毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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重ねる毛玉

 

「それでな、その時毛糸が……」

「そういえばあの時も……」

 

人間離れした人間の子供二人、外で楽しそうにおしゃべりをしている。

 

「そこのお二人さんや、仲がいいのは結構だが、私のことを話題に盛り上がるのはやめてくれないか」

「嫌だね」

「嫌よ」

 

あらやだ生意気……

 

「まあ、お前って存在が面白いからな」

「褒めてる?」

「褒めてると同時に罵ってる」

「そりゃどうも」

 

巫女さんが暑そうにうちわで扇ぎながら横に座る。

 

「しかしあっついなぁ……お前そんな頭で暑くないのか?」

「まあ……暑いっちゃ暑いけど、髪は関係ないっしょ」

「一回ばっさりやってやろうか、涼しくなるかもよ」

「弄るつもりで言ってるんだろうけど甘いな、私の髪は切ってもすぐに元の長さに戻るぞ」

「きも」

「ガチトーンやめて」

 

というか、この頭は私の数少ない毛玉要素なのだから切られては困る。

 

「……そういやお前、氷出せたよな」

「………」

「………」

「わーったよ、出せばいいんでしょ出せば」

 

チルノは暑さでバテて、私の家でぐったりしてる頃だろうか。

そういや誇芦のことだけれど、チルノたちに話したらすんなりと受け入れて普段通り遊んでいた。子供の適応力ってすごいね。

……今までは散歩に連れに行ってたりしてたけど、もうしないのかな。

チルノが人型の妖怪に首輪をつけて歩く……この世の終わりみたいな光景だ。

 

「………冷気操れるんなら別に氷出さなくても良くね」

「ん?……なんか涼しくなったな」

 

あ、成功した。

そうだよな、冷気操るんだもんな、何も氷出さなくても涼しくなるよな。

 

……私は500年近く生きて、何を今更気がついてるんだ……

 

「魔理沙は最近どう?結構ここに来てるみたいだけど」

「見ての通り、霊夢と仲良くやってるよ」

「そっか」

 

仲良いよなあ、あの二人。

同い年の知り合いが他にいないってのもあるんだろうけど……

 

「……そういや私、あの紅魔館の主と年齢同じくらいだったんだよね」

「へぇ」

「あの二人とは違って、全く反りがあわない」

「へぇ」

「5つ下の妹とはそれなりになかいいんだけどね、多分」

「へぇ」

「……聞いてる?」

「同じくらいの歳の紅魔館の主とは仲良くなれないのに5歳下の妹とは仲良いって話だろ、聞いてる」

「めっちゃ丁寧に言うやん」

 

紅魔館…行きづらいんだよなあ……レミリア怖いし。

 

「まあ反りの合わないやつの一人や二人、普通にいるだろ」

「嫌われてんのは初めてだよ」

「貴重な関係だな、大切にしろよ」

「おう……」

 

こっちだって仲良くなりたいんだけどなぁ……なんかこう、お互いに歩み寄ろうとしてから回ってる感というか……気まずいんだよ、とにかく。

 

「そういや今日紫くるらしいぞ」

「お邪魔しました」

「逃げても拉致られるのがオチだぞ」

「ぐぬ……つまりそれって、私にも用があるってこと?」

「らしい」

 

何の用で…?また敵の本拠地に突っ込めとか言われるの嫌だよ私は。

 

「なんで私なんかが……」

「忘れてそうだから言っておくけど、霊夢に能力与えたのはお前みたいなもんだからな」

「………あっ」

 

忘れてた……そういやそんなことあったなぁ……いやでも、それだけじゃん。なんでそれだけでよくわからんことに巻き込まれなきゃいかんのよ。

 

「なあなあ!」

「ちょっと魔理沙…」

 

考えごとをしていると、魔理沙と霊夢がこちらにやってきた。

 

「どったの」

「毛糸と巫女さんってどっちが強いんだ?」

「え?」

「そんなの師匠に決まってるでしょう」

 

