毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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引きこもりもやる時はやる…はず

 

「畳み掛けましょう、煙幕と毒煙と硫酸と——」

「だからどんな設備!?何を想定してたの!?」

「侵入者です」

 

そもそもあたしが設計した訳じゃないし……

 

物影から吸血鬼の様子を伺う。

 

「……焼けるな」

 

硫酸は焼けるな、の短い感想、毒煙は聞いてる様子なし……

 

ついでなので銃弾を数発打ち込んでおく。

 

「ぐっ……」

 

当たった、これ当たってる。

持っててよかった熱感知スコープ、おかげて煙幕で見えなくても銃弾が正確に撃ち込める。

 

「移動しましょう」

「なんで、このまま撃ち続けたら…」

「こっちが撃つってことは居場所を知らせてるのと同じなんですよ」

 

さっきまでいた場所を妖力弾が通っていく。

 

「連結してる隣の倉庫へ誘導します」

 

そう言ってまた別のスイッチを押す。

倉庫の天井に取り付けられていた爆弾が起爆し、瓦礫を降らせていく。

 

「本当に爆破すんの!?」

「どうせ価値のないごみばっかじゃないですか!」

「それは……そうだけども!」

 

爆音に紛れて急いで移動する。

 

「チィッ」

 

舌打ちをしながらちゃんと隣の倉庫へやってきた吸血鬼の足に、一発ずつ銃弾を撃ち込む。

膝を狙って歩けないように。

 

「次はこれ…」

 

また一つスイッチを押す。

天井に格納されていた武装した機械人形が落ちてきて、吸血鬼を視認、敵と判断して戦闘態勢に移行する。

 

「あんなものまで……」

「あれもただのごみです」

「えぇ!?」

 

武装してるのはいいが、歩くのが遅すぎて簡単にバラバラにされてしまう。

 

「っ!?」

 

実際は機械の人形の形をしたただの歩く爆弾なのだけれど。

また、盛大な爆音が上がる。

 

「爆弾ばっかじゃん!!」

 

近場にあった筒状のものを敵の方に放り投げる。

爆煙の中からでもちゃんとそれに反応して、真っ二つにした吸血鬼。

 

「それも爆弾です」

 

それに遅れるように投げた閃光弾が爆ぜて、目を塞ぎたくなるような光があたりを照らす。

 

「くっ……小癪な——」

 

接近し、散弾銃を至近距離で相手の頭に向かって撃ち込んだ。

どうなったか判断する前に手榴弾を三つほど置いて距離を取る。

 

「ふぅぅ……緊張したぁ…」

 

連鎖するような爆発が周囲に響く。

 

「む、無茶するね……」

 

うづきさんの呟きを無視して腕を引っ張って倉庫から離れながら、スイッチを押す。

あの倉庫はもともと爆弾や爆薬が集中的に保管されている倉庫、誘爆が誘爆を起こして、衝撃が建物を離れたあたしたちにもやってくる。

 

「伏せてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……収まったみたいですね」

「とんでもない爆発だったけど……奴は」

「見てみま……あ、今の衝撃でスコープ壊れた……」

「……」

 

気を取り直して周囲の様子を伺う。

一応あの倉庫はある程度の衝撃に耐えれるように頑丈に造られていたはずなのだけれど……見る影もない。

 

「……居ました」

「あいつが……っ」

 

あたしが手に持っていた散弾銃を奪って、瓦礫に埋もれている吸血鬼に向かって歩き出すうづきさん。

 

「河童ってのは恐ろしい奴だな……大して強くないくせに、小手先が器用なだけでこんなことまでしてみせる」

「答えろ」

 

吸血鬼の眼前に銃口を突きつけるうづきさん、切迫した様子で声を荒げている。

 

「そいつから離れてください!」

「お前が襲ったんだろ、あいつを」

「あいつぅ?どいつのことだ?一度冷静になった方がいいぞ」

「灰色の髪のっ、私より背の低い河童だよ!」

「……あぁ、そいつか。そいつなら——」

 

