「へぇ気!美鈴さん気を操るんだ!」
「すごい反応しますね?」
「じゃあ空飛ぶのも?弾出すのも?」
「気です」
「すげええ!」
ドラゴン○ールじゃん!!
「じゃああの、気を手にこう溜めて、一気に直線上に放出したり……」
「できますけど……凄い食いつきですね?」
「すげえかめ○め波じゃん!!」
「かめ……はい?」
おっと、一人でテンションが上がりすぎてしまった。
いやでも仕方がないと思うんだ、誰だって一度は空を飛んだり手からビーム出してみたいと思ったことがあるはずだ、多分、きっと。
……おいちょっと待て、空飛んでビーム出すとかこの世界じゃ日常茶飯事じゃねえか、ここドラ○ンボールの世界だったのか。
よくよく考えたらこの館吸血鬼いるし時止めるメイドいるし、ジョ○ョじゃねえか!というかDI○じゃねえか!
ハッ……フランドールという名前も、どことなくデ○オ・ブ○ンドーみたいだ………なんだここジャ○プかぁ?
「さっきから落ち着かない様子でしたけど、大丈夫です?」
「え、あ、あぁごめん。ちょっと……」
いかんいかん……この世界にそういう概念ないからな、盛り上がるのは私一人だけ、虚しいだけだ。
でも……美鈴さんって明らかに中国とかあの辺の人っぽいよな。
「美鈴さんはなんでこう……西洋っぽい館の門番なんか」
「あぁ……その昔、私も色んなところを戦いを求めて放浪してたんですけどね。吸血鬼と手合わせがしてみたいと思って、レミリアお嬢様に戦いを挑んだら見事負けてしまいまして……その時に実力を見込まれて門番に」
「えらく武闘派な……嫌じゃないの?そんな負けただけで縛り付けるような……」
「別に全然苦じゃないですよ。それに昔放浪してた頃は、負けは死と同義みたいなものでしたから、敗者は勝者に従うしかないですし。まあそれに、今のこの暮らしも、結構気に入ってるんですよね」
これだから実力主義社会は……というかこの世界だと腕力主義社会な気がしてきた。
……美鈴さん、今はこんなに温厚なのに、昔は戦いを求めてたのね……
「気楽に昼寝ができるのなんて、門番くらいですよ」
「門番が一番やっちゃいけない所業では?」
紅魔館に来るたびに美鈴さんと軽く話をしてるおかげで、結構親しくなってきた気がする。
良識のある人っていいよね……安定感というか、安心感というか。
美鈴さん温厚だし、落ち着いてるし……話してて気が楽だ。
中にいるのがあれな分なおさら……
「しろまりさーん!!」
「ひぐぅ!?」
館に入った瞬間フランが飛んでもない速度で飛び掛かってきた。
トラックかと思った、骨折れた。
「ふ、フラン……いつもいってるけど、私体吸血鬼ほど頑丈じゃないから手加減してね…?」
「うんわかった!」
「4回目だねその返事」
oh……腰の骨がバッキバキだこれ……痛覚あったら失神してるだろうなあ。
「今日は何しにきたの?」
「んー?お前の姉ちゃんにアタックしにきた。……冗談だからね?嘘だから、その『まさかそんな……』って顔するのやめなさい」
冗談を言いながら、冗談みたいに変な方向に曲がった体を戻しつつ再生する。
「相変わらずよく治るね〜」
「まあそれが取り柄だし……っと。治りはするけどやめてね?治るからってやっていいわけじゃないからね?ていうか加減を覚えて?」
「さっきの体面白い形だったね!」
聞いてね〜。
というかなに、私の逆方向に曲がった体を面白いって言った?この子。大丈夫?狂気出てない?また内臓引き摺り出してこない?私もうやだよあれ。
「……というか今昼だけど、お前普通に起きてるよな」
「お姉様が人間の生活に合わせるって決めてからは、ずっとこうだよ」
「レミリアが?……まあ、妖怪なんて多少寝なくてもなんの影響もないからなあ」
