毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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卑屈な毛玉

 

寺子屋の庭。

そこに植えられた一本の木の上に毛玉の状態で隠れながら、中の様子を伺う。

 

なんやかんやで私の頼んだものが河童の手によって簡単に作られて、それが人里の寺子屋に贈られている。

そのおかげもあって、慧音さんはチョークを持って。

子供たちは鉛筆と消しゴムを持って、授業に臨んでいる。

 

チョークがあるから、黒板とかもあったりするしね、見た感じだけだと、やってることは私がいた現代とそう変わらない。

まあ人里じゃあまだまだ筆が主流みたいだけれど。

 

昔は読み書きのできない人もゴロゴロいたもんだが、今や大体の人が、ある程度字を読めるし書くことができる。

これも慧音さんが長いこと人里と付き合っているおかげだろう。

 

「それじゃあ忘れ物のないように。明日は寺子屋は休みだから、間違って来ないようにな」

「「「はーい」」」

 

どうやら終わったみたいだ。

 

ゾロゾロと子供たちが寺子屋から出て行く。

結構な数がいるもんだ、現代であんなに数いたら教師の手が回らなくなりそうだが、それを慧音さんは一人でこなしてんだよなあ。

 

「ふぅ……そこで何してるんだ」

 

おっと、見てるのバレてたみたい。

 

「寺子屋ってどんな感じなのかな〜と」

 

いつもの姿に戻って木から飛び降りる。

 

「見学したいならそう言ってくれればいいのに」

「私みたいなのが見てたら授業にならないでしょ」

「いや、生徒として入ってもらうが」

「なんでやねん」

 

なおさら授業にならんでしょ。自分で言うのもなんだけど、私結構有名人だからね?白いマリモとして………

 

「でも見た目は子供みたいなものだろう?」

「体型はね?こんな頭の子供見たことある?」

「寝癖が激しいとか言っておけば」

「無理があるわ、いや、百歩譲って寝癖だとしてこの髪色はどうなんのよ」

「若白髪」

「程があるわ」

 

私が普通の子供に紛れるには髪の毛を落ち着かせて黒色に染めなきゃ到底無理だ。

 

「そういえば君は読み書きができるな。どこかで学んだのか?」

「いや、普通に前世では読み書きできるのが当然の世界だったんで……言ってなかったです?」

「そう言われてみれば、そんなこと言ってたような……言ってたか?」

 

あまりにも昔のことすぎて覚えてない。

私に聞けばすぐにわかるだろうけれど。

 

「まあ流石に私の知ってるのとは字体とか文法とか違ってたんで、昔は読むのは結構苦労してたけど……もう慣れたね」

「結構なんでもできるみたいだし、相当質の良い教えを受けてたんじゃないか?」

「まあ、今の寺子屋と比べてみれば、確かにそうかもっすねぇ……」

 

前世自分のことは覚えていないが、勉強は苦手だったに違いない。だって私だもの。

 

「最近教材の方も少し改訂したくなってきたんだが、もし良ければ手伝ってくれないか?私の作った教材は難しくて分かりにくいと、生徒たちに言われてしまってな……」

「けっこー生意気っすねそいつら。まあ、私なんかでよければいくらでも手伝うっすよ?暇だし」

「ありがとう、助かるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ざっとこんなものなんだが」

「ワォ……結構イカつい量ありますね……」

「それを作って子供たちに教えるのが私の仕事だからな」

 

仕事とか言わんでください、私が無職みたいに思えてくるじゃないですか。いや実際ただのニートなんだけれども。

 

「一通り目を通して見てくれ。何か気になる点があったら遠慮なく指摘してほしい」

「お、おっす……」

 

結構私に期待してくれてるみたいだけど、私そんなに頭良くないからなぁ、結構プレッシャー。

 

「……書き込みエグいっすね」

 

どうすれば子供たちに分かりやすく伝えられるか、興味を持ってもらえるか、集中してもらえるか。

色んなことが1ページ1ページに細かく書いてあって、どれだけ慧音さんがこの寺子屋という仕事に本気なのかが伝わってくる。

対して私ってやつは、日頃から暇暇暇暇言って遊び呆けてばかり……

 

「情けねえ……」

「急になんだ!?」

「あ、気にしないで、いつもの奇行なんで」

「そ、そうか……奇行?」

 

引き続き本を読み進める。

 

「なんというか……確かに全体的に難しい…というか、説明足らずな気がしてくるね」

「説明足らず?」

「まあはい、かなり生徒の理解力に依存してるといいますか……普段どんな風に教えてるかはわからないけど、この本の通りに教えてるのなら、もうちょっと詳しい説明を入れた方がいいと思いますね」

「そうなのか……」

 

これは数学…というよりは計算とか勘定の本なのかな?

