「わあすっげえ土砂降り…」
「この時期にこれだけ降るの珍しいね」
「風も結構きついし……雨漏りしてないかだけ見てきてくれない?」
「あいよ」
これだけ雨降ってると湿気もすごいからな……髪が気持ち悪い感じになる。
「雨……やだなあ」
とにかく髪が濡れるのがいやなんだよ。
雨の時って野良毛玉はどうしてるんだろうか、雨宿りとかしてるのだろうか。
「にしても急に降ってきたなあ……こりゃ外は今日は行けないか」
「とくに雨漏りはしてなかったよ」
「そっか、ありがと」
これだけ雨降ってると、ほんと家持っててよかったと思う。
毛玉だからね、野宿は無理だよ。
多分氷で家作ってると思う、どこぞのアンパンのヒーローじゃないが、髪の毛が濡れたら力が出ない気がしないでもない。
割と血で濡れることもなくはないんだが。
「魔法の森って雨降るとすごかったよね」
「んー?あぁ、確かにそうだった。ただでさえ普段からジメジメしてるのに、雨降ったらそりゃもう地獄だよ」
「この辺は霧ないけれど、ちょっと湖のほう行ったら霧があるもんね」
「霧薄い日しか私あそこ近寄りたくない」
「髪の毛?」
「髪の毛………ん」
ぼーっと雨に濡れてゆく外の景色を見ていると、近づいてくる大量の霊力が……
「非常事態発生!タオルいっぱい持ってきて!」
「はぁ!?」
「家にある分ありったけ!」
「わ、わかった」
何人だこれ………えぇい3人以上はいっぱいだ!!
奥の洞穴にるりの私物は……もうとっくの昔に片付けてたな!
「くる……!!」
「はいありったけ!」
「へいパス!」
こいよ……妖精ども!
「毛糸濡れたー!!」
チルノが先陣を切って扉を開けて入室、次々に雨に濡れた妖精たちが私の部屋へと押しかけてくる。
「はいストップー、体拭け、体」
「「「あーい」」」
一人一人にタオルを配って回る。
1、2、3、4………10人ちょうど……
「うし、ギリ足りるな」
「濡れたのだー」
「何やってんのルーミア」
「だから濡れたのだー」
「おうちゃんと拭けよ、拭いたら誇芦に渡してね」
「えー」
ふむ……
チルノと大ちゃんとルーミアと……
3バカ…じゃなかった、サニーとルナとスターだっけ?あの3人とあとはあんまり詳しくない子が四人……
「なあチルノ、別にくるのは構わないけど、ちょっと人数多くないか」
「あたいの城だからいいでしょ」
「その城で暮らしててお前らにタオル渡してる私はなんなんだよ」
「え?子分でしょ?」
「あ、そう……」
よくもまあ何百年間も子分子分って言い続けられるもんだ、いい加減飽きやがれ。
「すみません毛糸さん、いきなり降り出して……」
「まあよくあることだし、大ちゃんはちゃんと申しわけなさそうにしてくれるからいいよ」
問題は他の奴らが全員好き勝手に振る舞ってることだけどな!
舐められてるってのはこういうことなのかもしれない。
急に雨が降り出して、困った妖精たちが私の家に雨宿りにくるのはとくに珍しいことではない。
一年に一回くらいは大体ある。
「誇芦、危ないものとか私物とか全部奥の洞穴に突っ込んどいて」
「えー……押し付けすぎ、やるなら一緒に」
「えー……しゃーねーなー」
「私も手伝いますね」
「あ、ありがとう大ちゃん」
壊されたら困るもの、危ないものは全部別の場所に移しておく。放っておいたら妖精が勝手に触りやがるから。
そう、妖精とはそういうものなのである、大ちゃん以外。
まあ大ちゃんも悪戯する時は悪戯してるみたいだけど、良識あるってだけでもう他とは別物ですわ。
「ねえ、なんでわざわざ受け入れてんの、あんな迷惑な奴ら」
「その迷惑な奴らと結構遊んでなかった?お前。なんでって……締め出したら普通に性格悪いでしょ」
「いつもありがとうございます…」
「いいよ別に、もう何回もやってるし」
チルノがあたいの城って万年言い張るのはいただけないが。
文たちとなんかするって時も、大体私が妖怪の山に足を運んでるから、うちに誰かがたくさんくるってこともなかなかない。
たまにはこういうにぎやかなのもいいもんだ。
「これなんか……なんかすごい!!」
「うわほんとだ……なんかすごい!」
「なんかすごい!!」
なんか語彙力のない言葉が飛び交ってるんだが……あ、ビーズクッション占領してやがる。チッ……体濡れてないから別にいいけど。
とりあえず荷物を洞穴に突っ込み終わる。
「うっさいな……」
「だからお前、そのうっさい奴らと結構一緒にいるんじゃん」
「自分の家の中でうるさくされるのは別」
「お前の家ちゃうけどな」
「自分の家でくらいゆっくりしてたいじゃん」
「お前の家、ちゃうけどな」
「ごめんね誇芦ちゃん」
「ちゃん!?」
大ちゃん誇芦のこと誇芦ちゃんって呼ぶの!?私より背高いのに!?
