毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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たまにはやる気を出す引きこもり

 

「……な、なにを…」

「ちょっと体に電流を流して動きを止めただけです」

 

鴉天狗の人が床に倒れたのを確認して、手に持っていたそれを荷物の中に戻す。

 

「今は気絶してますけど…いつ起きてくるかわかりません、早くここから出……」

 

耳に入ってくるのは唸り声、叫び声。

肌に伝わってくるのは明確な殺意。

どこからかなんて考える必要はない、この建物に閉じ込められている全ての妖怪たちからだ。

 

「な、なにこの声」

「わわ、わかりませんけどとりあえず逃げましょう!」

「どうやって!?」

「えーとえーと……あった煙幕!」

 

手に握られたその球体を一つ床に投げつける。

その球体は破裂し、灰色の煙を一気に周囲に撒き散らした。

 

「着いてきてください!」

「う、うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………外はどうなってる?」

「混乱状態…ですね」

 

建物から出てきた後、出来る限りの全速力で逃げて物陰に隠れた。

 

「どうやら、あそこにいた人たちみんな、あの鴉天狗の人みたいになってるみたいです」

「……あ」

「どうかしました?」

 

やってしまった、という感じの顔をしているうづきさん。

 

「鍵……落としてきちゃった」

「あー……多分関係ないですね」

「そ、そうなの?」

「ぶっちゃけ妖怪ならあの程度の檻簡単に破壊できると思いますし」

「そっか……ねえ、さっきのは結局なんだったの」

「それを今考えてるところです」

 

うづきさんが能力を行使した途端に、あの人の様子がおかしくなってうづきさんを襲ってきた。明らかに普通じゃない。

 

「……さっきあたしが言ったこと覚えてます?」

「え?」

「もしあの人たちが吸血鬼の術にかけられてたら…って部分です」

「あぁ、うん、覚えてる」

「多分的中しましたあれ」

「………」

「多分吸血鬼側が、うづきさんの能力で記憶を取り戻したのを察知したんだと思います。それで、あたしたち2人を始末しようと……」

 

吸血鬼がそんなことできるのかは知らないけれど……異変も時も眷属ってのがたくさんいたし、あの人たちも眷族と似たようなものに転化してしまったと考えれば……

 

「これからどうするの…?」

「あの暴れてる人たちの目的は十中八九あたしたちです。ここは天狗の人たちが多いですから、あの程度の騒動なら簡単に収まると思うけど…」

「けど……?」

「目を閉じてください」

「え?」

 

背中の荷物からまた一つ、違う種類の球体を取り出して後ろの方へ投げる。

後ろから近寄ってきていた人影に接触した瞬間、それはまばゆい光を放ってその相手の視界を奪った。

その隙にさっき鴉天狗の人に押し当てたのと同じものを取り出して、その人影に押し付ける。

 

「なに!?なに!?なんなの!?」

「白狼天狗……ですね」

「え?え?さっきのとこにいた?」

「いえ、この人はいなかったはずです」

 

刀を持ってこちらに近づいてきていた。もちろんそれだけで敵と判断ことはできないけれど……明確な殺意をこちらに向けてきていた。

 

「いなかったって……じゃあ一体」

「失踪してなかっただけで、吸血鬼に襲われた人はもっとたくさんいたってことだと思います」

「それって…」

「ここも危険です、移動しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん………うーん………」

「まだ思いつかないんですか、名前」

「ぜんっぜん……ぜんっぜん思いつかん……」

 

今で何日目だっけ……地底にいると日付感覚が……

 

「い……い……イノツェン」

「駄目です」

「はい………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「移動するって……にとりさんの工房じゃん」

 

できる限り誰とも接触しないように、河童の集落へと戻ってきた。

 

「なんでここに?」

「設備が整ってるからです」

 

ある一件以来、河童の集落の建物も頑丈に作られている。天狗の集落の方で起きた騒動はすでにここまで伝わっているらしく、白狼天狗が警戒態勢になっていた。

 

「中へ」

 

工房の中にある扉の暗証番号を入力して、うづきさんを中に入れる。

 

「ここは……」

「特に名前はないです、色々ある部屋です」

「あぁそう……なんだってるりがこんなところを」

「色々あるんです」

 

柊木さんからもらった資料を手に持って、コンピュータを起動して監視カメラの情報にアクセスする。

 

「ちょっとこっちきて手伝ってくれますか」

「え?何を?」

「この資料の情報と監視カメラに写ってる情報とを照らし合わせて、敵の今のおよその位置を何とか絞り出そうと……とにかくこっちへ」

「わ、わかった」

 

