毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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前夜

「おー、ついに完成しましたね。よくできたんじゃないですか?」

「よくできた………?いや、これ、豆腐………」

「いいですか?この世にある家なんて、ほぼほぼ豆腐がちょっと出っぱってたり上になんか乗ってたりするんです、豆腐こそ原点なんです」

「そーなのかー………いや、でもこれ紛れもなく豆腐だよね、出っぱってもないし何か乗っかってるわけでもないし、純粋なる豆腐だよね」

「いいじゃないですか、豆腐、私は好きですよ」

「違う、そうじゃない」

 

だってこれ………豆腐じゃん。

いやこれ………100%豆腐じゃん、私は揚げ豆腐が好きです。

 

「なんなんですか不満そうですね………じゃあ煙突つけたらどうです?何気につけ忘れてますし」

「あ、ほんとだ、忘れてる。いやでもそれ、結局豆腐にきゅうりが刺さっただけじゃない?」

「もーうるさいですねぇ、内装は良いじゃないですか」

 

内装は、ないそうですけど。

うんまぁ、台所とか洗面所とか、将来的につけようとか思ってスペース開けてるから内装はないんだけどね。

 

「はぁー、ここまで何日くらいでした?結構ずっとやってましたよね」

「あぁ、多分二、三週間くらい?まぁこの豆腐なんだからそんなものだと思ってたけどね」

「じゃああたしももう帰るってことですね………ひぃ、またあたしを誰かに踏みつけられて無惨なことになった虫みたいに見てくるんだぁ」

「逆にそれどんな目だよ」

「よぉ、終わったんだな」

「ぴぎゃ」

 

背後から突然声がした。

振り向くと柊木さんがいて、これまた悪い目つきで豆腐ハウスを見つめていた。

気配消すのうまいっすねぇ、さすがは妖怪の山の警護を担っている白狼天狗、することがアサシン。

 

「そろそろ終わると思ったから、そこの河童持ち帰りに来た」

「柊木さん、女の子を持ち帰るとか意外にプレイボーイねぇ」

「なんの話だよ」

 

確かに柊木さん、目つきどうにかしたらモテる、気がする、だけだよ。

 

「るり、迎えが来たぞ、よかったな」

「………」

「おーい、聞いてますかぁ、大丈夫で——な!?」

「おい、どうかしたのか、大丈夫か」

「気絶している………立ったまま………」

「なんで!?」

「まぁちょうどいいや、この生きるしかばねもって帰りなよ、その方が楽でしょ、ひいひい言わなくてすむじゃない」

 

気絶してるやつの肩を持って霊力を流し込み浮かせる。

人一人分だったらこのくらいでも足りるだろう。

 

「ほら、行きなよ」

「お、おう………あれ、軽いな」

 

何回か持ち直して浮いていることに気付いたらしいけど、深く考えるのをやめて帰っていった。

今回はため息しなかったなぁ。

もしかしてあれ、後ろから突然声がしたから気絶したの?弱すぎ。

 

 

 

 

「ここがあたいの城か!」

「ちげーよ、私の城だよ」

「そーなのかー」

「城とは到底呼べない気がしますけど………まぁ立派なんじゃないですか?」

「あぁ、大ちゃんの心遣いが辛い」

 

せっかく家できたので、大ちゃんを呼んだらチルノとルーミアがくっついてきた、なんでやルーミア関係ないやろ。

 

「人肉があると聞いて来たのだー」

「無いわ、そんな恐ろしいもんないわ」

「あたいはあたいの城ができたって聞いたから」

「お前の城じゃない、私の城、でもないな、これは私の豆腐だ!」

「とうふ?なんなのだそれー美味しいのかー?」

「おう美味しいよ!私は揚げ豆腐が好き!」

「あげ……よくわからん!だけどここはあたいの城だ!」

「城ないよチルノちゃん、ただの一軒家だよ」

 

騒がしい………他の妖精たちまで一緒に連れてこなくてよかった。

この家、そこまで狭くはない。

だが、簡単に釘を打っただけの木製なので、そこまで強度がないのだ。

多分貧弱な私でも頑張ったら床くらいは穴を開けれる。

 

「お、ここはなんだ!?」

「囲炉裏」

「ここはっ!?」

「寝室」

「むこうは!?」

「ちっさい倉庫」

「あそこは!?」

「屋根裏」

「屋上じゃないのか!」

「だってまだ屋根ないもん」

「じゃこっちはぁ!?」

「肉とか乾燥させるとこ」

「肉?肉どこにあるのだー?」

「反応してくんなこの人喰い妖怪め!ってかお前らはしゃぎすぎ!こんな何もない家のどこにそんなはしゃぐ要素があるっていうんだ!」

「まともな家ってこの辺の近くだとほとんどないんです。人里は私たちみたいなのは入れませんから興奮してるんでしょう」

 

冷静に分析しないでくれない?