薄気味悪い笑みを浮かべる吸血鬼、なんとなく嫌な予感がして、うづきさんに走って近寄る。

 

「——もう、喰っちまったよ」

「っ!!うあああああああああ!!」

 

散弾銃を何度も何度も相手の顔面に向かって撃ち続けるうづきさん、あたしは彼女に飛び込んでそれをやめさせる。

 

「チッ」

 

彼女がいた場所は真っ黒な爪ようなものが瓦礫の中から伸びてきていた。

瓦礫から奴が這い出てくる前に煙幕を張って、こちらの姿を隠す。

 

「あ……あ………」

 

糸が切れたようにその場に座り込んでいるうづきさんから散弾銃を取り上げて弾を再装填、他にも持っている限りの銃火器を取り出してあたりに撃って近寄らせないようにする。

 

「立ってください、うづきさん」

 

銃声の中、落ち着いて語りかける。

 

「あたしは、友達こそ居ますけどそれを失ったことはないです。だから、うづきさんの気持ちが分かるなんていうつもりはありません」

 

あの吸血鬼が言っていることが本当とも限らないが、そこまで考えていてはキリがない。

 

「けれど、今は立ってください」

「………」

「辛いし、悲しいし、怒りも湧いてくると思います。他にも無力感とか、喪失感とか……でも、それは後にしてください」

 

今はそんな暇はない、自分が生き残ろうとするので精一杯だ。

 

「あいつをどうにかして、全部終わった後に、いっぱい泣いて、いっぱい悲しんで、いっぱい怒りましょう」

 

うづきさんに向かって飛んできた妖力弾を狙撃銃で相殺する。

 

「その時はあたしも、いっぱい付き合います」

 

できる限りの穏やかな表情を作って、手を差し伸べる。

 

「……強いね」

「あたしなんか全然ですよ」

 

まだ立ち止まるには早すぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙幕の中からどうにかして身を隠して、作戦を練った後それぞれの位置についた。

 

「……聞こえてますか」

『うん、大丈夫』

 

無線通信機越しにうづきさんと会話をする。

彼女が光学迷彩に精通していてよかった。

 

「それじゃあ手筈通りに」

『わかった、気をつけて』

 

通信を切って、さっきうづきさんに思い出さしてもらった記憶を改めて振り返る。

 

「あそこはああで……そこは……」

 

頭の中で模擬的な思考を巡らせる。

失敗はできないから、時間の許す限り綿密に。

 

「……そろそろこっちも限界ですかね……」

 

手が震える、息が荒くなる。

迫ってくる命の危機と緊張感でどうにかなりそうだ?

 

でもそれは後。

 

こちらに近づいてきた吸血鬼を足音で判断し、作戦を開始する。

 

煙幕を周囲に張って、こちらを視認されないようにする。

 

「……一人か、さっきの奴はどうした」

「答えて何になるんです」

 

相手の問いにそれだけ返して、火炎瓶を煙幕の中から投げつける。

 

「こっちだって時間がない、お前らみたいなのの相手をいつまでもしてるわけにはいかないんだが、なぁ!」

 

こっちに向かって放たれた妖力弾を避けて、拳銃で牽制をかけつつ距離を取る。

 

「さっきから思ってたがお前、随分と戦い慣れてるみたいじゃないか」

 

まあ、普通の河童よりはそういう機会が多かったことは認める。

当たれば肉が弾け飛ぶような妖力弾を交わしつつ、銃弾で牽制をかけて距離をとり続ける。

 

「ずっとそうさせると思うか?」

 

高速で接近してきた吸血鬼、こちらに伸ばしてきた爪が当たる前に溜め込んでおいた衝撃を相手に向かって放って、怯ませるのと同時に大きく吹っ飛んで距離を取る。

 