誇芦よりちっさい私は万年毛糸さんなのに?他妖精はしろまり呼ばわりしてくるのに!?
………
「……まあ、お前はどちらかっていうと、外でドブまみれになって帰ってくる側だったけどな?」
「ちゃんとした服と体があるんだから、もうわざわざ汚くなりにいくような真似はしないって」
「でも本音を言えば〜?」
「泥んこになりたい」
「うん、素直だね」
まあ誇芦の頭が結構良くて助かった。これでその辺の妖精と同じくらいの知能だったら……妖精じゃなくて妖怪な分、手がかかったかもしれない。
「別に、ちゃんと帰ってくるまでに綺麗にしてくるんなら私は構わんよ?」
「服どうするの」
「知らん」
「なんかガタガタ言ってませんか、この家」
「ん?あー……もう随分経つからねえ、建ててから」
妖精たちがはしゃいでいるおかげで、家の脆くなっている部分が悲鳴を上げている。
「もう何度も補修改修してるけど……またそういう時期きたかな」
「大丈夫なんですかこれ、壊れたりしないんですか」
「まあ今まで大丈夫だったし、大丈夫でしょ」
私がそう言った瞬間、何かが壊れる音が同時に複数回鳴った。
空気が静まり返る。
「……おい」
妖精たちの視線がこっちに一斉に集まる。
ふんふんふーん?床に穴開けて?椅子の足折って?上の階とのあいだに穴を作っちゃうと……随分元気なようで……
「次なんか壊したら全員締め出すからな」
全員の顔が申し訳なさそうな顔になるのを見ると、足を折られた椅子を持って私は静かに奥の部屋へと入った。
「恐怖による支配……」
「何言ってんの、許してやってんだから随分優しいでしょ私は。次はないって言ってるだけで」
「まあ確かに……」
「ごめんなさい……本当にごめんなさい」
「大ちゃんはあいつらの保護者でも何でもないでしょ」
家の補修サボってた私にも責任は……いやないな、まんじりとも私は悪くないな、全部あいつらが悪い。
つまり許してやってる私はめっちゃくちゃ優しいというわけ、慈悲深いというわけ。
「で、この部屋に何しにきたの。妖精たちは放っておいていいの?」
「まああの様子を見る限りじゃもうやんちゃしないと思うし。次なんか壊したら本当につまみだすだけだから」
「すみません…」
家の物置部屋に入って、中から工具を取り出す。
「それで直すの?」
「いや?」
「違うんですか?じゃあ一体何を……」
誇芦と大ちゃんが不思議そうな表情を浮かべる。
「そりゃあ決まってるでしょ。この工具であのバカどもの頭をトンテンカン……いや、冗談ですよ?そんなに本気で怯えた顔しないで?」
「やりかねない……」
「お前は私のことなんだと思ってんのほころん。てかなに、大ちゃんも同じこと思ったわけ?」
「い、いや……その……あはは」
笑って誤魔化せると思うなよ。
「そ、それで、直すんですよね?家」
「直したいんだけどねぇ……あいにく材木そんなにないし、外は雨降ってるから木を切るわけにもいかないからなあ。多分家のあちこちがボロついてると思うし、そうなると修繕するには河童を頼らないと……」
「結構面倒くさいんですね……」
「妖精に壊されなきゃもうちっと楽だったよ」
「う………」
妖精に面倒ごと増やされるのは今に始まったことじゃないし……サニーたちにムカついて妖力弾をマイホームにぶん投げたのが始まりだった。
「じゃあ結局何しにきたのさ」
「椅子くらいは直せるかなーって」
500年も生きてりゃ多少DIYだってするし。
河童の方が絶対すごいけど。
「てわけでまあ、私これから椅子直すから好きにしといていいよ」
確か釘はこの辺に……あったあった。
釘を打とうとして自分の親指に思いっきりやって若干つぶれたのはいい思い出だ。痛みを感じない体でよかった。
「そういや私、この物置あんまり入ったことないな……何置いてあんの?」
「怪しい壺」
「は?」
「マジトーンやめて。特に大したもんはないよ、いつも適当に突っ込んでて私も何入ってるか覚えてないし」
