毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉は枕が変わると寝られない

「………」

「………さっきからソワソワしてどうしたの」

「いやな誇芦よ、寝れないのよ」

「なら寝ればいい」

「ごめん言葉通じてる?寝れたら寝てるよ?」

 

夜になって布団に入ってみたはいいものの、寝れない。

 

「誇芦よ、お前は知らぬか」

「何その話し方」

「私、寝るときに近くに人いると寝れないんだよね」

「……言われてみれば……」

「してほころんよ」

「自分でつけた名前一年と経たずに歪ませないで」

「なにゆえお前は私に引っ付く」

「なんとなく」

「寝れないからやめて」

「えー」

 

離れていれば、かろうじて眠ることはできるんだよ。

密着されてたら絶対無理だよ私は、日が昇るまで目ギンギンだよ。

 

「いや実際なんで引っ付くの、冬なら寒いとか言えるけど、今の時期ならまだ暑いでしょ。ひっついたら尚更暑い」

「この部屋冷房効いてるし」

「それはそうだけども」

 

ありがとう河童、本当にありがとう河童。

 

「というか今更。今までだって獣の姿で横で寝てたことあったじゃん」

「ちげーじゃん、お前今イノリスじゃねーじゃん、その身体持ってんじゃん。そうなったらもう話は別なんだよ」

「面倒くっさい」

「おごふっ」

 

こいつ……寝たまま突進を……

 

「面倒くさいのはそっちだろ、普通に離れて寝たらいいじゃん、なんでわざわざ布団くっつけんだよ」

「数百年間そうしてきたからもう癖になってるんだよ」

「じゃあその癖直そうぜ!」

「なんでそっちの都合で直さなきゃいけないの、さっ!」

「確かにッッぐふっ」

 

またこいつ寝ながら突進を……

 

「じゃあせめてあの姿で寝てくれよ、今までそうしてきたんだから」

「次の日獣くさいって言ってくるじゃん」

「………」

「………」

「それは……まあ……ね?」

「ね?じゃない」

 

つべこべ言わずに離れるかイノシシに戻るかしろよ!寝れねーじゃん!

 

「というか、私関係なしに最近寝つき悪そうだけど」

「あぁ……ちょっと悪魔の妹に抱き殺されそうになっただけだよ、気にすんな」

「何があった」

「何も……!!なかった……!!」

「は?」

「なんかごめん」

 

いやまあ……あれが多少トラウマになっているのは事実だ。だってめっちゃ怖かったもん。悪意無いってのがさらに怖いよね、もうほんと怖い。

 

「そもそも、なんで誰かいたら寝れないの」

「さあ……なんでだろ」

「人にどうこうしろっていうより、先に自分が変わろうとするべきじゃないの」

 

どうしようこの子正論で殴ってくる。

 

「そう簡単に変われたら苦労はないんだけどねぇ」

「何故かってのを先に考えるべきでしょ」

「えー?」

「適当な返しはナシ」

「うっす」

 

なんやこいつ、ついこないだまで物言わぬイノシシだったくせに、口をひらけばペラペラ喋り寄って……しかも正論で。

 

「何故か……理由ねえ」

「何かないの?」

「あるっちゃあるよ」

「あるんかい」

「あるんだわ」

「で、それは?」

「なんか恥ずかしい」

「……冗談?」

「マジ、大マジ」

 

めちゃくちゃ訝しげな表情で見てくる誇芦。

なんだその目は、私がまた適当言ってるって思ってんのか。

 

「横にいられるとさ、寝息とか寝相とか、そういうのをすぐ横で感じさせられるでしょ?というか落ち着かない。向こうの動きが気になるし、私の動きも向こうに感じ取られたら嫌だから、動けなくなる。ちょっと離れてるくらいじゃ変わらないよ。真横は論外」

「基本大雑把で何も考えてないような言動をするくせに、なんでそういうところだけ繊細なの」

「ひどいねー?」

 

要はすっごい緊張して寝るどころじゃなくなるってことだ。別に寝なくってもある程度生活できる分、さらに眠りにくさに拍車をかけている。

 

……私よ、真面目な話、なんで私はそんな面倒くさいことになっているんだ?

 

『私は君だから、君が分からないなら私も分からないよ。覚えてない、知らないならともかく』

 

相変わらず使えねえやつ。

 

「じゃあこうしよう、私は横で普通に寝てるから、毛糸は何か考え事をしておく」

「考え事?」

「目を瞑って、物思いに耽る。そうすれば私の動作も気にならなくなって、自然と眠りにつけるかも」

「なるほど……全く期待してないけどやろうか」

「一言余計、じゃあおやすみ」

「ん、おやすみ」

 

そう言って誇芦は姿勢を整えて目を瞑った。

 

さて考え事ねぇ……何を?