そういや霊夢は巫女さんのこと師匠って呼んでるんだよなあ。魔理沙は私の影響かわからんけど巫女さんって呼んでる。

 

「でも毛糸も紅魔館の奴ら蹂躙して服従させたんだろ?」

「何その作り話、誰だよ話捻じ曲げて伝えてる奴」

 

まあ魔理沙が歪んだ解釈してるってだけかもしれないが。

蹂躙なんてとんでもない……眼球と内臓抜かれた覚えならあるけど。

 

「なあなあ、結局どっちが強いんだ?」

「どっちって言われてもなぁ……」

 

困ったように呟いた巫女さんがこちらを見てくる。

 

「フッ」

 

普段の私なら見られても困るとか思うところだが、今日の私は一味違うぜ。

 

「そんなことよりかき氷食べようぜお前ら!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前こんなもの持ってきてたのか」

「暑いしちょうどいいかと思って」

 

巫女さんが私が持ってきたかき氷機を見てそう呟く。

 

かき氷が外の世界ではいつから流行ったものなのかは知らないけれど、今の幻想郷には一応伝わっているらしい。

夏頃に人里に行ったら普通に売ってた。

 

「ほら、水持ってきたぞ」

「どうも」

 

巫女さんに持ってきてもらった水を凍らして、妖力で無理やり砕いてちょうどいいくらいの大きさにする。

 

「しかし、氷ならお前いくらでも出せるだろ?なんでわざわざこんな水を……」

「私の出した氷なんて何で出来てるかわかんないよ?空気中のゴミいっぱい含んでるかも」

「……それもそうだな」

 

無意識的にやってたけど、出した氷を消したりするのも冷気を操ってやってたことなのだろう。

なんか冷気って言っとけばなんでも許される気がする。

 

「電源に繋いで皿置いて……」

 

持ってきた……というか、河童に作ってもらったのは上から氷を押し潰してガリガリ削っていくタイプのやつ。

あれなら適当な氷でも大体削ってくれて楽だし。

 

「ふんっ……ふんっ……ふんっ!!!」

「……貧弱」

「うっ」

 

違うもん、私の筋力がないんじゃないもん、氷の形が悪くて削られにくいだけなんだもん。

 

「……押せば出てくるの?これ」

「え?あ、うん」

 

霊夢がやってきて私にそう聞くと、かき氷機の上の部分を力強く押した。

 

「おぉ……本当にできてる」

「結構楽しいわねこれ」

「………」

 

私の筋力はこんな少女一人に劣るのか……

 

「元気出せよ」

「魔理沙……」

 

俯いていると魔理沙に肩にポンと手を置かれて励まされた。

そうだよな……霊夢がゴリラなだけだよな、私の筋力は普通の人間くらいだもんな。

 

「あ、そこに置いてるシロップ上からかけて食べてね」

「毛糸は食べないのか?」

「私はいいよ、3人で食べといて」

 

魔理沙の問いにそう答えて私は境内に出る。

 

 

 

 

「………ふぅ」

 

なぜこうも。

モヤモヤした感情が、自分の中に渦巻いているのだろうか。

 

いや、わかっている。

 

わかっていた、ただ、今までそれから目を背けていたってだけ。

 

「なんか悩みか?」

 

背後から巫女さんの声が聞こえてくる。

 

「気配もなく後ろに立つのやめてくんない」

「癖になってんだ」

 

確かに音も殺してるが……そんな癖やめてくれ、心臓に悪い。

 

「毛髪の悩みか?切ってやろうか?」

「もうええっちゅうねん。……まあ、髪じゃないけど、悩んじゃいるよ。二人は?」

「中で氷をガリガリ削ってる」

「巫女さんも食べてくればいいじゃん」

「お前が気になったから」

 

私そんなに思わせぶりに外行ったっけ?確かに悩みはあるけど、鋭敏すぎるでしょ。

 

「私には話したくないことなんだろ?」

「わかっちゃう?」

「なんとなくな」

 

やっぱこの人鋭いわ……霊夢もなんか勘がいいんだよねぇ……博麗の巫女ってそういう力でも持ってんの?