普段使わない道具とかいらなくなったものとかを適当に物置に突っ込んでるからなあ……
「……あ、これ」
大ちゃんが何かを見つけたらしい。
「これってあの時のですよね、紅葉狩りの」
「あ、あー!あったねそれ!!」
「え、なにそれ、知らない」
「誇芦いなかったっけ、そういえば」
大ちゃんが引っ張り出してきたのは、いつぞやの紅葉狩りの時に撮ったみんなの写真。
私だけピースしてて浮いてるやつだ、懐かしい。
「ちょっと破れてますけど…」
「あー、多分一回家が壊された時あったでしょ?多分その時に破れたんだと思う、いやにしても懐かしいなあ」
「そうですね……ああいうことってなかなかしないから、結構新鮮で楽しかったです」
「またやれたらいいね、あんな感じで何人かで」
「はい」
「………」
なんか誇芦から視線を感じるんだけど。
「なんだよ、その目」
「いや別に」
「……あー、もしかして自分の知らない話されてて寂しいとか〜?おぐふうっ」
「違うし」
フッ……突進してきたってことはつまり図星ってことなんだろ?結構可愛いとこあんじゃあねえか……
「今度は誇芦ちゃんも誘ってもらいなよ」
「いやだから違うって………にやにやすんな!!」
「ぐふっ……なんで私だけ」
「雨止んだー!!」
「「「やったー!!」」」
途端に扉を開け外へと駆け出す妖精ども。
もう一回降ればいいのに……都合よく晴れやがって。
「まあこれで静かになるか…」
「毛糸、なんか出せ」
「ならねえなあ……」
なんでお前はまだここにいるんだチルノ。
「出せって何を」
「おかし」
「都合よくないわそんなもん」
「あるでしょ、出せ」
「せびるな」
お菓子、なくはないけど渡すのも癪だ。
「だせー」
「ルーミアもいたんだ……」
「げ……」
ルーミアの姿を見て誇芦が嫌そうな顔になる。
誇芦はルーミアが苦手だ、理由は何回か食べられかけたことがあるから。
「せめて雨凌いだ礼くらいさあ」
「お菓子出せ、ありがと」
「せめて順番逆にしないか」
この自称最強妖精が自由すぎるんですが。
「饅頭だせー!」
「お前にやる菓子なんぞ——」
「はい饅頭」
「よっしゃー!!」
「ほころんさん!?」
「ほころんさんってなんだよ」
何勝手に饅頭渡してくれちゃってんの!?誰の許しがあってそんなことを………
「ほら大ちゃんも、これ持ってチルノとルーミア外に出して」
「あ、わかった。ありがとうございました毛糸さん、それでは」
「あ…うん……」
なんか饅頭ごっそり持ってかれたんだけど……
「何してんのお前マジで」
「あの妖怪怖い」
「だからって饅頭あんなに渡すことある?」
「だって怖いんだもん、本能が危険を感じ取ってる」
人喰い妖怪に過剰に恐怖する猪妖怪………
「ねえ、毛糸とあの二人ってどういう関係なの?」
「二人?大ちゃんとチルノ?」
「うん」
知らなかったんだ……というか、言ってなかったっけ?
「私の霊力はチルノのやつで、大ちゃんは私の名付け親」
「へぇ……!大ちゃんがつけたんだ名前」
「随分前の話だけどね。あの妖精ども結構しろまりって呼んでくるし……腹立つ」
「しろまりって名前つけたのは誰?」
「こいし」
「あぁ………」
そう考えると懐かしいなあ……もじゃ十二号。
「最近どう?寝れてる?一応距離離して寝てるけど……」
「んー?まあ……ほんとのこと言っちゃうと、最近あんまり眠れてない」
「……何か悩みでも?」
「あ、わかっちゃう?」
「結構長い間いっしょにいるし」
まあ確かにそうだ。
この姿になってから日が浅いってだけで、イノシシ自体とはかなりの付き合いだ。
「まあいろいろと……ね」
「……そっか」
「さてと、じゃあにとりんたちのところ行ってくるよ、るりでも持って帰ってくるかな。誇芦も来る?」
「いや、ここで待っとく」
「あいよー」
じゃあもうさっさと靴を履いて家を直してもら——
「あ゛あ゛あ゛小指う゛っ゛だぁ!!」
「あほ」