というか、このガキども落ち着かせてくれないかなぁ。

 

「おいひふはいほはー」

「あ、ちょテメェルーミア!なに机齧ってんだやめろ!」

「あー………」

「うーわ歯形ついてる、どんだけ顎頑丈なんだよ」

「おっこっちはなんだ!」

「あ、そっち洞窟!ってかウロチョロすんなよ!あ。おいルーミア机齧るなっていってるでしょーが!そんなもの食べちゃいけません!」

「あー………」

 

もうやだこいつら………

微かに声が聞こえて振り向くと、こちらに背を向けている大ちゃんの肩が震えている、どうした?

 

「どうしたの大ちゃん、何かあった?」

「いや、あの………ふふっ、なんだか毛糸さん、親って感じしますよね」

「親?」

 

・・・

はあ?

………はぁ?はぁ!?はあああああ!?

 

「ないないないないないない、ワタシロリコンジャナーイ、しかも、あんなバカと!?恐ろしい人喰い妖怪の!?親ぁ!?ないないない絶対ない断じて認めない」

「すみません例えです落ち着いてください」

「そうだぞ、一回頭冷やすんだぞ」

「冷やすのだー」

「お前らに言われたくないんだよ!この脳味噌トロトロコンビが!」

「脳みそとろとろ………美味しくなさそうなのだー」

「何でもかんでも食べる話に結びつけないでくれないかなぁ!」

「目玉はおやつなのだー」

 

おやつぅ!?おやつって目玉ぉ!?怖いわ!なんで目玉がおやつなんだよ!スナック感覚ですか!スナック感覚でサクサクいっちゃってんのか!美味しいのかそれぇ!いや、美味しいから食べてるんだろうけど!!え?なに?………おまっマジかよ!それ食べちゃったの!?大丈夫なのそれ!ってかキモいわ!え?不味かった?でしょーね!そんなもの食べて美味しいわけがないもんね!ちょ、変な想像が………いやああああああ!誰か私の脳味噌溶かしてえええ!!

 

 

「はぁ、はぁ、ふぅ………ってかいつになったら帰るんだよ」

「何言ってるんだここはあたいの城だぞ」

「人肉ー」

「振り出しに戻ってるよ二人とも、迷惑だしもう帰ろう?」

 

チルノは渋々、ルーミアは残念そうにしながら、扉を開けて出て行った。

 

「では、お邪魔しました」

「うん、またね」

 

ちゃんと挨拶ができるの偉いなー。

あの二人をまとめるなんて流石大ちゃん、頭の作りが違う。

 

「………急に静かになったな」

 

何か食べるものがあったらあの二人ももうちょっと落ち着いてくれたのだろうか、茶もないからね、毛玉しかないからねこの家。

河童のところへ行けばなにかしらあったのだろうか、私だって美味しいものでお腹満たしたいもん。

 

とりあえずあれだなぁ、屋根つけないとなぁ。

なんで屋根ないかって、洞窟と引っ付けたせいでいろいろ面倒くさいからなんだよね。

何が面倒くさいかって、ほらあれ………あぁもう考えるのもめんどくさいよ。

それからもう一回山に行って、河童のとこ行くでしょ?

そして火打ち石とか調理道具とか………あ、そうだ塩とかあるかな。

味気ないのはもういい加減飽きたんだよ。

それからあれだ糸とか針とかその辺のちっさい細々としたものももらっておかないとなぁ。

 

あーあ、やること多すぎてもう………

ねみぃ………………

 

 

 

 

んぁ?寝てたか、外はもう暗いからそこそこな時間寝てたらしい。

いやぁもう面倒臭すぎてふて寝しちゃったね、何が面倒なんだっけ、あぁもう考えるのも面倒くさい。

 

「———」

「———!」

「———………」

 

なんかうっせぇ。

頭痛い………家の前?またチルノとルーミア?勘弁してくれ。

わたしゃ疲れたんだってばよ、騒がないでくれ………

 

「———でしょう!?」

「落ち着いてください斬りますよ」

「お前が一番落ち着けよ」

 

なんか………どっかで聞いたような声が………おいおいおい、そりゃあないよな、流石にそれはないよな。

クラクラする頭を抱えて、扉をゆっくり開く。

 

「ひゃっほーう!」

「駄目ですねこれは完全に酒に飲まれてますね、せめて私の手で」

「早まるなっていってんだろ、飲まれてるのお前な」

「人んちでなにしとるんじゃおどれらはぁ!?なにパーリナイしてんだよ!ってかなにしにきたんだよこの馬鹿天狗ども!」

 

あれ?ここ私の家だよね、なんで天狗どもがいるの?なんで天狗どもが人の家の前で酒飲んでパーティーしてるの?えっえっえ、なんで?