 

「まあ、人に話したところでどうにかなるわけじゃない悩みだし」

「相談してくれって言ってるわけじゃないけどな」

 

後ろからお祓い棒を頭にポン、と置かれる。

 

「あんまりそういう雰囲気出されてると、こっちまで気が滅入る」

「はは……出さないようにはしてるんだけどねぇ、というか巫女さんが鋭いだけだと思う」

 

苦笑いをしながら、巫女さんの方を向く。

 

「お待たせ〜」

「ふぁっ」

 

私と巫女さんの間に、突然紫が割り込んできた。

 

「あら?あんまり驚かないわね」

「私はともかく、そいつは今凄い顔してたぞ」

「し、してねえし」

 

巫女さんと言い紫さんと言い……突然くるのやめてマジで、心臓止まる。

 

「毛糸も話は聞いてるでしょ?中で話をしましょう」

 

そう言って紫さんは否応なしに空間の裂け目で私と巫女さんを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「私あの空間嫌い……」

「同感」

「酷いわねぇ」

 

気づけば3人仲良く机の周りを椅子で囲んで座っていた。

 

「魔理沙と霊夢いるんで、手短に頼みますよ」

「今はあのかき氷に夢中みたいだけど?」

 

さてはこの人タイミングを見計らってたな?

 

「まあ私もそこまで長引かせるつもりはないわ。さっさと本題に入りましょうか」

「また幻想郷の外から団体で客が来るとかじゃないだろうな」

 

巫女さんが訝しげな表情で紫さんを見つめる。

流石にあんな吸血鬼みたいなやつポンポンこられたら困る。

 

「あそこまでの数で攻められることはもうないわよ、外の世界にはそんな勢力そこまで残っていないし」

「なくはないんだ……」

「で、本題」

 

机を一回、指で突いて話を切り替える紫さん。

 

「これからの幻想郷……その在り方についてよ」

「さーせん、主語でかいっす。そういう話は妖怪の賢者でやってもらって……巫女さんはいいけど、私はいちゃダメでしょ」

「ダメよ、付き合ってもらうわ」

「んひぃ……」

 

そんな大層な単語並べられても……

 

「まあ格好つけずに言うと、今後幻想郷において、妖怪と人間がどうすれば互いに大きな損失を出さずにその関係を保てるか……よ」

「……つまり?」

「お前物分かりわっるいなぁ……」

 

巫女さんがストレートに悪口を言ってくる。

 

「今の幻想郷は閉鎖的な土地だ。と言っても私の生まれる数十年前かららしいが……結界で外と中は隔絶されてる状態だ。人間の数にも、妖怪の数にも、限りがある」

「あぁ……前の吸血鬼異変、私たちは気にせずに爆破したりしてたけれど、吸血鬼の方についた元々幻想郷の妖怪だった奴らの数って相当数いたんでしたっけ」

「そう、あなたたちが気にせずに爆破したりしてたけれどね」

 

正直何も考えてませんでした。

 

「今の幻想郷にとって、妖怪と人間の力の均衡の崩れは幻想郷の維持の危機に直結するわ。妖怪が増えすぎるのも減りすぎるのも、それが人間だとしても、あまり望ましくないのよ」

 

確か、そもそも幻想郷の妖怪にはむやみやたらと人間を襲うな的な……なんかそんな感じの意味合いにお触れかなんかが出されてるんだっけ?