 

ふむ……いっそ技名とか考えるか?

なんかフランもレーヴァテインだっけか、そんな感じの名前をあの炎剣につけてたし。巫女さんや霊夢の使う技も名前ついてるみたいだし、パッチェさんの使う魔法と当然のように名前ついてるらしいし。

 

なんならレミリアもグングニルとか大層な名前のついた技?武器?持ってるらしいし。

 

私なんてりんさんの刀を凛って呼ぶだけだからなあ。

技名技名……まず、私の技って何?

 

えーと……妖力弾で相手を爆破するイオ○ズン、氷を相手にぶつけるマヒ○ド、あと植物を操るのが少々。

妖力で殴ったり高速再生するのはもはや技とは言えないしな……

 

……あれ、私の技少なすぎ?

あ、氷の蛇腹剣とかあったわ。……それくらいしなくね?

 

悲報、そもそも私の技のレパートリー少なすぎ。

 

大体、いつもやってることはアドリブ肉弾戦だし、技とかそんな大層なことしてる暇はない。

つか基本殴ったら解決するし。

 

技名より先に技が先かあ?

 

やっぱり得意、というか慣れてるのは氷か。

植物はコツコツ練習して、結構操れるようにはなったけれど、気軽にできるのはツタくらいだろうか。

 

まあとりあえず氷で考えていくと……雑に氷の雨を相手に降らせる?頭上に冷気を広げて氷を生成、降り注ぐ氷の雨……普通に塞がれそうなんだよなあ。

 

ならば氷の武器。

蛇腹剣があるから、氷の大剣とか、槍とか、盾とか。

……大剣とか絶対に当たらんし、槍はまず扱いづらいだろうし、というか作ってるけど大体飛び道具として使ってるし。

盾はもう体で受ければいいからなあ……危険な時は氷の壁を作る。

 

そもそも、武器ってだけなら凛があるから、あれ一本全てが解決するんだよな。

 

うーん……実用性とかっこよさを両立するのって難しい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれ、おかしいな、外が明るい」

 

………

 

「嘘だアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「うるさああああああああああああいッ!!」

「おごっぶはぁっ」

 

寝起き突進頂きましたあ!!クソッタレええ!!

 

「朝っぱらからうっさい!!」

「眠れんかった……」

「え?」

「考え事してたら夜が明けてた……」

「……それはもう、横にいられると寝られないとかそんなんじゃなくって、寝るのが下手なんじゃないかな」

 

もう嫌だ……夜が明けるまで考えてたのもそうだし、それだけ考えても特にいいものが思いつかなかったのも嫌だ……

 

「正直どうかと思う」

「私もそう思います…」

 

不器用にも程があるだろ……

 

「とりあえず切り替えて、朝ごはん食べよう?」

「うん………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しょっぱいんだけど」

「それは私の涙です……」

「は?」

「すみません普通に味噌入れすぎました……」

 

一人人数が増えたので、作る量も2倍である。まあそこまで大した量じゃないし、るりがいたときにも結構作ってたし、その点はどうだっていい。

 

人里で買い物もできるお陰で、割と食べ物にもバリエーションが出てきた。まあ味噌汁に入れる味噌の量を間違えたのは普通にショックを受けたせいなんだけども。

 

「流石に気にしすぎじゃない?確かにすっごいバカだとは思うけれど」

「私、みんなが思ってるより倍くらいメンタル弱いから……あと枕変わるとよく眠れない」

「最後の情報いらない」

「そもそも私は女なのだろうか。いや、女には違いないんだろうが、いささか女としての自覚が足りないのではないだろうか。というかもう自覚云々の話ではないのではないから、近くに同性がいて寝れないとかそれはもういろいろと終わってるのではないか」

「壊れた………」

 

ひとりぼっちは寂しいけれど、寝る時は一人にしておいてください。

 

「いっそ自分で自分を殴って気絶して寝るか……?」

「強硬手段にも程がある」

「いや、普通に視覚聴覚嗅覚を潰してしまえば解決する……?」

「毎晩する気力があるならそうしたら?」

「………」

 

………もう、考えるのをやめよう。

なんかよくわかんねえけどつれぇわ……

 

「しかしなあ、その身体になった瞬間急にお前まともなもの食べ出したよな。前まで適当に調理前のもの食わしてたのに」

「本当のこと言うと我慢してた」

「嫌なら嫌といえばいいのに」

 

………いや、こいつ気分によって食べたいもの変えてきたからな。私の飯よこせって突進してきたの覚えてるからな、わざわざ言わないけど。

 