失踪して帰ってきた人たちの所属している場所と、いなくなっていたおよその時期とカメラに映っている情報を出して、詳しい時系列を弾き出していく。

 

「……やっぱり」

 

ついでに何かの資料はないかとコンピュータ上を漁っていると、おそらくにとりさんか誰かがまとめたのであろう失踪者の情報が入っていた。

 

 

それなりの時間を費やしながら、失踪者がいなくなった時期を具体的に出して行って、場所と日にちを一緒にして出していく。

 

「………やっぱり」

「これは……」

「うづきさん、あの鴉天狗の人あの時なんて言ってましたっけ」

「え?たしか記憶を集める……とかなんとか」

「……やっぱりそうだ!」

「じゃあこれは本当に……」

 

画面上に出ている情報を改めて視界に入れる。

 

「まとめます、まず最初の失踪事件の被害はさまざまな場所で起きていました。山の東西南北さまざまな場所で、です」

「それが段々と山の中枢部分……この辺りに集中していく」

「そうです、そしてあの人が言っていた、自分たちの記憶を集めて…という部分。推測するに、敵がしたかったのは情報収集なんだと思います」

 

この山のどこに何があって、誰がいるのか。

この妖怪の山という組織を崩すためなのか、乗っ取るためなのか…その目的はわからないけれど、襲った相手から情報を集めているのは確か。

 

「最初はまばらだった事件の分布も、段々と山の中枢部分に集中していき、直近では……」

「この…河童の集落に偏ってきてる」

「おおよそ、狙いは読めました」

「河童の技術を狙ってる……ってこと?」

「だと思います。……多分」

 

ただ、この河童の集落にはさまざまなものが混在している。使えるものから全く使えないものまで、色々だ。

相当情報収集には時間と労力をかけたはず……

 

「……ねえ、今更なんだけどさ」

「なんです?」

「なんで…あなたがこんなのがあることを知って……」

「あー……まー……」

「それだけじゃない、色々なことを知りすぎてる。一介の河童が知っている情報量じゃない。あなた一体……」

「………色々です」

「はぁ」

 

なんでこんなことを知っているか…と言われても、にとりさんと知り合いだからとしか言えない。

本当にそれだけだからだ。

 

「……とにかく、あたしたちも動きましょう」

「動くって……何をするつもり」

「決まってるじゃないですか」

 

降ろしていた荷物を改めて背負う。

 

「人捜しですよ」

「それは……今そんなことしてる状況じゃ」

「いえ、今ですよ。相手の狙いと今いるであろう場所を推測できてるのは、多分あたしたちだけです。吸血鬼に襲われた妖怪全員が今こうやって暴れてるとも限らない。今あたしたちが分かった状況を流したとして、情報網に吸血鬼の手先がいたら、逃げられてしまう可能性が高くなる」

 

それに、これだけ大きなことをしでかしたということは、相手の計画も最終段階に入ったということ……もしくは、うづきさんの能力によって狙いを見破られ、焦って大暴れした…か。

 

「今、吸血鬼を追います。そしてうづきさんの友達も捜します。今あたしたちが動かなければ状況が悪化するかもしれない。誰が操られているか分からない以上、下手に協力を求めることもできない。あたしたちで、やるしかないんですよ」

「……なんでそんなに勇敢なの」

 

勇敢……?

 

「この足が勇敢に見えますか」

「足?」

「見てくださいよこれ、とんでもなく震えてるじゃないですか」

「……生まれたての子鹿みたい」

「あたしだって怖いんですよ……でも、やるんです」

 

誰にも頼れない状況になると、案外肝も据わるものだ。

 

「もう日が落ちてます、危険ですけど、吸血鬼が活動するのはこれから。仕留めるなら今夜中です」

「……わかった、手伝うよ」

「ありがとうございます……すみません、巻き込んじゃって」

「巻き込んだのはこっちだよ」

 

……1人、頼れる人がいるけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう状況なんだよこれ!!」

「言ってないで身体を動かしてください」

「動かしてんだろうっがぁ!」

 

切り掛かってくる同族を、殺さないように気をつけながら意識を奪っていく。

 

「正気じゃない……ですね」

「この様子だと……何らかの方法で精神を掌握されてるって思った方がいいかな。想定以上の数だけど……」

 

いつのまにか文さんとにとりさんが近くにやってきていた。

 