私にゃ全く関係ない話なんだけど。

 

「その声は割と幻想郷の各地から上がっていて、今回みたいに大量に命が消え去るような戦いはうんざりだって妖怪、結構いるのよ」

「そりゃまあ、妖怪がみんな鬼みたいな戦闘狂なわけじゃないし……で、どうするんです?」

「今代の博麗の巫女と、次の博麗の巫女、霊夢たちと話し合って、幻想郷に新たな掟を作る」

 

掟………全く想像つかんな。

 

「というか、霊夢?巫女さんだけじゃなくて?」

「霊夢は次の代よ、この掟を発布して、施行するのは次の代からになるわ」

「まああいつ天才肌だしなぁ、早めに変わってもなんら問題はないだろ」

「………で、どんな掟なんです?」

「詳しくはこれから決めていくけれど……血生臭い戦いはもう終わりになるわ。なんていうのかしら、こう……ただ相手を傷つけるんじゃなくて、美しく、相手を魅了して、心を打ち負かす感じで……」

「何言ってるかぜんっぜんわかんないっす」

 

まだ紫さんの中でも固まってない……ということだろうか。

 

「まあ、あなたがいつもやってる四肢を吹き飛ばされながら相手をぶん殴るような戦いはもう出来なくなるわ」

「えー」

「なんで残念そうなんだよ」

「だってそこが私の強みなんだもん」

 

何言ってんだこいつって顔をされた。

 

「あー……でも確かに、私みたいな戦い方だと、単に力の強い奴が頂点に立つようになっちゃいますもんね」

「そういうこと、人間で妖怪に真っ向から立ち向かえる存在なんてそれこそ博麗の巫女くらい。妖怪の方が圧倒的に力を持っているわ」

 

力の均衡からは程遠いってことか……いや、力の強い妖怪ほどそう言うことを理解して、身勝手なことはしないような印象あるけれど。

 

「……まあ、話は分かりましたけど、私に話した理由は?」

「だってあなた、私の次に霊夢に好かれてる妖怪じゃない」

「……あいつ、お前のこと胡散臭くて嫌いって言ってたぞ」

「………え?」

 

分かる……胡散臭いのよーくわかる……というか霊夢はよくわかってる。

 

「まあそれをあなたに話しておきたかっただけよ」

「じゃあ終わったし、戻るからスキマを開けてくれ」

「私もかき氷食べようかな〜」

「はいはい。あ、あなたは残ってね」

「………え?」

 

聞き間違いかな?

 

「じゃあな〜」

「あちょま……」

 

巫女さん……先に帰りやがった。

 

「さて、二人きりね」

「い…命だけは……」

「なんであなたを始末しなきゃならないのよ」

「霊夢の能力の件と吸血鬼異変で利用してもう用済みだから……」

「そう言われてみれば確かに……いや、そうじゃなくて」

 

紫さんがやれやれと言った様子でそう言う。

 

「なんとなく、わかってるのよね」

「……まぁ」

「能力の件も異変の件も感謝しているし、神社への立ち入りを許しているのも、霊夢の妖怪への意識に、あなたという人に近い妖怪を刷り込ませるという意味もあった」

 

あ、そんな理由で……

 

「あなたと彼女のことに、どうこう言うつもりはないわ。あなたの納得のいくやり方を、探してくれればいい」

 

脳裏にりんさんの姿が浮かんで、それが巫女さんの姿と重なる。

 

「ただ、どこかの時期で霊夢には———」

 

巫女さんの姿が塗りつぶされ、次は霊夢の姿が浮かんでくる。

 

「———そのことだけは、わかっていて欲しいの」

 

紫さんの発した言葉が、頭の中でぐるぐると回り始める。

 

「そうですか…望ましくない、ですもんね。そうでもしないと」

「少しくらい拒んだって……いえ、なんでもないわ。引き留めて悪かったわね」

 

そう言って、紫さんは私をスキマから私を送り返す。

 

 

広がっていたのは、ついさっきまでいた神社。

 

私の姿を見つけた霊夢が、少しこちらに近づいて

 

「これ美味しい、ありがとう」

 

と、私に笑って見せた。

 

「どういたしまして」

 

お返しに笑って見せる。

上手く笑えているだろうか。

 

私の顔、引き攣っていないだろうか。


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