本当にやばい奴とか睡眠はほとんど取らなくてもいけるとか聞いたけど、私は素の体が貧弱なせいか、3日起きたらもうかなり眠い。
まあ気合い入れたらもうちょっと起きられるけど、でも結局眠いし。
「そういや私、未だにここの中普通に迷うから案内してくれない?レミリアのとこ行きたいんだけど」
「お姉様のところ?うんいいよ。そっか、今日咲夜休みだからいないんだ」
あ、よかったちゃんとあの子休暇もらってた。まあ紅魔館に住み込みらしいから結局ここにいるんだろうけど。
「でも妖精メイドが使えないから、結構緊急の用事で呼び出されたりするんだよね」
やっぱダメですブラックです、労基に相談しねえと……しまったここ幻想郷だからそんなもんねえや。
「私実は結構方向音痴だからさ……幻想郷の中だともう流石に迷子にはならないけど、紅魔館はなんかダメなんだよね……広いし」
「確か咲夜の能力で広くしてるんじゃなかったかな」
「……なに、あいつ空間でも操れんの」
「時と空間は密接に関係してるうんたら…って、パチュリーが」
「パッチェさんなら間違い無いな」
パッチェさんにも後でお礼を言っておこう、魔理沙、本を渡したら凄い喜んでたし。
霊夢も喜んでたなあ、高めのお菓子で。
渡すまでは不安だけど、渡して喜んでくれたら嬉しいよね。
「……フランって、何か欲しいものある?」
「欲しいもの?んー……絶対に変わらないお人形さん?」
「ちょーっと無理かな〜…それは……」
「しろまりさん、何かくれるの?」
「まぁ、そうだね」
身近な人に贈り物をするのもいいかもしれない、日頃の感謝を込めて……とか。
少し、いやかなり恥ずかしいけれど。
「しろまりさんがくれるものならなんでも嬉しいけど……私はどっちかって言うと、お姉様と仲良くして欲しいかなぁ」
「む……私も仲良くしたいんだけどねぇ」
なんか上手くいかないんだよなあ、私も私で向こうの売り言葉に買い言葉しちゃうし。
「だが安心したまえ、今日の私は友人からアドバイスをもらってここに来ている。レミリアとも仲良くなってみせるさ」
「おぉ……どんなアドバイス?」
「根気強く付き合う!」
「おぉ……?」
根性!気合い!諦めない心が大事!
「まあ頑張ってみ……ん?」
今サラッと通り過ぎた景色の違和感に目を向ける。
「なんでここ……穴空いてんの」
「んー?あぁここ?お姉様が私のプリン食べた時に喧嘩した時の奴だね。まだ修復できてないみたい」
「お前と?レミリアの?喧嘩?」
この館丸ごと吹き飛んでともおかしく無いだろ……
「その時は咲夜が新しいプリンをすぐに持ってきてくれたから、仕方なしに許してあげたんだ」
咲夜さんマジパネェっす。
「まあ、喧嘩するほど仲が良いってことだよなあ」
「そうだね……少し前までは喧嘩することもままならなかったし……ありがとうね、しろまりさん」
「もういいよお礼は」
割と高頻度でお礼されてる。
悪い気はしないけれど、何度も何度も言われたら流石に居心地が悪い。
「でも私、しろまりさんには色々してもらってるけど、私は何もしてあげられてないし」
「えぇ〜?いいよそういうの。こんな私も仲良くしてくれてるだけで十分だよ」
「そうなの?」
「うん」
数百年生きてきたが、ひとりぼっちだと何かと虚しくなってくる。
自分がこの世界にとってどういう存在なのかを、改めて示されているような気がして。
「………やめよう」
「何が?」
「いやなんでも。狂気とはどんな感じ?」
「狂気?最近やっと取り合ってもらえて……というか、力ずくでねじ伏せて話し合ったんだけど、これからゆっくり一緒になることにしたの」
「一緒」
それってつまり融合ってこと?