算術ってやつかしら。

 

「というよりは、ここまで難しい問題をやる必要がないような気もしてきますね」

「む……そうか?そこまで難しくしているつもりはないのだが」

「でも実際に難しいって言われてるんでしょ?まあ……やる必要がないと言うか、もうちょっと基礎をしっかりと定着させてからの方がいいって感じしますね」

「基礎」

 

慧音さんが興味津々って顔で私のこと見てくるんだが……やめてください、明らかに私よりあなたの方が賢いだろうに、そんなに私の話に聞き入るのやめてください。

 

「これ見てる限りだと、基礎を説明してすぐに応用に入ってるから、それだと基礎を分かってない生徒はどんどん置いていかれる羽目になっちゃいますし」

「基礎だぞ?そこまで詳しく説明する必要もないと思うのだが」

「慧音さん、バカを甘く見ちゃいけませんよ。だいたいこう言うのって、一回理解して分かった気になって、数日後もう一回やってみたら何もわからなくなってたりするから。しつこいくらい、くどいくらいで丁度いいんすよ、基礎なんてのは」

「なるほど……確かに、基礎を分かった気になっているだけの生徒が結構いるのかもしれないな」

 

バカは何回も言わないと理解できないんですわ。

何回言ってもわからないバカもいるけれど。

 

「教え合いをさせるってのもいいと思いますよ?子供たち視点の方が難しいところを私たちより知ってたりするし、誰かに教えるって言うのも学んだことが定着しやすいかも」

「確かに…生徒同士の仲も深まるだろうしな」

「気になるあの子に教えるために勉強頑張る、なんてこともあるかも……いややっぱないかなぁ」

 

子供って単純だったりそうでもなかったりするからなあ……難しいもんだよ、本当に。

 

「まあそういう教え合いにせよ何にせよ、それらって大体何人かは一人ぼっちになっちゃう子出てくるんで、そういう子たちのことはちゃんと見てあげなきゃダメですね」

「心得てるよ」

 

心得てるですって!

現代の教師はそういうのほっぽって孤立させる生徒とか作るのに、この人はちゃんと見ておくんですって!

 

えぇ人やなぁ……

 

「…ん、そういや魔理沙ってちゃんと勉強してたんかな」

「魔理沙か?あれでも一応商人の娘だったんだし、家でちゃんと学んではいたと思うが」

「まあそっか」

 

ちゃんとやってたのかは気になるが……魔法の森で拾った時はまだ小さかったしなぁ。

まあ案外、魔法の森の中でそう言う勉強とかしてたかもしれない、少なくとも読み書きはできてるし。

 

霊夢に関しては巫女さんが普通に教えてた、座学の時間である。まあ、読み書きできなきゃ巫女も務まらないとかかね。

 

 

 

 

その後も教材の見直しは続いていった。と言っても慧音さん出来た人だから、全体的にしっかりしてて言うことなんてあまりなかったのだけれど。

 

「つくづく、君の存在のありがたみを感じているよ」

「んぐっ…なんすか藪から棒に」

 

唐突に慧音さんが口を開いたかと思えばそんなこと言い出した。

 

「いや何、こうやってゆっくり二人きりで過ごす時間なんてあまりなかっただろう?」

「まあそうだけど……」

 

突然そういうこと言うのやめてください、小っ恥ずかしい。

 

「別に私はなんかしたわけじゃ……」

「今でこそこうやって堂々と人里の中で生活できているが、昔は私も多くの妖怪たちと同じ扱いで中に入れてもらえず、はずれで暮らしていただろう?」

「あぁー、そんなこともあったなぁ…りんさんの紹介で会えたんだっけ」

「そういえば確かに彼女だったな」

 

何かあるたびに刺すぞって脅してきたり、目潰ししてきたのも今となってはいい思い出だ。

本当に。

 

「あの時、嬉しかったんだ。誰もが聞けば鼻で笑うような私の夢を、共感してくれたのが。同じ願いを持ってくれていたのが」

 

目を細め、懐かしむような表情を見せる慧音さん。

 

「先の見えない目標だったが、同じことを願ってくれている妖怪がいるというだけで、グンと元気が出たんだ」

「でも私は特に何かしたわけじゃあ…」

「妖怪に襲われていた人間たちを助けていただろう?」

「それは……まあ……」

「君も、そうやって行動を積み重ねてきたからこそ、今この場所にいられるんじゃないか?」

 