「チッ、器用な真似を」

「河童はそれが取り柄なので」

 

転がって受け身を取りながら再度銃口を相手に向ける。

狙われるのに嫌気がさしたのか、正面にだけ障壁を張った吸血鬼。

 

即座に周囲の構造を目視で分析し、引き金を何度も引いた。

 

「ぐっ……こいつ!!」

 

明らかにあたらないであろう場所へ飛んでいった銃弾は、硬い壁などで跳ね返り吸血鬼を正面以外から何度も貫いた。

 

近くに積んであったきゅうり臭拡散爆弾を掴んで相手の方に投げ、さらにもう一度煙幕を張る。

 

「……なるほど、お前だったのか」

「……は?」

 

あいての突然のつぶやきが理解できずに、思わず言葉を発してしまう。

 

「今まで、この集落の情報全てを持っている者を探そうとしていた。だが、何人襲って記憶を抜き去っても、その目的の人物にたどり着くことは決してなかった」

 

やはり狙いはそれで……

 

「お前はさっきからこの場所にやたらと詳しい。それはつまり、お前がこの場所にあるもののほとんどを把握しているってことだろう、違うか?」

 

違わない。

確かにあたしは報告書に一度目を通して、保管状況なの把握していた。といっても、それらを思い出せたのはうづきさんの能力のおかげなのだけれど。

 

「決めたよ、お前は殺さずに俺の眷属にして、情報を搾り取れるだけ搾り取って捨ててやるよ」

「お、お手柔らかにお願——!?」

 

急に伸びてきた爪を回避したと思ったら、一瞬で背後に回られていた。反射的に銃身を背中に回して防御する。

崩れた体勢に大きな衝撃が加わったことで、体が大きく吹っ飛ぶ。

何度も床を跳ねながら、目標の地点から離れないように、そして追撃を受けないように爆弾を転がりながら投げて自分の体を吹っ飛ばす。

 

「死なれたら困るんだがなあ」

 

捕まらないようにと逃げてはいたけれど、簡単に捕まってしまった。

ジンジン痛む身体を無理やり動かされて拘束される。

 

「さて、今から記憶を……なんだその顔」

「いや……光学迷彩って本当に見えないんだなあ、って」

「は?」

 

拘束されながらもわずかに手を動かして、吸血鬼の方向へさっきの爆弾で食らって溜め込んでいた衝撃を放つ。

 

「電磁加速砲って、知ってます?」

 

光学迷彩によって隠されていた、その巨大な砲身。

大気を震わすような衝撃が起こり、閃光と共に放たれた超速の弾丸が放たれ、あたしから放たれた衝撃で浮かされた吸血鬼に当たった。

 

弾丸が放たれた瞬間に周囲に衝撃波が巻き起こり、吹き飛ばされて転がりながら壁にぶつかる。

 

「や、やったの……?」

 

隠れていたうづきさんが、吸血鬼がいなくなったのを確認して出てくる。

 

「わかりません…けど、確実に当たりました」

「そっか……その傷、大丈夫なの?」

 

そう言われて改めて自分の身体をよく見ると、至る所から血が流れ出て、肉が抉れてる場所もいくつかあった。

 

「正直痛みで気絶しそうですけど……前は全身の骨が粉々になったので、それに比べればなんとも」

「何があったの…」

「そんなことより敵がどうなったのかの確認を……いや。

 

生きてたか。

 

 

「ククッ……ハハハハ!死ぬところだったぞ貴様ら!」

 

視線を向けたその先には、左上半身が丸々吹き飛びながらも確かに二本の足で立っている吸血鬼の姿だった。

 

「そんなものまで隠し持っていたなんてな……だが残念、見てのとおり生きてる」

 

みるみるうちに身体が再生していく。

これだから再生する奴は……殺しても死なないような人ばっかりだ。

 