『それで合ってると思うよ。まあフランの場合、破壊衝動そのものが主人格から外れて分離、擬似的な第二人格になってるだけで、一つになるってのは難しいことじゃないと思う」
急に出てくんなお前。
……確か、この私の表に出てる人格って、妖力持ってる方の私と霊力持ってる方の私が合わさって出てきてるんだったよな。
それって融合じゃないの?
『うーん……どっちかっていうと、統合?完全に溶け合ってるわけじゃなくって、私と君の二つの要素を併せ持ったのが表に出てる人格ってこと。完全じゃないからこそ、こうやって話せてるんだし』
………なるほどよくわからん。
「黙りこくって、どうしたの?」
「ん?あーいや、どうやったらレミリアと仲良くなれるかなーって」
自分と会話してたら黙っちゃうんだよなあ……
「私はむしろなんでそんなに仲良くなれないのかが気になるんだけど」
「なんでなんだろねほんと」
何で拒絶されてるんだろね、私は。
いや、理由は大体わかってるよ?けどねぇ……
「お姉様としろまりさん、結構相性いいと思うんだけどなぁ」
「そう?どのあたり?」
「どの辺りって言われても……なんか気が合いそう?」
めっちゃ適当じゃん。
「はぁ……また来たの」
「また来たよ」
「わざわざ顔見せに来なくてもいいのに」
「それで見せなくって失礼とか言われたら嫌ですし」
「………」
「………」
レミリアのいる部屋にきて早々に会話が途絶えた。
隣でフランがじっとこちらを見ている、どうしよう何か言わねば。
「あー……最近どう?」
「どうもこうも、暇だけど」
そういやこいつら紅魔館から出ること許されてねえんだった。
まあ許されてないと言うよりかは、謹慎処分みたいなものみたいだけれど。絶対咲夜は普通に外でてると思う。
「今日はなんでここに?」
「そりゃもう暇だから」
「一緒ね」
「そうだね」
どうしようこの女表情一つ変えずに真顔で受け答えしてくる!むり!心折れそう!というかもう折れてる!帰りたい!
「嫌ならわざわざ会いに来なくていいのに」
「何を言う、嫌なわけ……ない……じゃん」
「すっごい溜めたわね、今すっごい溜めたわね。隠す気ないでしょ」
だってめっちゃつんけんしてるんだもん……もうちょっとフレンドリーな感じでいろよ。
「はぁ……今日は咲夜に休みを取らせてるから、大したもてなしもできないのだけれど」
「妖精メイドならいっぱいいたけど?」
「あんなの有象無象よ、有象無象」
雇ってるくせに結構ひどいな?
……雇ってるのか?どう考えても給料は出てないだろうし……妖精メイドってどう言う立ち位置なんだ。というか妖精メイドってなんなんだ。
「……とりあえずこれを」
「なに、手土産?」
「人里にある私行きつけの饅頭屋さんの饅頭」
「ふぅん……わざわざ悪いわね」
よし興味を示した、やはり甘味、甘味は全てを解決する。
「あ、こっちはフランの分ね。それと、こっちの3つはそれぞれ咲夜と美鈴さんとパッチェさんに」
「そう、わかったわ」
……どうしよう話すことなくなった!!
何故だ甘味よ!お前は全てを解決するのではなかったのか!?
「なんかもう心折れたんでさようなら……」
「勝手に心折れられても困るのだけれど」
「じゃあしろまりさん、私の部屋にちょっときてよ」
「ぅん…………」
「……ハッ、私は一体今まで何を……」
なんかすごい意気消沈してて記憶が飛んだ……なんだっけ、今フランの部屋に連れてかれたところだっけ。
……なんで連れてかれたんだ?
「お願いがあるんだ」
「お願い?まあできる範囲でなら」
てかそんなことよりさっきのが辛い。
何故ここまで会話ができない……?今までだっていろんな人と多少は気まずくなったり会話が止まったりしたことはあったけれど、さすがにここまで何も上手くいかないのは……あったような気がしないでもないけれど!