言う通りだ。

私がずっと人を助けてきてからこそ、人々と何気ない会話をすることもできるし、博麗の巫女と関係を持ったり、魔法使いになりたいという子供と付き合いができたりしたのだろう。

 

「でもきっと、私なんかいなくたって慧音さんなら成し遂げてたと思う」

「……なんでそう卑屈になるんだ?」

「別に卑屈なわけじゃあ……」

 

いや卑屈なんだろうけれども。

「さ、そんなことは置いといてさっさと続きやっちゃいましょーよ」

「いや、今日はもう終わりにしよう」

「えー?」

「もう日が落ちかけてるしな」

「え?うっわほんとだ……いつの間に…」

 

私がここに来たの、そこまで遅い時間じゃなかったはずなんだけど。

 

「それに、どうすればいいのかは大体わかったよ、おかげさまでな。これ以上手を煩わせるのも悪いし」

「そんな私は別に……まあ、そう言うならいいんすけど」

 

どうせ暇なんだからいくらでも付き合うのになぁ。

 

「せっかく付き合ってくれたんだ、このあと食事でもどうだ?お代は払わせてくれ」

「食事はいいけどお代は……」

「お礼だと思って、な?」

「はぁ……じゃあお言葉に甘えて」

「決まりだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ?味は」

「普通にいけますね……」

「そうか、それはよかった」

 

焼きたてであろう卵焼きを口に運ぶ。

幻想郷って、閉ざされてるって言う割に結構なんでもあるよなぁ…鶏卵だったり米だったり砂糖だったり……紅魔館じゃ普通にパンも出てくるし。

一体どこで生産してるんだろうか……馬鹿でかい畑なら見たことあるけれど、あそこなのかな。

 

「でも、普通に妖怪入ってもいい感じの店なんだねここ」

「まあな、ここの店主とはそれなりの付き合いでな……まあ、もちろん妖怪お断りっていう店もあるけど」

「あー、大通りあたりってそういう店ばっかりですよね。まあ人通り多いから、妖怪がいたらざわついちゃうってのもあると思うけど」

 

大衆向けってのに妖怪は含まれていない。

まあ当然っちゃあ当然なんだろう、結局人に友好的じゃない妖怪だって多いわけで、そういう奴らがいるなか、店側が大々的に妖怪と友好アピールするわけにもいかないだろう。

そもそも店側が妖怪が嫌いっていうケースもありうる。

 

「この店に入れたのも、どちらかと言えば毛糸の名が広がってたおかげだと思うけれどな」

「私?どうせ謎の白マリモ妖怪とかそんなんでしょ」

「まあ、否定はしない」

「してよ」

「ちゃんと聞いたら否定して回ってはいるんだぞ?」

「あ、そうなの」

 

マジかよありがと慧音さん。

 

「……しけた話になるかもしれないんだけど、いいかな」

「あぁ、もちろん構わないさ」

「ありがとう。……慧音さんって、ずっと人間と関わってきたわけじゃない。数百年くらいか」

「そうだな」

「やっぱり、特別関わりの深い人間とかっていたのかな」

「いたよ、ありがたいことに何人も。信用も何もなかった私に親しく接してくれる人たちが」

 

やっぱり、慧音さんにもいたんだ、そういう人たち。

なら……

 

「…その人たちと別れる時って、どんな風に別れたのかな」

「それが悩みか?」

「まあ……」

 

やっぱり人と妖怪じゃ、生きられる時間が違う。

りんさんの時はまだ私もそこまで長生きてたわけじゃなかったし、急にだったから、そんなことを考えることもなかった。

 

ただ、今は………

 

「どんな風に、と言われても難しいな。突然の別れになったこともあれば、老いたその人を側で看取ったこともある。ただ、共通点を挙げるなら……すごく、寂しかったよ」

「………」

「私たちは妖怪だ、人間が相手じゃ、どうしても先に逝かれてしまう。それは逃れようのないことで、仕方のないことだ。ただ、それを理解していても、受け止められるかっていうのは別な話だ」

 

自分は老いないのに、相手はどんどん死へ近づいていく。置いてかれたような感覚、それでも時は流れていく。

 

「別れってのは悲しいものだよ、悲しくなかったことなんて一度もないさ。ただ、せめて、悔いのない別れ方をしたい、私はそう思ってるよ」

 

悔いのない…か。

 

あの時は……りんさんの時は、ただただ悲しみと後悔に包まれていた。

私にそんな別れ方が…できるのだろうか。

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