です。……一応改めて聞いておきますけど、何も言わずに居なくなるような方だったんですか?その友人って」

「そんなことないと思う。思うんだけど……」

「………実はですね」

 

うづきさんに、にとりさんから聞いた失踪事件のことをそのまま伝える。あんまり言わないようにとは言われてけれど、目の前にそれで悩んでる人がいるんだから、放ってはおけない。

 

「そんな……じゃああいつはそれに」

「まだそうと決まったわけじゃないですけど……今のこの山の情勢的にそう見て間違いないかと」

「………」

 

目に見えて不安がるうづきさん。

 

「とにかく、その事件の詳細を知りたいので何か知ってそうな人に聞いてみたいと思うんです」

「……そんな知り合いいるの?誰が知ってるかも分からないし、にとりさんもどこにいるか……そもそも私たちに教えてもらえるか」

「それはそうですけど……何もしなかったら何も進展しませんし」

 

とりあえず、普通の河童はこの事件を知らないはず。知っててもうづきさんみたいに被害者の知り合いみたいな感じだろうし……

 

「……あ、あそこ」

「なんです?」

「警備の白狼天狗がいる。事件って言うなら、警備の天狗なら何か知ってるんじゃない?」

「確かに……聞いてみましょうか」

「うん」

 

うづきさんが指を刺した方向にいる白狼天狗の近くに寄る。

 

「……ん?何か用ですか」

 

向こうがこちらに気づいて話しかけてきた。

途端に体が固まる。

 

「えあっ……え、えーと……その……」

「……どうしたの?」

 

そういえばあたし、人見知りだった………

 

「あ……あ……」

「ちょっと、おーい」

「怪しいな……ちょっとこっちまで来てもらえますか」

「えあっあっあ……」

「え?なにこれ、え?」

 

どっどどうしよう不審者扱いされてる……いや実際そうだけど!!

 

「さあ、早く」

「………何やってんだお前」

「…!!そ、その声は……目つきの悪い人!」

 

知ってる白狼天狗の人が来た……!

 

「あ、足臭さん、この変な河童知り合いですか」

「………俺の名前は柊木だ」

「……!?」

「誰?この人」

 

た、助かった……

 

「じゃあこの人たちの対応頼みましたよ」

「おう、ちゃんと俺の名前は覚えとけよ」

「もちろんです足く……柊木?さん?」

「………」

 

………名前覚えられてないんだ。

 

「で、どうしたんだお前。それと……知らない顔だな」

「足臭って……呼ばれてたけど」

「気にするな」

 

うづきさんが柊木さんが足臭と呼ばれていたことに対して疑問に思っているようだ。実際あたしも困惑してるけど……

 

「……ここじゃなんだ、移動するか」

「は、はい」

「気になるんだけど、ねえ、気になるんだけど」

「気にするな」

「気になるんだけど!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その件かぁ〜……」

 

唸るような声を出す柊木さん。

 

「まあ……知ってるなら話すか」

「お願いします、うづきさんの友人を見つけ出したいんです」

「わ、私からもお願いします」

 

目を瞑り、考え込むような素振りをを見せる柊木さん。

 

「失踪事件……それを明確に事件だと捉えてるのは俺含め一部のものだけだ。警備を担当してる天狗には、警戒体制を取れと言う命令だけ下っている。知っての通り、下手に騒ぎ立てるような真似をして逃げられても困るからだ」

「柊木さんはなんでこの件を?」

「面倒くさい立ち位置のやつを友人に持ってるからかなぁ……ははっ」

 

どこか遠くをうつろな目で見つめる柊木さん。

苦労…してるんだなぁ。

 

「で、詳しい概要…と言っても、まだ判明してることもそんなにないんだが……恐らく今回の件、俺たちは吸血鬼が関係してるんじゃないかと踏んでいる」

「きゅっ、きゅきゅっきゅっきゅっ……」

「吸血鬼……」

 

きゅ、吸血鬼……ほ、本当にこの事件に関わっているなんて……

 

「もちろん違う可能性もあるんだが……推測していくと自然と、な」

「そうですか……他にわかっていることは?」

「あぁ、あとは……そうだ、失踪したはずの奴が、数日経って帰ってきたっていう報告も上がってる」

「帰ってきた?」

 

うづきさんが聞き返す。

 

「あぁ、と言っても全員ってわけじゃないし、居なくなってた間の記憶はちぐはぐだったり、全部忘れてたり……おかげで敵の狙いがわからなくてこっちは混乱してるとこだよ」

「あの、その帰ってきてる奴の中に灰色の髪の……しずなって奴はいませんか」

「それが捜してる友人の名前か?あー……あんまりしっかりと覚えてないんだがなぁ……」

「しっかり思い出して!!」

 