「文さん、毛糸さんは」

「今留守ですって」

「こんな時にいないんですか……まあ仕方ない」

 

そもそも関係ない者に頼るのが間違いか。

頼るというか、面倒臭いからあの人にまとめて吹き飛ばしてもらいたいだけなんだけれど。

 

「で、今の状況何がどうなってんだ」

「吸血鬼に襲われて何らかの方法で操られた者たちが暴れてるって思っていいでしょう」

「にしては多すぎんだろうが」

「それだけ密かに襲われてたってことですよ」

 

柊木さんは弱腰だが、数自体はそこまで多くない。

何が厄介かって、殺さないということだ。あっちは殺しにかかってくるのに、こっちは四肢も切断せずに動きを止めるか、意識を奪うかしなければならない。

面倒臭いことこの上ない。

 

「……数人死んでも事故で片付けられますよね」

「やめろよ、お前本当にやめろよ」

「冗談ですよ」

「それより二人には向かって欲しいところがあるんだ」

 

にとりさんの声を聞いて、その顔を見る。

深刻な顔だ。

 

「これだけの騒ぎを起こしてきたっていうことは、相手はこの騒ぎに紛れて何かを狙っているはずなんだ」

「何かって……なんです」

「いくつか候補はあるけれど……まずはこの山の上層部……大天狗や天魔様の命とかだ」

「それは本人達に自衛してもらえればいいので他を優先しましょう」

 

…文さん、最近上層部に対しての当たりが強い。

 

「それで次が河童の倉庫だ」

「…なるほど、あそこには色々詰まってますからね……価値のないものからとんでもない兵器まで」

「つまり、私と柊木さんはそこへ向かえばいいんですね」

「あぁ、頼むよ。他の河童たちも心配だし」

「……あ」

 

柊木さんが何かを思い出したように声をあげる。

 

「そういやあの引きこもり見てないな……戻ったのか?」

「るりが?ここは来てたの?」

「あぁ、失踪事件について調べてたみたいで…」

「それを早く言えよっ!!」

「え?あ、すまん」

 

にとりさんの突然の大声に柊木さんがたじろぐ

 

「もしかしたら何かに気付いたのかもしれない……なおさら心配だ、全速力で向かってくれ!」

「わかりました、行きましょう柊木さん」

「あ、あぁ……」

 

剣を納めて河童の集落の方へ向かう。

 

「急に怒鳴るなよ……色々あって忘れてたんだよ……」

「じゃあそれ今から戻ってにとりさんに言えばいいじゃないですか」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここか」

 

随分と手間がかかった……入り込む前に記憶を奪って情報を集めていたのはいいが、いささか、ここの連中は情報伝達が悪すぎやしないか。

個人個人が知ってる情報が少なくて、ここまで辿り着くのに時間がかかった。

 

訳の分からない奴に、眷属にした奴が干渉されたのを感じて一気に騒ぎを起こしてそのままここへやってきたが……

 

「……誰かい——」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「受け止められた……!?」

「片手で何食わぬ顔で掴んで……想定はしてましたけど、うんざりしますね……」

 

やっぱり、吸血鬼異変の時にやってきていた有象無象とは格が違う……

 

「次はどうするの…?」

「今の銃弾で頭を貫けたらよかったんですけど……ちゃんと不意をつかないとどうしようもなさそうですね」

 

となると、本当にやるしか……

 

「はあぁ……この状況で妙に落ち着いてる自分が怖い……」

「で、次は!?」

「大声出すと見つかりますよ……」

 

物陰から狙撃銃で狙った直後からすでに場所は移動しているが、見つかって接近されたら一巻の終わりだ。

 

「ここからは進路を予測する……いや、誘導して行きましょう」

「誘導して……?」

「この倉庫ごと爆破するのもいいかも」

「……冗談?」

「本気です」

 

仕込みはもう既に終わっている。

 

「こっちは映像で相手の位置を……あ、カメラ壊されてる」

「駄目じゃん……」

「ま、まあ予想はつきますよ」

 

とりあえず手に持ったスイッチの一つを押す。

これは侵入者撃退用で、登録された者以外を検知すると……

 

「……ん?」

 

その間に向かって機関銃を弾が切れるまで乱射する。

吸血鬼の疑問符を浮かべた声をかき消すように、銃声が辺り一体を包む。

 

「どんな設備だよ……」

 

うづきさんがそう言ったのも束の間、銃声がやんだ。

 

「……壊されたっぽいですね、機関銃」

「どんな妖怪だよ……」

 

同感です……

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