「どー?そろそろ終わりそー?」
「まだ終わってないー」
「そかー」
巫女さんが博麗神社の倉庫を整理しておきたいと言うので、なぜか私が付き合わされている。
なんでも、危険物があってなんらかの問題があった場合、他に人手があった方が楽だろう、とのこと。便利屋じゃないんだぞと。
「霊夢はー?」
「中で瞑想してるー」
「それ昼寝じゃねーのー」
「昼寝だよ」
「昼寝なんかい」
なんかあいつ順調にサボり癖ついていってないか…?それともなに?巫女さんがもう教えられることはないとか言って放置してるの?
「あれでも必要最低限の鍛錬はしてるし、そこまで厳しくしなくたっていいんだよ」
「まああんたがそう言うならそうなんでしょうけども」
まああいつ天才だしな、そんなんでもいいんだろうな。
博麗神社の倉庫は本当にいろんなものが保管してあって、なんか変な隠され方とかしてるやつもあって、何が保管されてるのかは巫女さんも把握しきれていないらしい。それでいいのか博麗の巫女。
まあそんなもんで、中を知らない私が近寄るのも危ないからと、少し距離を置いて話をしている。
「あっっ!」
「なに!?どした!?なんかあった!?」
「膝打った……」
「帰っていい?」
「待って」
膝打ったくらいで大きな声上げんなよ……てかいつまでこんなのに付き合わされんの?
私だって暇じゃな…いや暇だけども。
「あとはここで終わり……ん、なんだこ…んあっ!!?」
「今度はなーにー?頭でも打った?」
「いやこれっ…えっ……はっ、え?………はあ?」
「………ほんとにどした?」
なんか巫女さんの様子があからさまにおかしくなった。
「え…いや……え?」
「ねえ本当に大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
倉庫の中から、蓋のあいた、小さな箱のようなものを持った巫女さんが出てきた。
その箱の中にある白いもじゃもじゃの球状の物を一緒に抱えながら。
「えっ……あっえっ……えっあっそっあっえっ…ぇぁ?」
「なるよな、そうなるよな」
「なにそ……け、毛玉……?」
「だよな!?毛玉だよなこれ!お前だよな!?」
「いや私じゃないけどね!?」
いやでもなにそれ本当マジで………
「どう見てもこれ毛玉……いや待って巫女さん」
「どうした」
「顔ないわこの毛玉、あと霊力も感じられない」
「………確かに」
少なくとも私の知っている毛玉は霊力を持っていて、顔がついている。その両方がないってことは、これは毛玉によく似た別の何かってことだ。
……ホワイトマリモ?
「…というか、これ神力放ってるんだが」
「……マジ?神力?神様が持ってるっていう?」
「あぁ間違いない」
「えぇ………」
見た目は完全に毛玉で?でも顔なくて?霊力なくて?代わりに神力を持ってる?
「……それ、見つけちゃいけないタイプのやつじゃあ……」
「……どうする、これ」
「…しまっとく?」
「……そうだな」
触らぬ神に祟りなし、実際に神力持ってるから神かなんかかもしれん。
「神社の倉庫に保管されてるって時点でもうただの毛玉じゃないのは確定してるんだから、何もわからない以上放置しとくのが一番だよ」
「説明書きくらい残しとけよ、誰かわからない前任者」
確かに、なんでこんな正体不明なもん倉庫に置いてんのか謎だな。こんな倉庫に出入りするのは博麗の巫女だけだろうし、何か理由があって置いたんだろうけど……
でもすっごい見た目毛玉だったな……なんだったんだろうあれ。
……ケセランパサラン?