 

「いやぁさっき呼んだんですよぉ?でもぉ返事がなくってぇ、先に私たちで始めちゃおうかなぁとぉ」

「なにその喋り方やめてくんない、腹立ってくる。つかなに、なんの話だよ、誰の許可とって人の家の前ではしゃいでんだよ」

「そぉ怒らないでくださいよぉ、ほらぁあなたも一杯」

「いるかボケェ!この酔っ払いカラスが!酒臭いわ!」

「毛糸さん、そりゃないですよ、乙女に向かって酒臭いはないですよぉ」

 

自分で自分を乙女言う奴は真の乙女ではない、ただのぶりっ子だ。

そしてなに酒瓶ラッパ飲みしてるのかなぁ、そこのケモ耳娘はぁ。

 

「言ったでしょう文さん、迷惑だって、ひっく、それに私も酒はそんなに好きじゃなひっく」

「飲んでたよね、今ラッパ飲みしてたよね、そして今凄い酔ってるね」

「すみません、お詫びとしてこの足臭同僚ひっく、腹切りますんで」

「おい、なんで俺が腹切らなきゃいけないんだよ、後足臭くねぇし」

「貴方は切りませんよ私が貴方の腹を切るんです」

「お前一回顔洗ってこい………」

 

せめて自分が代償支払えや、人の腹使って詫びるなや。

つーかなにこのカオスゥ、どーしてこーなった。

 

「いやぁそこの柊木?って人が伝え忘れてたみたいでさ、もともと山で小規模に飲む予定だったんだけど急遽こっちに変更したってわけ」

「にとりん………止めろや!」

「いや、私もさっき知った、誘われたから来ただけだよ」

 

あ、柊木さんが白刃取りしてる、すごーい。

じゃなーい、止めないと、ふて寝して夜に起きたらこれって、とんだカオスだなぁおい!あれ、椛もしかして吐く?吐くぅ!?ちょっとまってうちの家の壁には——

 

「いやああああああああああああ!!」

「あー綺麗にかかっちゃったね、いつもより飲みすぎちゃったねー水飲む?」

「あぁ、すみませんどうも………」

「おまっ、どうしてくれんねんこれ!おまっ、これっ、壁が、壁がぁ!つかくっっさ!」

 

うわぁ最悪だぁ、新築にもう傷がぁ…豆腐にゲロがぁ………

 

「まぁまぁ、嫌なことは忘れていっぱい飲みましょうよ毛糸さぁん」

「ちょ、酒瓶持ってこっちくんな!ちょま———」

 

 

 

 

・・・あれ?

今、意識が飛んで………

 

「いやぁ私も驚いたね、毛糸は酒無理なんだねぇ」

「へ?あれ、私なにしてたんだっけ」

「文がね、君のね、口にね、酒瓶をね、突っ込んだらね、気絶した」

「なんかその言い方腹立つな」

 

そっか、私酒飲まされて気絶………いやいや、気絶はおかしいでしょ、子供でも間違えて一口飲んじゃったりするけど大抵は無事だよ?なんで私気絶して………

 

「くさっ!何この匂い」

「なにって、そりゃあ、ね」

 

あ、はい。

どうやら寝室のところで寝かせてくれてたらしい、流石にとりんやさしい。

 

「みんなは?」

「外で飲むの飽きて中で飲んでた、その後また外行った」

「へぇー、ふーん、ほーん、ちょっとふて寝するわ」

「まぁ待ちなよ、今頃あの二人も外であれしてるからさ」

「外ねぇ………外ならまぁ………ってかあれは飲みすぎでしょ」

「文はねぇ、なかなか休みが取れないらしくって、今回急に休みになったからみんなで飲もうってなったらしいよ」

 

じゃあ自分たちでやればいいじゃん、私巻き込むなよ。

 

「椛はねぇ、一回飲むと止まらない系だね、極限までいって刃傷沙汰を柊木さんが止めてるらしいよ」

「柊木さんはあんまり酔ってなかったみたいだけど」

「めっちゃくちゃお酒強いらしい、私はあんまり飲まない」

 

はぁー、もう憂鬱だわー。

これあれでしょ?朝になったら周りに嘔吐物いっぱいあるパターンでしょ?で、それを片付けるのは?わ、た、し。

 

「どーしてこーなったんだよ」

「なんか文が大事な話があるからついでに飲むって言ってたような………」

 

大事な話?

それってもしかして、ほかの天狗たちがどうとか言うあれ?

 

「ちょっと私行ってくるわ」

「あ、私もついていくよ、どうせ河童たちも無関係じゃいられないだろうしね」

 

うん、そうだね、るりとか泣き叫びそうだね。

寝室から外へ出る扉へ真っ直ぐすすんで外に出る。

そこにはちゃんと桶をもってアレをする二人と背中をさする柊木さんの姿があった。

 

「文、何か大事な話、あるんでしょ?」

「うっぷ………えぇ、まぁ。そんな話もあったような気がしますね」

 

おい………腹蹴るぞ。

 

「冗談ですって、そんな目で見ないでください」

 

桶から手を離し顔を上げこちらに目を向ける文、その顔は真剣そのものだった。

 

「状況が変わったんですよ、いろいろとね」

「変わったって、つまりどういうことよ」

「そうですねぇ例えば………私のお腹とか………う、お—————」

 

桶の中の量が、また増えた。


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