「チルノたちとは?仲良くやれてんの?」

「まあそれなり」

「あいつらといると苦労しない?」

「いい感じにバカになれるからそこまで」

「わかるわぁ〜」

 

バカと一緒にいると一緒にバカやる気分になれると言うか。ある程度脳みそを使わずに生きられるからそれなりに楽しい。

 

「理性は置き去りにしちゃダメだよ」

「毛糸じゃあるまいし」

「喧嘩売ってる?」

「うん」

「よし表出ろやぶん殴ってやる」

「無理嫌だ」

「………まあ、私はお前が楽しいならそれでいいけどさ。たまには魔法の森にも行ってやれよ?アリスさん友達少ないから」

「あー……」

 

別に友達いないの苦にしてなさそうだけれどね、あの人。

どちらかと言うと寂しがってるのは幽香さんの方なんだよね……あの人あれで結構寂しがり屋さんだからなぁ……え?私が顔見せればいいって?

 

付き合い長いとはいえ、やっぱり怖いものは怖いものなのだよ。

 

「あの時の顔、面白かったなぁ」

「あぁ、あの驚いた顔ね……お前の姿を見て第一声が「おっきぃ……」だもんな」

「そんなに大きい?」

「うん、デカい」

 

何がとは言わないが。

というか全部だが。

 

「毛糸がちっさいの間違いでしょ」

「身長がな?別にいいんだよ私はこのままで。別に大きくなりたいわけでもないし」

 

あ、でも背が伸びると攻撃のリーチ伸びるんだよなぁ。

今の小柄も捨て難いけれど、やっぱり手足が長いってのは格闘戦においてはそれだけでアドバンテージになるし。

再生の応用で手足伸ばせないかなって思ってやってみたことがあるけど、全然ダメだったよ。

 

「今日はこの後どうするの?」

「んー?いつも通り暇を持て余しますが」

「妖怪なんて暇の中で生きてるようなものでしょ」

「お前あの山の妖怪見て同じこと言える?」

「………」

 

その日の予定が決まってることももちろんある。

明日は人里に行こーとか、山や森に行こーとか、博麗神社行こー、とか。

 

何も決まってなければ家でダラダラだ、その日の気分でどこかに足を運ぶこともあるけれど。

 

「夜寝れてないんなら昼寝でもしたら?」

「確かにそうだなおやすみ」

「今寝ろとは言ってない。つかせめて洗い物してから寝ろ」

「めんどいやっといて」

「はぁ………」

 

あ、やってくれるんだ………

 

「流石にいいよ、私がやる」

「じゃあ言うなよ」

「その場のノリ」

「その場のノリだけで生きてるでしょ」

「そんなこと……ないと……思うよ?」

 

食べ終わった食器を誇芦の手から奪って下げる。

 

「まだその身体も慣れてないんでしょ?節々動作がぎこちないし」

「まあ……」

「外で動いて慣らしてきな、数ヶ月もしたら自由に動かせるでしょ」

 

私は元が人間だったから、この身体になった時はなんの違和感もなく動かせられたけれど、誇芦の場合はそう都合よく行かなかったみたいだ。

まあそれでも基本的な動作が出来てることに関しては、流石妖怪ってことなのだろうか。

 

「まだ吸血鬼の噂は聞くし、どこで何があるか分からないからね。さっさと慣れて必要最低限の動き、逃げたりくらいは問題なくできるようにしとかないと……」

「うん……色々とありがとう」

 

唐突に礼を言われて、皿を洗っていた手が止まる。

 

「なんかしたっけ私」

「なんでもない、それじゃあ」

 

そういうと誇芦はせっせと外へ出てってしまった。

あれか?色々と気遣ってくれてありがとうとかそんな感じか?素直じゃないねぇ〜もぉ〜。

いやまあ……未だにあのイノシシの中身があれって言われても、なかなか受け入れられないところがあるんだけど。

 

「……あの状態で喋れんのかな」

 

私の場合、毛玉の状態だとお飾りの口がついてるだけで何も話すことないできないけれど、誇芦の場合は猪の状態でもちゃんと口あるし……どっちなんだろ。

帰って来たら聞いてみるか。

 

「まあとりあえずは昼寝か……まだ朝なんだけどなあ」

 

まあ掃除でもして、昼まで時間潰しておこう。

 

結局夜は技のこと何も思いつかなかったし、それも考えるか。

 

 

 

 

 

 

 

この後いざ昼寝して考え事してみたはいいものの、結局何も決まらずに日が傾いてしまっていた。

 

誇芦にめっちゃ呆れられた。


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