「流石にないかぁ」
「ん?なんか言ったか?」
「んにゃ、なんでも」
そもそも毛玉ってなんなんだって話になってくるよね。
「とりあえず元あった場所に戻しておいて……よし、終わりだな」
「紫さんとか、それの正体知らないんかな」
「さてなあ。紫もこの倉庫にはあんまり干渉してないみたいだし……あ、お前ここ入るなよ」
「別に入らんよ、気味悪い」
「対妖怪最高必殺奥義とかが記してある巻物とかあるからな」
「なんでそれをわざわざ言う」
「もちろん嘘だが」
嘘なんかい。まあすっごい胡散臭いけどね?対妖怪最高必殺奥義って。
「そも、妖怪退治の専門家の倉庫とか碌なもん入ってないでしょ。妖怪退治の道具でしょ、入ってるの」
「まあそうなんだが、危険だから入るなって話」
「そりゃどうも」
まあその倉庫の中にさっきの正体不明謎毛玉が入っていたわけだが……本当になんだったんだあれ。
「しっかし……ずっと腰を曲げてると流石に体が痛いな…肩も凝るし……歳かねえ」
「言うほど歳か?」
「昔はやんちゃしてたからなあ、霊夢ほど天才肌でもなかったし」
やっぱり霊夢は凄いんだね?魔理沙が必死に努力して追いつこうとしてるのも頷ける。
「やんちゃしてたとは言うけど、私の方にはそんな噂こなかったよ?というか、博麗の巫女が私の住んでる方まで全然来なかったし、会うこともなかったし」
「まあ行ってなかったしな、湖の方は」
やっぱり来てなかったんだ。
博麗の巫女、昔っから噂とかは聞いてたけどほとんど相見えることもなかった。湖以外の場所に足を運んだ時に見かけたことはあったような気もするけど……
そもそも来てなかったんなら会うはずもないか。
「…そういや、先代が言ってたこと思い出した」
「先代巫女さん?」
「なんかその言い方紛らわしいな?まあいいや。湖の方は人間に友好的な変な毛玉妖怪の縄張りだから手を出さなくて良いとかなんとか、言ってた気がする」
「なにそれ、私どんな形で博麗の巫女に伝わってたの。というか縄張りでもなんでもないし」
「太陽の畑にいる花妖怪に滅多に手を出さないのと同じだよ。どれだけ力を持っていても、表立って人間と対立したり争いごとを起こさなかったりしなけりゃ、わざわざ博麗の巫女が干渉することもない」
つまり私が好き勝手してたら博麗の巫女が湖の方にお邪魔しま〜すって来てたってわけ?なにそれこっわ。
「実際あそこって、人間にちょっかいかけてくるのは妖精くらいで、幻想郷の中でも比較的安全な場所とか言われてたし」
「うん、そこもう紅魔館とか言う真っ赤な吸血鬼の館あるけどね?」
「そこももうお前の縄張りってことでいいんじゃないか」
「主にぶっ殺されるからダメ」
あと別に私の縄張りじゃない。
まあ人間を襲おうとする妖怪は見つけ次第ボコってたから、そういう妖怪が他のところに逃げたりしたのかもしれないか。
「でもまあ、それだけお前強いってことなんだもんなー…」
「………なにさ、その目」
「ちょっと運動に付き合えよ」
「えー……倉庫の整理で凝った体私でほぐそうとしないで」
「いいだろ減るもんじゃないし」
「減るわ、色々と減るわ」
変なことされないうちにとっとと帰ろう……
「おーい霊夢ー!いまから毛糸と組み手するから出てきてみにこーい!」
クソッ!こいつ逃げ道無くしてきやがった!
そしてニヤニヤしてやがる!クソッ!
「ほんと!?」
「いや嘘!!大嘘だから来なくて良いよ!!」
「いく!」
「くんな!!」
あーあー霊夢出てきちゃった……
「二人が戦ってるとこって見たことないから結構楽しみ!」
「流石に全力で戦うわけじゃないからな?あんまし期待するなよ」
「私帰っていいかな」
「ダメ」
「ダメ」
「どうしてこうなった………」
なんでそんなに嬉しそうな表情するんだお前は……そんな期待に胸を膨らました顔されたらやるしかないじゃないの……
「危ないから離れてろよ。境内のなかで神社に被害が及ばない程度の力に留めておくこと、弾幕も派手に使ってはいけない。じゃ、行くぞー」
「待ってまだ心の準備が………」
「……早くしろよ」
「あ、待ってくれるんだ。ふぅ……」
巫女さんが戦ってるところは見たことない。せいぜい霊夢に修行をつけてるのを眺めてたくらいだ。
戦った経験ならあるけれど、初めて会った時のあの一回だけ。
でも、それだけでも巫女さんがかなりの手練れってことはわかる、そもそも博麗の巫女だ、強くないわけがない。
「よし、いいよ」
「じゃあ始めっ!」
「おいちょっと待てどこからその棒取り出し——んふぅ!」
どこからともかくお祓い棒を取り出して私に振り下ろしてきた。
なんとか反応して腕を交差させて受け止めるが、両腕に針を刺すような痛みが襲ってくる。
「これ痛いから嫌い!!」
「武器道具使うのは禁止してないからな」
「んにゃろー…」
まあ単純なフィジカル勝負だったら負ける気はしないから、当然っちゃ当然か。