もうやだおうち帰って寝たい。
「あのね……一緒に寝てほしいの」
あ、ふーん?
「無理無理無理無理帰る帰る私おうち帰るぅ!!やめて!離しっ、は!な!せ!ぐああああぁ!!!」
「そんなに叫ばなくてもいいじゃん」
くっ……急に何を言い出すんだこのガキ!?こんな頭もじゃもじゃと急に寝たいとか言い出すとか頭イカれんのか!?いやイカれとったわこの娘!狂気か!?狂気のせいなんか!?もっかい心の中に入ってしばいた方がいい!!?
「はぁっ、はぁっ………一応理由を聞こうか」
「あのね……お姉様と一緒に寝てみたいんだけど、今まで誰かと一緒に寝るってことしてこなかったから……練習?みたいな?」
「みたいな?じゃねーよ……私である必要性ある?」
「なんとなく」
「そこ適当なのダメだと思うな」
いやしかしな……フランの頼みなら極力聞いてやりたいが、なんかレミリアにバレたらあいつにぶっ殺されそうなんだよなあ……
「もうぶっつけ本番で行けよ、大丈夫だって、レミリアお前のこと大好きだから」
「寝てくれるまで返さないよ」
「マジで言ってる……?あ……目がマジだ………あー、うん……仮眠程度だったら………いいよ……ぅん…………」
「ほんと?」
「………ほ、ほんと」
「ぐおっ……あっ………」
断れば……よかっ……た………
私、白珠毛糸は、寝る時は近くに誰もいない状態でないと寝付けないという性質があります。
しかしそんなことは今は関係なく、単に骨格が歪んでいます。
「あっあっ……あっ」
折れたな……完全に折れたな……あれだ、腰が曲がっちゃいけない方向に曲がってるわ。
「すぅ………」
「………」
私じゃなかったら死んでたぜ……いや、私の体が貧弱なだけか。
妖力で体を強化してなかったら真っ二つだったかもしれねえ……強化しても腰の骨折れたわけだが。
つかこいつめっちゃ熟睡するやん、まだ昼間……いや昼間って、吸血鬼にとっては深夜1時みたいなもんか……そりゃ寝るわ。
どうせ近くに人がいたら寝付けないのだから、フランが寝るまで待ってこっそり抜け出そうとか思ってたら、抱きつかれた。
めっちゃびっくりした、心臓飛び出るかと思った。
で、そのままとんでもない力で腕を回されて抱き潰された。
めっちゃびっくりした、心臓飛び出そうになった。
幸か不幸か、腰がとんでもない方向に曲がっちゃってるおかげで、向き合わせになっているはずなのに明らかに位置が合っていないことだろうか。
「………」
地下が故に窓もなく、蝋燭のほんの僅かな明かりしかない暗い部屋の中、そこにあった人形が視界に入る。
外部から高い圧力をかけられ、破裂させられたかのように綿を放出して無残な姿になっている人形。
きっとあの人形も、私と同じような目にあってああなってしまったのだろう。
「どーしよーかなー……」
すっごい小さい声でつぶやく。
抜けること自体は容易いだろう、毛玉状態になればいいだけなのだから。
だがしかし、そこから先が問題だ。
私の毛玉状態、どれくらいの衝撃に耐えられるのかは未知数だ、なんせ毛玉だから。野良毛玉が妖精たちの出した弾幕に当たるところを見たが、それはもう儚く散ったものだ。
なんかあいつら時と場合によって耐久度変わってる気がするが……もし毛玉の状態でフランに抱きつかれようものなら間違いなく四散する。もしくは真っ二つ。
あと万一抜けられたとして、もしかしたら嫌われるかもしれない。なんかこう、お願い聞いてくれなかった〜、みたいな感じで。
ふぅン……つまり…あれだな?
どうしようもないということだな?
「誰か〜………助けてぇ〜………」
めちゃくちゃか細い声でそう呟いた。
たぶん5時間後くらい。
休みが終わった咲夜に救出された。
咲夜さんマジパネェっす。