「そこのお前はどうでもいいが、紫の髪のお前はきちんの記憶を搾り取った上で殺してやるよ」

「この……化け物」

「そうだ、もっと怯えろ……」

「……ふふっ」

「……何笑ってる」

 

苦しそうな表情をしているうづきさんとは対照的に、あたしから思わず溢れた笑いに、吸血鬼が不快そうな反応を見せる。

 

「いや……安堵の笑みですよ」

「は?」

 

そう言った瞬間、吸血鬼の背後から二つの人影がやってきて、その背中を切り付けた。

 

「ぐっ……」

「間に合ったみたいだな」

「随分派手にやったもんですね」

 

たまらずに距離を取る吸血鬼、そいつとあたしたちの間に挟まるように、その二人が立つ。

 

「ありがとうございます……柊木さん、椛さん」

「あぁ?ただの白狼天狗二匹か……」

 

不快そうな表情を崩さない吸血鬼。

 

「生憎ですが、ただの白狼天狗の二人じゃないですよ」

「一緒にすんな」

「足臭って呼ばれてるあたりが普通じゃないですよね」

「それはお前らのせいだ」

 

軽口を叩き合いながら構えをとる二人。

 

「……逃げるか」

 

そう呟いて、今まで出ていなかった翼を伸ばして空へ飛び立とうとする吸血鬼。

いそいで近くにあった狙撃銃を握って、翼の付け根を狙撃する。

 

「チィッ!!」

 

地へと堕ちていく吸血鬼を二人の白狼天狗が狙う。

 

「ねえ、私は何もしなくていいの?」

「はい。もう、あの二人に任せておけば……あんし……」

 

二人の姿を見た安堵からだろうか、どっと疲れが押し寄せてくる。

 

「ちょっと!?」

 

うづきさんに抱えられながら、そのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、気絶したみたいですよ。私たちも負けてられませんね」

「張り合うつもりはないんだが……よくやったよ、あいつは」

 

相手の攻撃を避け、受け流しながら斬り込む機会を窺う。

たった二人の河童が、誰よりも早く吸血鬼の狙いに気付き、今の今まで相手をしてくれていた。

こちらも二人だが、相手は既に大分消耗している、負けてはいられない。

 

「しっかし……斬ったところから再生しやがる、これじゃキリがないぞ」

「柊木さん、よく考えてください」

「はあ?」

 

私のその声に柊木さんが顔を向ける。

 

「確かにあの再生はやっかいです。けれどキリがない、なんてことはありません」

「………あ」

「毛糸さん基準で考えたらだめですよ」

「あのもじゃもじゃめ……いないけど」

 

そう、本来肉体の再生とはそれなりに消耗するはずなのだ。現に目の前の吸血鬼も再生するたびに苦しそうな表情になっていく。

毛糸さんなら無表情でやってるところだ。

 

「こそこそ喋ってんじゃねえ!!」

 

吸血鬼から妖力弾が周囲に大量にばら撒かれる。

相手の姿を見るに、体の一部をまるまる吹き飛ばされて、あとから再生したように見える。

るりさんたちが削ってくれた証拠だ、本当によくやってくれる。

 

「相手本気出してきますよ」

「わかってる」

 

この状況から脱するために、本気で私たちを殺そうとしてくる。相手も本当に追い詰められてきているということだ。

 

「逃す手はないですね」

「あぁ」

 

柊木さんが先行して、相手の懐に入り込む。

 

「甘いんだよ!!」

 

そう大声で叫び、柊木さんを爪で貫こうとする吸血鬼。

だが、硬いものにぶつかるような音がしてその爪は弾かれた。

 

「お前——」

「隙あり」

 

動揺している吸血鬼の背中から、心臓のある位置を狙って剣を突き刺す。

 

「あぐぁっ」

 

そう叫んだ瞬間に、柊木さんの剣が振るわれてその首を捻じ切った。

 

「楽勝だったな」

「えぇ」


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