「ほっ」
「んひっ」
「ふんっ」
「んぽぉっ!」
「はっ!」
「ひいぃっ!!」
足払いを跳んで回避、宙に浮いたところに蹴りでぶっ飛ばされ、追い討ちで霊力弾を撃たれる。
「ふんぐぅ!」
放たれた霊力弾を蹴って上空に打ち上げて、体勢を立て直す。
「変な声あげるのやめろ」
「しかたないでしょ怖いんだから!」
「吸血鬼の館に殴り込みに行ったやつのセリフとは思えない」
「それはそれ!これはこれ!」
なんだろう、退魔の力とでも言えば良いの?攻撃が全部対妖怪に特化してるせいで痺れるような痛みはあるし普通に痛いし、妖力も少し弱まっている気がする。
全部避けるなり防ぐなりできているけど、本能的になんか怖いから無理である。
「仕方ないなぁ……」
呆れたように呟いた巫女さん、霊力が少し蠢いて、私が抱いていた恐怖感が収まる。
「ほえー、そんなこともできるんだ」
「これで心置きなく戦えるだろ?」
「心は置くよ?本気は出さないからね?」
とりあえず向こうがお祓い棒を使ってくるのなら、こっちも武器を何かしら持っとかないと。
「まあ雑だけどこんなんで良いか」
作ったのはいつもの氷の蛇腹剣、ではなく普通の氷の剣、でもない。
鋭かった部分がぜんぶ丸くなった、というか全体的に細くなった。もはや刃物ではなく氷の棒、持ち手のついた棒である。
「うしっ」
とりあえず氷の球を飛ばして牽制、簡単に弾いて距離を詰めてきた巫女さんの攻撃に氷棒を合わせる。
妖力で少し身体能力を強化した私と巫女さんの、ちょっと緩めな打合いが始まった。
互いに相手の無理のない範囲で打ち込み、返す。
本気を出そうものなら絶対に怪我してしまうから、どこまで力を出せるかを探っていくかのように。
「……なんか退屈ね」
「………」
「………」
「上げてくぞ」
「ちょ待てよ」
急に速度を上げて後ろに回り込んできた巫女さん、棒を後ろに回すことで攻撃を防御、反動で下がった拍子に氷棒を伸ばして薙ぎ払い、追撃を防ぐ。
「運動代わりだよねこれ、霊夢を楽しませるのが目的じゃないよねこれ」「あれだけ期待してた手前、あんまりぬるいと悪いだろ」
「そりゃそうだけど、もっ!」
本当に動き激しくなりよったこの人。
常に死角に入るような動き、捉えたと思えば霊力弾で牽制され、それを防いでいる間にまた死角に入られる。
というか、さっき変に棒を伸ばしたせいで両手じゃないと動かせないくらいの長さになってる。別に私棒術得意なわけじゃないし、なんなら今初めてまともに棒を戦いに使ってる。
「これ邪魔っ!」
「折るのか……」
変に長くなった棒を膝に打ち付けて半分に折り片方を投げつける、と見せかけて両方とも短剣のような形に形状を変化させる。
もちろん怪我しないようにする大部分は丸くして。
「器用なもんだな」
「こっちの方が対応しやすそうだからね」
別に短剣の形にする必要はなかったけど、なんとなくである。
そこからさらに打合いは速く、複雑になっていった。
常に死角を取るように動き、牽制しつつ隙を窺う巫女さん。
牽制を跳ね除けながら、突っ込んでくる巫女さんにどうにかカウンターを合わせようとする私。
お互いがどうにか相手に一撃を与えようと必死になっていき、気づけばお互いの顔から余裕の表情はなくなっていた。
一度毛玉になって相手の不意をつく初見殺しをやってみたが、普通に反応された。どうなってんだよほんと。
「……はぁ、やめだやめ」
「んあ?」
「流石にこれ以上はやりすぎになる」
「よかった終わった……」
エスカレートする前に巫女さんが先にそう言った。
「すぅぅぅ……づーがーれーだー」
「霊夢、見ててどうだった?」
「なんか……二人ともすごいのはわかったけど、ずっと同じことしてたから退屈だった」
まあ…霊夢と魔理沙がやってるのは弾幕の撃ち合いで結構派手だもんなあ。
それと比べたら、こういう物理的な勝負は退屈なのかも知れない。
「お前もこのくらいはできるようになっておけよ」
「えー」
そりゃあバチバチの肉体勝負は嫌でしょうけども。
「にしてもお前、案外動けんだな」
「そっちこそ、死角にばっかり入ってきやがって」
「殺意も込めたほうが良かったか?」
「運動じゃ済まなくなっちゃうなあ」
「違いない。んーっ……だいぶ身体ほぐれたな。霊夢、お茶入れといてくれ」
「えー…はーい」
結局やってくれるあたり優しい子である。
「んじゃま、もともと倉庫整理に付き合うだけの予定だったし、もう帰ろうかな」
「倉庫整理だけでわざわざ呼びつけると思うか?」
「……はい?」
何言ってんだこの人、他に用事でも……
「紫に何言われた」
「あ?別に何も?」
「すっとぼけるなよ、私にはわかる」
「ぬ……」
本当に鋭いなこの人……
「………」
「ま、言いたくないなら別にいいさ。大体想像もつくし……けどあんまり悩みすぎるなよ」
「……ありがと」
「おう」
会うたびに思い悩んでちゃ、キリないな。