声を荒げたうづきさんが柊木さんの頭に手を置く。

 

「……!!お前、今何を」

「記憶を思い出させることが得意なんです、それでしずなは」

「あ、あぁ……残念だが、俺が聞いた中じゃそんな奴は……」

「そう、ですか……すみません急に」

「うづきさん……」

 

肩を落とすうづきさん。

 

「………会ってみるか?帰ってきたってやつに」

「……え?」

 

素っ頓狂な声を上げるうづきさん。

 

「思い出させるのが得意…って言ったよな。そういう能力なんだろう?」

「えぇまあ……本当に思い出させる程度…ですけど」

「ならさっき言った記憶のおかしい奴に会ってみてくれ。帰ってきた奴は念の為に隔離……まあ申し訳ないとは思ってるが、閉じ込めてるんだ。こっちとしても手がかりが欲しい、そいつらの記憶を取り戻してやってほしい」

「うづきさん、出来るんですか?そんなこと」

「た、多分……やってみないとわからないけど」

「なら決まりだ、案内するからついてきてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ。えーと確か……あったあった」

 

河童のある場所ではなく、天狗のいる集落の中にある建物。そこに移動した柊木さんが、棚の中から何枚かの紙と鍵を手渡してくる。

 

「これがここにいる奴らと、失踪したと報告が入ってる奴らを纏めた資料だ。それとここの鍵だ」

 

あたしが資料、うづきさんが鍵をそれぞれ受け取る。

 

「じゃあとりあえず俺はこれで失礼する、何かわかったら教えてくれ。この辺りを回ってると思うから」

「わかりました、ありがとうございます柊木さん」

 

軽く挨拶して柊木さんと別れる。

 

「………目つき悪いけど、結構いい人なんだね」

「良識ある方だと思いますよ、目つき悪いですけど」

 

それで……ここが被害者を隔離してる施設か。

 

「それにしても、何もここまで厳重にしなくてもいいと思うんだけど」

「何か仕込まれてる可能性があるから、だと思いますよ」

「仕込まれてる?」

「はい」

 

まるで独房のようになっている中の様子を歩いて眺めながら話を続ける。

 

「おかしいと思いませんか?何が目的にせよ、一度攫った相手をわざわざ返すなんて」

「それは……良心とか」

「あればいいですけどね、相手にそれが。わざわざ記憶を消して返してるってあたり、何か目的があってやっていることは間違いないと思います」

「……その目的って?」

「それは……わかりませんけど」

 

とりあえず思いついたことを言っただけだし……聞かれても言い淀んでしまう。

 

「あるとすれば……この人たちは既にその吸血鬼の術にかけられていて、何か合図をしたら一斉に暴れ出す……とか。推測でしかないし、なおさら目的が分かりませんけどね」

「とりあえずは思い出させてから……ってことか」

「でもわざわざ生きて返すってことには、何か目的があるってことで間違いはないと思います」

 

一通り見たところで、適当な男性の鴉天狗の入っている部屋の前で立ち止まる。

 

「………うづきさん、あたし人見知りで…」

「あぁ道理で……すみません、ちょっといいですか」

「ん?河童かい?何か用かな」

「あなたも、いなくなってた間の記憶ってないんですよね」

「あぁ、多分ここに入ってる連中はみんな、それの件でここにいると思うけど」

 

恐らく、それぞれ本当に記憶がなかったり、自分はちゃんといたっていう記憶を持っていたりしてるのだろう。

 

「もしかしたら、私の能力であなたの記憶を取り戻せるかもしれないんです。やってみてもいいですか」

「本当かい?もちろんお願いするよ。いい加減こんなところに入ってるのもうんざりしてたころなんだ、助かるよ」

「わかりました、やってみます」

 

そう言って外から鍵を外して中に入るうづきさん。

……ちょっと不用心すぎないだろうか、焦っているのはわかるけれど……

 

「それでは行きますよ…」

 

うづきさんが鴉天狗の人の頭に手を置く。

 

「………どうです?」

「…あぁ、思い出したよ。襲ってきたのは多分吸血鬼で……やつの、狙いは……俺たちの…記憶を……集め……」

 

明らかに様子がおかしい。

 

「…大丈夫ですか?」

「うづきさん離れて!」

「へ——」

「死ね」

 

鴉天狗が短く呟き、うづきさんへ拳を向けた。

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